過去最多を更新した2026年上半期のM&A件数―データから読み解く事業承継と業界再編の動向―
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過去最多を更新した2026年上半期のM&A件数 ―データから読み解く事業承継と業界再編の動向―
過去最多を更新した2026年上半期のM&A件数 ―データから読み解く事業承継と業界再編の動向―
2026/07/31
2026年1-6月期の日本企業のM&A件数は2,600件を初めて超え、3年連続で同期間の過去最多を更新しました。久光製薬のMBOや大和証券グループによるオリックス銀行の買収、三菱商事によるエーソン社の買収といった大企業による大型再編が注目を集める一方で、国内企業の9割以上を占める中小企業においても活発な動きが見られます。
本記事では、各種データや事例を紐解きながら、中小企業が直面する経営課題と不確実性の高い環境下で求められる業界再編、M&A動向について考察します。
2026年上半期のM&A市場は件数・金額ともに高水準で推移
活況を呈する2026年上半期のM&A市場をマーケット別に見ると、日本企業同士のM&A(IN-IN)、外国企業による日本企業のM&A(OUT-IN)がそれぞれ伸長し、過去最多件数を更新しました。
取引金額においても大型案件が市場を牽引しており、久光製薬のMBO(約3,900億円)や大和証券グループ本社によるオリックス銀行の買収(約3,700億円)、三菱商事によるエーソン(米国、天然ガス開発会社)の買収(約1兆2,000億円)、住友林業によるトライ・ポイント・ホームズ(米国、住宅大手)の買収(約6,500億円)などが話題となりました。
件数・金額ともに高水準を維持している背景には、上場企業による非公開化(MBO・TOB)や、ファンドなどを活用したグループ再編といった大型案件の存在があります。さらに、企業規模を問わず資本政策の見直しや事業再編が活発化していることも、全体のM&A件数を大きく押し上げる要因となっているとみられます。
過去最多を記録した支援実績とデータが示す「後継者問題」
大企業だけでなく、中小企業のM&Aが活発化している背景には、長年の課題である「後継者問題」に対する意識の変化があります。
中小企業基盤整備機構がまとめた事業承継・引継ぎ支援センターの実績によると、2025年度の新規相談者数は2万4,000者を超え、開設以来、過去最多となりました。また、相談者数の増加に伴い第三者承継(M&A)の成約件数も2,265件(2025年度)と右肩上がりが続いています。
センターへの新規相談者数の推移
第三者承継の成約件数の推移
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「令和 7 年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績」
一方、帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によれば、日本企業の後継者不在率は50.1%で、7年連続で改善傾向が続いています。さらに、役員や従業員を登用する「内部昇格」が同族承継を上回る兆しを見せるなど、事業承継の「脱ファミリー化」が進んでいます。
しかし、同社の「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」では、社長の平均年齢が60.8歳と35年連続で過去最高を更新しました。後継者不在率自体は改善傾向にあるものの、官民の支援策などにより早期に事業承継へ舵を切った企業がある一方で、経営面や人材面の課題から対応が後手に回り、社長の高齢化だけが進む企業も少なくありません。このように、事業承継を前進させている企業と手つかずの企業との間で、対策状況の「二極化」が浮き彫りとなっています。
地政学リスクと複合的なコスト高が迫る事業継続の決断
事業承継の準備が遅れた企業が直面しているのが、「後継者難」による倒産リスクです。2026年上半期の「後継者難」倒産は前年同期比14.7%増の264件と過去最多を更新し、うち96.2%が「破産」となっています。要因の約85%が代表者の死亡や体調不良であり、突発的な事態への備えが不十分なまま、事業継続を断念するケースが後を絶ちません。
「後継者難」倒産推移
出典:東京商工リサーチ「2026年上半期(1-6月)「後継者難」倒産動向」
さらに昨今、中小企業の経営環境を大きく揺るがしているのが「地政学リスク」と「複合的なコスト高」です。中東情勢の緊迫化を背景に、原油や化学製品基礎原料(ナフサなど)の調達難、価格高騰が発生しています。
東京商工リサーチの調査(2026年6月)によると、中東情勢の悪化により「マイナスの影響がある」と答えた企業は8割を超えました。資材の調達難や価格高騰に直面し、在庫確保や代替調達の必要性に迫られる中、人材採用を延期・中止するなど対応に苦慮する中小企業の実態が浮き彫りとなっています。
また、帝国データバンクの調査によれば、2026年上半期の「物価高倒産」は556件と過去最多を更新しました。原材料費の高騰に加え、人材確保に向けた賃上げなどの「人件費増」を価格転嫁できないことが倒産の大きな要因となっています。
「物価高倒産」件数推移(年上半期ベース、2018年以降)
出典:帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」
このように、原材料費・人件費の高騰、資金繰りの悪化、さらには全東信の破産に見られるような決済インフラを担う企業の突発的な連鎖倒産リスクなど、経営環境の不確実性は極めて高まっています。経営者が単独でこの難局を乗り切ることは容易ではなく、「後継者を定めて事業を続ける」のか「事業を畳む」のか、経営の存続に向けたシビアな決断が迫られていると言えます。
「事業承継」から「事業成長」へ。経営戦略としてのM&Aが活発化
後継者不在や経営環境の悪化といった理由だけでなく、成長を加速させる前向きな経営戦略としてM&Aを選択する中小企業も増えています。これまで中小企業のM&Aといえば「後継者不在の解決策」が中心でしたが、近年は事業承継と同時に事業成長を目的としたM&Aへと大きくトレンドが変化しています。
その象徴が、「事業承継」と「成長戦略」を掛け合わせたハイブリッド型のM&Aです。例えば、自動車部品の表面処理技術で国内トップクラスのシェアを持ち、売上高200億円超まで成長を遂げた「サーテックカリヤ」は、EV化という産業構造の変化を見据え、PEファンド(セレンディップ・ホールディングス)へのM&Aを決断しました。自社の技術や事業基盤に、ファンドの資本や同業他社のリソースを融合させることで、市場シェア拡大や経営基盤の強化を早期に図ることが可能になります。
成約事例インタビュー:それぞれの選択
また、地政学リスクに伴う資材の供給不安や価格高騰が長期化する中、個社の努力だけではコスト吸収や代替調達が難しいケースも出てきます。そのため、調達網や販売基盤、資金調達力を補完し合う手段としてM&Aを選ぶ企業も今後さらに増加するでしょう。
経営環境が厳しさを増す中、生き残りと適正利益の確保を目指すためには従来のビジネスモデルに留まることはできません。今後、中小企業同士の合従連衡や、より大きな資本の傘下に入る形での業界再編が、あらゆる業種で加速していくことが予想されます。
M&Aは「特別な決断」から経営の「標準の選択肢」へ
本稿で見てきたデータや事例が示す通り、中小企業のM&Aに対する心理的ハードルは大きく下がりつつあります。M&Aは事業を繋ぐだけではなく、複合的なコスト高や不確実な経営環境を乗り越え、企業をさらに成長させるための強力な経営戦略へと変貌を遂げています。
企業規模にかかわらず、M&Aは特別な選択ではなく、経営の「標準の選択肢」として定着しています。急激に変化する経済状況や業界再編を見据え、自社の強みと課題を客観的に捉え、資本政策や事業承継計画を早期に検討していくことが、経営者の皆さまにとって不可欠と言えるでしょう。
記事監修者
2019年大手M&A支援機関へ入社し、広報責任者として広報業務に従事、厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社、グループ全体の広報責任者として広報業務全体を管掌、2024年より現職。MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者。
レコフ リサーチ部を兼務し、主に「事業承継M&A分野」を担当。
創業110年を超える実家の米穀・酒販会社で、実際に「事業承継M&A」を経験。
一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
一般社団法人M&A支援機関協会広報分科会委員