心を動かすのではなく、判断を支える。迷いの渦中にいる経営者にできること
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心を動かすのではなく、判断を支える。 迷いの渦中にいる経営者にできること
心を動かすのではなく、判断を支える。 迷いの渦中にいる経営者にできること
2026/10/26
名川 蒔人さんが、迷っているオーナー様に差し出すのは、決断を促す言葉ではなく、判断するための材料です。なぜM&Aを検討し始めたのか、ここまで何を確かめてきたのか。判断の経緯を目に見える形にして、もう一度お渡しします。M&Aキャピタルパートナーズに入社しておよそ2年。初めての成約は、譲渡を急ぐ事情のない経営者が最後まで迷い抜いた末の決断でした。相手が決めるのを待つために、自分に何ができるのか。名川さんが向き合ってきた問いについて聞きました。
桁の違う世界への憧れから
M&Aという仕事に関心を持ったきっかけを教えてください。
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 名川 蒔人(以下、名川):
初めてM&Aキャピタルパートナーズ(MACP)の名前を知ったのは、ある新聞記事がきっかけでした。MACPが間に入った事例が報じられていて、ディールサイズが数千億円に上る規模だと書かれていたのです。こんなビジネスがあるのかと思いました。
私はIT企業で法人向けの営業をしており、同じころに過去最大級の受注に沸きあがっていたのですが、金額の桁はまるで違いました。もちろんビジネス構造が違うので、比較すること自体に意味はありません。それでも、そういう世界が現実にあると知ったことは、仕事に対する視野が大きく広がる出来事でした。ちょうど転職を考え始めた時期に、MACPのメンバーから声をかけていただいたことも重なって一気に決心しました。
入社後に感じた前職との違いはありますか。
名川:
前職では法人向けの営業でしたから、お客様の意思決定は組織のプロセスに沿って進んでいきます。個人の感情だけで、商談の行方が大きく左右されることは多くありませんでした。
一方でM&Aは、意思決定のレベル感も、そこに至るプロセスも、まったく異なります。会社を譲渡するというご判断は、その方の人生そのものに関わる話です。普段は非常に論理的に判断されるオーナー様でも、日によってお気持ちが動くことを知り最初は戸惑いましたが、後になってからは、変わるのが当然だと思うようになりました。
また知識と経験を蓄積するのにも苦労はありました。株式譲渡を実行するまでには、税務上の論点も法務上の論点も数多く生じますので、まずアドバイザー自身が猛勉強するほかありません。特に経営や会計の知識を持たずに入ってきた、私のような中途人材はなおさらです。MACPにはコーポレートアドバイザリー部があり、経験の豊富な専門家が在籍していますので、積極的に相談してアドバイスを受けることも意識しました。
判断材料を増やしていく
揺れ動くオーナー様の気持ちに対し、どのようなサポートを行っていますか。
名川:
まず、現在の状態をできるだけ正確に知ることが出発点になります。そのために一番有効なのは、お会いしてお顔を拝見することです。Web会議や電話でも用件は足りますが、細かなニュアンスまでは伝わりません。声の調子や間の取り方、資料のどこに手を止め、注目してくださるのか。同じ空間にいるからこそ、伝わるものがあるのです。
遠方であっても、移動時間や交通費がかかってでも、極力足を運ぶようにしています。私がそこで受け取った情報をもとに、新たな対策・対応をお届けするという順番です。
できるだけ多く情報をお届けするということですね。
名川:
判断材料を増やして差し上げたいと思っています。M&Aは会社の将来や成長を託す決断ですから、基本的にできる限り多くの選択肢をお示ししたほうがよいはずです。同業で大規模な会社、異業種企業、投資ファンドと、それぞれに異なる強みがありますので、複数企業とのトップ面談をセッティングするのも私の大切な仕事と考えています。
明確な条件をお持ちでないオーナー様こそ、様々な企業とお会いいただく意味があるのではないでしょうか。資料の上では似たような会社に見えても、お目にかかれば、何を大切にされている会社なのかが見えてきます。事業をこれまで通り続けさせてくれる相手もいれば、グループの一部として取り込みたい意向の企業もあるでしょう。どちらがその会社やオーナー様にマッチするのか。フェイス・トゥ・フェイスでなければ、判断できません。ご本人の中に取捨選択の軸を少しずつ作っていただくような感覚を持っています。
自身の強みは、どこにあると考えていますか。
名川:
行動量と、すぐに動けるフットワークだと思っています。時間と労力をしっかり割くことはもちろんですが、意欲も、そして体力も重要です。急な対応が必要になる仕事ですので、迅速かつ柔軟に応えられることが、オーナー様の信頼を得ることにつながると考えています。
また、さまざまなビジネスモデルに触れられるのはM&Aアドバイザーの特権かなと感じています。全国どこへでも行きますから、当たり前だと思っていたことが、場所を変えるとまったく当たり前ではなくなる。そういう発見が、そのまま自分の引き出しになっています。
決断を急がせないと決めてから変わったこと
今回成約に至ったときの気持ちを教えてください。
名川:
ご成約までたどりつけたことにホッとしたのが率直な感想です。途中で破談になった経験もしていたので、最後まで不安は消えませんでした。破談の理由は事例ごとに異なりますが、そうした経験を振り返る中で、オーナー様がご自身で納得して判断できる環境を整えることの大切さを、改めて実感するようになりました。
M&Aを検討する中で、お気持ちが揺れ動くのは当然のことです。だからこそ、アドバイザーが結論を急ぐのではなく、迷われている理由を一つひとつ理解し、判断に必要な材料を揃えていくことが重要だと考えるようになりました。オーナー様ご自身が納得して答えを出せるように向き合う。この意識を持つようになったことが、私にとって一番大きな成長だったと思います。
もちろん、私も譲受企業も、ご成約に至ることを願っています。特に譲受企業は、多くの時間やリソースを投じて真剣に検討を進めておられます。その思いへのリスペクトを持ちながらも、オーナー様には「印鑑を押すまで、いつでも中止できます」とお伝えしていました。納得しきれないまま進めば、その後の長いお付き合いの中で、どこかにひずみが生まれるかもしれません。それは双方にとっても、ご支援する私にとっても望ましいことではありません。だからこそ、最後はオーナー様ご自身が納得して決断できることを何より大切にしています。
迷っているオーナー様に名川さんができることとは何でしょうか。
名川:
M&Aを検討し始めた当初のお気持ちに、立ち返っていただくことをお勧めしています。何らかの必要性を感じていらっしゃったはずが、検討が具体化するほど、本当にこの決断でよいのかと迷いが大きくなることもあります。
もちろん、完全に感情を切り離すことは難しいでしょう。しかし戦略的な判断の部分を改めてご提示することは重要です。口頭説明だけでなく、再度用意した資料で視覚化するようにもしています。検討の経緯を目に見える形で振り返ることが、ご自身で納得して判断するための一助になると考えています。
どのような状況にも対応できる力をつけたい
急いで成約を重ねたいという気持ちはありませんか。
名川:
本音としては、もちろんあります。早く経験を積みたいですし、経験を重ねることで自信をつけたい気持ちもありました。でも、その焦りをオーナー様に向けるわけにはいきません。私が経験を積みたいことと、オーナー様ご自身の決断のタイミングは別の話です。ご判断はすべてお任せするしかありません。
そこで大切にしていたのは、自分の売上目標に振り回されるのではなく、本当にお役に立てると思う会社に誠実に向き合うことでした。お手紙をお送りする際も、将来性や事業内容などを見て、「ぜひ一度お話を伺いたい」と思える会社を選んでいます。目先の成果を追うのではなく、一社一社とのご縁を大切にしながら、地道に行動を積み重ねていきました。
これから目指すアドバイザー像を教えてください。
名川:
どんな状態の会社であっても、M&Aのご相談をお受けできるアドバイザーです。M&Aのご支援では、いざ会社の中を拝見すると、想定していた財務数値と違っていたり、表に出ていないキーマンがいらっしゃって、その方にメリットを感じていただける提案が必要になったりすることもあります。様々な局面に対応して、ベストな提案を組み立てられるようになりたいですね。
M&Aは成長戦略の一つだと、私は常々お伝えしています。譲渡を決断するのはオーナー様ですが、その判断に必要なものを徹底的に揃えるところまでは、私の仕事です。常にそれを約束できる人間でありたいと思っています。
文:蒲原 雄介 写真:平瀬 拓 取材日:2026年8月25日
成約事例インタビュー:それぞれの選択
記事監修者
当社入社後は、M&Aを経験された経営者の方々への取材や各種講演会の企画立案など幅広く活動を行う。