建設業界M&A動向2025年上半期 過去最多件数を更新~業界課題と今後のM&A動向について解説~
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建設業界M&A動向2025年上半期 過去最多件数を更新 ~業界課題と今後のM&A動向について解説~
建設業界M&A動向2025年上半期 過去最多件数を更新 ~業界課題と今後のM&A動向について解説~
2025/11/19
従来は「下請け構造の象徴」 として語られることの多かった建設業界が、近年、かつてないスピードで再編が進んでいます。企業買収や統合をはじめとするM&Aの件数は、2025年1月から過去最高ペースで増加。その背景には、単なる業績不振や後継者不在にとどまらない構造的な変化が見られます。
M&A活況の背景にある公共投資の拡大
建設業界のM&A活況の背景には、国土強靭化をはじめとした公共投資の拡大があります。自然災害が頻発する中、政府は防災・減災・老朽インフラ対策への予算を拡充しています。
実際に、2025年度の建設投資の見通しは75兆4,500億円で、前年度比2.5%増となりました。そのうち、政府分野の投資は4.5%増と、民間と比較して高い伸び率を見せています。さらに、2026年度は9.2%増になるとの見通しです。 これを受けて、各地でインフラ整備、維持・修繕工事の需要が高まり、地域の施工能力が再評価されるようになりました。
新築需要は減少傾向にある一方、既存施設の修繕、リノベーションなど「メンテナンス」領域への移行が特に進んでいます。そのため、新築一辺倒であった建設会社には、新たな分野への対応が求められ、技術力やノウハウを持つ他社を取り込むM&Aの動きが加速しています。
建設業界の構造課題「人手不足」
建設業界で最も深刻な構造的課題が「人手不足」です。その背景には、建設需要が高まる一方で従事者の高齢化が進み、若手の参入がなかなか増えない状況があります。加えて、2024年に施行された労働時間の上限規制 も人材確保を困難にしている要因の一つです。さらに、土木系専門学校の減少によって若手技術者の育成基盤が弱まり、中小企業が自社だけで人材育成体制を整えることは大きな負担となっています。
出典:建設業を巡る現状と課題
このような課題への対応策として近年注目されているのが、人材ごと企業を買収するM&Aです。特に、地域密着型の建設会社は、優れた施工力に加え、長年培ってきた協力業者とのネットワークや自治体との関係性、豊富な施工実績が評価され、ゼネコンや投資ファンドから買収の対象となるケースが増えています。
従来は「安く叩かれる存在」だった下請け会社は、「施工力・ネットワークを持つ戦略的パートナー」としての地位を確立しつつあります。地場企業がもたらす人脈や技術は、M&Aにおいて金銭的価値以上の「競争力」として認識されているのです。
建設業界における、成長戦略型M&Aへの変遷
従来、中小建設業を対象とするM&Aは、オーナーの高齢化や後継者不在を起点とする「事業承継型」が主流でした。しかし、近年では「成長戦略型」のM&Aが増加傾向にあります。
例えば、SBI地域事業投資が支援した清水組の事例では、100年以上の歴史を持つ同社が、まだ若い経営者のもとで、将来的な成長や体制強化を見据えてグループインしている点が特徴です。こうした事例は、経営者の引退ありきのM&Aではなく、「将来の事業拡大・強化を目的にしたグループ入り」という新たな形を示しています。
M&A後も代表や従業員がそのまま残り、親会社の支援を受けながら後継者を育てるスタイルは、オーナーにとっても安心感が残ります。従業員の雇用維持や教育体制の整備、業務の継続性も担保されるため、買い手・売り手双方にとってもメリットが得られるでしょう。
トレンドに伴い変化するM&Aの評価ポイント
近年のトレンドは「施工からメンテナンスまでのワンストップ体制」へと変容しつつあります。この変化は、インフロニアや大手ハウスメーカーの中期経営計画にもあらわれており、設計・施工・管理・修繕を一貫して担う体制を構築し、総合インフラ企業としての競争優位を築く動きが広がっています。ワンストップ体制を整えるために、許認可や資格を引き継いで保持できるよう、交渉段階から合意を取得し、関係する自治体や機関に確認しておくことも重要です。
さらに、公共事業において増加しているのが、従来の価格勝負による入札だけではなく、提案力や技術力が重視される「総合評価方式」です。単に「安く工事を受ける」企業ではなく、専門性を持ち、企画力や課題解決力に長けた企業の価値が高まっています。
結果として、M&Aにおける評価ポイントも変化し、価格に加え、人材の質・技術力・提案力といったソフト面がより重視されるようになっています。
建設業界における多角化と海外進出
建設業界再編の波は、住宅メーカーや商社にも波及しています。積水ハウスや住友林業などは、米国市場を中心に、現地の住宅会社を買収し成長戦略を加速させ、国内市場が縮小する中、海外の人口増加地域へと販路を広げました。
住宅メーカーにおいては「住宅販売一本足打法」からの脱却が進み、リフォーム・賃貸管理・再エネ事業など、多角化が一段と進展しています。M&Aを通じて、脱炭素・再生可能エネルギーといった環境関連への進出も目立ち、建設業の定義そのものが拡張されつつあります。
応用地質が、養生風力のための海洋調査企業を買収したように、「地盤」や「環境」といった隣接領域の技術・ノウハウを獲得する動きも出ており、これは今後の業界再編における注目ポイントの一つといえるでしょう。
建設業界におけるM&Aの今後
建設業界におけるM&Aは、今後も安定した増加基調が続くと考えられています。超高齢化社会にともなう後継者不足や就業者の減少、技術承継などの課題は残ることから、M&Aの重要性はさらに高まるためです。政治や国際情勢といった外部環境に大きな変化がない限り、現在のペースでの業界再編は継続されるでしょう。
M&Aに際し、買収される側に求められるのは「単なる売上や規模」ではなく、持続可能な技術力と人材構成、そして地域社会とのつながりです。デジタル技術の発展や異業種による参入が増加する現在において、 年齢構成、教育体制、施工管理体制、外注先との関係といった内部構造こそが、M&A市場における企業価値を左右します。
受注のあり方も大きく変わっており、「安く受ける」時代から「適正価格で持続可能な品質を提供する」時代へと変化しています。こうした中、労働環境の整備や適切な報酬体制を築ける企業こそが人材を惹きつけ、結果として買収市場でも「選ばれる企業」となっていくでしょう。
記事監修者
当社参画後は、建設業界の大型M&Aや上場企業からのカーブアウト等、数々の成約実績を有する。