2024年静岡県のM&A件数は過去最多~事業承継と成長戦略としてのM&Aの今~
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2024年静岡県のM&A件数は過去最多 ~事業承継と成長戦略としてのM&Aの今~
2024年静岡県のM&A件数は過去最多 ~事業承継と成長戦略としてのM&Aの今~
2025/02/23
近年、静岡県内でもM&A(企業の合併・買収)への関心が高まりを見せています。2024年の県内におけるM&A件数は過去最多を記録し、そのうち特に際立つのが「事業承継M&A」の増加です。後継者不足や激変する経済環境に対する危機感を背景に、M&Aを成長戦略のひとつとして捉える動きも見られます。
今回は、静岡県沼津市出身で静岡県に本社を置く企業のM&A支援に携わってきたM&AキャピタルパートナーズIBカバレッジ部課長 大川 裕太郎の言葉をもとに、静岡県におけるM&Aの動向、経営者の意識の変化、事業承継の課題と成長戦略としてのM&Aの実態について掘り下げていきます。
静岡県の事業承継M&Aは過去最多
レコフデータによると、2024年の日本全国のM&A件数は4,700件に達し、過去最多を記録しました。これは単なる企業買収や資本提携の増加にとどまらず、「後継者がいない」という経営課題の解決手段としてのM&A、いわゆる「事業承継M&A」が大きく寄与しているものと考えられます。
静岡県も例に漏れず、2024年の県内のM&A件数、事業承継のM&A件数ともに過去最多を更新。 他方、帝国データバンクの調査結果を見ると、2024年における静岡県内企業の休廃業・解散件数は1,941件とされ、前年比19.8%増、3年連続増という結果が示されています。さらに注目すべきは「黒字」の休廃業・解散が49.1%、「黒字」「資産超過」の休廃業・解散が16.1%におよぶ点です。
休廃業・解散企業の経営者を年代を見てみると、70代と80代以上の高齢経営者が全体の64.1%を占めている ことから、「後継者の不在」や「将来への不安」に起因する自発的な撤退の動きが見て取れます。こうした動向は、経営者たちが引き際や事業の未来を真剣に考え始めている証拠といえるでしょう。
コロナ禍がM&Aに与えた影響
事業承継を目的とするM&Aが増加した理由として、もうひとつ特筆すべきなのが2020年以降の新型コロナウィルスの蔓延です。
振り返れば「2019年までは、経営が順調であれば“もしものこと”を考える必要がなかった」という経営者は多いかもしれません。それがコロナ禍により事態は一変。緊急事態宣言の発令や観光業や飲食業の急激な売上減、物流網の混乱などが起こり、「自分に何かあったら会社はどうなるのか」「従業員の生活を守れるのか」という不安や危機感を覚えた経営者は多数いたに違いありません。
コロナ禍という未曾有の経験により、これまで事業承継に無関心だった経営者、あるいは事業承継問題を先延ばしにしていた経営者たちが、M&Aという選択肢に目を向けるようになったと考えられます。
静岡県ならではの事業承継問題
前述したように、静岡県の事業承継M&A件数は過去最多を記録しました。ここで気になるのが、同族承継や社内承継など他の承継手段と比較したときのM&Aの優位性です。ここでは、静岡県の事業承継問題を産業の側面から探っていきます。
建設業の後継者不在率は6割超
事業承継M&Aは身近に後継者がいないために行われるものですが、静岡県では特に建設業における後継者不在率が高い 傾向にあります。
帝国データバンクの調査をもとに、静岡県の業種別後継者不在率を下記にまとめました。
2024年の後継者不在率は静岡県平均で50.3%、このうち建設業は60.7%と最も高い水準です。一方で、7業種すべてで前年度を下回り、後継者問題は改善傾向にあることもわかります。
不在率が減少した要因として、官民による事業承継の啓発やコロナ禍による経営者の意識の変化、それによる第三者承継(M&A)の実行が挙げられます。 とはいえ、県内の半数以上の企業が「後継者がいない」と回答しているのは事実であり、事業承継問題は依然として深刻な状況です。
建設業は現場の厳しさから、他業種と比べて若者のなり手が増えにくいという課題があります。国を挙げて新3K(給与が良い・休暇を取れる・希望が持てる)の実現を推し進める も、いまだ3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強く、次世代にバトンが渡されにくいというのが実情です。
産業構造トップの製造業は確実な事業承継を
静岡県の産業を語るうえで欠かせないのが製造業です。静岡県の県民経済計算 概要版の経済活動別県内総生産を見ると、産業構造のトップに君臨するのが製造業で、全体の約4割を占めます。製造業の分類としては、自動車などをはじめとする輸送用機械が圧倒的に多く、次いで食料品、電気機械と続きます。
さきほど紹介した後継者不在率では、製造業の数値は43.8%と県内平均を下回る結果ですが、これはサプライチェーン企業の事業承継問題が経済に与える影響が大きいという見解から、官民による重点的な支援が行われてきた結果の現れであるという見方ができます。
たとえば、浜松市の自動車関連企業、焼津市や沼津市の水産加工企業、また静岡市清水区の物流企業などを例に挙げると、いずれも高度な技術やノウハウを要することから、技術の蓄積が個人依存になりがちです。
技術を次世代へ確実に承継するには、M&Aによって大手企業や事業継続意欲の高いプレイヤーと連携する選択肢が現実的になっているといえます。
若手経営者に拡がるM&Aによる成長戦略
かつては「M&A=身売り」といったネガティブなイメージが先行した時代もありました。しかし現在は若手経営者を中心に、「M&A=企業の存続、雇用の継続、技術の承継を叶える選択肢」という認知が進み、事業承継の枠を超えた考え方も浸透しつつあります。
ここでは、若手経営者を中心に拡がるM&Aにおける成長戦略について解説します。
親族内承継は限界…若手経営者の本音
M&Aキャピタルパートナーズが全国を対象に 行った「M&Aによる譲渡を経験した経営者の実態調査(2024年12月)」では、次のような回答を得ています。
パワポ資料では、静岡県対象なのか全国対象なのかが不明確だったため、念のためこの文言を入れています。先方様確認時に精査していただけますと幸いです。
上記のとおり、「社内外または親族に後継者がいたがM&Aを選択した」という経営者は55.3%を占めます。その理由で最も多かったのが「後継者候補が経営の継続を望まなかった」、次いで「経営の先行き不安から後継者候補に先々負担をかけてしまうから」といったものでした。
実際、30代の次期経営者層からは「親の会社を継ぐとしても、自分の力では時代の変化に対応しきれない」「地場企業同士で連携した方が地域全体の競争力を高められる」という声が届いています。「親族内承継では限界がある」と冷静に捉えている若手経営層が一定数いることは明らかです。
中には、売上20億円規模の物流会社が、その何倍もの売上を上げる大手物流企業と手を組む選択を中長期的に検討しているという事例もあり、M&Aの内容も多様化しています。
では、事業承継の選択肢として、同族承継、内部昇格、M&Aはどのような割合で支持されているのでしょうか。M&Aキャピタルパートナーズの同調査から、事業承継の手段を代表者・就任経緯別にまとめたグラフがこちらです。
「同族承継」は右肩下がりである一方、「内部昇格」と「M&Aほか」は右肩上がりの傾向です。事業承継においてM&Aは最も選ばれている手段ではないものの、脱ファミリー化の流れは着実に進んでいるといえます。
「合従連衡」で競争力を高める発想
同族承継という考え方が減少する一方で、近年勢いを増しているのが経営資源の補完を目的とした「合従連衡型」のM&Aです。
合従連衡とは、たとえば業界トップ企業と競争するために、同業他社と統合あるいは隣接業界と協業して経営資源を共有し、企業価値を高めて競争力を養う戦略を指します。 この合従連衡型の流れからもわかるように、静岡県をはじめとする地方都市において、M&Aは「進化のための選択」ということができます。
経営者の“相談できない孤独”を解消するには
これまで見てきたとおり、経営者は次世代にバトンを渡すためにM&Aによる事業継承の可能性を模索しています。では、経営者たちは、誰に相談をしてM&Aを検討しているのでしょうか。答えは「ほとんど相談先がない」というのが実情です。
従業員に言えないのはもちろん、第三者承継という点から親族にも話しづらい。頼りになるのは、税理士や会計士、銀行、そしてM&A専門の支援機関といったところです。このうち、最も身近に感じるのは、メインバンクの担当者や税理士・会計士という経営者は多いかもしれません。しかし、彼らがM&Aの実務に精通しているとは限らず、専門的なアドバイスを得られるかは個人の裁量次第です。
こうした背景から、事業承継におけるM&Aの「最初の一歩」はハードルが高く、経営者は孤独を感じやすい傾向にあります。そこで重要となるのが、正しい知識と信頼できるパートナー選びのノウハウです。
静岡県では、経済産業省 関東経済産業局の委託事業として「静岡県事業承継・引継ぎ支援センター」を開設しています。M&Aについては第三者承継担当が無料で相談を受け付けるほか、事業承継診断により事業承継のニーズを掘り起こします。 詳細は「事業承継ハンドブック」でご確認ください。
また、2025年度は中小企業庁が独自の体制作りに取り組む静岡県の市町と連携し、事業承継支援モデルを構築する実証事業も展開中です。
もちろん、M&Aキャピタルパートナーズでもご相談を承っています。ぜひお気軽にお声がけください。
地域経済の未来は経営者の決断にかかっている
静岡県は製造業、建設業、物流業、さらには水産加工など多様な産業が集積する地域です。いずれの業界も構造的な人手不足や事業継続の難しさを抱えており、「次の経営者」に対する課題は決して他人事ではありません。
そうした背景のもと静岡県のM&A動向を俯瞰すると、事業承継の手段としてのM&Aが地域経済の新しい「常識」になりつつあることがわかります。後継者問題や経済環境の変化に直面する経営者にとって、M&Aはもはや最後の手段ではなく、最初の選択肢の一つともいえます。
事業承継は多くの時間を要し、5年から10年かかるケースも少なくありません。 地域社会の持続可能性を守るためには、経営者が元気なうちに未来を見据えた意思決定をすることが大切です。そして、その決断の後押しとなるのが、信頼できる支援者との出会いです。静岡の未来をつなぐ鍵は、今の経営者たちの手の中にあります。
記事監修者
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。
一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者