企業がMBOによる「非公開化」を選ぶ理由は?~背景と変化する上場の意義~

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企業がMBOによる「非公開化」を選ぶ理由は? ~背景と変化する上場の意義~

企業がMBOによる「非公開化」を選ぶ理由は? ~背景と変化する上場の意義~ 企業がMBOによる「非公開化」を選ぶ理由は? ~背景と変化する上場の意義~

2025/09/10

ここ数年、経営陣が自社株を買い取ることで経営権を取得する「MBO(Management Buyout)」を実施し、非公開化する道を選択する日本企業が増えています。

トヨタ自動車系の企業をはじめ、かつて「上場」は企業成長の証とされていました。しかし、現在ではその価値観が見直され、非公開化を選択する企業が相次いでいます。 この背景には何があるのでしょうか。そして、企業にとって非公開化とは何を意味するのでしょうか。

実際に非公開化案件に関わっている関係者へのインタビュー内容をもとに、その実情と今後の見通しを紐解いていきます。

なぜ今、上場企業が「株式非公開」を選ぶのか?

上場企業がMBOを選択する動きには、次のような背景があります。

  • 株価上昇に対するプレッシャー
  • MBOファンド(PEファンド)による資金援助
  • アクティビスト(物言う株主)の存在

株価上昇に対するプレッシャー

非公開化の背景としてまず挙げられるのは、株価上昇に対するプレッシャーです。

上場企業である以上、株主から短期的な利益や株価の上昇を求められるケースは少なくありません。しかし、そのような圧力が企業の本質的な中長期戦略を阻害するケースが増えています。上場の重圧が経営を制限する時代になったと言い換えられるでしょう。

企業は、目先の売上や利益を上げることを優先しなければならず、結果的に大胆な投資や構造改革が難しくなり、潜在的な成長力を発揮できなくなります。「上場している」という事実が重圧となり、「中長期の視点で経営をしたい。株価や四半期決算にとらわれず、より柔軟な意思決定をしたい」と考える経営者が、MBOを選択しています。

これは、上場が「ステータス」とされていた時代とは、明らかに異なる流れです。

MBOファンドによる資金援助

MBOファンドをバックにした非公開化が増加していることも、近年の大きなトレンドの一つです。MBOファンドとは、MBOを目指す企業経営者の資金需要に応じて、資金を提供するファンドのこと。MBOファンドは、再上場、第三者への譲渡、自社株買いなどの方法で最終的に保有株式の売却を行い、収益を上げることを目的に資金を提供しています。

従来、日本においては「ファンド=ハゲタカ」と見られる傾向にありました。しかし、現在では企業成長を支援するパートナーとして広く受け入れられています。ファンドによるTOB(株式公開買付け)を通じて、企業は上場廃止後も豊富な資本を背景に成長戦略を加速させることが可能です。

アクティビスト(物言う株主)の存在

MBOを選択する企業が増えている背景には、アクティビスト(物言う株主)による株主提案が増加しているという事実もあります。

経営陣にとって、外部からの提案は有益なものですが、時として煩雑な対応を強いられるだけのケースも少なくありません。株主が本気で企業改革を求めて提案を行うことは、自然な流れといえます。しかし、「雑多な提案」への対応コストが増加していることも事実です。

コーポレート・ガバナンスコードやサステナビリティ開示など、上場を維持するための業務負担は年々増加しています。それに見合うリターンが得られない企業にとっては、上場そのものの必要性が低くなるのは当然ともいえるでしょう。

企業が改めて問われる、‟上場の意義”

上場には、3つの主な意義があるとされてきました。

  1. 株式市場での資金調達
  2. ブランド力や企業としての信頼性
  3. 優秀な人材の採用への有利性

しかし、これらの意義が今、見直されつつあります。

例えば、資金調達。株式などの資本を活用して資金調達を行う手法を「エクイティ(= 株式)ファイナンス」と呼びますが、上場企業であっても、株価が低迷していれば増資をしても調達額は限定的になります。市場からの資金調達は、「思ったほど使い勝手が良くない」というのが現実です。

上場によるブランド力や人材採用については、依然として一定の効果は期待できるものの、スタートアップなどの未上場であっても優秀な人材が集まるケースは数多くあります。

このように、上場の意義は時代とともに変化しており、自社にとって上場が最適解なのかどうかについては慎重な判断が求められます。

かつての日本は上場のハードルが低かったこともあり、時価総額数十億〜数百億規模の企業が多数存在しています。このような企業は上場維持の意義が薄れがちで、非公開化による再編の対象になることもあります。

アメリカなどでは、大企業のM&Aや非公開化、さらにはスピンオフ(事業分割による再上場)も活発に行われており、市場構造が大きく異なります。日本においても、このような再編の波が動き出しているといえるでしょう。

非公開化は終わりではなくスタート

非公開化した企業は、その後のフェーズにおいて経営の真価が試されることになります。

ファンドに買収されて非公開化された企業が数年以内に再上場を目指す場合は、以前よりも高い企業価値が求められます。そのため、経営陣はより強固なリーダーシップで挑まなければなりません。

また、買収元がファンドではなく他の企業グループとなると、シナジーの創出や経営統合による新たな成長戦略が問われます。

非公開化は経営の終わりではなく、新たな目標に向けた再スタートと言えるでしょう。

公開か、非公開か──企業の意思が問われる時代へ

非公開化の流れは、今後も続いていくと見られています。しかし、これは上場を否定するものではありません。企業のフェーズや戦略によって最適な資本構造は異なります。その時々で最も合理的な形を選びながら、長期的な価値を創出していくことが重要です。

株式市場との距離感をどう設計するか──。それが、これからの企業にますます問われていくでしょう。

記事監修者

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執行役員 IBカバレッジ部長
辻井 武弘
2024年10月にM&Aキャピタルパートナーズ入社、IBカバレッジ部 部長(Managing Director)に就任。投資銀行カバレッジ責任者として、上場企業・コングロマリット企業・PEファンド等に係る成長M&A戦略、事業再編、多様な資本ソリューション提供等を担当。2001年以降の23年間、一貫して投資銀行・M&A業務に従事し現在に至る。
当社入社以前は、慶應義塾大学卒業後、新卒で1998年三菱商事入社(投融資審査、海外子会社管理等を担当)。2001年に投資銀行・M&A業界に転じ、独立系M&Aブティック、日系投資銀行(インダストリーカバレッジ、M&Aアドバイザリー)、米国投資銀行(M&Aアドバイザリー)に所属。
2013年から2024年の11年超に亘っては、前職となる大手証券会社のグローバル投資銀行部門にて、資本財セクターヘッドとして、総合重機・総合電機・機械・建設機械・廃棄物処理・セメント・エンジニアリングセクターのM&A、資金調達、IPO、株主対策、その他財務戦略に関する提案及びプロジェクト実行に携わる。

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