酒造
業界別M&A動向

酒造業界のM&A動向

更新日

若年層のアルコール消費の減少と、ライフスタイルの多様化によりさまざまな種類のアルコール飲料を嗜好するようになった結果、日本酒の需要は右肩下がりで減り続けています。

一方海外では、ニューヨークやパリをはじめとするさまざまな高級レストランで、ワインに代わる新しい飲料として日本酒が提供されはじめています。

そこで本記事では、日本酒業界の特色や市場規模、市場状況などを踏まえたうえで、M&Aの動向や実際の事例を紹介します。あわせて、日本酒業界でM&Aを活用するメリットや、成功するためのポイントなどについても見ていきましょう。

M&Aの前に押さえておきたい清酒酒造・日本酒業界の情報

はじめに、M&Aの前に押さえておくべき清酒酒造や日本酒業界の定義と、代表的な酒造メーカー、業界の特色について、それぞれ解説します。

清酒酒造・日本酒業界の定義

清酒酒造、日本酒業界とは、1953年に公布された現在の酒造法において、アルコール分1%以上の飲料や粉末の製造を行う企業を指すと規定されています。

清酒・日本酒はいずれも米を原材料としていますが、日本酒は国内産の米のみを原材料とし、清酒は海外産も含めた米を原材料とする点が、両者の異なる点です。

ビールやウィスキーなどの洋酒は少数の大企業による寡占的な生産・販売が進み続けています。それに対し、江戸期以前からの清酒・日本酒は、大企業だけでなく多くの小企業が製造している点が現産業構造の特徴です。小規模な酒蔵が地域の特色を生かした清酒・日本酒を製造し、清酒・日本酒文化を地方から下支えしています。

反面、経済的基盤が脆弱な酒蔵が多いことが課題です。また後述の酒類の製造免許の関係で新規参入業者が市場に参加することが難しいことなどから、新たな改革が業界全体に望まれています。

代表的な企業

清酒酒造・日本酒業界で代表的な企業、および各社の代表的な商品としては、以下が挙げられます。

  • ・白鶴酒造株式会社:「まる」「天空」など
  • ・月桂冠株式会社:「月桂冠」「果月」など
  • ・旭酒造株式会社:「獺祭」など
  • ・日本盛株式会社:「惣花」など

清酒酒造・日本酒業界の特色

清酒、日本酒を製造するのに必要な酒蔵を設立するためには、「酒類製造免許(酒造免許)」を取得しなければなりません。しかし現在、一部の例外を除き、新規で酒造免許を取得することは認められていない状況です。

ただし、国外での日本酒ブームの高まりに乗じて酒税法の一部が改正され、2022年より輸出目的に限定した場合のみ、新たに酒類酒造免許を取得できるようになりました。

清酒酒造・日本酒業界のM&A動向・市場規模

酒類の課税移出数量は1999年にピークを迎えて以降、年によりある程度の増減はあるものの、全体として減少傾向にあります。

酒類課税移出数量の推移

引用:酒レポート

また、酒類の消費量に関しては、2020年の成人一人当たりの種類消費数量は75.0Lとなっており、ピーク時の1995年(101.8L)から約73%にまで減少しています。

その背景には、低価格を好む志向の定着やライフスタイルの変化、健康意識の高まりなどによる嗜好の多様化があると考えられます。こうした傾向は清酒・日本酒だけにとどまりません。海外でもワインなどの消費量が落ち込みつつあることから、世界的にアルコールの消費量が減りつつある状況です。

また、製造方法別製造場数の推移を見ると、いずれも減少傾向にあり、特に吟醸酒、本醸造酒の減少幅が目立 ちます。これは、和食に代わり洋食が食卓に上がる頻度が増えたことや、燗酒を嗜む人が減ったことなどがおもな原因であると考えられるでしょう。

このように、国内における酒需要が長期的に減少しているなかで、各酒造は多様化するニーズに向けた新たな製品の創出や新たな市場への進出、また経営改革や組織構造の転換が求められています。

清酒酒造・日本酒業界のM&A事例

次に、清酒酒造・日本酒業界のM&A事例のうち代表的なものを、以下に5例紹介します。

Agnaviと日本政策金融公庫

2024年1月、株式会社Agnaviは、株式会社日本政策金融公庫と「農林水産物・食品輸出基盤強化資金」を活用した融資契約を締結し、総額8.5千万円の資金を調達したと発表しました。

神奈川県茅ヶ崎市に本社を持つAgnaviは、日本酒ブランド「ICHI-GO-CAN®」と「Canpai®」などを展開する会社です。日本酒の消費拡大を目指し、農林水産省の「輸出事業計画」の認定も受けています。この資金調達は、海外市場での成長を加速し、事業の更なる発展を目的としたものです。

男山ホールディングスと男山

2023年5月、男山ホールディングス株式会社は、子会社である男山株式会社の不動産事業を、会社分割により引き継ぐことを発表しました。

この組織再編により、男山株式会社は日本酒製造業に専念し、その他の事業は男山ホールディングスが担当することとなりました。

今回の組織再編により、グループ会社各社の役割をより明確化し、それぞれの企業価値の向上を目指します。

老田酒造とタオイ酒造

2017年、株式会社老田酒造は、株式会社ジャパン・フード&リカー・アライアンス(JFLA)が設立した子会社、株式会社タオイ酒造に、事業を譲渡しました。

株式会社老田酒造は、岐阜県高山市で江戸時代中期から酒類を製造している会社です。「鬼ころし」などが親しまれていますが、経営赤字に苦しむ状況が続いていました。事業譲渡で得た対価で負債を返済して会社を清算しますが、これまで酒類の製造に関わっていた従業員は株式会社タオイ酒造へ移り、引き続き酒類の製造に携わります。

このM&Aにより、地域の歴史的な酒造りが守られることになりました。

菱友醸造と磐栄運送

2017年4月、磐栄運送株式会社は、自己破産した菱友醸造株式会社の酒造事業を承継することを発表しました。

菱友醸造は、長野県下諏訪町にある酒蔵です。一方の磐栄運送は福島県に拠点をおく運送会社ですが、かねてより菱友醸造との取引をしていました。地元で愛されるブランドをなくすまいと名乗りをあげ、事業承継に踏み切った事例です。

リオン・ドールコーポレーションとヨシムラ・フード・ホールディングス

2021年5月、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、自社グループ傘下の栄川酒造を、スーパー経営の株式会社リオン・ドールコーポレーションに譲渡したことを発表しました。

この譲渡は、リオン・ドールコーポレーションがウイスキー市場への新規進出を目的として行われたものです。栄川酒造が第三者割当増資を行い、リオン・ドール側がそれを引き受ける形での実施となりました。

買い手側のリオン・ドールコーポレーションは、福島県、栃木県、新潟県において67店舗のスーパーを経営しており、M&Aを機に栄川酒造の日本酒とウイスキーを販売することで更なる売上の増加を目指します。

清酒酒造・日本酒業界でM&Aを活用するメリット

清酒酒造・日本酒業界でM&Aを活用する主なメリットとしては、以下が挙げられます。

  • ・ブランドを引き継げる
  • ・酒造免許を継承できる

それぞれ見ていきましょう。

ブランドを引き継げる

M&Aで既存の酒造事業を取得すれば、酒造そのものに加えて、成功するために必要な、顧客や取引先、経験やノウハウ、ブランド力などを引き継ぐことができます。

これらの要素はいずれも、自社で一から獲得するとなると、膨大な時間と労力を要するものばかりです。M&Aによって獲得できれば、成功の可能性が大きく高まるでしょう。

酒造免許を承継できる

酒蔵のM&Aにおける買収側メリットの一つは、酒造業免許の取得です。酒造免許は工場(酒蔵)に紐づいているため、M&Aで酒蔵を手に入れると、免許も同時に取得できます。

特に地酒の新規免許取得は、現状の酒税法では原則として認められていないため、この方法で新たに酒造りに参入する買い手が多く見られます。

また、日本国内における酒類に関する規制や免許などは多々ありますが、特にインターネットを通じて酒を販売するためには酒類小売業免許と通信販売酒類小売業免許を取得しておかなければなりません。

また、免許を取得した場合でも、年間3,000kl以上の酒類を販売する国内メーカーの酒を通販で取り扱うことは禁じられています。

ですが、この規制が制定された1989年以前に交付された酒類小売業免許(いわゆる「ゾンビ免許」)を取得している場合は、3,000kl以上の販売数量のメーカーであっても通販で酒類を扱うことが可能となります。

通販事業の拡大を目指している異業種は、この「ゾンビ免許」を目的にM&Aを実施するケースもあり、M&A戦略の一部として活用されるシーンが増えています。

清酒酒造・日本酒業界におけるM&A成功のポイント

続いて、清酒酒造・日本酒業界でM&Aに成功するためのポイントについて解説します。

酒造りに関する想いや価値観を共有すること

日本酒業界のM&Aでは、取引相手となる酒造が築いてきた文化や歴史を理解することが非常に重要なポイントとなります。

M&Aにより酒造事業を継承する際には、廃業を避けるために売り手の酒蔵と買い手企業の間で条件交渉を行うだけでなく、酒造の抱く「酒造りへの想い」の共有が大切です。

M&Aを活用し、酒造りを継承できれば、酒造りの伝統や価値観が継承され、酒蔵の再生と持続可能な発展が期待できます。

規制遵守と許認可の確認を行う

日本酒業界でM&Aを実施する際には、関係する酒税をはじめとする法令や、規制などの遵守と許認可の確認が極めて重要です。

具体的には、酒造法や酒類業組合法など、酒類製造・販売に関する法令・規制を守っていることや、現在酒造が有している許認可が有効なものであること、そしてM&A後もその有効性が継続されることを確認しておかなければなりません。

特に、酒造免許や販売免許を引き継ぐ際には名義変更手続きが必要なため、チェック内容には漏れのないように留意することが大切です。

清酒酒造・日本酒業界における今後のM&Aの課題と展望

最後に、清酒酒造・日本酒業界におけるM&Aの課題と、今後の展望について解説します。

海外輸出やイベント開催で市場は活況が期待されている

清酒酒造・日本酒業界は、2013年のユネスコ無形文化遺産登録を機に海外で高級日本酒の需要が高まり、輸出額は増加しています。

現在は香港、中国、アメリカが主要市場となっていますが、今後はシンガポールやフランス、イタリアなどへの輸出も増える見込みです。また、日本酒を世界で一躍有名にした「獺祭」を擁する旭酒造は、ニューヨークに進出し、既に現地における日本酒造りを始めています。

こうした状況に加え、若い世代の経営者による商品差別化や高付加価値の提供も進んでおり、低アルコールやスパークリング日本酒、デザイン性の高いラベルなどで、新たな顧客層を取り込み始めていることも、注目するべき動きです。

また、日本酒に関連したイベントの再開や、日本酒愛好家や料理研究家の間での日本酒に関する民間資格取得の普及が、市場の拡大に寄与している状況も見られます。

日本酒業界のM&Aは今後も伸びると予想されている

日本酒業界のM&Aは、今後さらに増加すると予測されています。日本酒ブームの裏で地方の個人経営の酒蔵は廃業を迫られていますが、大手企業とのM&Aを行うことで販路拡大やブランド強化が可能です。

例えば、アマゾンジャパンが酒蔵を譲り受け、直接酒類の販売を開始した事例などもあります。

酒蔵が伝統と雇用を守りつつ販売網の拡大を実現できるM&Aは、日本酒業界にとって経営の安定と成長の鍵となるでしょう。

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