それぞれの選択 #103 医療機器商社×株式譲渡

服部 吉岡
服部 吉岡

医療機器業界の新潮流。
将来の成長が最大限に描ける方法として投資ファンドとの提携を選択

医療機器ディーラー事業を基盤に、独自の臨床検査機器などの開発・製造も行うメーカーとして成長を遂げてきた株式会社常光。近年はナノテク事業にも参入し事業の多角化を図ってきた。創業以来、同族経営で成長を続けてきたが、さらなる価値向上と従業員が安心して働ける環境づくりを目指し、2024年10月、投資ファンドのニューホライズンキャピタル株式会社からの投資受け入れを決断した。医療機器業界においては少数派と言える投資ファンドとの提携を選んだ理由と、描く将来像について、株式会社常光 代表取締役社長 服部直彦様、ニューホライズンキャピタル株式会社 吉岡拓哉様に詳しい経緯をお聞きした。

  • 譲渡企業

    会社名
    株式会社常光
    所在地
    東京都文京区
    設立
    1948年
    事業内容
    医療機器商社、医療機器メーカー、
    ナノテクメーカー
    資本金
    1億円
    従業員数
    254名
    M&Aの検討理由
    事業承継問題解決のため、
    更なる成長発展のため
  • 譲受企業

    会社名
    ニューホライズンキャピタル株式会社
    所在地
    東京都港区
    設立
    2006年
    事業内容
    投資ファンド
    資本金
    従業員数
    M&Aの検討理由
    医療分野への
    投資ポートフォリオ拡充のため

医療機器ディーラーとして足固めしてから、自社製品の研究開発にも乗り出した

株式会社常光の事業概要を教えていただけますか。

服部
株式会社常光 代表取締役社長 服部 直彦 様(以下、敬称略)

医療機器のディーラー事業とメーカー事業、そして比較的歴史の浅いナノテク事業と、合計で3つの事業を手がけています。売上構成では、医療機器の卸売を行うディーラー事業が約8割を占めますが、利益の面では自社製品の開発・製造を行うメーカー事業と売上比ほどの差はありません。

創業者である私の父は、戦後まもない1940年代後半に、大学教授との出会いがきっかけとなって北海道大学の門前で医療機器の販売を始めました。物資が不足していて売り手市場だったことから、他社に先駆けて道内各地に支店を開設した戦略が功を奏し、やがて東京や大阪など全国へと商圏を拡大していきました。

私自身は農学部獣医学科の出身で、常光に入社するつもりは一切ありませんでした。研究志向が強く、商売にはあまり関心がなかったというのが本音です。大学で研究生活を送った後、アメリカに2年ほど留学し、帰国後は恩師の紹介で製薬企業に入社しました。そこで研究とビジネスを結びつける経験を積み、その後父から入社するよう誘われました。当時の常光の事業は臨床検査分野が中心で、私が研究していたウイルス関係の検査薬なども事業ポートフォリオに入れたいという思いがあったようです。

結果的に、自分が責任者として研究開発に加わった体外診断用医薬品が製品化され、会社を支える収益源の1つにまで成長させられたことは、私の自信にもつながりました。微力ながら「科学文化の発展に貢献する」という社是を体現する仕事ができたのではないかと誇りにも感じています。

父の後を受けた兄が長く社長を務めましたが、2018年に兄が会長になり、私が代表となりました。現在も、会長とともに経営の舵取りを担っています。

ディーラー事業を基盤としながら、メーカー事業も展開してきた経緯について教えていただけますか。

服部
服部

メーカー事業を伸ばしたいというのは、父の代からの希望でした。「自社で作ったものを売ることが商売の基本」という考えが強かったのです。ディーラー事業である程度の基盤ができ、資金力が備わってきたタイミングで、本格的に自社製造に乗り出しました。大きな転機となったのは、1993年に発売した病態検査に応用する電気泳動装置です。電気をかけるとタンパク質が分離する性質を活用した技術で、この開発成功がメーカーとしての飛躍につながりました。

さらに10年ほど前から、もとはM&Aによって開始したナノテク事業も手掛けています。まだ発展途上ではあるものの、これまで縁のなかった自動車メーカーなどからも期待が寄せられています。あと一息で事業として開花、というところまで手塩にかけて育ててきた事業ですので、早く結実させたいと考えています。

一方、ディーラー事業は、時代の変化に影響を受けながらも、顧客である医療機関や仕入先のメーカーから着実に高い信頼を得てきたと自負しています。たとえば、常光の中で売上の主力となっている放射線分野では、30年前まで当たり前だったレントゲンフイルムとシャーカステン(CTやレントゲン写真を見る機器)が一気に姿を消しました。デジタルのレントゲン画像がモニター画面に映し出されるように変わっていく際にも、豊富な製品知識によって製品の組み合わせを提案し、顧客である医療機関に最適な提案を行ってきました。

地道な営業活動の結果、多くの医療機関から「常光に任せておけば安心」と言っていただけるようになりました。これは、信頼の蓄積によるものであり、営業担当1人ひとりの行動なくしては成り立ちません。人材、開発力、製品力といった重要な資源を活かしたことで、着実に成長できたのではないかと思っています。

会社の発展のために事業会社の傘下に入るべきか、
投資ファンドを受け入れるべきか

順調に成長を続けられていたのに、なぜこの時期にM&Aを検討されたのでしょうか。

服部

もとは兄である会長が主導したものでした。これまでは同族経営を続けてきましたが、私たち兄弟は、今後も同じように継続するつもりはありませんでした。同族経営を見据えた企業は、着々と株式譲渡や相続について対策を講じていますが、常光ではそういった準備は特にしていなかったのです。その代わりに、何を優先するかと言えば従業員です。これからさらに会社の価値を高め、いかに従業員に還元していけるかを考えたときに、主な選択肢は次の2つでした。

1つは事業会社の傘下に入る方法、そしてもう1つは投資ファンドと資本提携を行って必要な支援を受けながら、あくまでも自分たちが主体となってその先の成長を目指す選択です。会長からは「どちらを選ぶかは、お前に決めてほしい」と言われました。M&Aキャピタルパートナーズの中島さんを紹介されたのも、このときのことです。

会長と中島さんがお知り合いになったのは、いつ頃でしたか。

中島
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長 中島 千也(以下、中島)

初めてお会いしたのは10年ほど前だったと記憶しています。しかし当時は、M&Aへのご関心は高くなく「常光が他社をM&Aするとしたら」と、譲受企業としてお相手の情報を集めることが主な目的だったと思います。実際に今回のM&Aの話が具体化したのは、この1年ほどでした。

常光の売上は150億円ほどですが、100億円を超える規模の医療機器商社は、とくに地方にはそう多くありません。有力な医療機器ディーラーとして位置づけられる優良企業と捉えていました。

まずは筆頭株主である服部会長からM&Aに関する相談を受けましたが、もちろん服部社長も株式をお持ちです。また服部会長は、最終的な判断については服部社長の考えを尊重したいという意向でした。服部社長については、非常にソフトな方で人柄も素晴らしく、従業員の方々からも大変慕われていると感じました。服部会長は強いリーダーシップを発揮していく方で、慎重なところがおありなのに対して、服部社長は逆のタイプだとお見受けしました。

服部

常光の系譜としては、私のほうが異端な存在です。むしろ会長のようなワンマンタイプが、父にはじまる創業から代々受け継がれている経営者像だと思います。ただ、あらゆる事柄に厳しい会長が長年にわたって信頼を寄せている方ですから、中島さんはきっと頼りになる人物なのだろうとお会いする前から感じていました。

私としては、M&A仲介会社の方とお会いしたこともなかったので、会社と会社を結びつけるとはいっても、最終的には自分たちの儲けばかり考えているのではないか、といった警戒心があったことは否めません。会長がすでにM&Aのレールを敷いたうえで、決断をする立場となって、ショックは多少なりともありました。しかし、従業員のために、会社のために何が最善かを考えることが、私に課せられた大きな宿題でした。

当初から投資ファンドと事業会社の両方が選択肢にあったのでしょうか。

中島

事業会社と提携するメリットは、既存の事業基盤や相手先の販路を活かした成長が期待できることです。互いに足りない点、苦手な分野を補完しやすく、M&A実行後のシナジーもイメージしやすい傾向にあると言えます。生産性の向上やコスト削減、スケールメリットなどによる競争力の強化、また相手先も医療機器に関する知見があり、社内の合意形成もスムーズに行える可能性があります。

一方で、投資ファンドとの提携のメリットは、内部管理体制の強化や投資ファンドの資金も活用し他社をグループ化することで業績拡大を目指すロールアップ戦略等により事業基盤を更に強固なものにできる点です。また、投資ファンドには、経営的なノウハウが蓄積されており、経営者としても優秀な人材が多くいる傾向にあります。経営を活性化しつつ、独立性を保ちながら成長戦略を実現できる可能性がある点が魅力です。

どちらの道も常光にとって、有力な選択肢になりうると考えていました。

服部
服部

医療機器ディーラーは、地域ごとに商圏が分けられるため、直接的な競合になる企業は避けるべきと考えました。従業員のモチベーションも低下してしまう恐れがあります。また、同じ医療業界の事業会社の傘下に入った場合、どうしても事業の自由度が失われるだろうことも想定できました。特に、売上の大きなディーラー事業ばかりに注目が集まり、私たちの大事な柱であるメーカー事業が展開できなくなることを懸念していました。

また、投資ファンドという馴染みのない存在に対する抵抗感が社内にあったのも事実です。いずれにもメリットと留意点がある中で、どのような選択を取るべきか、非常に悩みました。

選択の決め手となったのは自分たちの力で成長する「夢」を描けることだった

ここからニューホライズンキャピタル株式会社 マネージングディレクターの吉岡 拓哉様にも加わっていただきます。事業概要をご説明いただけますか。

吉岡
ニューホライズンキャピタル株式会社 マネージングディレクター 吉岡 拓哉様(以下、敬称略)

主に国内の中堅および中小企業と資本提携を行っている投資会社です。ニューホライズンキャピタルという社名の通り、「意義ある投資で新たな地平へ」というパーパスに基づき、社会的意義のある企業や事業の成長や存続のため、投資活動を行っております。これまで100社を超える事業承継や成長支援、さらに事業再生投資を行ってきました。また、資金提供するだけでなく、企業の成長に対してパートナーとして向き合ってきた実績があります。

私は監査法人で公認会計士としてキャリアをスタートし、2015年に転職してニューホライズンキャピタルに入社しました。私の実家も製造業を営んでいましたので、漠然とはいえ将来は承継したいと思っていたのですが、早くに社長である父が急逝したことで、会社を閉じることになりました。このとき身をもって、会社が継続して事業を営むことは当たり前のことではないと感じ、事業承継や再生のサポートをしたいと考えるようになったのです。

企業を評価する際に重視する点をお聞かせください。

吉岡

キラリと光るポイントをもっているか、すなわち他社との差別化要素が明確なのかを重視しています。その意味で、常光は非常にユニークな特性がありました。ディーラー事業に加えて、メーカー事業やナノテク事業など複数の領域をあわせ持っている稀有な存在です。また、長年築きあげてきた安定した基盤がありながら、新しい事業にチャレンジする土壌がある点も魅力的だと感じました。

加えて、医療機器販売という事業そのものが、ESGの観点から非常に重要です。長寿大国の日本において、医療サービスの発展に寄与する事業を展開していることも大きな価値だと言えます。常光がSDGsに向けたプロジェクトを推進しており、私たちとしてもそういった取り組みを後押ししたいと考えています。利益も重要ですが、社会貢献性の有無も重要な判断基準の一つでした。

ただし、新規事業の評価が難しいことは否めません。目先の結果に現れていなくても、試行錯誤を繰り返しながら、しっかりとフィードバックやPDCAを回していけるかどうかが何よりも大事です。経営陣の事業に対する思いとともに、すでに事業が顧客からの評価を受け始めていることや、ある程度販売の計画が見えているといった要素が重要になると考えます。

中島

ニューホライズンキャピタルとM&Aキャピタルパートナーズは、すでに10件以上のご支援の実績があります。これだけ継続して取引できることが、何よりの信頼の証です。漠然としたイメージから投資ファンドという存在に不安を抱かれる経営者も一定数いますが、これまでの投資先企業からの評判も高く、自信をもってご紹介できる投資ファンドだと考えています。

初めて会ったときのお互いの印象をお聞かせください。

服部

個人的には、吉岡さんの人柄に信頼感を覚えました。しかし、社内での意見はどちらかと言えば事業会社とのM&Aが優勢な状況だったので、投資ファンドのオファーをどこまで受け入れるべきか、計りかねていました。

吉岡

私は服部社長と初めてお会いしたとき、とても誠実な方だという印象を持ちました。こうしたM&Aの場面では、ときとして大風呂敷を広げるような経営者もいらっしゃいますが、服部社長は自分の言葉で等身大の真実を話してくださる方でした。

服部会長も含め、創業家の方々が大切にされてきた理念が根付いている会社だという印象を強く持ちました。

中島

両者の相性の良さを感じながらも、趨勢としては事業会社との方向に進むのではないかと予測していました。実際に一度、常光からニューホライズンキャピタルに対して、お断りの連絡を入れた経緯もあります。それでもなお、吉岡様が諦めず再度アプローチして交渉を続けたことが、今回の結果に結びついているのではないかと思います。

パートナー選びの方針はなぜ途中で変わったのでしょうか。

吉岡 服部
服部

事業会社とのM&Aについてより解像度を高めて検討するほど、理想的な将来像が描けなくなったことに尽きると思います。常光はディーラーとメーカー、そしてナノテク事業とそれぞれに可能性を秘めた複数の事業を持っています。すべてを大切にして、すべてを伸ばしたいというのが私たちの思いです。しかし、どこか大きな企業の傘下に加わったとして、3つの事業すべてでシナジーが得られるイメージは生まれませんでした。どれが欠けても、それは常光にとって、従業員にとって幸せな未来とは言えないと感じたのです。

私たちは、従業員と安心して働ける環境を作り、守り続けることを宣言してきました。この約束を果たすためにも、次世代に向けて自分たち自身の力で価値を高めていける道を選ぶべきだと考えるようになりました。

そこで改めて投資ファンドという選択肢の価値を見直すことにしました。資金と経営ノウハウを提供してもらいながら、常光の独自性を保ち、自分たちのペースで成長できる姿こそが私たちの描く理想に近いのではないかと考えたのです。

吉岡

私たちは、常光の良さをさらに引き出せるという自信をもっていました。医療業界はまさに再編が進行中ですが、常光にも十分にM&Aを実行できる体力と組織力があります。むしろ常光が主体となってグループを作り、医療業界のさらなる成長を促す存在になれると確信していました。こうした具体的な将来像と、それを実現するための私たちが支援できる内容について、再度プレゼンテーションさせていただきました。

服部

二度目の提案にあった「常光が主体となってグループを形成する」という内容には、驚くとともに新しい可能性を感じました。正直、私たちがもったことのない発想だったためです。むしろ私たちの方から、次のステップを切り開いていけるのではないか、常光らしい独自の成長を目指せるのではないかと、考えるようになりました。

実はこの話を聞いたとき、ふと創業者である父の顔が頭をよぎりました。もともと、事業構想を考えて大きな目標を追うことが好きだった父が存命だったら、どう考えただろうか。リスクを取ってでも、自力で大きく成長できると感じる道を選択することは間違いないはずだと思いました。

ただ雇用環境を守るだけでなく、給与の面でも従業員の貢献に報いるためには、事業成長が欠かせません。決断後は、もう前を向くしかないという気持ちでした。経営を次のステップへと進めるためには、必ず課題が付きまとうものです。ただ、私たちの強みを活かしながら、新しい領域にも挑戦していけるという未来が見えてきたことで、むしろ清々しい気持ちになりました。

M&Aキャピタルパートナーズのサポートについて、評価をお聞かせください。

吉岡 服部
服部

M&Aの仲介をしてくれる方々は多くいらっしゃいますが、中島さんは常に私たちの立場に立って、わかりやすく丁寧に説明してくださいました。そしてニーズを理解した上で、最適な選択肢を提供してくれたと思います。

私たちにとっては初めての経験だったので、デューデリジェンス(企業監査)のためにさまざまな書類を準備する経理の現場には不安があったはずです。しかし、中島さんはそうした不安や課題を、常に先回りして対処してくれました。豊富な経験とスキルがあるからこそ、どのようなところで顧客がつまずきやすいかまで熟知しておられます。細やかなサポートに、従業員一同大変助けられました。

吉岡

私たち投資ファンドにとって、M&A仲介業者との関係は重要なものだと認識しています。M&Aキャピタルパートナーズは、非常に信頼できるパートナーで、情報を豊富に持っているだけでなく、顧客第一主義で丁寧に仕事をされています。こうした姿勢があるからこそ、結果的に多くの取引につながっているのだと思います。

中島

スムーズな手続きができたことは、常光の管理事務部門のご尽力が大きかったと思いますが、私たちのサポートにもご評価をいただきありがとうございます。私たちは譲渡側と譲受側の双方にとって満足のいく結果が得られることを最優先に心がけています。今回のように、企業として何を優先するか、どのような方針を選ぶかで結論は大きく変わります。私たちができることは、最終的な決断のための材料をテーブルの上に揃え、それぞれのメリットや留意点も含めてお伝えすることです。

医療業界から注目されているM&Aの成果

投資の実行からまだ1か月に満たないタイミングです。何か変化の兆しはありますか。

服部

ポジティブな変化は既に出始めています。たとえば、これまでディーラー事業は北海道で、メーカー事業は本州がメインのフィールドとなっているため、両者の交流はあまり活発ではありませんでした。しかし、メーカー事業本部のトップの発案によって、ディーラー事業本部への積極的な提案が始まったのです。これまで手がけていなかった製品を北海道でも扱えないかという提案です。今回のきっかけがなければ、こうした協力し合える体制づくりの機運はなかなか生まれなかったのではないかと思います。

能力があるにもかかわらず今まで意見を出さなかった優秀な人材が、まだまだ隠れていることでしょう。こうした埋もれた貴重な資源をどう経営に活かせるかは、急成長を遂げるための重要なカギだと考えています。

吉岡
吉岡

私たちは常光の全従業員、約200名に対してアンケートを実施し、うち50名程度の役職者とは面談も実施しました。その中で改めて感じたのは、常光には本当に優秀な人材が揃っているということです。日々の業務だけでなく、マネジメント能力を持ったスタッフも多く、今後さらなる活躍が期待できます。こうした素晴らしい企業とご一緒する機会をいただけたことに心から感謝するとともに大きな責任も感じています。

今の服部社長のお話にもあったように、組織的な一体感を醸成するのは重要なステップだと考えています。ディーラー事業、メーカー事業の垣根を少しずつ取り払い、ナノテク事業も含めた会社全体としての一体感が生まれれば、より強固な組織になれると確信しています。

服部

一方で、現時点では新たな体制に不安を感じている従業員も少なくありません。投資ファンドと提携し、今後どうなるのか想像がつかないのは仕方のないことだと思います。その不安を払拭するため、特に上層部に対しては、私たちが描く将来像についてかなり丁寧に説明をしていますが、言葉だけでは十分に伝わらないものです。できるだけ早期に、目に見える成果を示していくことが、最も確実な信頼関係構築の方法だと考えています。

吉岡

服部社長のおっしゃる通りです。まずは時間をかけて、地道に説明を重ねていくことです。常光のさらなる成長と発展を目指す仲間だと理解していただくために、継続して従業員との直接対話を行ったり、説明会を開催したりしています。

とは言え、心情的な問題を解決するのに理屈だけでは不十分です。「従来と変わらない」ではなく「良くなった」と実感してもらうことが最短ルートだと信じて、邁進していきたいと思います。

医療機器業界内も注目しているとお聞きしました。今後の展望についてお聞かせください。

服部

取引先の大手企業から「常光の決断とともに、行く先を注視します」という言葉をいただきました。大手の企業様にとっても今回の件は決して他人事ではなく今後の私たちの動向に関心を持たれていると受け止めています。特に医療業界というのは、取引先や顧客との長年の信頼関係の上に成り立っており、新しい変化に対しては慎重な判断が求められます。医療機器が人命に関わる製品であるという特性からも、より安全性や安定性が重視される業界であると言えます。

私たちは、時間をかけて決断して、独自の成長を目指す道を選びました。投資ファンドを受け入れる選択は、特に医療機器業界においてはまだまだ珍しい決断かもしれません。ただ、これまで築いてきた信頼関係を大切にしながら、さらに価値を高めていける道筋が見えたからこそ、この決断に至りました。今後は具体的な成果を示すことで、私たちの選択が業界にとっても前向きな可能性を示せるものになればと考えています。

吉岡

まさに、今回の提携は、業界にとっても試金石の部分があると思っています。業界内では再編が続いていますが、大手の傘下に入るだけが選択肢ではなく、M&Aで主体的に成長していきたいという企業のご支援は、今後も積極的に行っていきたいと考えています。そのためにも、成長、発展を遂げた常光の姿を早く示したいと決意を新たにしているところです。

同時にこれまで常光が取り組んできたSDGsの取り組みも加速させ、ESGの観点からも医療機器業界をけん引できる存在になることを期待しています。

最後に、M&Aを検討される経営者の方々へメッセージをお願いいたします。

服部

会社を次の段階に進める際には、必ず悩みや課題が伴います。私たちの場合、今まで以上に価値を高め、従業員が安心して働ける環境を作るために、独自の成長を選択しました。必ずしもすべての企業に同じ選択が当てはまるわけではありません。しかし、M&Aは目的ではなく手段の一つです。重要なのは、自社が描く将来像に向かって、最適な道を選ぶことだと思います。私たちの取り組みが、そうした判断の一助になれば幸いです。

吉岡

やはりこれからの時代、持続的な成長のためには、短期的な利益を追い求めるだけでは厳しいと考えています。私たちは「意義ある投資で新たな地平へ」という理念を掲げています。持続可能な社会に貢献される企業の支援を通じて、日本の社会課題解決に貢献していきたいと考えています。

中島

M&Aを検討される経営者の皆様の目的や思いは、それぞれ異なります。私たちはその状況に合わせて最適な提案をするため、皆様のお悩みや目的を理解することに努めています。っ譲渡企業と譲受企業の双方にとって満足のいく結果を導くために、誠心誠意のサポートを提供させていただきます。


 

文:蒲原 雄介  写真:松本 岳治 取材日:2024/11/21

担当者プロフィール

  • 企業情報部 部長 中島 千也

    企業情報部部長中島 千也

    大手証券会社を経て、独立系M&Aブティックにおいて、M&Aアドバイザリー業務に従事。


M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、報酬体系の算出に「株価レーマン方式」を採用しております。
また、譲渡企業・譲受企業のお客さまそれぞれから頂戴する報酬率(手数料率)は
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」となっております。