再生M&A最前線 ―事業再生の現場から―第2回 メインバンクとの関係変化と事業再生制度の進展
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再生M&A最前線 ―事業再生の現場から― 第2回 メインバンクとの関係変化と事業再生制度の進展
再生M&A最前線 ―事業再生の現場から― 第2回 メインバンクとの関係変化と事業再生制度の進展
2026/04/03
コロナ禍や地政学リスクの高まり、物価高騰、人手不足など激変する経営環境の中、日本企業の倒産が増加しています。そうした外部環境において、事業再生型M&Aは “会社を残し、従業員の雇用、取引先、経営者の人生、ひいては地域経済を守る” ための選択肢として急速に重要性を高めています。
本連載では、M&Aキャピタルパートナーズグループで「事業再生型M&A」のアドバイザリーを担うみらい共創アドバイザリーが、再生現場の視点から、事業再生型M&Aの考え方、手法、スキーム、そして実際の再生事例までをわかりやすくお届けします。
企業倒産の増加は、経営環境の変化や社会環境など、様々なファクターの影響を受けています。近年、企業とメインバンクの関係性は大きく変化し、かつての関係は揺らいでいます。加えて、倒産関連法制や事業再生の仕組みが整備されたことで、再生と整理の線引きがより明確になりました。その一方で、再生可能であった企業まで支援の網から漏れ、倒産に至るケースも見られます。今回は、こうした構造変化の背景と、事業再生を巡る新たな課題について考察します。
大きく変わりつつある企業とメインバンクの関係
増加する経営破綻の背景には、コロナ禍以降の厳しい経済情勢や社会環境の変化があります。しかしその一方で、別の背景から倒産件数が増加していると指摘する見方もあります。その一つが、企業とメインバンクとの関係の変化です。
かつては金融機関が融資先企業に強い影響力を持ち、メインバンクが企業の成長や存続に深く関わっていました。ところが、リーマン・ショック後に中小企業金融円滑化法(中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律)が施行され、低金利下での貸出競争が激化したことで、特に中小企業と金融機関との力関係が変化したとされています。
加えて、若い経営者や新設法人を中心に、手数料が低く審査や実行が迅速なネットバンクをメインバンクとする企業が増えています東京商工リサーチの調査によれば、2013年から2022年の10年間で、メガバンク3行をメインバンクとする企業が5.7%増加した一方、ネットバンク9行では5倍以上の大幅増加が確認されています。
コロナ禍の感染症法上の分類が5類に移行したことによって、経済活動が活発になりました。そのタイミングで各行の低金利競争が始まり、メインバンクを変更する企業が増加しました。その結果、企業経営者とメインバンクとの関係性は希薄化している一面があり、金融機関による事業再生などの経営支援にも影響が出ています。
実際、金融機関の融資姿勢にも変化が見られます。従来は担保が融資判断の重要な要素でしたが、近年は「経営者保証に関するガイドライン」が業界内で定着し、経営者の連帯保証よりも企業の事業性を重視する判断へとシフトしつつあります。
倒産・事業再生制度の整備がもたらした変化
経済情勢や社会環境の変化以外にも、倒産件数の増加を読み解くうえで注目すべき視点があります。その一つが倒産・事業再生に関する制度整備です。
中小企業に対する『倒産関連法制』が整い、倒産に至るプロセスが明確になった点が倒産件数増加の一因となったということです。政府は2020年に産業競争力強化法を改正し、大企業と中堅企業には事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を活用しやすくしました。これにより、会社更生法や民事再生法などの法的整理ではなく、事業再生の専門家が、中立的な立場から債務者(企業)と債権者(主に金融機関)間を調整して企業の事業再生を目指しやすくなりました。
これに関連して2022年には中小・零細企業向けの事業再生ガイドラインが示され、過剰債務を抱える中小企業でも金融機関側の同意があれば、法的整理に頼らず、債権をカットして私的整理(事業再生)ができる仕組みが整いました。そのため、金融機関は将来性のある中小企業に対しては、債権カットを含む事業再生に応じることとなりました。一方で、将来性がなく過剰債務を抱える中小企業の支援は打ち切ることになりますので、その結果、倒産件数が増えたのです。
このように、事業再生の枠組みが整ったことで、結果として倒産件数が増えた要因の一つとなったことは否定できません。
事業再生制度の進展と、専門人材不足という課題
一方で、本来は再生可能であった企業まで倒産に至っている可能性があります。その背景には、事業再生を担う専門家の圧倒的な不足があります。
倒産件数が2010年代前半の水準まで増加する中、2010年代とは大きく異なる点があります。2022年4月に中小企業が法的手続きを経ずに債務整理を行うための『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』の運用が開始し、統計にはあらわれない私的整理の件数もかなり増えているのです。
このように、企業の再生ニーズが高まる一方で、金融機関内に再生のノウハウを持った人材が減ってきていると言われています。バブルやリーマン・ショックに見舞われた平成時代には、銀行は企業再生に多くの人材を投入していました。その後、事業環境が落ち着き、再生案件は減少したことで、当時の再生担当者の高齢化や退職が進んでいるのです。企業再生では財務や法務の知識、事業への理解など、専門的な知見とそれらを束ねる総合力が求められます。その実務経験やノウハウが十分に継承されていないという可能性があると言われているのです。
実際、2000年以降の倒産件数をみると、リーマン・ショックが発生した2008年をピークに、2020年までは緩やかな減少傾向にありました。これは、中小企業金融円滑化法の施行により、金融機関が返済猶予に応じるよう求められたことが大きな要因です。
こうして倒産件数が抑えられた一方で、金融機関が事業再生の現場から徐々に距離を置くこととなり、「事業再生の専門家」は減少してしまったと考えられます。
みらい共創アドバイザリーでは、この状況こそが大きな課題であると捉え、その解決に取り組んでいます。
厳しい経営環境において、事業を救う「事業再生型M&A」をわかりやすく紐解く
『再生M&Aという選択肢―事業と社員を守る、事業再生の現場―』
本書は100件を超える事業再生の支援実績をもとに、みらい共創アドバイザリーが「事業再生型M&A」についてわかりやすく解説しています。厳しい経営環境の中、事業とその社員、取引先含めた地域経済を救う“事業再生型M&A”を、法的・制度的背景を含めて8つの事例から紐解く実践的入門書です。
著者プロフィール
株式会社みらい共創アドバイザリー
代表取締役社長 小林 廣樹
大学卒業後、金融機関に入行。経営課題に対するコンサルティング~事業承継等の資本政策提案を中心とした法人営業に従事し、競合激戦区ながらシェア拡大に貢献。2016年よりM&Aキャピタルパートナーズへ移り、M&A仲介業務に従事。事業承継型M&Aからアーリーステージの事業再生型M&A等を手掛ける。みらいエフピー(現・みらい共創アドバイザリー)のM&Aキャピタルパートナーズグループ入りに伴い、21年10月より当社取締役として参画し、23年4月代表取締役社長に就任。当社参画後は私的整理・法的整理を含め、再生ディールのみで20件以上成約。著書「再生M&Aという選択肢 ―事業と社員を守る、事業再生の現場―」を2025年に上梓し、丸善丸の内本店で週間ランキング1位を獲得。
記事監修者
2019年大手M&A支援機関へ入社し、広報責任者として広報業務に従事、厚生労働省「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」M&Aアドバイザー担当。
2021年M&Aキャピタルパートナーズ入社、グループ全体の広報責任者として広報業務全体を管掌、2024年より現職。MACPグループ「地域共創プロジェクト」責任者。
レコフ リサーチ部を兼務し、主に「事業承継M&A分野」を担当。
創業110年を超える実家の米穀・酒販会社で、実際に「事業承継M&A」を経験。
一般社団法人金融財政事情研究会認定M&Aシニアエキスパート
一般社団法人M&A支援機関協会広報分科会委員