複雑事業を5ヶ月で成約に導いた挑戦の軌跡~株式会社Standup~
STORY
複雑事業を5ヶ月で成約に導いた挑戦の軌跡 ~株式会社Standup~
複雑事業を5ヶ月で成約に導いた挑戦の軌跡 ~株式会社Standup~
2025/11/13
コロナ禍を逆手に取り、無人のゲームコーナーで成長を遂げてきたビジネスモデルに、熱い視線が注がれていた。しかし、目先の財務状況は芳しくなく、多岐にわたるビジネス展開ゆえの複雑な事業構造が立ちはだかる。M&A成約までのハードルは決して低くなかったが、1年以上かかっても不思議ではない中、わずか5ヶ月でゴールまで導いた。自身が主体的に動く立場へと成長した原動力は、顧客本位の姿勢と誠実さを追い求めたことだったと、緒方 健晋は振り返る。
緻密な事業計画の作成でオーナーの思いを定量化する
初めて成約したご支援では成約時に自身が涙を流したという逸話が残っています。今回はどのような気持ちでしたか。
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 主任 緒方 健晋(以下、緒方):
初成約では感極まって涙を流してしまいましたが、今回は冷静にご支援できたものの、大きな達成感を味わうことができました。前回の経験で一通りの流れを理解していたため、自分なりに次のステップの準備をイメージしながら動くことができたと思います。譲渡側と譲受側の双方から喜んでいただけたことは前回と共通していますが、今回は自分自身の成長を強く感じられました。
このご支援を緒方さんが担当することとなった経緯を教えてください。
緒方:別のご支援で、当社と第一コーポレーション様との間に取引があり、アミューズメント施設の譲受ニーズが高まっていることをお聞きしていました。こうした背景が今回の前提にあります。
同社は遊技場運営を基盤としながら、事業の多角化を進めています。風俗営業法上 、ゲームセンターは「五号営業」と呼ばれ、隣接する事業です。そのため、施設運営のノウハウや店舗の物件情報のネットワークが活用できる分野として、ゲームセンターなどのアミューズメント施設の取得や譲受に注目されていたのです。
一方、Standup様については、外部情報から売上は順調に伸びているものの、財務面での課題があることを把握していました。ただ、ビジネスモデルは非常に魅力的でした。それは、クレーンゲーム機の製造というメーカーとしての側面と、無人ゲームコーナーという収益性の高い事業もあわせもっている点です。きっと譲り受けたいと名乗り出る企業は現れるはずだと、直感的に思いました。
財務の課題をどう捉え、どう伝えるか
成約をサポートするために緒方さんはどのようなことを心がけましたか。
緒方:Standupの石井様は、自身の事業に対する熱い思いを込めて、業界の構造や将来性について説得力のある説明をされます。一方、数字の細かい部分については、経理担当の方に任せていらっしゃいました。そこで私は、定量面にフォーカスしてご支援をしようと考えました。具体的には、事業計画を精緻に作り込み、将来の成長性を数字で示すことです。ゲーム業界は非常に盛り上がっている業界であり、その中で同社の成長性を客観的に隙のない資料でお示しできれば、譲受企業様もより魅力的に感じてくれるだろうと考えました。
譲受企業様は当然ながら、慎重に数字を評価されるはずです。何枚ものシミュレーションシートを作り、前提となる数字を細かく変えながら何通りもの試算を重ねました。この手法は、前回の仕事を通じて「譲受企業がどのような情報を求めるか」を考えるよう、安田(M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長 安田 韻)から繰り返し教わった経験に基づくものです。その経験があったおかげで、今回も数字の整合性や蓋然性に納得できるまでこだわれたと思います。
譲渡企業の財務面の課題については、どのように対応したのでしょうか。
緒方:これは今回、最も学びが大きかった部分です。上席である奥山(M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 課長 奥山 友介)から「いつ、どのように、どんな道筋で伝えるか」の重要性を教わりました。仮に何の準備を行わず、単に財務状況を先方に示していたら、その時点で破談になっていた可能性が高いでしょう。
事実は事実として伝える必要がありますが、それをどう評価するのか、そして将来の予測をどのように示すかを慎重に考えることが欠かせません。ここで言う「伝える」とは、言うまでもなく「事実を隠す」という意味ではありません。情報の整理を丁寧に行い、正しく評価できる環境を整えることが重要だということです。
M&Aキャピタルパートナーズの強みは、この事実の整理を丁寧に行えることではないかと思っています。世の中には、課題の存在だけを伝えれば役割を果たしたと考えるアドバイザーもいるかもしれません。しかし私たちは、なぜその課題が生じたのか、どのように対応しているのかまで整理してお伝えします。そこまで整理できれば、譲受企業様も解決方法とともに、課題を乗り越えたあとに待っている未来を想像し、前向きに受け止めていただけます。
正確に伝えるため周到な準備を繰り返した
奥山さんと行った準備について詳しく教えてください。
緒方:どのタイミングで、どういう言葉選びで伝えるか、奥山と綿密に話し合いました。流れは紙に手書きし、すべてセリフのように書き起こして確認。その上で、実際に声に出しながら「オーナー様や譲受企業様がどう感じるか」を何度も検証しました。さらに、奥山を相手にしたロールプレイングも行い、想定される質問に対する回答も準備を重ねました。
たった一つの説明にそこまで準備を徹底するのはなぜでしょうか。
緒方:「誠実さ」というレールを絶対に踏み外したくないからです。私たちは、譲渡企業と譲受企業の双方にとってのアドバイザーです。些細なことであっても、事実を隠す行為はあってはなりません。その場を取り繕って成約したとしても、やがて両者の信頼を損なう事態を招くだけです。とはいえ、今回で言えば石井様と成田様が意気投合し、互いの理解を深めているフェーズで水を差すようなことは避けたいと考えておりました。伝えるべきタイミングが来たら、準備した言葉で丁寧に説明するという見通しと戦略があったからこそ、わずか5ヶ月という異例のスピードでの成約に至ったのだと思います。もちろん、この成果は論理的な思考力を持つ奥山の知見があってこそ実現できたことでもあります。
誠実なアドバイザーとして着実に、急速な成長を続ける
改めて今回学んだことをご自身の言葉で整理していただけますか。
緒方:同じ物事を伝えるにしても、伝え方によって印象がこれほどまで変わるのかということを、奥山の隣で見させていただき本当に勉強になりました。基本的には私に任せていただきながらも、重要な場面では奥山自身が説明することもありました。その姿を見て、アドバイザーとしての責任の重さや奥行の深さを肌で学べたと思います。
私は以前から、奥山の論理的な指導方針に強く惹かれており、Standup様と巡り合った直後には、ぜひ教えてほしいと直接お願いをした経緯があります。
緒方さんの言葉からは、このアドバイザーという仕事への誇り、思いを強く感じます。
緒方:ありがとうございます。実は新卒のときから当社が第一志望だったのですが、その時はかなわず銀行へ入社しました。銀行や証券でキャリアを積んでから活躍する人が多いと聞いたため、将来優れたアドバイザーになるための修練だと位置づけていました。
思っていたより早く、1年足らずで転職を決意したのは、20代のうちから活躍し、一緒に働きたいと思える方々のいる環境に身を置きたいと考えたためです。私の人生を振り返ると、小中高のバレーボール、大学、銀行と常に良い指導者に恵まれたおかげで、今の自分があります。
M&Aキャピタルパートナーズは、教育に最も重点を置く組織であり、全力で仕事に取り組むからこそ、自分の成長につながる環境だと直感していました。ここでなければ、未経験から一流のアドバイザーにはなれないと感じましたし、その直感は正しかったと日々感じています。
改めて、今回の成約を迎えた今の気持ちを教えてください。
緒方:素直に嬉しかったです。ご両者の役に立てたという達成感と、石井様や成田様をはじめ「緒方がここまでやってくれたから最後まで頑張れた」と仰っていただけたことは、何よりの励みになりました。成田様からは「こんなに楽しそうに仕事をしている人を初めて見た」との言葉もいただきました。自分の仕事に取り組む姿勢が伝わり、大切な方々からの信頼につながるという喜びは何事にも代えがたいです。
今後も、オーナーの一生に一度の決断に対し、不安や悩みにも寄り添いながら提案できるアドバイザーでありたいと思います。また、会社をより成長させるための手段としてM&Aを検討する経営者様のお手伝いもしていきたいです。業界は問わず、M&Aの専門家としてしっかりと助言できる存在でありたいと考えています。個人としても会社としても誠実さを最優先に、最終的にはいつも両者に「M&Aを選んでよかった」と思っていただけるよう、全力を尽くしていきたいです。
文:蒲原 雄介 写真:一ノ谷 信行 取材日:2025/9/30