

ビジョンの共鳴が成約の決め手に。
ともに目指す新しい保険代理店の姿
中小企業を中心に、企業が抱えるさまざまな課題や悩みと丁寧に向き合い、解決してきた株式会社富士グローバル。保険代理店という枠に留まらず、多くの経営者をサポートしている。長期にわたる保険契約を維持しながら、経営者に寄り添ってきた同社がM&Aに踏み切った理由とは。 そして、譲受側の日税グループが富士グローバルと一緒になった背景は。富士グローバル代表取締役の宮野 岳 様、日税グループ会長の吉田 雅俊 様に、M&Aの経緯と共に目指す未来について伺った。
-
譲渡企業
- 会社名
- 株式会社富士グローバル
- 所在地
- 東京都新宿区
- 事業内容
- 保険代理店
- 資本金
- 1,100万円
- M&Aの検討理由
- 後継者不在のため
-
譲受企業
- 会社名
- 株式会社日税サービス
- 所在地
- 東京都新宿区
- 事業内容
- 保険代理店
- 資本金
- 5,000万円
- M&Aの検討理由
- 事業の拡大のため
保険代理店を超えた富士グローバルの多角的サポートとは
富士グローバルの創業について教えてください。

今から40年くらい前になりますが、AIUの研修生からスタートして、最初は中堅・中小企業への飛び込み営業の毎日でした。毎日50件くらい訪問しても経営者と話せるのは一人か二人、そんな研修時代から始まって、社長の自動車保険や火災保険などを契約しながら、徐々に賠償責任保険等、法人向け保険の拡大へという形で進んでいきました。
経営者との関係構築はどのように行ったのでしょうか。
経営者とだんだん話せる関係が出来てくると、いろいろな相談をされるようになりました。そこから法人の経営者をターゲットにした営業活動を中心にしていこうと思いました。。
営業をしていて感じたのは、中小企業経営者は、スタッフには相談できない悩み事を多く抱えているということです。
それからは、社長との話の中から、これまで苦労したこと・困りごと・悩みごと・経営課題などの話を聞き出して、後日訪問した時には、社長に少しでも役立つ情報を届けることで、人間関係が深くなっていきました。経営者のサポートができるというところに仕事の醍醐味を感じていました。
その後どのように事業を展開させていきましたか?

保険の相談はもちろんですが、それ以外の経営課題の相談として、労務トラブル・福利厚生・人材採用・事業資金借り入れ、また後継者問題・相続対策・税金対策・退職金についてとか、社長の困りごともサポートするようになると、専門の知識がある知人をアライアンスパートナーとして活用していくようになりました。
それから、弊社の強みになっているのが海外進出企業へのリスクマネジメントの支援と海外旅行保険になります。
前職で海外危機管理コンサルティングを経験してきた社員がいるので、その経験と知識を活かして、海外駐在員向け海外旅行保険企業包括契約を中心に営業活動を行っています。
スタッフが重病になった際の緊急搬送や病院の手配等のサポート、各保険会社の保険料・補償内容・付帯サービスをお客様に細かく丁寧にご説明して、海外拠点・出張期間・希望内容から保険会社と補償内容をご提案するのですが、とても喜んでいただいています。
特に中小企業の経営者は、リスクを知らないまま海外展開をすることが多く、そこには必ずリスクが潜んでいるのですが、そのことをあまり認識されていません。
海外においては、賠償額の範囲や規模も全然違い、日本人の感覚では大丈夫だと思っていても、海外では訴訟になりかねません。また、海外で医療機関を受診した場合は、大変な費用が発生することにもなりかねません。
海外旅行保険において、保険会社の細かなサポートが機能していない環境のなかで、いかにカバーできるのかが我々の強みになっています。
普通、海外に駐在するような大手企業は自前でインハウス代理店を持っているものですが、大企業であっても専門的にしっかりとサポートできる人材の育成は難しいものです。そうした大手企業にも、自社サービスではなく我々のサービスを使ってもらっています。
さまざまなサービスを提供している富士グローバルですが、ここまで成長できた秘訣は何だと思われますか。
お客様の事業をよく知り、その仕事の仕組みを理解することではないかと思います。
そうすることで、「社長が悩んでいる経営課題はそこにあるのか」と気づくことができますし、お客様からも「ちょうどそのことを相談したかった」と話が発展していくからです。
そんな関係を続けて、お客様とのつながりが深くなり、長期間保険契約の解約もなくやってこられたのは、相手のことを知って、より密接に寄り添うことができたからだと思います。
保険を売るというよりも、経営者が悩んでいることは何かを聞き出し、それに対して何ができるかを考えることが一番大事です。保険は後からついてくるものだと思っています。
経営者に寄り添うことが大切なのですね。具体的にはどのような対応をされているのでしょうか。
例えば、経営者から人材確保の悩みを聞いたら、保険ではなく福利厚生制度の提案をします。そこから保険を使って従業員の満足度を上げる方法も提案するのです。また、事業拡大の相談があれば、それに伴うリスクについてアドバイスします。
特に海外展開については、日本と海外のビジネス環境の違いや、想定外のリスクについて詳しく説明します。単に保険を販売するのではなく、企業の成長戦略全体を見据えたアドバイスを心がけています。
顧客の悩み解決をきっかけに自社のM&A検討へ
独自のサービスを強みとしながら、堅調に経営されていたのではないかと思います。なぜこのタイミングでM&Aを検討したのでしょうか?
実は、自分の会社のお客さんが抱えている課題がきっかけでした。
中小零細の企業の経営者は、本当にずっと頑張っています。自分の旬な時期を過ぎてもひたすら仕事に打ち込み、それなのに70〜80歳くらいになった時にそのまま廃業になったり、倒産したりしています。そんな姿をずっと見てきて、何十年も苦労して経営しているのに、なぜこんなふうに終わってしまうんだろうと思っていたのです。
選択肢として何があるだろうと考えたときに思い至ったのがM&Aでした。そこで、自分がM&Aについてどんなものなのかを知って、アドバイスできるようになろうと思って調べ始めたのが最初です。
そこから自社がM&Aを行うことになったわけですが、その経緯をお聞かせください。
M&Aキャピタルパートナーズの山田さんからご連絡をいただいたのがきっかけでした。最初は忙しかったこともあって、正直あまり乗り気ではなかったのですが、山田さんが定期的に連絡をくださって、少しずつ関心を持つようになりました。
もともと自分の会社自体もどうしていくべきなのか考えなければならないと思っていましたし、私自身も含めて、従業員の年齢が上がってきていて、会社の若返りが必要だと感じていたところも大きかったと思います。
山田さんは他のM&A会社の担当者とは違って、まめに連絡をしてきてくれました。
そこが印象的でしたね。忘れられないようにするのが上手だったのですね。
ここからは、日税グループの吉田代表、M&Aキャピタルパートナーズ 担当アドバイザーの山田さんにもお話を伺います。日税グループとのマッチングはどのように進んだのでしょうか。

私から数社を提案したのですが、その中に日税グループがありました。日税グループは、税理士とその関与先を対象として幅広い商品やサービスを提供されておりおり、幅広い法人マーケットにアクセスできるのが特徴です。そしてそのほとんどが中堅・中小企業です。宮野様には、そのマーケットに一番魅力を感じていただきました。
山田さんから日税グループを紹介いただき、とても魅力的に感じました。 弊社と同じく、日税グループも企業の経営課題解決を掲げており、経営の目的が一致していたことも大きかったです。

我々日税グループは、税理士とその関与先企業のためにさまざまなサービスを提供しています。日本の企業はおよそ310万社あると言われていますが、その大半は中小企業や個人事業主。そしてその8割が税理士の関与先なのですね。言ってみれば、日本の企業のほとんどが税理士の関与先です。
具体的には、保険だけでなく、経営コンサルティング、資産管理、不動産、広報宣伝など、企業が直面するさまざまな課題に対応できる体制を整えています。特に重要なのは、企業のライフサイクルに合わせたサポートです。我々はこれを「ビジネスエコシステム」と呼んでいます。企業の設立から成長、そして事業承継に至るまで、各段階で必要となるサービスを提供しています。
日税グループと富士グローバル、お互い魅力に感じた部分はどこでしょうか?
一つは、先ほど宮野さんも言っていた「企業の課題解決」という点です。保険を提供するだけではなく、いろんな問題を解決するために我々がいるというのが大きな共通点だと思っています。
企業の海外展開をサポートするサービスをはじめとして、富士グローバルは我々になかった部分、まだ手をつけていなかった部分をやっていらっしゃる。そこに非常に魅力を感じましたし、宮野社長のお人柄の良さも、一緒にお話をすればするほど感じていました。我々が一緒になると、さらに企業のいろんな問題解決に関わっていけるんじゃないか。そう思いました。
また、富士グローバルは、企業全体のリスクを総合的に分析し、適切な対応を提案しています。特に、海外展開に関しては、中小企業向けのグローバルニッチな市場で独自の強みを持っています。これは一朝一夕には真似できない、大変な労力の結晶だと思いました。
吉田会長は仕事に対して「ワクワクした仕事を」というスタンスでやっていらっしゃる。自分もそういう働きをしたいなというところに共感しました。
また、雇用環境など、我々の会社のこともちゃんと考えてくれて取り組んでくれたというところが決め手になりました。
M&Aを決断する上で、特に重視されたポイントは何でしょうか。
やはり企業文化の共通点ですね。お客様と我々との在り方、お客様目線で仕事を見て、お客様の思いというものを理解することによって、我々がやるべきことに魂が含まれてくる。これが吉田会長と私の共通したところだと思います。
その通りです。すべては税理士とその関与先のために我々に何ができるか。お客様の立場に立って物事を考えていく。これは富士グローバルも、まったく一緒の考えだと感じます。
ビジョンの一致と、ないものを補い合うシナジー効果
最終的にM&Aを決断された理由についてお聞かせください。

先ほども少し触れましたが、やはり会社の若返りという観点が大きかったですね。人材の募集や育成には時間がかかります。そんな中で、日税グループという素晴らしいパートナーと出会えたことは大きな転機でした。
また、保険代理店業界の将来を考えたときに、単に保険を売るだけでは生き残れないと感じていました。経営者の悩みに寄り添い、総合的なサポートができる存在になる必要があると考えました。
我々も同じように考えていました。富士グローバルが持っている海外リスクマネジメントのノウハウは、我々にはなかったものです。このシナジーは、お客様により良いサービスを提供する上で非常に重要だと感じました。
M&Aを実行する際、何か懸念事項はありましたか?
まず、社風の変化に対する不安です。弊社は長年、家族的な雰囲気で仕事をしてきました。大きな組織の一部になることで、特に取締役はその雰囲気が失われるのではないかと心配していましたね。M&Aというと、まだ「企業買収」というイメージが強いですから。
そのお気持ち、よく分かります。だからこそ我々は、富士グローバルの良さを活かしながら、徐々に日税グループに馴染んでいってもらえればいいと考えていました。環境を急激に変えるのではなく、ゆっくりと融合していく。それが大切だと思っています。
その不安をどのように解消されたのでしょうか?
綿密に話し合いながら方向性や温度感をご両社が納得するまでしっかり話し合ったところが一番ポイントかなと感じます。
その中で宮野様がどういうお考えで本件を検討したかというところを、宮野様から取締役の方にもお話しいただいて、最終的にご理解いただきました。気持ちよくスタートできたのではないかと思います。

日税グループと、方向性や温度感を、納得するまでしっかり話し合えて、不安が払拭されました。
実際に、事務所は以前のまま使っていますし役員への退職金の約束など、細かい点まで配慮していただきました。それを私から取締役や従業員に説明することで、皆の不安を和らげることができたと思います。そうやってきちんと対応することにより、皆ポジティブになりましたね。
M&A後、どのような変化がありましたか?
まだ2カ月ほどですが、既にいくつかの変化を感じています。まず、日税グループが持っているサービスや商材について、営業会議で話し合うようになりました。これによって、我々のスタッフも次はお客様に何を提供できるかと、新しい発想を持てるようになっています。
一方で、大きな組織の一員になったことで、会議や打ち合わせが増えたことは少し大変だと感じています。でも、これは良い方向への変化の過程だと捉えているので、頑張っていきたいですね。
我々のグループに入ることで、富士グローバルの皆さんにも新しい視点や機会が生まれていると思います。同時に、我々も富士グローバルから学ぶことが多くあります。お互いの強みを活かせる関係を築いていきたいと考えています。
ともに目指す新しい代理店の姿
今後の展望と課題について、もう少し詳しくお聞かせください。
まず、保険代理店の新しいビジネスモデルを構築していきたいと考えています。今、代理店が厳しい時代になってきていますので、こんな形でやっていけばこれから生き残れるよという、参考となるようなビジネスモデルを作りたいですね。
日税グループの知識や商材を活用しながら、より総合的な企業サポートを目指していきたいと考えています。
特に、中小企業の海外展開支援やリスクマネジメントの分野で、我々の強みを発揮していきたいですね。

我々のグループには、信託会社や不動産会社、経営コンサル会社、広報宣伝会社などがあります。企業のさまざまなフェーズごとに我々がやるべき仕事が出てくるわけです。これをまさに企業のエコシステムと呼んでいますが、富士グローバルとの統合で、このエコシステムがさらに強化されると期待しています。
実際にM&Aを通じて、日税グループとのシナジー効果として感じていらっしゃることを教えてください。
日税グループの商材やサービスを含めてお客様に提案できるようになったというのが大きいです。弊社の営業会議では、社員からも「こういう商材があれば、こういうことができるんじゃないか」と、新しい発想が生まれるようになっています。
今後、戦略として10億から100億円くらいの中堅企業へアプローチしていきたいと考えていますが、そうした規模の企業のあり方は、今までなかなか理解できていない部分も多かった。ですが、日税さんと一緒であれば、ご経験も多いでしょうから、対応できるのではないかと思っています。
我々も富士グローバルの海外リスクマネジメントのノウハウを活用することで、より包括的なサービスを提供できるようになると期待しています。お互いの強みを活かすことで、1+1が3にも4にもなる、そんなシナジー効果を生み出していきたいですね。
会社の若返りも考えていたとおっしゃっていましたが、若手人材の育成について構想があればお聞かせください。
やっぱり若いスタッフを入れたいですね。今までの富士グローバルの環境ではなかなか難しかったのですが、日税グループの一員になったことで、実現できる可能性が広がりました。
保険の販売だけではなくて、中小企業のサポートをするコンサルティングをやっているとなると、若手の皆さんからの保険代理店の見え方も変わってくるのではないかと思います。
若手の育成は我々グループ全体の課題でもあります。富士グローバルのノウハウも活かしながら、次世代を担う人材を育てていきたいと思います。
最後に、これからM&Aを検討している経営者へのアドバイスをお願いします。

まずは、私自身がM&Aをやって日税グループに入ってよかったと言う報告ができたらいいなと思っています。どんな意識を持ってM&Aを行い、どういうところがよかったのかを伝えたいですね。実際にやった人の言葉が一番伝わると思うので。
中小企業は、経済の多様化とスピード感の中で生き残るのがどんどん厳しくなってきていると思っています。会社が旬なうちに、手を打てるよう、今後もサポートしていきたいですね。
自社にないものを自社で新たに作るより、すでに持っている企業と一緒になることでスピーディな成長を実現できると思います。ただし、ただM&Aすればいいというわけではありません。ハートがなきゃいけないと思うのです。
企業文化というのは非常に大事なポイントですから、起業としていいものがあったとしても、仕事に対する考え方や、やっていることがかけ離れていると、うまくいかないのではないかと思います。どういう取り合わせがいいかというところが、すごく重要になってくるわけです。M&Aを検討する経営者には、ぜひその点をしっかりと考えていただきたいと思います。

(左から)宮野様、吉田様、弊社 山田
文:徳山 夏生 写真:佐久間 ナオヒト 取材日:2024/6/7
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。