事業譲渡のポイントと基礎知識

事業譲渡のポイントと基礎知識

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を他の会社に譲渡する行為をいう。事業とは、一定の目的のために組織され、有機的一体として機能する財産。債務のほか、知的財産、ブランド、顧客リストや契約といった無形資産も含む包括的な概念であり、事業用資産等の個々の財産の譲渡は事業譲渡に該当しない。

ただし、事業譲渡では対象事業に関連する権利義務関係は、当事者間の契約により個別に引き継ぐ必要があり、従業員との雇用契約についても譲渡会社との同意に加え、従業員の同意も取得する必要がある。合併や会社分割に見られる包括承継ができない点に留意が必要である。

事業譲渡のメリット

メリット
  • 買い手企業は必要な資産・負債だけを選んで買収できるため、不要な資産を抱え込む心配がない。
  • 簿外債務を引き継いでしまうおそれがない。

事業譲渡のデメリット

デメリット
  • 個別財産の所有権や契約上の地位の移転手続が必要なため手間と時間がかかる。
  • 税制適格組織再編制度による税務上の優遇措置がなく、登録免許税や不動産取得税などの税負担が重い。また、譲受側には課税対象資産に対して消費税がかかる。

事業譲渡の主要な手続

会社法上、事業譲渡に必要とされる主要手続は以下の図表のとおりである。

なお、事業の全部もしくは重要な一部の譲渡または事業の全部の譲受等に係る相手方がこれらの事業譲渡等を行う会社の議決権を90%以上有する特別支配会社に該当する場合には、特別支配会社に90%以上を保有されている会社の株主総会決議が不要となる。

すなわち親子会社間で事業譲渡を実施する場合において、親会社が子会社の議決権を90%以上保有しているときは、子会社が事業譲渡の譲渡会社または譲受会社のいずれであっても、子会社における株主総会決議は不要となる。

主な手続

内容

関連条文

(会社法)

取締役会決議

事業譲渡に関する重要事項を決定するために、譲渡会社および譲受会社は、取締役会決議を要する。

362条4項1号

事業譲渡契約の締結

譲渡会社および譲受会社の間で事業譲渡契約を締結する。会社法上法定記載事項に関する定めはないが、一般的に譲渡対象事業、譲渡期日、対価および支払方法、財産移転手続、従業員の引継ぎ、競業避止義務、株主総会の期日等を定める。

株主総会

(譲渡会社)

譲渡対象が(1)事業の全部の場合、または(ii)事業の重要な一部であり譲渡対象資産が譲渡会社の総資産の5分の1超の場合、効力発生日(譲渡日)の前日までに株主総会の特別決議を要する。

(譲受会社)

譲り受ける事業が他の会社の事業の全部である場合で交付する財産が譲受会社の純資産の5分の1超である場合、株主総会の特別決議を要する。

309条2項11号

467条1項

468条2項

事業譲渡の通知

効力発生日の20日前までに株主への通知もしくは公告を行う。

469条3項4項

反対株主の
株式買取請求手続

事前に反対の意思を表明した譲受会社および譲渡会社の株主等は、それぞれの会社に対して公正な価格で買取りを請求することができる。請求できる期間は、効力発生日の20日前から前日まで。

469条

効力発生

事業譲渡の実行日。通常は事業譲渡契約に記載される。

(出典)森山保(2016).「M&Aスキーム」選択の実務 中央経済社

簡易事業譲渡・譲受

譲受会社は、他社の事業の全部の譲受について、譲受の対価として交付する財産の帳簿価格が譲受会社の純資産の5分の1以下の場合は簡易事業譲受に該当し、株主総会決議を省略できる(会社法468条2項)。

一方、譲渡会社は、事業の全部または重要な一部の譲渡について、譲渡する資産の帳簿価格が譲渡会社の総資産の額の5分の1を超えなければ株主総会を省略できる(会社法467条1項2号)。

なお、平成26年改正会社法により、簡易事業譲受に該当する場合、反対株主による株式買取請求権は認められないことになったため留意(会社法469条1項2号)。

また、簡易事業譲渡に該当する場合は、そもそも会社法468条に定義する「事業譲渡等」に該当しなぃ33ため、反対株主の株式買取請求権は認められないことに留意。

重要な事業の一部」の意味合い

簡易事業譲渡の前提である「事業の重要な一部」か否かの判断は量的および質的観点から行われる。量的基準としては、売上高・利益。従業員数等が事業全体の10%を超えると重要な一部と考えられる。質的基準としては、会社の事業内容や沿革などからイメージに大きな影響がある場合に該当することが考えられる。

ただし、「事業の重要な一部」にあたる場合でも、譲渡する資産の帳簿価格が譲渡会社の総資産の額の5分の1を超えなければ株主総会を要しないと解されている。

また、譲渡する資産の帳簿価格が譲渡会社の総資産の額の5分の1を超えていたとしても、単なる資産譲渡に該当するなど「事業の重要な一部」に該当しない場合も株主総会は不要と考えられている。

略式事業譲渡・譲受

譲受会社が譲渡会社の議決権の90%以上を所有している場合、譲渡会社の株主総会を省略できる。

また、譲渡会社が譲受会社の議決権の90%以上を所有している場合、譲受会社の株主総会を省略できる。

なお、略式事業譲渡・譲受に該当しても特別支配会社以外の少数株主には、反対株主による株式買取請求権は認められることに注意を要する(会社法469条)。

譲受会社による商号の継続利用

譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、譲受会社は譲渡会社の債務の弁済義務を負うことに留意が必要である(会社法22条1項)。

あるいは、譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合でも事業に関する債務を引き受ける旨を広告したときは債務の弁済義務を負う(会社法23条)。

ただし、商号の続用に関しては、譲渡会社の債務を負担しない旨の登記をするか、遅滞なく第三者に対してその旨を通知した場合には債務の弁済義務は負わない(会社法22条2項)。

財産、契約上の地位の移転

事業譲渡は合併や会社分割のような包括承継ではないため、以下のような個別財産の所有権の移転手続および契約上の地位の移転手続が必要となる。また、移転手続において、各財産について第三者への対抗要件を併せて講じることが必要である。

  • 売掛金……債務者に対しては債権譲渡の通知で対抗できるが、第三者へ対抗するには譲渡会社の確定日付による債権譲渡通知もしくは得意先の確定日付による承諾が必要。日付は譲渡日以後であることが必要。具体的には、公証人役場で確定日付をとるか、内容証明郵便により確定日付のある通知を行う。

  • 受取手形……譲渡会社から譲受会社へ裏書譲渡することで足りる。

  • 動産……事業譲渡契約により所有権は移転するが、第三者に対抗するには譲渡日に引渡しが必要(民法178条)。現金、無記名証券、製品、仕掛品、貯蔵品、機械装置などの動産とみなされる財産についても同様に引渡しが必要。

  • 不動産……事業譲渡契約により所有権は移転するが、第三者に対抗するには個別に所有権移転登記が必要(民法177条)。不動産についている抵当権、地上権についても移転登記が必要。根抵当権については元本確定前に債務引受が行われた場合、根抵当権者は引受人の債務につき根抵当権を行使できないため(民法398条の7第2項)、債務者の変更登記が必要。なお、工場財団を組成している工場建屋は、工場財団移転登記手続も併せて必要となる。

  • 買掛金……債権者の同意に基づく免責的債務引受契約により、譲渡会社から譲受会社に債務が移転する。ただし、債権者の同意が得られない場合、譲受会社が重畳的に債務を引き受けることになる。

  • 支払手形……譲受会社が譲渡会社名義で支払期日に決済する。

  • 契約上の地位……契約相手方の同意のもとに、個別に契約を更改しなければならない。

  • 知的財産権……特許権など登録により移転の効力を生じる知的財産権については、譲受会社において移転手続として登録が必要。

  • 従業員の引継ぎ……基本的には、従業員の個別の同意が必要となる。

民法上の詐害行為取消権や破産法上の否認権

事業譲渡が不当に低廉な価額で行われた場合や、特定の債権者に弁済する目的で行われた場合は、債権者は民法上の詐害行為取消権の行使により、事業譲渡行為を取り消すことができる。

また破産法上も、破産宣告前に譲渡会社がした事業譲渡が債権者を害する場合には、その効力を否認権に基づき否認することができる。業績不振の企業から事業を譲り受ける場合は、これらのリスクを認識する必要がある。

事業譲渡 税務上の留意事項

事業譲渡における譲渡会社および譲受会社の税務上の取扱いは下記のとおりとなる。

  • 譲渡会社
  • 事業譲渡を行った譲渡会社においては、譲渡の対価と譲渡対象の簿価純資産(譲渡の対象となる資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を差し引いた金額)の差額により譲渡損益が計上される。当該譲渡損益は、その他の所得と合算され法人税課税の対象となる。

  • 譲受会社
  • 譲受会社においては、譲渡対象事業に関連する資産および負債については、個別に時価で受け入れるとともに、退職給付債務等に相当する負債を認識したうえで、事業譲渡の対価と事業に係る時価純資産の差額を、資産調整勘定(税務上の正ののれん)または差額負債調整勘定(税務上の負ののれん)として計上し、5年で均等償却する。詳細は、第2章2.4.4「税務上ののれん(資産調整勘定または差額負債調整勘定)」を参照。

  • 消費税
  • 事業譲渡により譲渡した資産のうち、消費税の課税対象資産(のれんを含む)については、通常の資産譲渡を行った場合と同様、消費税の課税対象となる。また通常の資産譲渡の場合と同様、土地、有価証券、売掛金等は非課税である。

事業譲渡と会社分割の比較

事業譲渡と会社分割は、いずれも事業を対象とするM&Aにおいて適用される手法で、類似している面もあるが、それぞれ以下の特徴がある。特に権利義務や契約上の地位を包括的に承継させるかどうかが、事業譲渡と会社分割を選択する際のポイントとなるケースが多い。

取引先等の既存の契約内容を維持したい場合、契約等の承継の手間・煩雑さを考慮した場合には、包括承継となる会社分割の方が優れている。既存の契約を一旦破棄し、新たに契約し直したい場合や承継する資産。負債・契約を特定し簿外債務等を遮断したい場合には、事業譲渡の方が適した手法といえる(ただし、会社分割においても承継する資産。負債、契約を特定することでリスクを一定程度抑えることは可能である)。

なお、その他に実務上は、労働契約を包括的に承継したいか、個別同意により承継したいかによって、スキーム選択を行う場合も多い。

事業譲渡

会社分割

権利・義務・契約上の地位の移転

個別承継

包括承継

債権者保護手続

定めなし

原則として必要

労働契約の取扱い

雇用契約は承継されない個別に契約

労働契約承継法に承継

承認手続

株主総会の特別決議

株主総会の特別決議

簡易手続

譲渡会社 あり

譲受会社 あり

分割会社 あり

承継会社 あり

略式手続

あり

吸収分割 あり

新設分割 なし

株主等への事前開示

なし

あり

反対株主の買取請求権

あり

あり

消費税

課税対象

課税対象外

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