仲間と社会インフラを支える技術者を増やす「技術サービス連邦経営」が示す成長の展望
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仲間と社会インフラを支える技術者を増やす 「技術サービス連邦経営」が示す成長の展望
仲間と社会インフラを支える技術者を増やす 「技術サービス連邦経営」が示す成長の展望
2026/04/22
製造業とインフラを支える技術サービスを中核事業に据え、電気・土木・建設・プラントから防災設備まで、異なる専門領域の企業群を束ねる株式会社マイスターエンジニアリング。各社の独立と自律を重視した「技術サービス連邦経営」と呼ばれる独自の成長戦略を掲げ、グループをけん引する代表取締役社長の平野大介氏は、M&Aを通じてパートナーと連携し、事業拡大を進めてきました。「会社はお預かりしているもの」と語る経営哲学、働き手不足が進行するインフラ分野で担い手を増やし続ける理由など、M&Aの戦略とグループ展望をお聞きしました。
会社とは経営者が一時的に預かっている存在
貴社沿革と事業概要を教えていただけますか。
株式会社マイスターエンジニアリング 代表取締役社長 平野大介様(以下、敬称略):
当社の出発点は1974年、超高層ホテルのビル設備管理業務の受託からです。建物の維持や管理の技術を起点に、産業機械のメンテナンスや半導体製造装置の試験調整など、取り扱う領域を広げながら成長してきました。経営を長く担ってきた父(現取締役会長)からバトンを受け継ぎ、2018年に私が代表取締役社長に就任しました。
私自身は創業者ではありませんし、この会社を永遠に自分のものとして持ち続けることはできません。人間は誰でも、年齢を重ねた先にいつかバトンを渡す側に回ります。会社という存在は「現在の経営者が預かっているもの」という考えに基づけば、自身の在任期間における短期的な輝きよりも、堅実健全な経営のもとで次の人に託せる状態をつくることが自ずと優先されるように思います。
2020年に株式の非公開化を決断しました。この背景と影響をお聞かせください。
平野:
まず、背景には株式を安定的に保有すべき状況がありました。もし、父が保有する株式の相続が発生すれば、私の持ち分は10%すら下回る状態でした。さらに、外部投資家が市場で株式を買付け、筆頭株主であった父を上回るポジションを取ろうとする動きもありました。上場の大きなメリットは資本調達ですが、私たちは資本市場での調達を前提として成長するビジネスではありません。上場に関するコストも上がり続ける中、公開企業であり続ける必然性がなかったのです。長期的な視点での経営を大切にするために、MBOによる非公開化に踏み切ったというわけです。
結果として、投資の自由度とスピードが向上しました。財務さえ安定していれば、M&Aに必要な資金は金融機関からの借り入れで調達できますし、スピードという点でもオーナー企業ならではの「即断即決」が可能になります。上場会社では回答までの時間が長く、話が進まないケースが少なくないと聞きますが、このスピードは当社の強みになっています。
“技術サービス連邦経営”が、担い手不足が加速する時代への1つの答えに
事業を取り巻く環境について、どのような課題意識がありましたか。
平野:
社長に就任する以前から、さまざまな業界で人手不足が深刻化することを懸念していました。10年前といっても、すでに労働人口がどの程度減少するか、その見通しは明確になっていました。しかし、人口が減っても仕事が減るわけではありません。むしろ、高齢化に伴って医療や介護の需要は拡大しますし、建物をはじめとするインフラも老朽化が進む以上、メンテナンスし続けなければいずれ機能しなくなります。そうした仕事を担う人手が圧倒的に不足していく。その危機感は早い段階からありました。
その危機感が事業戦略に、どのようにつながったのでしょう。
平野:
当社の祖業であるビルメンテナンスという仕事は、ビル管理におけるハブ機能であり、消防設備、電気、空調など、多くの協力会社と連携します。これら協力会社は、2〜3人規模の小さな事業者で経営者自身が現場で動くことも珍しくありません。そうした中で、むしろ小規模な協力会社ほど効率よく利益を出していることに気づき、手始めに消防設備の点検会社との連携したところ、十分に機能する手ごたえが得られました。このモデルをヒントに、連携できる分野を少しずつ増やしていきました。
この集合体を当社では「連邦」と呼んでいます。グループ会社が増える中で思い浮かんだのが、州ごとの自治を尊重しながら、国全体として横断的な機能をもつ米国のあり方です。私たちが目指す形もそれに近く、各社の独立性を尊重する一方で、採用・育成・バックオフィスといった共通機能は本社が担います。そうしたイメージを端的に表す言葉として「技術サービス連邦経営」というワードを使っています。
「連邦」に加わる仲間を増やすことが、人手不足への答えになるとお考えでしょうか。
平野:
一つの答えを示せるのではないかと思っています。技術サービスの分野では、デフレ下で長らく低価格競争が常態化し、たしかな技術を持つ人材の給与がなかなか上がらない状態が続いてきました。結果として職業の魅力が薄れ、このまま放置すれば担い手が全くいなくなってしまう可能性すらあります。
一方、私たちのようなグループが一定以上の規模を持てば、採用にも育成にも投資できるようになります。人が辞めにくく、成長しやすい環境で働けば仕事の質や生産性も上がるのは間違いありません。繁忙期や年末年始には、通常の何倍も報酬をいただけるよう価格交渉ができるのも、頼れる人材と組織があるからです。社会に必要な仕事を、持続可能な形で担っていける会社を増やすことこそ、連邦が目指す姿です。
異分野のM&Aに挑戦して得た手応え
連邦の領域を広げる中でも挑戦的だったのは、土木・建設という異分野への参入だったのではありませんか。
平野:
土木分野のM&Aの第一号は、とだか建設(埼玉県さいたま市)でしたが、最初に話を持ちかけられた時は「あまりにも事業領域が異なるから」という理由でお断りしたんです。当社の強みが発揮されるのは、あくまで建物内部の話で、土木は外、まったく別の世界と言わざるを得ませんでした。しかし、仲介会社から熱心に勧められて一度経営者にお会いしたところ、すぐに素晴らしい会社であることがわかりました。
決め手は、後継者に若い経営者がいたことです。40代半ばで社長に就任し、すでに実績を積んでいる方でした。先方には上場会社からの打診もあり、価格面ではより魅力的な選択肢もあったようですが、非公開会社として短期的な成果に左右されず、長期視点で責任を持って関わる当社の姿勢に共感していただきました。そうした意欲と未来のある経営者とともに歩めるなら、未知の分野でも踏み込む価値は十分にあると判断しました。
業種が異なっていても、グループとして機能した理由をどのようにお考えですか。
平野:
扱う技術そのものは異なっていても、経営の土台となる仕事の本質は共通しています。例えば、品質を安定して維持すること、受注内容と納期を確実に守ること、人材を計画的に育てることは、業種を問わず重要です。当社では、こうした共通のマネジメントを仕組み化してきたため、異業種でもグループとして機能させることができました。実際、理系か文系かを問わず、意欲のある人材を採用・育成できる体制を整えています。人材育成では、現場実技と座学を組み合わせた独自の育成システム「F&F(Field & Forum)」を通じて必要なスキルを分解し、習得の順序を明確にしています。さらに日報もアプリで管理するなど、成長の過程も見える化しています。
また、人材を安定的に確保するうえでは採用活動の進め方も重要です。採用は営業活動に通じるところがあり、エージェントとの信頼関係を地道に築いていくことが大切です。求める人物像や要件を明確に伝え、期限内にきちんと返答する。そうした積み重ねが、結果として適切な人材の紹介につながります。
新たな会社を迎え入れる際の判断基準を教えてください。
平野:
主に確認しているのは、売上の再現性があるか、次のリーダーや候補がいるか、組織としての体制が整っているかという3点です。その全てが揃う会社ばかりではありませんので、リスクと期待値のトータルバランスで判断しています。ただ一つ言えるのは、人材さえいればもっと仕事ができる、もっと成長できる、そういう会社をお迎えしたいということです。これだけ人手が足りず、受注しやすい環境があるにもかかわらず、事業機会を十分に活かしきれていないのであれば、業態や組織そのものに課題がある可能性が高いからです。
グループが成長する中で、全体のガバナンスはどのように考えていますか。
平野:
例えば予算管理に不慣れな会社に、いきなり予算を策定してくださいと依頼しても、その過程で戸惑いや負担を感じられるケースはあります。実際、そうした管理体制への移行は負担であるという声もまったくないとは言えませんが、それでも時間がかかるのは構わないしサポートもしつつ、徐々に「普通の会社」=組織として再現性のある状態になってもらう必要があります。自社の状況が分からなければ利益は伸びず、利益が増えなければ社員の給与を上げられませんし、さらなる投資もできないからです。誰かいなくなったら立ち行かない組織だと困るのも自明です。各社の発展こそ、働く人たちの幸福につながるのは自明であり、最優先と考えています。
各社には、採用や設備への投資に必要な予算は、短期的な業績影響に左右されず確保すること、社員の皆さんの報酬に影響させないことを明示します。そのうえで、業績が上がれば成果をきちんと還元する。そうした事業を通じた真剣な約束と関わりこそが、信頼関係を築く一番の近道だと思っています。
今後もM&A活用による進化には注力したい
2040年に連結売上1000億円という目標を掲げていらっしゃいます。その意図をお聞かせください。
平野:
あと1〜2年で500億円規模になる見通しですが、数字の達成そのものが目的ではありません。その規模になって初めて、各事業領域で一定の存在感を示すことができ、採用や育成、デジタル分野への投資にも厚みが出てきます。成長は手段であり、そこで働く人たちの幸福と社会への貢献を実現するための条件だと思っています。
昨年、デジタル推進部を立ち上げましたが、AIの進化は想像以上に速く、その変化に対応するだけでも容易ではありません。ただ、こうした領域への投資は、一定の規模をもつグループでなければできませんし、十分な効果を生みにくいのも事実です。経済成長の要素を分解すれば、労働者の数と資本の装備、そして技術による生産性となりますが、人口減少時代の成長の鍵は、個々人の生産性をいかに高めるかにあります。仲間を増やし、育て、そこにデジタルの力を掛け合わせていくことに、私たちの役割があると考えています。
今後、M&Aもますます重要な成長戦略の一つになっていくかと思います。仲介会社に期待することはありますか。
平野:
ご縁の多くは仲介会社からのご紹介によるものですので、その関係はとても大切にしています。私たちが特に重視しているのは、対応のスピードと双方の意図を正確に汲み取る力です。M&Aキャピタルパートナーズさんとは、これまでいくつかのM&Aでご一緒してきましたが、担当アドバイザーが、譲渡企業オーナーのお気持ちと私たちの考えの両方をしっかりと理解したうえで動いてくださる印象があります。中小企業のM&Aは、特に売主にとって大きな決断ですし、利害が伴うからこそ、感情面も含めて丁寧な意思疎通と調整が求められる場面も少なくありません。仲立ち役がいなければ、たとえ条件が合っていても話が前に進まないことがあります。そうした意味でも、今後も仲介会社には公正な立場で関わっていただけることを期待しています。
最後に、事業承継を検討されているオーナーの方々へメッセージをお願いします。
平野:
私たちは株式をお預かりし、会社を発展させ、そこで働く人たちの幸福につなげていくことに責任を持って向き合っています。短期的な売却益を目的、とまでは言いませんが、流動性の供給をその存在意義とするファンドとは、役割も目的も異なります。会社を次の世代へ着実につないでいきたい、社員の雇用と暮らしを守りたい。そのような考えをお持ちのオーナーの方には、全力でお応えしたいと思っています。
私自身もいつかは譲る側になりますので、次の人にきちんと手渡せる状態をつくることが、今の自分の仕事だと思っています。私たちのグループに加わり、ともに成長を目指している企業の方々も、きっと同じ気持ちではないでしょうか。そうした仲間をさらに増やしていきたいと思います。
文:蒲原 雄介 写真:平瀬 拓 取材日:2026年3月13日
記事監修者
当社入社後は、M&Aを経験された経営者の方々への取材や各種講演会の企画立案など幅広く活動を行う。