再生M&A最前線 ―事業再生の現場から―第1回 「ゼロゼロ融資」の後遺症と「社保倒産」の増加

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再生M&A最前線 ―事業再生の現場から― 第1回 「ゼロゼロ融資」の後遺症と「社保倒産」の増加

再生M&Aの最前線 再生M&A最前線 ―事業再生の現場から― 第1回 「ゼロゼロ融資」の後遺症と「社保倒産」の増加

2026/03/19

コロナ禍や地政学リスクの高まり、物価高騰、人手不足など激変する経営環境の中、日本企業の倒産が増加しています。そういった外部環境において、事業再生型M&Aは “会社を残し、従業員の雇用、取引先、経営者の人生、ひいては地域経済を守る” ための選択肢として急速に重要性を高めています。本連載では、M&Aキャピタルパートナーズグループで「事業再生型M&A」のアドバイザリーを行うみらい共創アドバイザリーが、再生現場の視点から、事業再生型M&Aの考え方、手法、スキーム、そして実際の再生事例までをわかりやすくお届けします。

物価高騰や人手不足など、企業を取り巻く経営環境は急激に変化しています。企業の倒産件数は右肩上がりに増加しており、それに伴いみらい共創アドバイザリーへの事業再生に関する相談が大幅に増えています。雇用・取引・地域経済を守りながら価値ある事業を未来へつなぐ手段として、「事業再生型M&A」が果たす役割は一層重要性を増しています。

今回は、コロナ禍以降の中堅・中小企業を取り巻く昨今の社会環境と、倒産件数の上昇の一因とも言われる「ゼロゼロ融資」や「社保倒産」について解説します。

全国の倒産件数は4年連続で増加

今、突発的に経営破綻する会社が増えています。東京商工リサーチの発表によると、2024年(1-12月)における全国の倒産件数は1万300件と4年連続で増加しており、2年連続で1万件超えとなりました。また、帝国データバンクのデータによると、2025年(1-12月)における倒産件数は1万300件で、やはり4年連続の増加です。また、負債額規模別では「5,000万円未満」の倒産が2000年以降で最多となっており、中小零細企業を中心に増加していることがわかります。

倒産の理由として、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を発端とするエネルギー危機、原材料・資材などのコスト上昇などの要因に対し、コスト削減や価格転嫁ができなかったことや、急激な物価高に対する消費の冷え込みで売上がダウンしたことなどが挙げられます。また、その他の外部環境として、少子高齢化による慢性的な人手不足に加え、新型コロナウイルス感染拡大による業績悪化と、後継者の不在も倒産に至る理由となっています。

245万社に42兆円のゼロゼロ融資を実施

一方、社内的な問題に起因する理由として、いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済ができない企業が増加していることを多くの人が指摘しています。ゼロゼロ融資とは、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」や「新型コロナウイルス感染症対応資金」など、コロナ禍で売上が減った企業や個人事業主に対する無利子・無担保融資制度を指す通称です。

日本政策金融公庫の場合、零細企業や個人事業主であれば最大6000万円、中小企業であれば最大3億円を実質無利子で借りられ、返済が滞っても金融機関に対して元本の8割か全額を信用保証協会が肩代わりするという内容です。中小企業庁によると、実施された融資規模は約245万社、42.2兆円に上るそうです。そして、その返済は、3年間の据え置き期間を設けた企業では2023年7月から本格化し、2024年4月に最後のピークを迎えました。

ところが、会計検査院では「ゼロゼロ融資のうち1兆円以上が未返済となるリスクが高い」と試算しています。実際に、2020年7月から2025年10月末までの「ゼロゼロ融資利用倒産」は、東京商工リサーチの調査などによると2,154件に達しました。そこで、民間金融機関、日本政策金融公庫、そして信用保証協会が、返済期間の延長や保証料の減免などを始めましたが、これに対しては「リスケ(リスケジューリング、返済条件変更)により、通常なら倒産してもおかしくない会社を延命させているだけ」という指摘もあります。

いつ潰れてもおかしくないゾンビ企業は20万社以上

このように、「実質として経営破綻しているにも関わらず、金融機関や政府の支援によって生き永らえている企業」のことを「ゾンビ企業」と呼ぶことがあります。

帝国データバンクがBIS基準に沿って推計したところ、日本のゾンビ企業の数は2024年11月末時点で22万8,000社もあったそうです。2008年のリーマン・ショック以降、ゾンビ企業の数は徐々に下降。2010年代後半に15万社を下回ったものの、コロナ禍以降は再び増加に転じました。また、「ゾンビ企業率」の割合は15.5%。こちらも、「2011年度の19.8%から下降していき、2010年代後半の10.1%から増加に転じた」とのことです。

同じく帝国データバンクのデータによると、業種別でゾンビ企業率が最も高いのが運輸・通信(22.6%)で、以下、小売(21.0%)、建設(17.0%)、製造(15.5%)、サービス(13.5%)、卸売(11.9%)と続きます。

さらに、「従業員数別のゾンビ企業」というデータを見ると、「5人以下」が22.9%と最も高く、従業員数が増えるにしたがいゾンビ企業率は下がる傾向にあります。

未納社会保険料徴収による社保倒産の増加

企業が抱える債務にはいくつか種類がありますが、買掛金や未払金といった商事債務に比べ、税金や社会保険料は優先して納付しなければならない債務に位置付けられます。しかし、コロナ禍においては、新型コロナ税特法(新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律)により事業収入が大幅に減少(前年同期比で20%減)している事業者については、無担保・延滞税なしで1年間の国税納付を猶予する特例措置が設けられ、社会保険料についても最長3年間の猶予措置が設けられました。しかし、その猶予期間を過ぎても国税などを納付できず、倒産に至る企業が増えてきたのです。

国税などを納付できずに倒産することを「公租公課滞納倒産」「社保倒産」と呼んだりしますが、税金と比べて社会保険料のほうが企業にとって厄介です。税金の場合、決算が赤字だと消費税、固定資産税などを除いて、税金の中で大半を占める法人税などは原則、納付義務がありませんが、社会保険料は赤字であっても納付しなければなりません。そこへ、コロナ禍や人手不足に加え、物価高や円安による輸入材の高騰などが追い打ちをかけ、倒産しているのです。

社会保険の加入義務が中小企業にまで拡大

また、厚生年金の滞納事業者数は、コロナ禍以降は減少傾向にあるのに対し、差押執行件数はコロナ禍以前よりも増えています。実際に、みらい共創アドバイザリーが企業や金融機関から話を聞く中でも、社会保険料による資金繰りのひっ迫はよく出てくるようになりました。

かつて、パート・アルバイトに対する社会保険(厚生年金・健康保険)の加入要件は、いわゆる「4分の3基準」だけでした。しかし、2016年になって「従業員数500人超の企業で週の労働時間が20時間以上」「月額賃金8万8,000円以上(いわゆる106万円の壁)」の者に対する加入義務が初めて法律に明文化されて、同年10月にスタート。さらに、2022年10月からは、従業員数500人超が100人超になり(継続雇用見込みも1年以上から2カ月超に改正)、2024年10月からは100人超が50人超に改正されました。

つまり、コロナ禍以前では501人以上という大企業・中堅企業を対象としていたのが、51人以上という中小企業対象にまで拡大されたのです。

社会保険は、法人であれば社員が1人であっても加入義務が生じます。納付は個人と会社との折半となっており、それぞれの負担分はおよそ個人の月収の14~15%、中小企業にとっては結構な負担です。また、2023年4月納付分から一部の都道府県の健康保険料と全都道府県の介護保険料が値上げされたように、今後も社会保険料の改定(値上げ)が予定されている上に、近い将来に「50人超」という規定と「106万円の壁」を撤廃すべく検討がなされているようです。つまり、残った要件は「週20時間以上」。そうなれば、中小企業どころか零細企業の人件費にも大きな影響が出てきます。

中小企業では時給を上げなければなかなか人手は確保できませんし、かといって社会保険料の負担増は免れず、業態転換や多角化も容易ではありません。そうであれば、倒産か事業継続かの二択を迫られることになるでしょう。

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著者プロフィール

株式会社みらい共創アドバイザリー
代表取締役社長 小林 廣樹

大学卒業後、金融機関に入行。経営課題に対するコンサルティング~事業承継等の資本政策提案を中心とした法人営業に従事し、競合激戦区ながらシェア拡大に貢献。2016年よりM&Aキャピタルパートナーズへ移り、M&A仲介業務に従事。事業承継型M&Aからアーリーステージの事業再生型M&A等を手掛ける。みらいエフピー(現・みらい共創アドバイザリー)のM&Aキャピタルパートナーズグループ入りに伴い、21年10月より当社取締役として参画し、23年4月代表取締役社長に就任。当社参画後は私的整理・法的整理を含め、再生ディールのみで20件以上成約。著書「再生M&Aという選択肢 ―事業と社員を守る、事業再生の現場―」を2025年に上梓し、丸善丸の内本店で週間ランキング1位を獲得。

記事監修者

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広報室 室長
齊藤 宗徳
2007年、立教大学経済学部経営学科卒業後、国内大手調査会社へ入社し、国内法人約1,500社の企業査定を行うとともに国内・海外データベースソリューション営業を経て、Web戦略室、広報部にて責任者として実績を重ねる。2019年大手M&A仲介会社へ入社し、広報責任者として広報業務に従事。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社後は、広報責任者として、TV番組・CMなどのメディア戦略をはじめ広報業務全体を管掌、2024年より現職。

一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当
MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者

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