ネイルサロン
業界別M&A動向

ネイルサロン業界のM&A動向

更新日

ネイルサロン業界は、新型コロナ禍を受け需要の減少に見舞われたものの、2022年以降は回復傾向にあります。しかし、市場規模の拡大幅以上に店舗数の増加が著しく、競争が激しい状況にあることも見逃せません。

本記事では、ネイルサロン業界の基礎知識について触れたうえで、M&A動向や事例、成功のためのポイントなどを解説していきます。

M&Aの前に押さえておきたいネイルサロン業界の情報

はじめに、ネイルサロン業界の定義や、代表的な企業、そして業界ならではの特色といった、基本的な知識について確認していきましょう。

ネイルサロン業界の定義

ネイルサロンとは、爪に対する装飾や手入れなどの施術(ネイルアート)を専門的に行う業態のことです。

ネイルアートは1990年代から存在していましたが、当時はブライダルやパーティーに限定されていました。しかし、1997年に「ネイリスト技能検定試験」が開始され、少しずつ資格制度が確立していきます。その後、2000年頃から爪につけるジェル素材を硬化させる技術が広がったことで、ネイルアートが一般的なものとして普及し、ネイルサロンが増えていきました。

現在では、高級店から低価格店までさまざまなネイルサロンが存在し、独立して開業する女性も増えています。

代表的な企業

ネイリスト業界で代表的な企業は、以下のとおりです。

  • ・株式会社ノンストレス
  • ・コンヴァノ
  • ・株式会社フォーサイス
  • ・株式会社キャンアイドレッシー

ネイルサロン業界の特色

ネイルサロンは、施術できる場所と施術に必要な道具があればどこでも開業できます。開業資金も少なくて済み、自宅やアパートの一室を店舗とすれば仕事とプライベートとのバランスも取りやすいことから、開業の敷居が低い点が特徴です。

また、自分で開業するほかにフランチャイズとしてサロンを開くことも可能です。開業の際の資格は必須ではありませんが、保有していれば顧客との信頼にもつながります。代表的な資格としては、以下のようなものが挙げられます。

  • ・JNECネイリスト技能検定
  • ・JNAジェルネイル技能検定
  • ・I-NAIL-Aジェルネイル技能検定試験

ネイルサロン業界のM&A動向・市場規模

2005年以降、ネイル産業は増加傾向にありましたが、2020年には新型コロナウイルスの影響で需要が減少しました。外出自粛によりサロンへ通うことが難しくなったことや、在宅時間を活用してセルフネイルを行う人が増えたことが背景にあると考えられます。2021年は引き続き需要減少の煽りを受けましたが、2022年、2023年にかけて市場は回復傾向といえるでしょう。

しかし、この間の売上高増加率が3.6%であるのに対して、店舗数の増加率は14.2%となっており、施設の増加に対して市場規模の拡大は抑えられていることがわかります。このように競争が激化するなかで、消費者のニーズに合ったサービスの提供、DX化や無人経営による他社との差別化が求められています。

これらの動向を踏まえ、ネイルサロン業界のM&Aは、企業の成長戦略や競争力強化の一環として、今後も注目されるでしょう。

ネイル産業市場規模の推移(全体)

参考:ネイル白書 2023

ネイルサロン業界のM&A事例

続いて、ネイルサロン業界におけるM&Aの事例を見ていきましょう。

鉄人化計画とビアンカグループ

2021年12月、「カラオケの達人」で知られる株式会社鉄人化計画は、美容サロン32店舗を展開するビアンカグループ6社の全株式を取得しました。

ビアンカグループは首都圏で美容サロンや美容スクールの運営、さらには化粧品の販売も行なっています。このM&Aにおける鉄人化計画の狙いとしては、美容事業の拡大とカラオケ・飲食事業と共に効率的な事業運営を目指すことが挙げられます。

シェアリング・ビューティーとFERIA

2023年7月、株式会社シェアリング・ビューティーは、株式会社FERIAの全株式を取得しました。

これにより、シェアリング・ビューティは、関西エリアの美容室・ネイルサロン計10店舗を傘下におさめ、関東と関西を中心に25店舗を展開するグループとなっています。

シェアリング・ビューティーのDXサービスである「HAIR」や「ONCE」を導入することによるシナジー効果や、ブランドの強化も、このM&Aの大きな狙いです。

日本プライベートエクイティとティ・ケー・エス

2023年4月、日本プライベートエクイティ株式会社は、株式会社ティ・ケー・エスとその関連会社の全株式を取得しました。

売り手となったティー・ケー・エスは、美容室、理容室、ネイルサロン、ブライダル事業を展開する会社です。

このM&Aにおけるプライベートエクイティの狙いは、グループ企業の経営効率化に加え、質の高いサービスを提供すること、従業員のキャリア形成や自己実現の場を提供することです。また、新たな世代に事業を託したいというティー・ケー・エス側の思惑もあったとされています。

プリアンファとクレアシオン・キャピタル

2021年8月、クレアシオン・キャピタル株式会社は、株式会社プリアンファへ資本参加しました。

プリアンファはネイルサロン向けのジェルネイルの企画や販売を行っています。一方のクレアシオン・キャピタル株式会社は、国内独立系プライベートエクイティファンドです。

このM&Aについてクレアシオン・キャピタルは、プリアンファに参画して経営体制を整備することで、プリアンファの発展を目指すとしています。

RVHとG.Pホールディング

2020年2月、株式会社RVHは、ネイル事業を含む株式会社不二ビューティーを株式会社G.Pホールディングに事業譲渡しました。

これにより、RVHは美容エステティック業界から撤退しています。撤退理由は美容業界の人材不足と競争激化でした。

株式会社不二ビューティーはもともとPVHから株式会社G.PホールディングRVHに売却したものであり、このM&Aはそれを買い戻した形です。

ネイルサロン業界でM&Aを活用するメリット

ネイルサロン業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、次の3点が挙げられます。

  • ・ネイルサロンの人材を確保できる
  • ・経営資源を得られる
  • ・ブランド力が高まる

それぞれ見ていきましょう。

ネイルサロンの人材を確保できる

ネイルサロンを買収することで、ネイリストの確保が可能です。

ネイルサロンの顧客はネイリスト個人の技術力や人柄のファンになっているケースも少なくないため、ネイリストを獲得すれば、同時に顧客も獲得できる可能性もあります。また、優秀なネイリストを確保することで、既存のネイリストを含めたサロン全体の技術力アップも期待できるでしょう。

さらに、自社でネイリストの採用を行う場合には採用活動や育成に時間とコストが発生するものの、M&Aで相手企業が有する人材を取り込めば、手間とコストの大幅な削減が可能です。

経営資源を得られる

ネイルサロンの集客ノウハウ、施術に必要な設備などの経営資源を得られる点も、M&Aを実施するメリットです。

一からサロンを始める場合には初期投資に多額の費用がかかるうえに、投資に見合った収益を得られるとは限りません。一方、M&Aでネイルサロンを取り込めば、既存の店舗を承継できるため初期投資が不要です。また、売り手企業についていた顧客もそのまま引き継げるため、早期の黒字化が見込めます。これにより、軌道に乗るまでの時間やコストを削減できます。

ブランド力が高まる

M&Aによってネイルサロンの店舗数を増やすことで、ブランド力を高められます。

店舗が増えることで、必然的に看板数が増え、人の目に触れる機会が多くなるためです。その結果、集客が増え、さらに店舗数が増え、より一層ブランド力が高まり、グループ全体の企業価値向上につながる、という良い循環が期待できるでしょう。

ネイルサロン業界におけるM&A成功のポイント

続いて、ネイルサロン業界でM&Aを成功させるためのポイントとして、2つの項目を紹介します。

リサーチを徹底する

ネイルサロン業界でM&Aを成功させるためには、相手企業のリサーチを徹底することが大切です。相手企業が強みとする施術は何か、ネイリストの技術力は十分か、固定客はどれくらいいるか、など入念なリサーチを行うことが求められます。

その他、顧客にとって通いやすい立地であるかも大切なポイントです。公共交通機関で通いやすい、駐車場を完備しているなど顧客にとって利便性が高い立地であれば集客に優位になり、固定客の獲得にもつながります。

異業種を含めて取引相手を検討する

冒頭であげたとおり、ネイルサロン業界は市場競争が激化しています。他社との差別化をはかるためにも、同業者だけでなく、異業種を取引相手に検討するのも一つの方法です。例えば、美容室やまつ毛サロン、マッサージ店舗のメニューの一つとしてネイルケアサービスを提供している店舗もあり、隣接する事業を展開する企業も有力な候補となりえます。

また、近年ではSNSによるニーズの取り込みや集客・プロモーションが主流です。特にネイルサロンのユーザーはインターネットを通じてネイルのデザインや美容情報を収集する層も少なくないため、SNSとの親和性が高いと考えられます。そのため、SNS運用に強い企業とM&Aを実施すれば、販促・プロモーションを内製化でき、大きな集客、そして収益につながる可能性も高まるでしょう。

ネイルサロン業界における今後のM&Aの課題と展望

ネイルサロン市場は、需要が高まっている一方で、店舗の増加率に対して売上高が低い状況です。コロナ禍で定着したセルフネイルのニーズの高まりや、国内景気の悪化による節約意識も相まって、この傾向は今後も続くと考えられます。

市場競争が激化するなかで生き残っていくためには、他社との差別化を図れる強みを創出する必要があります。そのため、スケールメリットによるコスト削減やネイリスト同士の交流、技術力アップなどの効果を見込んだM&Aが増加していく可能性が高いでしょう。

また、近年では介護施設やデイサービスで高齢者を対象にネイルケアを行う福祉ネイリストも注目を集めています。少子高齢化の現代において、福祉ネイリストの需要はますます高まっていくでしょう。同業種だけでなく、福祉・介護業界を始めとした異業種とのM&Aも活発化していくと推測されます。

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