「アドバイザーの役割はここまで」を疑う顧客も驚く伴走力がもたらした越境のM&A
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「アドバイザーの役割はここまで」を疑う 顧客も驚く伴走力がもたらした越境のM&A
「アドバイザーの役割はここまで」を疑う 顧客も驚く伴走力がもたらした越境のM&A
2025/11/14
白馬のスキーリゾート、青木湖を望む絶景のロケーション。開発を手がける株式会社Planetの事業を承継したのは、四国にある創業140年超の老舗企業・株式会社河野だった。異業種、遠隔地という条件を越えて両社を結びつけたのが、M&Aキャピタルパートナーズのアドバイザー・企業情報部 部長の千田 祐太郎。顧客も驚くほど通常のM&Aアドバイザーの枠を越え、資金調達という難題にも深く関与した千田に、その仕事への姿勢を聞いた。
常識にとらわれなければ道は拓ける
今回も成約まで無事に迎えられましたが、今の感想を聞かせてください。
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長 千田 祐太郎(以下、千田):今回のご支援は、巡りあわせという点で意義深いものだったと感じています。ウィンタースポーツをする人なら誰もが知る白馬という素晴らしいロケーションで、異業種でかつ遠隔地という条件ながら「世界に誇れるスノーリゾートを作りたい」という強い思いで一致する両者をお引き合わせできました。私の12年のアドバイザーキャリアの中でも印象深い成約だったと手応えを感じています。特に資金調達という大きな壁を乗り越えられたことも重要な点です。
資金調達の部分で最も苦労した点をお聞きできますか。
千田:前提として、通常のM&Aアドバイザーは、資金調達の部分には深く関与しません。M&Aの資金は、譲受企業が自力で用意するのが一般的です。しかし、私はずっと疑問に思っていました。たとえば、個人が住宅を購入する時には、不動産業者が住宅ローンの手続きまで丁寧にサポートしてくれるのが普通です。書類に押印する箇所まで指南し、融資が下りるまで伴走してくれます。なぜかM&Aだと「お金は自分で何とかする」と線を引くのは、本当に顧客目線と言えるのでしょうか。お客様が本当に実現したいと思っているなら、資金の話であってもできる限りのサポートをするのがアドバイザーの役割だと、私は考えています。
常識的な業務範囲にとらわれない姿勢が、今回の結果につながったのですね。
千田:ぜひM&Aを実現したい、しかし資金が必要だと考えた譲受企業の河野様は、結果的に何十もの金融機関に足を運びました。それでも本店と物件の距離などを理由に、ほとんどが難色を示しました。たしかに借入金額も億単位を超え、銀行内の手続きも複雑だったようですが、諦めずに訪問を繰り返したことで、最後の最後によき理解者に巡り合いました。私の資料作りのサポートや励まし続けた事実が、河野様の背中を押していたとお聞きできたのはとても嬉しいことでした。
具体的にどのようなサポートをされたのでしょうか。
千田:銀行の厳しい審査をクリアするための分析、そして事業計画への落とし込みなどです。融資の名乗りをあげてくださったのは岡山に本店のある中国銀行でした。白馬が本来の商圏から遠いのは間違いないはずですが、「四国の企業がこうやって頑張ろうとしていることを支援したい」と、支店長の平松様が言ってくださいました。
事業の強調すべきポイントや、資料での伝え方など、河野様とも議論を重ねました。定量的な根拠に加えて、追加で土地取得ができるかなど、ビジネスの環境にかかわる定性的な部分までを資料にし、数字に落とし込んでいく必要がありました。日夜ミーティングを重ねて作成した資料が認められて、本来の融資枠から大幅に引き上げていただいたと聞いたときはホッとしました。
河野様からは「千田さんがいたから、この結果が出た」と評価されていますね。
千田: ありがたいお言葉です。銀行向けだけでなく、デューデリジェンスに必要な資料作成、資料の受け渡しなど、細かな部分まで気を配りました。成約後に、事務手続きが本当に完璧だったと河野様に言っていただいた言葉に、これまでの努力が報われる思いでした。
黎明期に誓った「100%自信を持てるものしか紹介しない」
こうしたお客様本位の姿勢を貫くようになったきっかけは何だったのでしょうか。
千田:実は新卒で入社した証券会社での経験がベースにあります。飛び込み営業を繰り返して、営業先を開拓していたものの、相場が悪い時期には門前払いが続きます。さらに、利益が得られるかどうか分からない商品を売ることに、どうしても違和感がありました。自分が喜んで買いたいと思えないのだから、お客様に自信を持って勧められるはずがなかったのです。
そこで縁あって、M&Aキャピタルパートナーズへ転職したのが2013年です。社員数はまだ15人程度で、1人1台のノートパソコンすらない時代でした。ただ、M&A仲介のビジネスモデルを聞いたときに、「これからは自分が100%自信を持って勧められる仕事だけ」ができると感じました。証券会社では、いわばなんでも売らなければなりませんでした。しかしM&Aでは対象企業の価値、譲受側の本気度などを見極めて「これは絶対にいい取引になる」と確信できるご支援に注力できます。
入社まもなく成果を出すことができたのですか。
千田:9ヶ月目、10ヶ月目と立て続けに成約できました。幸運だったこともありますが、自分がフルベットできる企業、オーナー様に出会えたことがとても大きかったです。応援、支援したいと思えるオーナー様にフルコミットし、入社から13年が経ちました。
自分の全財産を投資できるかを基準に考えています。証券会社での株の売買で同じことを聞かれたら答えに窮していましたが、M&Aでは、私自身が自分で譲り受けたいと思える企業を紹介させていただくスタンスを大切にしていますので、お客様も真剣に話を聞いてくれると考えます。
会社の看板とともに個人の実力を磨き続ける必要性
M&Aキャピタルパートナーズの知名度は比べられないほど向上していますね。
千田:入社した頃は「M&Aキャピタルパートナーズ?どこの会社ですか?」と聞かれることばかりでした。テレビCMの影響などもあり、今はその知名度は、雲泥の差です。そのため支援のスタート時に、実績をベースに一定の信頼があることで楽になったことは事実です。ただ、会社の看板でお会いすることはできても、そこから先の信頼はアドバイザー個人が勝ち取るしかありません。むしろ立派な看板があるからこそ、お客様の期待値が高いとも言えます。それに応えられなければ、すぐに見透かされます。
だからこそ今も営業スキルを磨き続けているのですね。
千田:いろいろな営業を実際に受ける体験を、意識的に取り入れてきました。ここからどういう話し方をされると心地よいか、どういうタイミングで提案されると興味が湧くかが体験できます。よい営業が自分の中で新たに引き出しに加わっていく感覚があります。後々に大きな差を生むと考えます。
若手のアドバイザーたちにも、さまざまな営業を受けて、味わってみるのがよいと伝えています。お客様が、私たちをどのような目で見ているかを知るには、お客様の視点を持つ、つまりお客様になることが何よりも大切だと思っています。
世界に日本型のM&A仲介を広める
最近はクロスボーダー(海外企業を含んで行われる国境を越えたM&A)支援にも力を入れているそうですね。
千田:海外でも日本式のM&A仲介の手法を広げたいと考えています。かつては「仲介で手数料を取るなんておかしい」という風潮もありました。しかし、弊社が実績を積み重ねてきた結果、今では「仲介だからスムーズにまとまる」と評価されるようになりました。
海外では通常、譲渡側と譲受側の双方に別のアドバイザー(FA)がつくケースが多いです。しかしこの構造では、双方が自社の利益だけを主張し、話が膠着することも少なくありません。したがって中立で公平な仲介者が間に入ることで、双方の本音を汲み取り、落としどころを見つけやすくなります。
日本のM&A仲介の流れが世界に広がっていくかもしれませんね。
千田:その流れを加速させたいですね。世界でもっと評価されるべき優れた仕組みであると証明するためにも、クロスボーダーを多く成約させたいと思っています。日本は人口減少が続き、先行きの厳しい産業も少なくありません。ただし日本の技術や資産には大きな価値があり、海外移転や海外資本との結びつきによって、可能性が開けるでしょう。
私自身、将来の目標やビジョンを問われると、いつも答えに困っています。あまり長期的な目標を掲げるタイプではないためです。ただ、目の前にいるお客様が本当に実現したいと思っていることを、全力でサポートすることにはこだわってきました。それが日本と海外の組み合わせであっても、自分ができるベストのパフォーマンスをご提供することで貢献していきたいです。それが、自分にとっても最高に心地よい瞬間です。
株式会社Planet CFO / 江島 康仁氏(左)
株式会社Planet 代表取締役社長 / 遠星 誠氏(中央左)
株式会社河野 代表取締役、河野グループ 代表 / 河野 一哉氏(中央右)
弊社 企業情報部 部長 / 千田 祐太郎(右)
文:蒲原 雄介 写真:岡沢 晴也 取材日:2025/10/1