医療法人M&Aのいま~地域医療を救う「第三者承継」という選択肢~
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医療法人M&Aのいま ~地域医療を救う「第三者承継」という選択肢~
医療法人M&Aのいま ~地域医療を救う「第三者承継」という選択肢~
2025/09/10
超高齢社会が進む昨今の日本において、地域医療は重要な社会インフラです。しかし現在、経営難に陥る医療機関は増加の一途をたどり、その要因のひとつに挙げられるのが医師の高齢化と後継者不足です。2024年に休廃業・解散した医療機関は過去最多を記録し、地域医療は崩壊寸前という見方も示されています。
こうした中、今注目を集めているのが「医療機関の第三者承継(M&A)」です。医療業界における後継者不足の実態、医療M&Aの現状と今後の動向などについて詳しく解説します。
医療法人の後継者不足問題
医療機関における医師の高齢化は年々加速しています。厚生労働省の2022年の調査によると、病院の医師の平均年齢は45.4歳、診療所の医師の平均年齢は60.4歳です。
このうち診療所の医師の年齢構成は60〜69歳が29.7%、70歳以上が23.0%と、60歳以上の医師が過半数を超えているのが現状です。また、歯科医師においても同様に高齢化の傾向が見られます。
出典:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況_2歯科医師」
このような医師の高齢化によって生じるのが、医療機関の閉院です。帝国データバンクの調査によれば、2024年の医療機関の休廃業・解散件数は722件とされ、過去最多を記録。増加の最大の要因は、経営する医師の高齢化であるという分析がなされています。
医師が高齢であっても、後継者がいれば事業の存続は可能です。しかし、後継者不足も深刻な問題に発展しています。日本医師会が2019年に行った医業承継実態調査によると、「現段階で後継者候補はいない」と回答した病院・診療所の経営者は約半数に上ります。
出典:日本医師会 医業承継実態調査: 医療機関経営者向け調査
高齢の医師は長年にわたり地域の医療を支えてきたことから、閉院は単なる医師の引退にとどまらず、地域医療の崩壊につながる重要な問題として、早急な解決が求められています。
M&Aという医業承継の選択肢
病院・診療所の存続、そして地域医療の維持に向けた現実的な選択肢として、「医療機関のM&A(事業承継)」が注目を集めています。
実際、私どもM&Aキャピタルパートナーズが2024年に行った意識調査では、病院・診療所の経営に関わる医療従事者の53.8%が「事業継承を検討している、もしくは方向性が決まっている」と回答しています。
検討した理由・きっかけは「事業を継ぐ家族がいない」が42.9%、「設備投資の必要性を感じている」が37.5%、「自身の高齢化・健康面」が35.7%という結果でした。
また、同様の調査において、42.3%の人が「M&Aを経験した医療法人の経営者が周囲にいる」と答えています。
これらを踏まえると、医業承継の手段としてM&Aを検討することは自然であり、M&Aは後継者不足問題を解決する有効な手段のひとつであると考えることができます。
医療法人のM&Aの現状
ここでは、M&Aキャピタルパートナーズの経験をもとに、医業承継としてのM&Aの現状をお伝えします。
都市部中心だが、地方も増えつつある
医療業界のM&Aは現在、東京や大阪などの都市部を中心に活発化しています。都市部でM&Aが進む理由は、医療機関数や人口が多く収益性が高いことから、買い手が見つかりやすいという点が挙げられます。
ただし、地方でのM&A事例も少しずつ増えています。都市部ほどの件数ではないものの確実にニーズは存在しており、買い手企業の参入は今後さらに広がっていくでしょう。実際に当社でも、香川や岡山、愛媛など地方都市の医療機関の医業承継に携わっていました。
種別では歯科医院が多い
M&Aキャピタルパートナーズの実績をもとに見た場合[i]、M&Aの対象として最も多いのは歯科医院です。現在、全国に約7万もの歯科医院[j]があり、そのうち約7割が個人経営のいわゆる“パパママクリニック”です。経営者の高齢化が進み、第三者承継を模索する院長が増えています。
一方、医科クリニックや総合病院のM&Aも確実に進行中です。内科、耳鼻科、眼科などの診療所をはじめ、地域中核病院や医療法人の承継も広がりを見せています。
買い手企業の傾向
医療法人M&Aの譲り受け先として近年増えているのが、投資ファンドや医療系コンサル企業、医師向けポータルサイトなど医療関連の事業を展開する企業です。これらの企業は、医療人材ネットワークを活用し、後継医師の確保や経営効率化を進める体制を整えています。
投資ファンドに関しては、社会貢献を重視する動きも強く、医療機関の存続と地域医療への貢献を目的にM&Aに取り組んでいる企業が多いようです。
M&Aによる医業承継のメリット・デメリット
それでは、医療法人が医業承継としてM&Aを選択するメリットはどのような点にあるのでしょうか。
M&Aによって得られるメリット
医療法人が第三者承継を選ぶメリットとして、次のような点が挙げられます。
病院・診療所の継続
地域の患者、自院の従業員の雇用を守ることができます。
個人保証の解除
M&Aにより、法人が抱える借入金に対する理事長の個人保証が解除され、安心して引退できます。
創業者利益(リタイア資金)の確保
M&Aにより、金銭的リターンを得て引退することができます。
経営のプロと組むことでの効率化
M&A後の人事・採用・経営戦略は買収側が担うため、医師は診療に専念できます。
経営の相談相手ができる安心感
M&Aの仲介企業、買い手企業との対話により、経営者の孤独感が軽減されたという声も上がっています。
他業界と異なる、医療法人におけるM&Aのハードルの高さ
医療業界のM&Aでは、一般企業にはない特有のハードルがいくつか存在します。そのひとつが、経営者自身が医師(または歯科医師)であり、診療の担い手であるという点です。
したがって、経営者の引退=診療停止を意味するケースが多く、一般企業と比べてスムーズな継承が難しくなります。そのためM&A後も一定期間にわたり、譲渡法人の経営者が診療を継続しながら新しい経営体制に引き継ぐ「移行期間」を設けるケースが一般的です。
また、医療法人は営利を目的としない非営利法人であるため、株式会社とは異なるスキームによるM&Aを行わなくてはなりません。この点も、医療法人がM&Aを行う際に留意しておくべきことのひとつです。
医療法人M&Aは、今後さらなる加速が予想される
医療法人のM&Aは、下記の理由から、今後さらに拡大していくものと考えられます。
- 医師の高齢化
- 後継者不足
- 医療人材の採用難
これまで見てきたとおり、医師の高齢化は顕著に進み、今後10年あるいは数年の間に引退を迎える医師は急増する見込みです。同時に、後継者不足の現状を踏まえると、M&Aによる承継ニーズはますます高まるでしょう。
また、医師や看護師、歯科衛生士といった医療人材の採用は年々難しくなっています。M&Aにより経営基盤が強化されれば、採用面で有利に働く可能性があり、地域医療の未来を見据えてM&Aを選択する経営者も増えると考えられます。
一方で、心情的な側面からM&Aに踏み切れない経営者がいることも確かです。自身の診療所を外部に渡すことに抵抗感を持ち、事業承継をするなら親族の一択と考える経営者も少なくありません。
ただし、「プロの経営者に任せた方が効率的に運営できるのでは?」という考え方も徐々に浸透しつつあります。「診療は医師、経営はプロ」と役割分担を進める動きは、今後さらに広がっていくでしょう。
M&Aが”医療の未来”を支える鍵となる
医療機関のM&Aは、地域医療を守る社会的インフラ維持の手段でもあります。
現場の医師や従業員、そして地域の患者を支えるために、医療法人M&Aという選択をもっと広く理解し、検討していくことが、地域医療の未来につながるでしょう。
記事監修者
当社入社後は、主に調剤薬局やドラッグストア等のヘルスケア業界を中心に、数多くの成約実績を重ねている。