【譲渡オーナー&従業員インタビュー】人が集まり、育つ会社へM&Aによって得た「採用力」と「育てる仕組み」
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【譲渡オーナー&従業員インタビュー】人が集まり、育つ会社へ M&Aによって得た「採用力」と「育てる仕組み」
【譲渡オーナー&従業員インタビュー】人が集まり、育つ会社へ M&Aによって得た「採用力」と「育てる仕組み」
2026/07/28
関西地区を中心にビルや工場の受変電設備メンテナンスを手がける株式会社電研エンジニアリングは、慢性的な人手不足に苦しんだ末、マイスターエンジニアリンググループへ加わる道を決断。その結果、M&A後の3年で技術職の人員は倍増しました。現在は採用した人財を確実に育成し定着させるため、グループ独自の育成手法をフル活用しています。代表取締役の春名 顕氏、取締役の平良 暢康氏、そして育成を支える株式会社マイスターエンジニアリング研修室の山田 美由季氏に、仕組みづくりの工夫と成果についてお聞きしました。
3年で人員が倍増。あの日の決断は正しかった
グループインからの約3年で、最も大きかった変化はなんでしょうか。
株式会社 電研エンジニアリング 代表取締役 春名 顕様(以下、敬称略):
まずはなんと言っても、従業員数が増えたことです。M&A実行までは、自力で何をやっても応募が来ず、ずっと頭を抱えていました。求人を出しても、エージェントを頼っても、成果が出ませんでした。
それが、マイスターエンジニアリング(以下、ME)グループに加わってからは明らかに採用がうまく回り出し、技術職が倍増しました。おかげで以前は人手不足を理由に断らざるを得なかった仕事も、どんどん受けられるようになっています。受注が増え、会社はますます活気づきました。
現場にはどのような影響がありましたか。
株式会社 電研エンジニアリング 取締役 平良 暢康様(以下、敬称略):
人が増えたことで現場の空気は明らかに変わりました。人手が足りないと、どうしても一人の社員にかかる負担が大きくなってしまいます。電気を扱う仕事では、効率が求められるからといって安全をおろそかにすれば、命に関わる重大な事故につながりかねません。それまではなんとか努力でカバーできていましたが、限界が近づいていたのだと思います。増員によって負担が軽くなり、余裕をもって安全に作業しやすい環境になりました。
お客様からも「電研さんは若いですね」と声をかけていただくことが増えました。協力会社のスタッフを含めて20~30代が中心だと、やはり動きが違いますし、活気が出てきたと感じます。
人を増やすための決断ですが、不安はありませんでしたか。
春名:
正直に言えば、最初は不安しかありませんでした。テレビドラマなどの影響もあり、M&Aといえば大きな会社に乗っ取られる、旧幹部はみんな解雇されてしまうといったイメージを持つ方は、まだまだいると思います。私も周囲から「騙されてるんちゃうか?」と心配されたことがあります。
ただ、当時はとにかく採用が進まず八方塞がりでした。しかも少子化で電気系の学校・学科が減っていくのは目に見えており、このままでは状況がますます悪化し、仕事があっても受けられなくなるのは確実でした。
逆に会社が安定すれば、従業員も、長く支えてくれた協力会社も安定するという将来像を描いたとき、不安があっても踏み切るしかないと思いました。
平良:
M&Aについて最初に聞いたとき、私は誤った判断ではないかと感じました。ただ、手をこまねいていても仕方ありません。むしろ、環境の変化をきっかけに、いい方向へ持っていけばいいと考えるように努めました。
結果的に、あれほど悩んでいた人手不足が解消に向かい、会社も安定してきたため、やはり当時の決断は正しかったと今は思います。
人財の育成と定着の課題に向き合う
採用が成功したことで、新たな課題も見えてきたのではないでしょうか。
春名:
人財が集まったことは大変うれしいのですが、その多くは電気保守作業の未経験者です。次は、彼らをどう育てるかが課題になりました。従来、当社の人財育成は現場で先輩の仕事を見て覚えてもらうOJTに偏重していました。そこでMEのノウハウを借りて育成を仕組み化し、再現性のある形で技術者が成長できる取り組みを始めたんです。これなら未経験者も早期に現場に出られるようになる。そんな手応えを、ここ最近ようやく感じられるようになってきました。
OJTの内容を具体的に教えていただけますか。
平良:
まず現場――つまりお客様の施設で、実際の保守作業を通じて仕事を覚えてもらいます。内容は、ビルや工場にある受変電設備の点検・メンテナンス。稼働中の現場もあれば、休日や夜間に電気を止めて行う点検もあります。先輩とともに現場に入り、手順を一つひとつ身につけていき、危険が伴うと判断された場面では先輩に介入してもらいます。この流れを繰り返し、単独で現場の仕事を一通り任せられるまでには1年以上かかります。
教える立場からすると、OJTにはどのような難しさがありましたか。
平良:
その人がどこまで理解できているのかを把握しづらい点ですね。現場で行った指導や施したアドバイスを、本人がどのくらい理解できているのかが具体的に見えず、本人との会話を通じて、教える自分が感じた手応えだけが頼りという状態でした。
教える側にとっては、2人がかりで1つの現場にしか行けないという悩みもあります。安全に関わる仕事だけに、早く独り立ちさせようと焦って手順を飛ばすわけにもいきません。1人で現場に行けるよう少しずつレベルアップしてもらう必要がありますが「次はこれを任せても大丈夫だろうか」という見極めも、これまで感覚に頼らざるを得ませんでした。
採用できても、定着してくれないケースもあったのではないでしょうか。
春名:それも大きな課題でした。MEのおかげで採用が軌道に乗り始めた直後、入社1ヶ月以内に退職してしまうケースが何件か出てしまいました。退職者が増えると既存のメンバーの士気にも関わるため、採用プロセスをMEと一緒に見直したんです。Web面接だけで内定を出すことがミスマッチと早期退職につながるのではないかと考え、現在は対面の面接に切り替えています。
人手が足りないときは、採用の入口をできるだけ広げるのが定石ですが、ミスマッチを防ぐために、私はむしろ狭める必要を感じていました。この軌道修正は功を奏したものの、平良が言う教育の課題は残ったままでした。
本人が成長を実感できる環境こそ、人財の定着には欠かせません。育成の仕組みを確立しなければ、採用が増えても組織強化にはつながらない。そう考え、本格的な仕組みづくりに乗り出しました。
【フィールド&フォーラム】見える化によって変わる育成
その育成を研修室の山田さんが支えているのですね。まずはご自身のご経験ついてお聞かせください。
株式会社マイスターエンジニアリング 本社・本店 人財開発部 研修室 山田 美由季様(以下、敬称略):
研修や人材育成に携わってきた経験を活かし、ME入社以降はグループ各社に「フィールド&フォーラム」(以下、F&F)という育成の仕組みの導入を進めています。
F&FのフィールドはいわゆるOJT、現場での実務を指し、フォーラムは座学のことです。技術サービス業では、従来型の育成がOJTに偏りがちでした。F&Fが重視するのは、まず座学で知識をインプットし、それを実務で試し、振り返る――このサイクルを繰り返すことです。実務にトライした結果はどうだったか。次は何に気をつければよいか。そうした振り返りの時間を仕組みとして組み込んで設計されているのが、F&Fの特徴です。
グループ各社の業務内容によって「振り返り」の内容は変わるのではありませんか。
山田:
おっしゃる通り、振り返りの内容は各社で変わります。だからこそ、その拠り所となるガイドラインが必要です。そこで、各社の業務に合わせたスキルマップを作っています。何ができるようになれば戦力と言えるのか、その基準を業務別にはっきりさせる。そうすることで、自分に必要なスキルがどの程度身についたかを、客観的に評価できるようにするためです。
平良:
当社のスキルマップは、私が他社の事例を参考にしながら作りました。いざ取りかかってみると、なかなか難しかったですね。技術者の目線で必要なスキルを挙げていくと、膨大な数になってしまいました。
山田:
漏れがないようにあらゆる観点から洗い出せたのは素晴らしいことです。ただ、項目が多すぎる状態は実用的とは言えません。そこで平良さんと相談しながら、より重要度の高い項目だけに絞り込んでいきました。
日々の運用は、具体的にどのように進めているのでしょうか。
山田:
専用ツールを使って、スマートフォンから日報を提出してもらいます。現場から帰る途中にその日の業務内容を入力し、どんなスキルや課題を意識したかを選んで登録します。気づいた点はフリーコメントとして自由に書き添えてもらう形です。
その一つひとつに社長と平良さんがすべて目を通し、フィードバックのコメントを返していくというのが主な流れです。1週間を振り返れば、自分が扱った機械の名称や、どんなスキルが磨かれたかが一覧で把握できます。
平良:
継続のポイントは、とにかく手軽に使えることです。わずらわしさがあると、どうしても長続きしません。一日の業務を終えて疲れているなかで入力するので、スマートフォンですぐに操作でき、数分で終わるというフローが肝心だと思っています。
可視化が進むと、育成に関わる業務がずいぶん効率化されるのではないでしょうか。
平良:
まず実態を正確に把握できるようになりました。アプリを見れば、作業やスキルに関する定量情報が一目で分かります。
ところが本人に話を聞くと、数はこなしていても理解が追いついていないことが分かることもありました。日報を読むだけでは不十分で、こちらから掘り下げて聞くことの大切さを痛感しています。客観的な統計情報と本人との対話を組み合わせることで、よりよい人財の育成につながると考えています。
春名:
アプリやスキルマップを通じて、従業員の成長を実感する場面が増えました。過去のコメントをさかのぼれるので、入社当初からの変化がはっきり見てとれます。毎日の仕事をこなすだけでなく、「今日はこれを意識しよう」「今日はこれができた」と一日を振り返る習慣が身につくと、本人のなかにも積み上がっていく手ごたえが生まれるのではないでしょうか。
技術が伸びるのはもちろんですが、いま自分がどのレベルにいるのかを実感できること自体が、定着にもつながっていると感じます。未経験で入社してきた人財も、この仕組みがあればより着実に育てられると思います。
山田:
成果は着実に表れていますが、F&Fの仕組み自体、まだ完成形ではありません。今後は、項目ごとに習熟度を評価できる機能などを使っていただきつつ、使い勝手についても現場の声を聞きながら改良を重ねていくつもりです。
実際の機器に触れる研修の機会も設けているとお聞きしました。そのときの様子を教えていただけますか。
平良:
先日、千葉県佐倉市にあるME技術センターで、若手社員に研修を受けてもらいました。1ヶ月の研修期間のうち、最後の2日間は受変電設備がテーマで、受講した本人も「とても充実していてよかった」と話していました。現場ではまだ見たことのない機器を実際に目にし、操作もできたというのは、大変貴重な経験です。いずれもお客様の設備で担う作業を事前に体験できたことは、育成する立場にある私としても、本当にありがたい機会でした。
自社の強みを活かすためにM&Aは重要な選択肢
これまで、そしてこれから電研エンジニアリングが大切にすべきことは何でしょうか。
春名:
とにかく安全が第一。これを会社として最優先に掲げています。仮に電気を止めて作業していても、すぐ隣の設備は通電したままという現場が日常です。電気は目に見えないだけに、少しの油断が命に関わる事故につながりかねないのだと、口酸っぱく言い続けています。
平良:
スキルマップには、安全に対する意識や配慮についても盛り込んでいます。ただ、座学や仕組みだけで伝えきれることには限りがあるのが現実です。最後はその場その場で、どこに危険が潜んでいるかを伝えていくことに尽きると思っています。
採用や育成以外で、M&Aの効果を感じることがあれば教えてください。
春名:
大きく変わったのは経理部門です。従来のアナログなやり方から、MEの経理部門がとりまとめる体制へと変わり、月次収支が把握しやすくなりました。それを基に、年間予算と従業員の仕事量を照らし合わせて受注を判断できます。「計画に遅れがあるから、もう少し仕事量を増やそう」、逆に「従業員への負荷が大きいから案件を絞ろう」など、以前よりずっと早く手が打てるようになりました。経理をはじめ事務まわりが整ったぶん、私たちは現場に集中できています。
今後の展望もお聞かせいただけますか。
春名:
仕事が増えているので、採用は引き続き重要なテーマです。年3人程度は純増する計画を立てています。仕事内容がニッチなだけに、経験の有無は問いません。むしろ人間性を重視していて、協調性があるか、資格取得のために勉強を続ける粘り強さがあるかを見ています。そして、採用できた貴重な人財を、山田さんたちと共に築いた仕組みで確実に育てていく。その流れを根づかせたいと思います。
山田:
私自身も、まだまだ伴走しながら、仕組みを進化させていくつもりです。今後人数が増えても機能するよう、フォロー体制を整えていく必要があります。
さらにグループ全体を見渡し、育成が順調な会社、逆に苦労している会社を把握できるようにしたいです。苦戦している現場には、本社の研修室の担当者がすぐに駆けつけられる。そんな体制づくりを目指しています。
かつての春名様のように、人材難に悩む経営者へメッセージをお願いします。
春名:
中小・零細企業が独力で人財を集めるのは、本当に難しいです。入社してもすぐ辞めてしまうという声も同業からよく聞きます。電研エンジニアリングの場合、MEグループに参画し、幅広く募集してもらうことで、自社に合う人を選べるようになりました。
M&Aを、「買収された」などとネガティブにとらえる方もいますが、私の実感はまったく逆です。当社は大きな力を借りて、自社の経営を安定させることができました。会社名もそのまま、経営陣もそのままなので、言わば従来通り自分たちのやり方でやらせてもらっている感覚が強いんです。「本当に助けてもらった」というのが正直な気持ちですし、決断は正しかったと感じています。
さらに、組織の安定は従業員や協力会社の安定にもつながります。仕事はあるのに人がいなくて廃業せざるを得ない会社をいくつも見てきました。廃業するしかないように見えても、やり方次第で再び伸びる道はたしかにあるんです。当時の私と同じように悩んでいる経営者の方にも、前向きに考えてみていただきたいと思います。
文:蒲原 雄介 撮影:蔵屋 憲治 取材日:2026年6月12日
成約事例インタビュー:それぞれの選択
記事監修者
当社入社後は、M&Aを経験された経営者の方々への取材や各種講演会の企画立案など幅広く活動を行う。