M&Aにおけるスクイーズアウトとは? メリット・デメリット、手法、手続きの流れを紹介

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相続などにより株式が分散してしまった結果、株主の意思統一が難しくなり、株主総会の決議に問題が生じてしまうことがあります。また、会社にとって重要な事項を決議する際は、議決権の3分の2以上の賛成が必要ですが、少数株主が増えた結果、決議自体が困難になってしまうことがあります。
こうしたケースにおいて、問題解決の手法として用いられているのが「スクイーズアウト」です。
本記事では、株式の分散に悩むオーナー経営者を対象に、スクイーズアウトに関する基本知識のほか、メリットとリスクについて解説します。実際の流れや事例なども紹介しますので、最後までご参照ください。

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1. スクイーズアウトとは

はじめに、スクイーズアウトとは「どのような手法」で、これによって「何ができるのか」について解説します。

1-1. スクイーズアウトの意味

スクイーズアウトとは イメージ画像
スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、直訳すると「締め出す」という意味で、少数株主が保有する株式を強制的に買い取ることにより、株主全体の意思決定を行いやすくする手法のことです。
大株主と意見の対立する少数株主の持つ株式を、金銭を交付して強制的に買い取り、株主から締め出すことにより、事業承継や完全子会社を目的としたM&Aの実現を目指します。
ただし、少数株主の権利保護も重視されるため、実施する際は慎重に計画して進めなければなりません。

1-2. 重要性・活用ケース

スクイーズアウトは少数株主による意見の対立を解消し、経営陣と株主が一丸となって迅速な意思決定を行う目的で行われます。
例えば、M&Aのような重要事項を決議するためには「3分の2以上の株主の合意」が必要ですが、株式が分散していては、反対する株主が増えかねません。また、M&Aの買い手側が全株式の譲渡を求める場合、一部株主が反対すると、M&Aそのものが不成立になる恐れがあります。
このように、少数株主との意見対立によって重大な意思決定が阻害されないよう、会社法では少数株主を締め出すスクイーズアウトが認められています。
スクイーズアウトは事業承継やM&A以外にも、上場廃止のために持株比率を100%にする手段として用いられることもあります。

1-3. スクイーズアウト時の株価

スクイーズアウトを行う際は、少数株主に対して経済的な不利益が生じないよう、買い取る株式の価格は公正妥当である必要があります。
そのため、経営陣による恣意的な株価ではなく、専門家による説得力のある株価算定資料に基づいた株価で買い取らなければなりません。
また、スクイーズアウトには株主の権利と公平な取引が守られるように、法的な枠組みが整備されているため、裁判所が介入することで公正な価格が担保される仕組みとなっています。

1-4. TOBと併用する二段階買収

TOBとは「株式公開買付」のことで、上場企業が不特定多数の株主に対して買付価格やその期間を公告し、取引市場外で株式の買付を行う手法のことです。
M&Aをはじめ、子会社化などのさまざまな組織再編に用いられますが、TOBでは発行株式のすべてを取得できない場合があります。そこで、TOBとスクイーズアウトを併用し、TOBで漏れた少数株主の株式をスクイーズアウトで買い取り、発行済みの全株式を取得するわけです。
なお、TOBとスクイーズアウトを組み合わせて株式を取得する手法を「二段階買収」といいます。二段階買収は、完全子会社化を目指す際に有効な方法の一つと言われています。

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2. スクイーズアウトのメリット

スクイーズアウトにはさまざまなメリットがあります。そのなかでも特に大きなメリットは、以下の6つです。

  • 意思決定の迅速化
  • 長期視点での経営が可能になる
  • 事務処理や手続きの簡易化・削減
  • 株式分散の対策
  • 株主代表訴訟のリスク削減
  • グループ通算制度による税制上のメリット

詳細を一つずつ、確認していきましょう。

2-1. 意思決定の迅速化

株式が分散し、少数株主と対立する機会が増えると、会社の経営方針に関する重大な決議に時間がかかるようになり、ビジネスチャンスを逃したり経営リスクを増大させたりする恐れがあります。
こうした状況を打破するためにスクイーズアウトを行うと、少数株主の株式を大株主グループなどに集中させられるため、重要な意思決定が迅速に実施できます。
その結果、効率的かつ柔軟な経営を行うことが可能です。

2-2. 長期視点での経営が可能になる

会社にとって重要な事項を決定する際は、株主総会の決議を経なければなりません。そのため、経営者は常に株主と歩調を合わせ、円滑な企業経営を目指す必要があります。
しかし、株式が分散して少数株主が乱立すると、株主同士の意見が対立しがちになり、どうしても短期的な視点で目先の施策を行おうとしてしまいます。
こうした状況を改善するためには、スクイーズアウトが効果的です。スクイーズアウトを行えば株主間の合意を得る手間が軽減されるため、経営陣が長期的な視点に立ち、自身のビジョンや計画を迅速に実行する機会が設けられます。

2-3. 事務処理や手続きの簡易化・削減

株主総会を行うためには、株主に対して通知を行い、会場の設営や準備などを行わなければなりません。こうした事務処理や手続きは、株主が増えれば増える程煩雑となり、その費用も増大します。
したがって、スクイーズアウトを実施すると株主の数が減るため、事務処理に必要な手間やコストを削減し、手続きを簡略化することが可能です。
また、株主が多いと合意形成に時間と労力が必要となりますが、スクイーズアウトを行うと意思決定が迅速化されるため、手続きの一部を削減できるようになります。

2-4. 株式分散の対策

株主の死亡により、株式が複数の相続人に細かく分散してしまうことがあります。そうなると、連絡が取れない株主や面識の無い株主が増え、会社の運営上さまざまなリスクと向き合わなければならなくなります。
スクイーズアウトを行うと、細かく散らばった株式をまとめることができるため、株式分散を防ぎ経営リスクを取り除くことが可能です。

2-5. 株主代表訴訟のリスク削減

株主は、会社に代わって役員の経営責任を追求し、損害賠償請求を行うことができます。これを「株主代表訴訟」と言います。
少数株主と経営方針を巡り対立すると、株主代表訴訟を起こされる恐れがあり、会社の経営に大きな混乱や法的負担を及ぼしかねません。
スクイーズアウトによって少数株主を排除できれば、こうした訴訟リスクを気にすることなく自由に経営できます。

2-6. グループ通算制度による税制上のメリット

グループ通算制度とは、親会社と完全支配関係のあるすべての子会社を「一つのグループ」とみなし、申告・納税を行う制度のことです。
通常はグループ内の法人ごとに申告・納税を行うため、赤字企業と黒字企業の損益通算はできません。しかし、グループ通算制度の要件を満たすと、企業グループ内での損益通算が可能になるため、黒字企業の利益と赤字企業の損失を相殺して税額を軽減できます。
そのため、スクイーズアウトによって親会社が子会社の全株式を取得し、完全子会社として傘下に収めれば、グループ通算制度を最大限活用できる状態が作り出せます。

3. スクイーズアウトのデメリット

スクイーズアウトには上述のようなメリットがある反面、いくつかのリスクもあります。そのなかでも特に注意すべきなのは、以下の3点です。

  • 裁判に発展する可能性がある
  • 対価の支払いが高額となる可能性がある
  • 時間がかかる

いずれも配慮が欠かせないため、順番に見ていきましょう。

3-1. 裁判に発展する可能性がある

スクイーズアウトは、少数株主が持つ株式を強制的に買い取り、株主の権利をはく奪してしまう手法です。したがって、スクイーズアウトを行う場合は、実行するに足る「合理的な理由」と「適正価格による株式の買い取り」が必要です。
これらの条件が満たされず、少数株主との合意に達しない場合は、裁判に発展する可能性があることを考慮に入れておかなければなりません。
こうした事態を避けるためには、少数株主に対してスクイーズアウトの必要性を丁寧に説明すると共に、法律に定められた手続きを行い、専門家が算定した適正な株価で株式を買い取ることが肝要です。

3-2. 対価の支払いが高額となる可能性がある

スクイーズアウトを実行する際は、少数株主に対して、公正な評価によって算定された対価の支払いを行わなければなりません
会社の規模が大きくなればなる程少数株主の数も多くなるため、高い企業価値を持つ企業であれば、高額な資金が必要になる可能性が生じます。
そのため、スクイーズアウトを行う前に予算を検討し、必要な資金を確保するようにしておきましょう。

3-3. 時間がかかる

スクイーズアウトを行うためには、法律で定められた手続きに則り、スケジュールを進めて行かなければなりません。その過程で開示書面を作成したり、取締役会や株主総会を開催したりするため、どうしてもある程度の時間が必要となります。
スクイーズアウトには4つの手法がありますが、そのなかでも最短の「特別支配株主の株式等売渡請求」を行ったとしても、最速で20日の期間が必要です。
他の手法を用いる場合は、最長2ヶ月程度の期間が必要となることもあるため、スクイーズアウトの実施には、ある程度時間的な余裕を持つ必要があります。

4. スクイーズアウトの手法と手続きの流れ

スクイーズアウトには、手法が4つあります。ここでは、各スキームの基本的な内容を整理したうえで、おおまかな手続きの流れについて解説します。

4-1. 特別支配株主の株式等売渡請求制度

特別支配株主とは、議決権の90%以上を保有している大株主のことです。この大株主が、会社の承認を得たうえで少数株主の買取請求を行うのが、「特別支配株主の株式等売渡請求制度」です。
会社が大株主の買取請求に対して承認すれば、少数株主は必ず売却に応じなければなりません。他の手法と比べて比較的短期間で完結できるうえに、株主総会における決議や自己株式取得の財源規制などの手続きがいらないため、実際に多くの場面で用いられています。
なお、特別支配株主の株式等売渡請求制度を用いるスクイーズアウトは、概ね以下の流れに沿って行われます。

手続きの流れ

  1. 【会社に対して株式の売渡請求に関する通知を行う】株式の売渡請求と同時に、株式の取得日や買取価額、株価の算定方法などもあわせて通知します
  2. 【会社が売渡請求を承認し、特別支配株主へ通知する】通知を受けた会社側は請求の可否を審議し、結果を大株主に通知します
  3. 【会社から少数株主に対し、売渡請求の旨を通知する】少数株主に対し、大株主から株式の売渡請求があった旨を株式取得日の20日前までに通知します

4-2. 株式併合

「株式併合」とは、複数の株式を一つにまとめる手法です。株式併合を応用すると、スクイーズアウトの手法として用いることができます。
保有する株式が端株(1株未満)になると株主の権利が行使できなくなることを利用し、少数株主が保有する株式を株式併合によって端株にし、端株同士をまとめて大株主が買い取る(もしくは会社が自己株式として買い取る)ことでスクイーズアウトを完成させます。
例えば、発行済株式総数が100万株で、その株式をAさんが99万5千株、Bさんが5千株持っている場合を考えてみましょう。
株式併合によって1万株を1株に併合すると、Bさんが保有していた株式は端株(0.5株)となり、その効力が失われます。これを大株主であるAさん(もしくは会社)が買い取ることにより、スクイーズアウトが完成します。
ただし、株式の買取価格は裁判所で審査されるため、その価額は公正妥当なものでなければなりません。
株式併合によるスクイーズアウトは、概ね以下の流れに沿って行われます。

手続きの流れ

  1. 【取締役会で株主総会の開催を決議する】取締役会を開催し、株主総会で株式併合に関する決議を行う旨を決議します
  2. 【書面等の事前備え置き】株式併合に関する開示書面を作成し、株主総会開催日の2週間前(もしくは株主に通知した日のどちらか早い日)から、株式併合の効力発生後6ヶ月の間、本店にて備え置きます
  3. 【株主総会を開催し、株式併合を決議する】株主総会を開催し、出席株主が有する議決権の3分の2以上の賛成をもって株式併合を決議します
  4. 【株主に対する通知等を行う】株式併合の効力発生日の2週間前までに、決定内容に関する通知等を行います
  5. 【効力発生と対価の支払い】株式併合の効力発生にともない少数株主の株式を買い取り、対価を支払います

4-3. 全部取得条項付種類株式

「全部取得条項付種類株式」とは、種類株式の一種で、株主総会の特別決議があれば、会社がそのすべてを強制的に買い上げられる特殊な株式のことです。
会社が発行している株式を「全部取得条項付種類株式」に変更し、全株式をいったん買い上げたうえで、新たに発行した普通株式を対価として付与します。
この際の付与率を工夫し、少数株主には端株しか残らないように調整したうえで端株を強制的に買い取り、スクイーズアウトを完成させます。
なお、全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウトは、概ね以下の流れに沿って行われます。

手続きの流れ

  1. 【書面等の事前備え置き】全部取得条項付種類株式に関する開示書面を作成し、株主総会開催日の2週間前(もしくは株主に通知した日のどちらか早い日)から、取得後6ヶ月の間、本店にて備え置きます
  2. 【株主総会で決議する】株主総会を開催し、全部取得条項が付された普通株式の取得に関する特別決議を行います
  3. 【株主に対する通知等を行う】全部取得条項付種類株式の取得日の20日前までに、決定内容に関する通知等を行います
  4. 【株式の取得と対価の交付】全部取得条項付種類株式のすべてを取得し、対価として新たに普通株式を交付します

4-4. 株式交換

「株式交換」とは、子会社と親会社の株式を交換し、完全親子会社となるための組織再編行為の一つです。株式交換を応用し、少数株主のスクイーズアウトを実行します。
子会社の株主に親会社の株式を交付する際、その交換比率を工夫して少数株主の株式を端株とし、その効力を失くします。あとは少数株主に対し、スクイーズアウトの対価として現金を支払うのが通常です。
なお、株式交換によるスクイーズアウトは、概ね以下の流れに沿って行われます。

手続きの流れ

  1. 【取締役会で決議する】取締役会を開催し、株式交換契約の決議および契約の締結を行います
  2. 【書面等の事前備え置き】株式交換に関する書類を作成し、株主総会開催日の2週間前(もしくは株主に通知した日のどちらか早い日)から、株式交換の効力発生後6ヶ月を経過するまでの間、本店にて備え置きます
  3. 【株主総会で決議する】株主総会を開催し、株式交換に関する特別決議を行います
  4. 【効力の発生と変更登記】株式交換の効力発生にともない、完全子会社の少数株主に対して現金で対価を支払います。また、効力発生日から2週間以内に株式交換に関する変更登記を行います
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5. スクイーズアウトの事例

最後に、スクイーズアウトに関する事例を2つ紹介します。

5-1. ZホールディングスによるLINEの完全子会社化

Zホールディングス株式会社とLINE株式会社の親会社であるネイバーは当初、TOB(株式公開買付)によるLINE社の完全子会社化を目指していました。しかし、LINE社の一部株主の反対によりTOBは失敗し、全株式の取得は不可能となります。
そこで、LINE社は「株式併合によるスクイーズアウト」を行います。約2,900万株を1株に併合することで少数株主の株式を端株にして効力を失わせ、買い取りを可能にしました。
その結果、少数株主は排除され、結果として2021年3月にZホールディングスはLINE社の完全子会社化を達成しました。

5-2. 日本製鉄による日鉄物産の連結子会社化・非公開化

日本製鉄株式会社は、製鉄やエンジニアリング業を中心に事業展開を行っているのに対し、日鉄物産株式会社は鋼鉄の卸売を主力とする専門商社です。
シナジー効果を期待してある程度の資本関係は結んだものの、限定的であるため、狙い通りの効果をあげることができませんでした。また、中長期的な施策が一部株主と利益相反の関係となる恐れもあることから、日鉄物産を子会社化し、非公開化を目指します。
その結果、日鉄物産は「TOBとスクイーズアウト」により日本製鉄の連結子会社となり、2023年6月に上場廃止となりました。

6. まとめ

事業承継やM&Aなどを行うにあたり、分散している株式を集中させる手法としてスクイーズアウトが用いられることがあります。スクイーズアウトを実行すると、相続などで分散してしまった株式を大株主に集中させられるため、経営判断の迅速化や効率化の促進が可能です。
ただし、スクイーズアウトを行う場合は少数株主の権利に配慮し、法的に間違いの無い公正妥当な価格で株式を買い取らなければなりません。
こうした株価算定や手続きには専門的な知識が必要となるため、スクイーズアウトを検討する際は、専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。
当社は東証プライムに上場しており、事業承継やM&Aに関する実績も豊富です。スクイーズアウトを検討されている方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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