TOBとは? メリット・デメリットや流れを解説

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TOB(株式公開買付)は、企業買収の手法の一つです。対象となる企業の株式を保有する不特定多数の投資家から株式を買い付けることで、経営権の獲得を目指します。
主に企業の子会社化を目指して実施されることが多く、2020年には、NTTが「NTTドコモ」を完全子会社化し、国内で実施されたTOBとして初めて1兆円を超えたことが話題になりました。
TOBには、友好的TOBと敵対的TOBがあり、方法ごとに目的やメリット・デメリットが異なります。この記事で詳しく解説しますので、まずはTOBの基本について理解を深めましょう。TOBの流れや、「MBO」など似た言葉との違いも解説します。

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1. TOB(株式公開買付)とは

TOB イメージ画像
TOBは「Take-Over Bit」の略で、日本語では「株式公開買付」と訳されます。新聞など公の媒体を通じて、株式の買付価格や期間を公開し、対象となる企業の株式を保有する不特定多数の投資家から、証券取引所を通さずに株式を買い付けることを意味します。

1-1. TOBを行う目的

TOBの目的には、主に次の2つがあります。

  • 対象企業の経営権取得
  • 株主総会における特別決議の否決権取得

会社法では、企業の株式の50%超を保有することで株主総会の普通決議が可能となり、経営権を取得できると定められています。また、企業の株式を3分の1超保有すると、新株発行や経営陣の変更といった、経営に関わる重要な事項を決定する「特別決議」において拒否権を得ることができます。

1-2. TOBの特徴

通常、上場会社の株式は証券取引所を通じて売買されますが、TOBは証券取引所を通さずに取引されるのが原則です。

証券取引所で大量の株式を買い付けると、多くの投資家から注目が集まります。その結果、市場価格が急上昇し、TOBの買い手企業が想定した株価で買付できなくなる可能性があるためです。
また、既存の株主に株式の売却を促すため、TOBの買付価格は市場価格にプレミアムが加算されるため、市場価格よりも高く設定されるケースがほとんどです。それにより、「TOBで株式を売却したい」と思う株主が増える効果が期待できます。

1-3. TOBとMBOの違い

MBO(マネジメント・バイアウト)は、企業の合併・買収を意味するM&Aの手法の一つです。企業の経営陣が金融機関などから資金を調達し、既存の株主から自社株を買い取って経営権を獲得する仕組みです。
TOBと似ていますが、MBOとは株式の買収対象となる企業が異なります。TOBは対象が上場企業に限定されるのに対して、MBOは上場企業だけに限らず、中小企業の事業承継にも用いられます

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2. TOBの種類

TOBには、友好的TOBと敵対的TOBがあります。ここでは、それぞれの違いを見ていきましょう。

2-1. 友好的TOB

友好的TOBとは、買収の対象となる企業の経営陣から同意を得たうえで実施するTOBのことをいいます。日本で行われるTOBのほとんどが友好的TOBです。
グループ企業同士の企業再編に用いられるほか、良好な関係にある企業同士が関係性を維持したまま、親会社と子会社の関係になることを目的として実施されます。

【友好的TOBの事例】

・伊藤忠商事によるファミリーマートに対するTOB

伊藤忠商事は、2020年にTOBを実施し、ファミリーマートの株式を65%以上取得することに成功しました。その結果、ファミリーマートは伊藤忠商事の子会社となり、ファミリーマートの上場は同年に廃止されました。

・ヤフーによるZOZOに対するTOB

Yahoo!JAPANを運営するヤフー株式会社は、2019年に株式会社ZOZOの子会社化を目的として、TOBを実施しました。ZOZOはヤフーの完全子会社となりましたが、上場を維持しています。

・NTTによるNTTドコモに対するTOB

2020年、NTTはNTTドコモの株式をTOBによって取得し、国内で実施されたTOBとして初めて1兆円を超えたことが話題になりました。当時、NTTは既にNTTドコモ株を66%以上保有しており、親会社と子会社の関係でした。TOB後は、NTTドコモ株の90%以上を保有することに成功し、NTTドコモは同年に上場廃止となりました。

・第一生命ホールディングスによるアイペットホールディングスに対するTOB

第一生命ホールディングスは、ペット関連の事業を手がけるアイペットホールディングスの完全子会社化を目的としたTOBを、2022年に実施しました。両社の子会社同士が2019年に業務提携契約を締結しており、2022年のTOBでさらに協業関係を深める狙いがあります。

2-2. 敵対的TOB

敵対的TOBとは、対象企業や対象企業の大株主に対して、事前の同意や通知をすることなく行うTOBのことをいいます。
敵対的TOBは、ライバル企業によってしかけられるケースが多く、対象となる企業は、TOBの公表によって買収の事実を知ることになります。買収をしかけられた企業は買収防衛策を講じてTOBを阻止しようとするため、敵対的TOBの成功例は少ないのが特徴です。

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TOBの対象となる企業には、次のような特徴があります。

  • 企業価値に対してキャッシュフローが潤沢にある
  • PBR(株価純資産倍率)が小さい
  • 市場における企業価値が適正価格を下回っている

キャッシュが潤沢にあるにも関わらず市場における価値が低い企業は、キャッシュの使い道を見直すことで売上の向上が見込めるため、TOBの対象になりやすいといえます。また、PBR(株価純資産倍率)が小さい企業は株価が割安であることを意味し、TOBをしかけられやすくなります。

【敵対的TOBの事例】

・ベインキャピタルによる廣済堂に対するTOB(パックマンディフェンス)

2019年、ベインキャピタルは、印刷事業をメインに手がける廣済堂の株式をTOBにより買い付けることを発表しました。もともとは、社長をはじめとした経営陣から要請を受けてMBOの一環として友好的TOBが進められていましたが、それを不服とした大株主に敵対的TOBをしかけられる形になり、失敗に終わっています。

・王子製紙による北越製紙に対するTOB(ホワイトナイト)

製紙業界で売上トップを誇る王子製紙は2006年、さらなるシェア拡大を目的として北越製紙の株式をTOBにより買い付けることを発表し、買収を試みました。しかし、北越製紙は取引先の三菱商事に対して第三者割当増資を行い、製紙業界2位の日本製紙グループにも自社株を売却するなどの対抗策を講じ、TOBは不成立となりました。

・ケーブルアンドワイヤレス(イギリス)による国際デジタルに対するTOB

1999年、イギリスのケーブルアンドワイヤレスは、国際デジタルの株式をTOBによって買い付けることを発表しました。国際デジタルは、資本提携をしていたNTTに協力を求めるなどの対抗策を講じましたが、ケーブルアンドワイヤレスのたび重なる買付価格の引き上げに対抗できず、結果的に敵対的TOBが成立しています。

・コロワイドによる大戸屋ホールディングスに対するTOB

2020年、外食大手のコロワイドは、大戸屋ホールディングスへのTOBに成功しました。当初、コロワイドは友好的な資本・業務提携か買収を希望していましたが、大戸屋ホールディングスの業績が急激に悪化したことなどを受けてTOBに踏み切ったといいます。

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3. TOBのメリット・デメリット

ここでは、TOBのメリット・デメリットを解説します。

3-1. TOBする側(買い手)のメリット

  • 買収の計画が立てやすい
  • 株価変動の影響を受けづらい
  • 目標に達しなかった場合はキャンセルできる

TOBは証券取引所を通さず、実施する期間や株式価格、株式数をあらかじめ決定したうえで公開・実施されます。買収までの見通しがつきやすくなるだけでなく、株価変動の影響を受けないのがメリットです。
また、証券取引所を通した取引はキャンセルできませんが、TOBの場合は、募集する株式数に上限・下限を設けることが可能で、目標に達しなかった場合はキャンセルできます。

3-2. TOBする側(買い手)のデメリット

  • 買付価格が市場価格よりも高くなる
  • 敵対的TOBは成功しづらい

TOBでは、既存の株主に経済的なメリットを感じてもらうため、買付価格は市場価格にプレミアムを加算した金額が設定されるため、市場価格よりも高めに提示されるのが一般的です。そのため、市場を通じて株式を買い付けた場合に比べてコストが高くなります。
敵対的TOBの場合は、相手企業が抵抗するため、成功しづらい点もデメリットといえるでしょう。

3-3. TOBされる側(売り手)のメリット

  • 株式を市場価格よりも高く売却できる
  • 友好的TOBであればM&Aのメリットが享受できる

TOBする側(買い手)は、市場価格よりも高い価格で株式を買い付ける必要がありますが、
TOBされる側(売り手)の立場になると、自社株を市場価格よりも高く買い取ってもらえることはメリットになります。
また、友好的TOBであれば、買い手企業から資金提供や経営陣の投入などが期待でき、シナジー効果が生まれるなど、M&Aと同じ効果が得られます。

3-4. TOBされる側(売り手)のデメリット

  • 経営権が無くなる
  • 意見表明報告書を提出する必要がある

TOBが実施されると、売り手企業の経営権が無くなります。特に、敵対的TOBの場合は、経営方針が元の経営陣の意向に沿わない形になっても、口出しできません
また、売り手企業は、金融商品取引法上の開示規制に基づき、経営陣がTOBに賛同するかどうかなどの意見を表明した「意見表明報告書」の作成・提出の義務があります。

4. TOB実施のルール

TOBでは、特定の株主が優遇されたり、不透明な取引が発生することを防ぐ目的として、次のようなルールが金融商品取引法で定められています。

4-1. 5%ルール

5%ルールとは、証券取引所を通さずに株式を取得することで保有割合が5%を超える場合は、TOBを実施しなければならないというものです。株式を5%超取得した場合、経営や株価に与える影響が大きいと考えられるためです。

【免除されるケース】
TOBによる買付を行う相手方の人数と、TOB実施日前の60日以内に、証券市場外で買付を行った相手方の人数の合計が10名以下の場合は、5%ルールが免除されます。

4-2. 3分の1ルール

株式の買い付け後、株式の保有割合が3分の1を超える場合はTOBが義務付けられています。「3分の1ルール」は、5%ルールとは異なり、証券取引所で取引を行ったかどうかに関わらず適用されるのが特徴です。また、5%ルールが免除されるケースや、特定売買(電子取引ネットワークシステムなどを利用した時間外取引)によって株式取得をした場合も対象となります。

【免除されるケース】
グループ企業内での株式の移動や、兄弟会社同士の株式の移動、新株予約権の行使については、3分の1ルールが免除になります。

5. TOBの手続きの流れ

TOBの手続きは、通常のM&Aの流れとは異なります。また、買い手企業と売り手企業で、それぞれ提出しなければならない書類があるため、確認しておきましょう。

5-1. 【買い手】公開買付開始公告・公開買付届出書の提出

TOBを開始する際は、公開買付開始公告によってTOBを行う予定であることを公表し、その後、公開買付届出書を内閣総理大臣に提出します。公開買付開始公告と公開買付届出書を提出した時点で公開買付期間の開始となり、株主からの売付が開始されます。

5-2. 【売り手】意見表明報告書の提出

TOBの売り手企業は、TOBに対する意見表明報告書を内閣総理大臣に提出し、TOBに対して同意するか、拒否するかを表明します。ここで、実施するTOBが友好的TOBなのか、敵対的TOBなのかが明らかになります。売り手企業は、TOBの内容に対する意見や質問もあわせて提出します。
意見表明報告書は、公開買付開始公告が公表されてから10営業日以内に提出しなければなりません。意見表明報告書は写しを作成し、買い手企業や金融商品取引所にも送付します。

5-3. 【買い手】対質問回答報告書の提出

買い手企業は、売り手企業から意見表明報告書を通じてTOBに関する質問があった場合、その質問に対する回答として「対質問回答報告書」を作成する義務があります。対質問回答報告書は、5営業日以内に内閣総理大臣へ提出する必要があります。
また、対質問回答報告書の写しを作成し、売り手企業や金融商品取引所にも送付します。

5-4. 【買い手】公開買付成立の公告および公開買付報告書の提出

買い手企業は、公開買付期間が終了した月の末日の翌日に、買付の内容結果を公告または公表します。買付が成功したか否かに加えて、買い付けた株式数なども公表し、同じ内容を記載した公開買付報告書を内閣総理大臣に提出します。
公開買付開始公告によってTOBを開始したあとは、基本的に撤回はできません。しかし、やむを得ない重大な支障が生じた場合は、TOBを中止できます。「やむを得ない重大な支障」に該当するのは、企業が倒産した場合や、災害で企業が大きな損害を受けた場合などで、金融商品取引法によって規定されています。
TOBを中止する場合は、公開買付撤回届出書を内閣総理大臣に提出することになります。

6. 【投資家視点】保有株式がTOB対象になった場合

自分が保有する株式にTOBが公表された場合の対応について、投資家の視点から解説します。買い手にとっても、投資家が何を基準に判断をするかを知っておくことは大切です。

6-1. TOBに応じる場合

TOBに応じた場合、市場価格にプレミアムが上乗せされた株価で売却することができるため、通常よりも多くの譲渡益を得ることができます。また、証券取引所を通さない取引のため、証券取引所で取引するときの手数料は発生しません。
このようなことから、投資家にとっては経済的なメリットのある株式の取引といえます。ただし、買い手が公表しているTOBの条件の中の買付株式数に上限が設定されている場合、TOBに応じても売却ができない可能性があります。TOBが公表されたら、全株式買付か一部株式買付かの確認が必要です。

6-2. TOBに応じない場合

TOBに応じない場合は、次の2つの選択肢が考えられます。

  • 証券取引所を通じて株式を売却する
  • 株式の保有を継続する

証券取引所を通じて株式を売却する

TOBに応じない場合、証券取引所を通じて売却することが想定されます。
TOBの公表後は、一般的に対象の株価がTOBの価格に寄っていく傾向にあります。TOBでは、株式の買付価格を市場価格よりも高めに設定することが多いため、対象の株価もそれに伴って値上がりすることが期待できます。
価格が上がったタイミングで売却できれば、市場価格でも十分に売却益を得られるでしょう。ただし、TOBの公表後は、大株主の動向などによって株価が大きく動くことがあるので注意が必要です。

株式の保有を継続する

TOBに応じない場合、株式の保有を継続することも選択肢の一つです。TOBの買付期間には買付価格に市場価格が近寄りますが、TOB成立後にはもとの市場価格に戻る傾向にあります。そのため、TOBによるプレミアムを享受することはできません。
また、TOB成立後に対象の企業が上場廃止をした場合、TOBに応じなくても一定数の株式割合を保有していれば、強制的にTOBの買付価格で売却されます。これをスクイーズアウトといいます。TOBが成立する可能性が高いと見込まれる場合には、成立の結果を待たずに売却することをおすすめします。

7. まとめ

TOBはM&Aの手法の一つで、友好的TOBか敵対的TOBかによって、売り手企業と買い手企業の関係性が大きく変わります。
また、TOBは相手企業が抵抗することによって失敗するケースもあるので、注意が必要です。当初は友好的TOBを目指していたものの、対象企業の経営状態が急激に悪化するなどの理由によって、敵対的TOBに踏み切らなければならないこともあるでしょう。
TOBの判断は、売り手企業と買い手企業の現状だけでなく、将来的な姿も見据えたうえで慎重に進める必要があります。
M&Aを成功させるには、専門家の知見が欠かせません。M&Aキャピタルパートナーズは、お客様一人ひとりのお悩みと気持ちに寄り添い、最適なM&A手法をご提案します。まずは、お気軽にご連絡ください。

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TOBに関するよくある質問

TOBに関するよくある質問と回答をまとめました。
  • TOBにより上場廃止になるとどうなる?
  • TOBが成立し、上場廃止になると、スクイーズアウトなどの手法を用いることで、TOBに応じなかった株主が保有する株式を買い取ることが可能です。

  • TOB後の社員はどうなる?
  • TOBを承諾した場合、人事の評価基準は買い手企業の方針が適用されますが、売り手企業の社員の待遇に大きな変化はありません。待遇が変化すると離職などにつながり買い手企業にとってもメリットは無いため、待遇を改悪することはあまり無いでしょう。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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