【新経営陣インタビュー】決断を境に“撤退戦”が前進に変わった安心と挑戦を追い求めて
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【新経営陣インタビュー】決断を境に“撤退戦”が前進に変わった 安心と挑戦を追い求めて
【新経営陣インタビュー】決断を境に“撤退戦”が前進に変わった 安心と挑戦を追い求めて
2026/04/22
東京都足立区を拠点に公共土木工事を手がける誠和光建株式会社は、官公庁案件を中心に東京23区の中でも主に東部エリアで実績を積み重ねてきました。2024年3月、マイスターエンジニアリンググループへの参画を決断。グループ内の土木事業会社4社から成る「土木カンパニー」の一員として新たな一歩を踏み出してから、まもなく2年を迎えます。グループインによってもたらされた変化と今後のビジョンを、M&Aを決断した田中嵐之専務取締役と、グループ会社のとだか建設から着任した中山裕之取締役、吉田紀幸取締役の3名に伺いました。聞き手は、マイスターエンジニアリング人財開発部の西浦修司氏です。
M&Aを経て感じ始めた確かな追い風
株式会社マイスターエンジニアリング 人財開発部 西浦修司様(以下、敬称略):
まず皆さんの自己紹介と、新体制になってからの役割についてお聞かせください。
誠和光建株式会社 専務取締役 田中嵐之様(以下、敬称略):
私は大学で建築学を学び、新卒で入社したゼネコンでは施工管理の業務に携わっていましたが、家業を継ぐ気持ちはもともと固まっていました。20代半ばで誠和光建に入社し、すでに10年近く経ちます。こうしてマイスターエンジニアリング(以下、ME)にグループインする前の心境は、一言で言えば「撤退戦」でした。昨今の人手不足や資材高騰の流れは一過性のものではなく、建設業として中小規模の企業が単独で生き残るには非常に厳しい時代がくるだろうと考えていました。
今後、当社ぐらいの規模の会社が数年、数十年と技術者を増やし、売上や利益を拡大していくことは、とても困難な時代になっていくと思われます。その意味で、今回のM&Aによって新たな仲間を迎え、今こうして前を向いて走り出せていること自体がすごく幸せです。入札の情報を見るのが楽しいと感じるなんて、グループインする前の自分には想像もできなかったことですね。
誠和光建株式会社 取締役事業部長 中山裕之様(以下、敬称略):
とだか建設で20年以上のキャリアを積んできましたが、一昨年の秋頃から誠和光建の体制整備に参画し、昨年から正式に取締役となって、管理面や制度設計を担当しています。
誠和光建株式会社 取締役 吉田紀幸様(以下、敬称略):
高校卒業後、とだか建設に入社し、ちょうど30年になります。長く現場一筋でやってきましたが、安全な環境を守るとともに、しっかりと利益につながる工事を行いたいと考えてきました。MEはもちろんですが、とだか建設にとっても誠和光建のPMI(M&A成立後に両社のシナジーを最大化するための統合プロセス)は大変重要です。そこで、誠和光建の工事部門を統括する立場として、こちらへ加わりました。
西浦:
中山さん、吉田さんはお二人とも、以前から誠和光建のことはご存じだったそうですね。
中山:
誠和光建は、とだか建設の取引先でしたので、社名はもちろん事業内容も知っていました。規模は決して大きくありませんが、少数精鋭で堅実な会社で、財務内容も良い印象がありました。自治体関係の工事実績も豊富で、安定的に受注できる地力も備えています。足りなかったのは、人材だけだったのではないでしょうか。
吉田:
私は元同僚の営業から、誠和光建は足立区や城東エリアで強いと聞いていました。今、東京都から発注される公共工事の受注率が高いことからも、実績が評価されてきたことを実感しています。
また、社員が自然体で働いている点も素晴らしいと感じています。建設業では多次請構造が根強く、自身が元請けになったり、下請けになったりするのはよくあることです。相手の立場に関わらず、田中専務をはじめ、社員の方たちの対応が変わらないのは公明正大な社風だと感じています。
田中:
うれしいですね。当社は創業以来、社長がずっと「安全第一」「ルールを守ろう」と言い続けてきました。小さい規模ながらも、コンプライアンスをしっかり守ってきた自負はあります。創業が下請けからのスタートでしたから、協力会社との間柄は上下の関係ではなく仲間です。このように一緒に取り組む意識が、社長の教えとして自然に浸透してきたのだと思います。
西浦:
お二人が入って、現場はどう変わりましたか。
田中:
意思疎通が以前よりスムーズになりました。以前は全員でバタバタと動いていて、立ち止まって話し合う余裕がありませんでした。吉田さんが現場のトップとして入ってくれて、中山さんが社内体制を固めてくれて、今は風通しが良くなったと感じています。
マイスターエンジニアリングとのM&Aを決断した理由
西浦:
今のような充実した環境を得るまでには、さまざまな葛藤もあったのではないでしょうか。少し時計を巻き戻して、M&Aを考え始めた経緯を教えてください。
田中:
入社した頃は2020年東京五輪(実施は2021年)の開催前で、建設業界は特需に沸いていました。また、今ほど物価高騰や人手不足も顕在化していませんでした。それがコロナ禍を境に、時代が10年早まったような感覚で、一気に環境が変わったと記憶しています。
当社は官公庁の工事が中心ですので、受注が安定している反面、その後に資材価格や人件費が上昇しても工事費に転嫁できません。一方で、人手不足を背景に協力会社は積極的な値上げを行っていました。このビジネスモデルでは、やがて当社の事業運営が行き詰まってしまう可能性が高いと感じるようになったのです。
選択肢として、工事の対応エリアを絞り、規模を縮小するという生き残り策も真剣に考えました。ただそれは消極的な戦略であり、それで社員や家族を守り切れる保証もありません。そんな後ろ向きな気持ちで事業を継続しても得られるものが少ないという葛藤は、ずっと心の中にありました。
西浦:
戦略的なパートナーとして、MEを選んだ理由も聞かせてください。
田中:
ME社の掲げる「技術サービス連邦」の一員になることで、当社の営業基盤がより一層活きると考えたためです。今回のM&Aに際して、事業承継よりも成長戦略としてどうしたいかに重きを置いていました。長年の取引関係にあったとだか建設が先にグループ入りしていたことも、決断を後押しました。とだか建設が、MEの土木建設系の会社の中心として業績を伸ばしていることは知っていましたので、魅力的に映りました。
中山:
私自身、とだか建設の役員として、先にMEグループに加わった経験のある当事者です。もちろん最初は不安もありましたが、実際にはM&Aを理由に退職した社員は1名もいませんでした。MEが一方的に制度やシステムを押し付けることはなく、「(とだか建設として)納得できる形で進めてほしい」という姿勢は一貫していたんです。
今回、誠和光建を迎え入れる際も同様で、就業規則の改定やグループ内の転籍といった新たな制度の導入も、慎重に議論を重ねて進めることができました。これはMEの懐の深さだと感じています。
田中:
MEから意向表明を受けた時点で、具体的な内容に踏み込んでいたことは、新鮮な驚きでした。誠和光建で受注した工事の施工をグループで内製化し、将来的にはグループ転籍の制度を整えて、当社の東京都における営業基盤をさらに拡大していきたい。こういった明確なビジョンが伝わってきました。
これこそ私たちが輝く方法なのだという存在意義も、そこではっきりしたのです。平野代表(株式会社マイスターエンジニアリング 代表取締役社長 平野大介氏)が掲げる「技術サービス連邦」という、親会社・子会社の上下関係ではなく、それぞれの会社がフラットに強みを持ち寄る考え方にも共感できました。不透明だった未来が、一筋の光で照らされるような感覚でした。
父の存在も、最終的な決断を強く後押ししてくれました。40年近く会社を率いてきた社長として、今回のような決断をすることには、私以上にさまざまな葛藤があったはずです。それでも未来を託してくれました。
迷いや不安が減り、難題だった採用活動にも光明
西浦:
グループイン後、最も変化を感じたことは何でしょうか。
田中:
まず、経営判断で迷う場面が減りました。これまでは社長と2人で入札案件の選定から採用活動、経理業務まで幅広い業務をこなしていましたが、常に暗中模索のような感覚でした。入札の話でいうと、より当社が得意な仕事や利益を得やすい案件が後から出てくるかもしれません。しかし無理して受注したところで、必要な人員をそろえられなければ方々に迷惑がかかってしまいます。常にそのような不安を抱えていましたが、グループ会社から着任してくれた取締役のお二人や、マイスターエンジニアリングという大きな経営母体があることによって、採用投資も含めて大胆な経営判断ができるようになりました。
経理や総務の業務をMEに引き取っていただいた点も大きかったです。これにより、本業に集中できるようになったメリットは計り知れません。
中山:
補足すると、誠和光建の財務内容は従来からとても良かったです。田中社長と専務は、事務や経理にもしっかりと取り組んでおられましたし、目下の工事の受注もうまくいっていました。不足していたのは、人材だけだったように思います。キャパシティが決まっているゆえに、営業もセーブせざるを得なかったわけですから。
西浦:
足元、業界全体で人手不足が事業に大きな影響を与えているとのお話がありましたが、採用面の変化についてはいかがですか。
田中:
これが最大の変化と言えるかもしれません。以前は募集を出しても応募がなく、採用できたとしても社内に育てるノウハウがありませんでした。今はグループの採用チャネルを活用できるようになり、成果が出始めています。
西浦:
採用担当の目から見て、もともと誠和光建には比類まれな強みがあると感じていました。1つは事業内容です。ある小学校の改修工事の現場に私も立ち会いましたが、子どもたちが遊ぶすぐ横で、専務が現場監督として校庭の改修を成し遂げられました。創業以来44年にわたって宮内庁から仕事を任されている実績も、他の会社が容易に真似できるものではありません。
【誠和光建が改修工事を行った竹の塚小学校】
さらに、面接の進め方から転職エージェントに向けた説明資料の作り方まで、とだか建設のバックアップによって採用活動の基盤づくりを一緒に進めることができました。また、田中専務は30代と若く、お人柄も実直な印象があります。求職者にとって、比較的近い年齢の経営者から「一緒に将来をよくしていきましょう」と語りかけられるのは魅力に映ります。
吉田:
今は週に1人くらいのペースで応募が来ています。この成果は、自社単独では不可能でした。新年度からは3名の入社が内定していて、経験者と若手の双方が採用できたのは想定以上の結果だと思います。専務と、現場の責任者である私が二人三脚でで面接などの採用プロセスを進めていますが、回数を重ねるほど、どういう人材がマッチするか、必要度が高いかという点でも解像度が高まっています。
田中:
以前は、即戦力以外は採用できないと思っていましたが、今は未経験者でも育成できるはずという気持ちが芽生えてきています。グループには1,000人以上の技術者を擁する教育ノウハウがあるので、私たちの業界向けにブラッシュアップし、応用できるのではないかと考えています。
中山:
設備投資も同様ですが、人材採用も初期費用がかかるので慎重にならざるを得ませんでした。しかし大きな経営母体があることで、攻めの投資ができます。
仲間とともに前向きな気持ちで成長を続ける
西浦:
グループ内の他社との交流も広がっていますか。
田中:
年1回、全グループ会社の経営者が集まる「MEグループフォーラム」には、50人ほどが一堂に会します。せっかくの機会なので、建設関係以外のプラントや電気、防災系の会社の経営者にも挨拶をさせていただいています。年齢が上の方が多く、さまざまな教えや刺激を受けられますし、中には仕事につながるようなお話もいただきました。普段関わることのなかった方々とつながれることも、貴重な財産だと感じています。
グループの経営陣にはコンサルティング会社出身の方が多く、特に戦略の立て方、考え方などに関してなどは勉強になります。これまでの私たちなら「売上を増やすには受注を取ればいい」という程度の解像度だったのに対し、一段掘り下げて「どんな受注を、どのように増やすか、そのために具体的にどんな行動を取るのか」と、さらに深掘りしてくれるのです。
【現場会議と忘年会の様子】
西浦:
今後の誠和光建としてのビジネス展望を聞かせてください。
吉田:
公共工事の入札では、営業拠点の場所や入札参加資格のランクが非常に重要な意味を持ちます。東京都は、他の自治体と比べても発注件数が多く、これまで誠和光建が積み重ねてきた実績と信頼には、他では代えがたい価値があるのです。先ほどお話ししたように、グループ転籍制度などを活用し、グループ内の技術者が都内の工事で活躍する可能性が広がったと思います。
中山:
公共事業の元請けでは、1名の技術者が一つの案件しか担当できないというルールがあります。裏を返せば、資格を持った人が増えれば受注も増やせます。工事の少ない閑散期にも、人材を持て余すことはなく、グループ内の各社で異動させることによって繁閑の波を調整できるはずです。こうした仕組みが、徐々に確立されつつあります。
グループの土木カンパニーには、今後さらに仲間が増えるものと期待しています。1社増えた際に、単純な足し算ではなく、1.5倍、2倍の相乗効果が生み出せるような手本を示していきたいですね。
吉田:
人材を増やし、売上を伸ばして、都の総合評価で最上位ランクにまで持っていくことが目標です。現場にこだわって、このシンプルな目標を達成したいと考えています。
田中:
直近の目標は、城東地区で誠和光建を知らない人がいない会社にすることです。最近は同業者から「あの工事に挑戦するなんてすごい」などと声をかけていただくことも増えました。MEグループが掲げる技術サービス連邦の一翼を担いながら、地域の業界関係者たちから一目置かれ、一般の方にも認知されるような会社へと成長していきたいです。
西浦:
田中専務を中心として、これから躍進されることを心から願っていますし、採用に限らずさまざまな面でシナジーを生み出せることを楽しみにしています。
私たちマイスターエンジニアリンググループでは、優れた技術・技能を持つ中小の技術サービス企業が集まり、「連邦」をつくり、ともに成長を目指すという大きな枠組みの中で、これからのインフラ整備に欠かせない技術者の裾野を広げる取り組みを進めています。採用や財務、人事総務など、企業ごとに課題はさまざまですが、お声がけいただければ、いろいろな面でサポートさせていただけると確信しています。
文:蒲原 雄介 写真:廣石 匠 取材日:2026年2月18日
記事監修者
当社入社後は、M&Aを経験された経営者の方々への取材や各種講演会の企画立案など幅広く活動を行う。