

事業の幅と可能性が一気に拡大。
従業員も良かったと思える、上場企業とのM&A
愛知県岩倉市を拠点に、工作機械の電気配線、組立加工を展開。世界的工作機械メーカーを支える安定企業として着実に成長を続けてきた有限会社フィールドは、2024年、株式会社トミタへ株式譲渡によるM&Aを行った。なぜM&Aを考え、譲渡先に株式会社トミタを選んだのか。そして今、両社はどのような未来を描いているのか。有限会社フィールド 副社長(前代表取締役) 横井 武俊 様、株式会社トミタ 代表取締役社長 冨田 稔 様に話を伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 有限会社フィールド
- 所在地
- 愛知県岩倉市
- 事業内容
- 工作機械修理業
- 従業員数
- 19名
- M&Aの検討理由
- 後継者不在のため
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譲受企業
- 会社名
- 株式会社トミタ
- 所在地
- 東京都中央区
- 事業内容
- 金属加工機械卸
- 従業員数
- 国内139名、海外145名
- M&Aの検討理由
- サービス拡大のため
“仲間のみんなに給料を支払えればいい”という思いで、堅実な経営を続けてきた
まずは、有限会社フィールドの事業内容についてご紹介ください。

工作機械の電機部門全般を取り扱っています。主な顧客である大手工作機械メーカーは、大型の機械を多く扱っているため、現地で組み立てるケースも多く、私たちも同行し、その場で配線をして機械を動かします。時には出張修理なども行っています。技術力と信頼が重視される仕事ですので、人材育成に注力してきました。はんだ付けひとつとっても厳密な規定があるため、技術認定を受けた社員を現場に派遣し、小さなミスも防ぐ、細やかな対応を心がけています。
おかげさまで、その大手工作機械メーカーとは古い付き合いになっています。1985年から在籍していた前職時代からのお付き合いですが、私の仕事は当時からまったく変わっていません。長くお付き合いいただいているということは、それだけご信頼をいただいているものと自負しています。
創業の経緯についても教えてください。

1999年、前職の会社の一部門から分離独立する形でフィールドの前身の会社が生まれました。初代の代表者となる方が前職から私たち技術者を引き連れて立ちあげた会社ですが、数年後には私を含めた技術者は離脱しフィールドを立ち上げる運びとなりました。当時から付き合いのあった大手工作機械メーカーから代表者となる人材を呼び社長になってもらいました。その社長が高齢になり次期社長に年長者である私に白羽の矢が立ってしまったわけです。
当時の私は44歳で部長職についていたのですが、“え!?”と驚きましたし、正直、“やりたくない”と思ったのも確かです、しかし、当時12名ほどいた仲間のことを考えると断るわけにいかず、仕方なくお受けすることにした、というのが私が代表になった経緯です。もちろん、経営は未経験でも、技術者としての仕事自体は自分に合っていると感じていたので、“この仕事は続けたい”と思っていたからこそ門外漢であった経営に挑戦できたと感じています。
社長職を引き受けてから、経営は順調に推移しましたか。

社長に就任してから3年後にリーマンショックが起きて不安になりましたが、メインのお客さまから安定的に仕事をいただいていたので、補助金制度をうまく活用しながら黒字経営を続けていました。ですから“リーマンショックでも黒字ならこの先も何とかなるだろう”と、大らかに受け止めていました。徐々に、そのメインクライアントの協力会社からも仕事の依頼をいただくようになり、仕事が増えていきました。しかし自分で興した会社ではないので、“発展させる”という意気込みはあまりなく、それよりも、“仲間のみんなに給料を支払えればいい”という思いで、堅実な経営を目指していました。
リーマンショック後、1年間、“仕事がなくなっても大丈夫”と思えるほどの内部留保が欲しいと考え、経費を押さえながらの堅実経営で増やしていきました。私たちの会社には営業職がいないので、メイン顧客である大手工作機械メーカーの信頼にお応えし、いただいた仕事をコツコツとこなしていくというスタンスで、一歩一歩歩んできたという感覚です。
株式が高価となり、従業員への承継が困難に
どのようなきっかけからM&Aを意識するようになったのでしょう。
社長と言えども、基本的には従業員の気持ちを第一に仕事をしていたので、会社の定年でもある60歳で退任したいと考えていました。できれば従業員の中から次の社長を出したいと思っていて、その中でも長く勤めてくれている人が良いだろうと思い、社内で最も年齢が高い人を後継者に指名しました。ところが会計士に現在の株価を確認すると、とても従業員が支払えるような額ではないことが判明し、このままでは譲渡ができないと思いました。

そんなときにタイミングよく、M&Aキャピタルパートナーズとは別の仲介会社から連絡がありました。私の悩みを解決してくれるかどうか確信を持てなかったものの、その仲介会社の担当者が「譲受先の相手候補を連れてきても良いですか?」とグイグイ来るタイプの方で、ひとまず社長面談だけは進めてみました。しかし相手は技術系ではなく、私たちのような会社をたくさん取得して、経営を代行するという企業で、我々とは相性が良くないと直感的に思いました。こちらから一旦お断りしたところで話は終わっていました。M&Aキャピタルパートナーズと出会う2年ほど前の話です。
その後、少額で従業員が会社を承継できる方法はないかと会計士に相談をし続けていたのですが、なかなか妙案が見つからず……そのタイミングでM&Aキャピタルパートナーズから手紙がきて、会ってみようと思いました。まずは、今の会社の価値を知りたかったですし、「相談は無料」とあったので、気軽な気持ちで連絡をしてみました。
ここからは、担当の田中さん、本山さんも交えてお話をうかがいます。まずは有限会社フィールド、および横井様の印象からお聞かせいただけますでしょうか。

横井様は常に従業員のことを考えていらっしゃる、従業員思いの強い方だと感じました。決算書を拝見し、お取引先との関係性も強固で、大変堅実な経営をされているという印象を受けました。
最初のご訪問から、どのように話が進んでいったのでしょうか。
会社の評価額は私のイメージとあまり変わらなかったので、やはり“従業員に承継するにはお金がかかり過ぎて難しいかもしれない”と改めて思いました。同時にお相手先のご提案もいただきました。田中さんに候補先リストを作成いただき、「30社ほどにオファーを出してもいいか」と聞かれたので快諾し、進めてもらいました。オファーするだけならば費用もかかりませんし、“興味を持ってくれる会社があればいいな”といった程度の軽い気持ちではありました。こちらにも断る権利があるとも聞いていましたので、そこから8社ほど選んで会いたいと申し入れ、実際にその中から、田中さんと本山さんが厳選してくれた会社、2社と面談しました。

取引先がメインの大手工作機械メーカーに限られており、そこから脱却したいという思いを横井様は持たれているものの、相手先にとっては取引先が1社であるという点が利点になったり逆に不利になったりする場合があります。ですから、幅広いメーカーと付き合いがあるトミタのような商社が有力な候補になるのではないかと考えました。
一般的には今回のように、特定のお取引先と強固なパートナーシップを有する会社がM&Aをする場合、取引先を失うリスクもありますので、細かな配慮が必要です。
お相手先に求める条件はございましたか。

特に相手先に特別な条件や基準を設けることはありませんでした。一番の望みは、このM&Aによって仕事が増えることです。他には、こちらから次期社長を指名させてもらいたいということ、給料の指定くらいですかね。その結果、面談する会社が2社に絞られました。
トミタは事業の方向性が近いですし、名前も聞いたことがあり、仕事の繋がりもあったため、元々親近感がありました。大手工作機械メーカーを通さずに、商社から直接仕事を受けると利益率が向上するのではないかという期待もありました。
M&Aに良い印象を持っていなかった従業員の気持ちが大きく動いた
ここからは、譲受企業である株式会社トミタの冨田社長にも参加いただいて、お話を聞かせていただければと思います。まずは事業のご案内からお願いいたします。

私の曾祖父が1911年に創業した会社です。2021年に私が4代目社長に就任しました。長年、機械・工具系のビジネスを続けてきて、今でも主力は工作機械の販売となり、様々な工場設備に関わっています。海外展開にも注力しており、40年前にはじめてアメリカに進出を果たしました。今では海外9か国19拠点の営業所を展開し、主に日系のお客様へ工場で使用する設備やMRO品(Maintenance Repair and Operations)を提供しています。
もちろん、他にも数多くの機械商社があるなか、工作機械の販売だけでは差別化が難しい時代にあると思っています。そこで重要になるのが、トミタならではの付加価値をいかに形作るかということです。今回のM&Aは、その手段のひとつであると捉えています。私たちが自覚する強みのひとつに、機械だけでなく、さまざまな機器類を含むライン一式を受けられる点が挙げられます。ロボットを組み合わせた自動化の提案も得意としていますが、メーカーであれば、自社製品しか使えません。しかし私たち商社は、さまざまなメーカーの製品を幅広く扱うことができるため、お客様のニーズに一気通貫で対応することが可能です。
M&Aに対する貴社の基本的なお考えを教えてください。

今回がはじめてのお譲り受けでした。私自身、M&Aは会社が成長するために必要なことだとずっと考えており、パートナーとして同業の商社を探していました。これまでの私たちの経験やノウハウを活かすには、同じような業界が良いと考えていたのですね。反対に商社の特徴でもある身軽さを残すためにも、メーカーと一緒になることは一切考えていませんでした。
今回、M&Aキャピタルパートナーズからフィールド社を提案されて、“メンテナンスができるというのはお客様にとってもプラスになる”と考えました。“ヒトの力で色々なものを提供する”というスタンスは、私たち商社とも考え方が近いと思いましたし、長く業界に関わってきた堅実さにも親近感がわきました。
日本の人口は減少傾向にあり、製造業も縮小してきています。自社単体で人を採用し、成長するのはあまりにも時間がかかりすぎます。M&Aはその解決策のひとつになるだろうと考えていました。私たちもそうですが、日本の製造業はどんどん海外に出ています。工作機械も同じで、日系工作機械メーカーの海外売上は国内の2倍の市場規模となっています。国内外問わず、事業を広げていくために、やはりM&Aは良策だと思います。
どのようなパートナーを求めていたのでしょうか。
私たちは卸業者を介さずお客様に直接販売をしているので、パートナー企業の顧客も重視しています。直接お客様の困りごとを聞いたり実際に現場を見たりして提案することを重視しているので、良いお客様を持つ企業を探していました。そういった意味でフィールドは魅力的に映りました。
トップ面談の際の、お互いの第一印象をお聞かせいただけますか。

当日はフィールドまで足を運んでいただいたのですが、上場企業の社長に対して、“こんなところに来てもらってもいいのかな“と思っていました。実際にお会いしてみたら話しやすく、とても良いイメージを持つようになりました。
何を聞いても正直に答えてくださって、オープンな方だと感じました。とても話しやすかったですね。製造業のオーナーの中には強いこだわりを持った方も多いイメージがありますが、横井さんはそういう雰囲気ではありませんでした。
もともと、M&Aキャピタルパートナーズからいただいた資料を見た時点で、とても気持ちは前向きでした。当初から、会長や社内の評価は高かったのですが、実際にお会いしてみて“付き合いにくい人だったらどうしよう”という不安もありましたが、まったくそうではなく、ご一緒できそうな方でホッとしました。
横井様と資料を用いて、事前に面談の打合せをしていたのですが、その時点から、トミタに対してとても高い関心を持っていらっしゃいました。当日は、取引先などの話で盛り上がったのを覚えています。
トップ面談には、従業員も参加させてもらいました。実は当初、従業員たちはM&Aにあまり良い印象を持っていなかったのですが、M&Aをしなければ借金が必要になるという話をして、納得してもらったという経緯があります。しかしトミタの名前がでて、だんだん気持ちが変わっていき、実際にお会いしたことが決定打になりました。面談後に従業員とも話をして、「トミタがいい」という共通認識になりましたし、私も上場会社と一緒になれる、“こんなに良い話はない”と思いました。

M&Aキャピタルパートナーズは、結婚で例えると、お見合いしてプロポーズを受けた後、婚約するタイミングからしか料金が発生しないので、安心して話を進めることができました。最終決断をするのはもちろん私ですが、トミタと進めることに、断る理由はひとつもありませんでした。
田中さん、本山さんの協力もあって、そこからの手続きもスムーズに進みました。成約後には、肩の荷が少しおりたと感じました。本当はすぐにでも辞めたかったのですが、冨田社長から「もう少し続けてほしい」と言われて今に至ります。
まだお若く元気なので、ぜひ続けていただきたいと思いました。横井さんは何と言っても技術力もありますし、従業員のためにも、しばらくご協力していただきたいと申し入れました。
従業員はM&Aの話を聞いて、最初は驚いていましたが、私も会社に残って今まで通りなので、従業員への影響もほとんどないと思っています。私自身は偶然社長になっただけだと思っていたので、今回のM&Aで仲間たちが安心して仕事を続けられる環境ができれば良いと、ただそれだけを願っています。
自分たちでは分からないが、フィットする会社をピックアップ
冨田社長が描く有限会社フィールドの未来像はどのようなもので、それはトミタにどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

当然、現在の仕事を継続していただき、その上でさらに事業を広げていくことを一緒に考えたいと思っています。これから人員を増やして、他の機械メーカー品や私たちが扱っている輸入機械にも事業を広げていきたいですね。そして将来的には海外進出も考えています。今のフィールドには電気のスペシャリストが集まっていますが、今後は機械(メカ部)や様々な領域のスペシャリストを採用し、機械全般のサービスをワンストップでご提案できるようなスペシャリスト集団にしたいと考えています。
今回のお取り組みの中で、M&Aキャピタルパートナーズはどのようにお役立ちになりましたでしょうか。
譲渡先のリストをたくさん持っていて、私たちでは分からないけれども、自分たちに合いそうな会社をピックアップしてくれました。情報の豊富さと高い提案力によって、素晴らしいお相手と巡り会えました。また提出資料作りもサポートをしてもらえて大変助かりました。とても感謝しています。

私たちのニーズに合致する会社を紹介してくれました。また迅速、的確に対応してくれた点にもプロ意識を感じました。今、M&Aの仲介会社も増えてきていて、こちらの期待通りに動けない担当者も少なくなかったのですが、M&Aキャピタルパートナーズは業歴が長く、担当者もしっかりしていると感じました。仲介のアドバイザーも商社と同じで、ただ売り手と買い手の間を伝言ゲームのようにつなぐだけでは意味がありません。両方の話を聞いて、どちらもサポートをするという姿勢がなければ、うまくいかないでしょう。M&Aキャピタルパートナーズはしっかり、その役割を全うしてくれました。
ありがとうございます。最後に、皆さまから、これからM&Aを検討する経営者の方々にメッセージをお願いします。
今は、様々な媒体で「60歳を過ぎたら事業承継」という情報が流れてきます。不安を煽られるようにも感じますが、道筋だけはきちんと整えておく必要があるのではないでしょうか。事業承継を考えるなら早い方がいいですね。私も悩み始めてからこれまで3年が経っていますから。しっかりした仲介会社に相談してみてください。
私たちと付き合いのあるメーカー、加工業、卸売業でも、やはりオーナーが高齢で廃業される会社も出てきています。しかし、そうなると従業員も路頭に迷ってしまうので、経営者の方はそのあたりも考えて、早めに決断した方が良いのではないでしょうか。
横井社長は裏表なく、一貫して誠実な方でした。そして冨田社長にも同じような印象を受けました。社長の人柄は企業文化に紐づくところでもあると思いますので、両社はそういった点でもとても合っていると感じながらご支援を行っていました。これからさらに両社が成長していくことを、私たちも楽しみにしています。
仲介を長く経験していますが、なかなかマッチングしないケースも多いなか、今回のように両社とも最初のお考えにはなかったお相手と出会い、なおかつ今とても喜んでいただいているというのは、私たちの仕事冥利に尽きます。私たちの仕事は、結果的に従業員の方々からも“良かった”と思ってもらえるようなM&Aになることが理想です。私たちも、この素晴らしい関係性を維持し続けられるように関与していきたいと思っています。
今回のご縁組みは日本のモノづくりにおいても新しいシナジーが生まれ、これはさらに広がっていくだろうという期待に満ちたお取り組みになりました。僭越ながら、これからの両社の活躍を祈念しています。

(左から)弊社 田中、冨田様、横井様、弊社 本山
文:伊藤 秋廣 写真:小野 綾子 取材日:2024/9/24