M&A後に会社に残る、会社から去る。
不動産業に力を注いだ二人の創業者の、それぞれの道
東京都台東区を拠点として総合不動産業を展開してきた株式会社さくら不動産販売は、2024年、株式会社レジデンシャル不動産への株式譲渡によるM&Aを行った。なぜM&Aを考え、譲渡先に株式会社レジデンシャル不動産を選んだのか。同社創業共同経営者である羽田 昭 様と山崎 康夫 様に話を伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社さくら不動産販売
- 所在地
- 東京都台東区
- 事業内容
- 不動産仲介事業、不動産買取再販事業、新築分譲住宅・宅地事業
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 27名
- M&Aの検討理由
- 更なる成長発展のため
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譲受企業
- 会社名
- 株式会社レジデンシャル不動産
- 所在地
- 東京都足立区
- 事業内容
- 中古住宅再生事業、不動産売買事業、不動産仲介事業、不動産コンサルティング事業など
- 資本金
- 3,000万円
- 従業員数
- 261名
- M&Aの検討理由
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事業領域の拡大などのため
時代の荒波を何度も乗り越えながら共同経営を続けてきた
まずは株式会社さくら不動産販売を創業した経緯からお話しいただけますでしょうか。
今から25年前、私と山崎の2人で創業した会社です。私たちはちょうど同じ時期に前職の不動産会社に転職してきて意気投合した、いわゆる“飲み仲間”。30代後半にさしかかる頃、かねてから考えていた独立を本格的に進めようと私が当時トップセールスだった山崎に声をかけ、共同経営者としてこの会社を立ち上げました。
私も元々、将来的には自分で商売をしたいと考えており、独立に向けたスキルアップのために転職をしたという点で互いに境遇が似通っていたのです。業界経験は浅くても一生懸命に仕事に臨む彼の姿勢に対する尊敬もあり、当初から“私が営業を、宅地建物取引士資格を持つ羽田が契約関係を担う形で、一緒に会社をやれそうだ”と思い描いていました。
不動産業界において、共同経営というのは珍しいですよね。
私たちは偶然にも気が合い、一緒に仕事をするのが楽しいと思えたので自然とそういう流れになりましたが、確かにあまり聞かないかもしれませんね。
私はどちらかというと突っ走る性格ですが、羽田は冷静さを持っているので、バランスが良かったのでしょう。周りからも、私たち二人で「ちょうど良い」と言われていました。
起業して、滑り出しは順調でしたか。
おかげさまで、順調でした。契約から入金までにタイムラグがある事業の性質上、起業して数か月間は収入が十分でない時期もありましたが、仕事は着実に増え、従業員はおらず私たち二人だけでしたので経費もほとんどかかりませんから、うまく回せている手応えがありました。
一般的な不動産の取り扱いにおいては、お客様との信頼関係を築くことができれば、私たちのような創業間もない会社であってもお取引させていただける、ネームバリューは問題ではないのだ、と実感しました。
とはいえ、その後もずっと順風満帆だったわけではありません。創業1年目から徐々に社員や店舗数を増やしましたが、事務所を移転した時期にリーマンショックが発生。時を経て景気は回復したものの、今度は東日本大震災によって日本の経済が再び大きな打撃を受けました。こうした景気変動の影響を受けて一時は店舗展開を縮小しながらも、何とか凌ぎ、厳しい経営状態を立て直してきました。
不動産業は景気に左右されやすいため、“会社が潰れるのではないか”という不安が常に付きまとっていましたね。そうした中、コツコツと実績を積み上げながら少しずつ手がける事業の幅を広げ、また少しずつ組織を拡大して今に至ります。私たち二人が臆病で無理には大きな挑戦をしてこなかったために、事業規模という点では創業から25年が経つ今でもあまり変わりません。私はこれでよかったのだと思っています。
「M&Aで会社が“無くなる”のではなく、“成長する”」
その考え方に背中を押され、推進を決断
どのようなきっかけからM&Aを意識するようになったのでしょう。
50代半ばになって、急に“このまま会社を辞められないのか”と不安になったことがきっかけです。私も山崎も自分の子どもに継がせるつもりはなく、また資金面を考えれば社員の誰かに継いでもらうことも現実的ではありませんから、何らかの形で事業承継の準備をしておかなければならないと考えるようになりました。
そんな折にM&Aキャピタルパートナーズからダイレクトメールを受け取り、“もしかしたら後継者問題を解決する手段の一つになり得るかもしれない”と、M&Aに対する知識もあまりないままにご連絡を差し上げたのです。
私は反対に“自分たちで経営しているのだから、会社を辞めなくてもいいんだ”と思っていたため、羽田がそんなことを考えているとは思いもしませんでした。
初めからM&Aに前向きな印象を抱いていたわけではなく、「M&Aの担当者に会う」と聞いたときも、“実際に会ってみれば、やっぱりダメだったと羽田も納得して諦めるのではないか”と思っていました。
ここからは、M&Aキャピタルパートナーズの担当者である竹内さんも交えてお話を伺えればと思います。お互いの第一印象はいかがでしたか。
竹内さんの第一印象はとても好ましいものでした。オープンに自分をさらけだす、裏表のない方だと感じたことが印象に残っています。そして何より、M&Aに限らず幅広い分野の有益な情報を惜しげもなく教えてくださること、様々な提案をしてくださることに信頼感を覚えました。
羽田社長はとても冷静かつ物腰柔らかで、話しやすい方だという印象を持ちました。初回の面談では、私がこれまでご支援させていただいたM&Aの事例や、交渉や手続きの流れなどについてお話しさせていただいたかと思います。
そこで「M&Aで会社を成長させる」というお話を聞いたのが印象的でした。正直に申し上げると、それまではM&Aに対して「会社が吸収されて無くなる」というマイナスのイメージを抱いており、あくまで情報収集のためという姿勢で面談に臨みました。しかし、竹内さんのお話を聞きに “自分たちの会社を成長させてくれる相手を探せばいいのなら”と前向きに考えられるようになりました。
竹内さんは、どのような提案をしようと考えていたのでしょうか。
さくら不動産販売には、仲介や買取、戸建開発など幅広く事業を展開されているという会社としての強みはもちろん、営業担当者一人ひとりのお力という強みもあります。若くて実力のある方々が活躍されるさくら不動産販売の企業文化に合うお相手先を幅広くお探しし、多様な選択肢から絞っていただく方針でご提案をしていきました。
こちらから明確な条件はお出ししていなかったのですが、スピーディにお相手先の候補を共有してくださり、その中から選択していく過程でM&Aのイメージがより具体的に湧くようになっていった感覚があります。
羽田から途中経過を聞きながら、私も自分なりにM&Aについて調べて理解を深め、“この会社を大きくしてくれる方になら、託してみてもいいかもしれない”と考えるようになっていました。社員が増えて会社としての責任を強く意識する中で、自分たちだけの力では今の規模が限界だと感じていましたから。二人で話し合って「どんな状況になるかわからないけれど、進められるだけ進めてみよう」という結論に達し、 “うまく話が進まなければやめてもいい”という思いを持ちながらも二人の意志としてM&Aの検討を進めていきました。
社員の幸せを何より大切に、会社のさらなる成長を目指す
今回、お相手企業として株式会社レジデンシャル不動産を提案され、どのような印象を持たれましたか。
レジデンシャル不動産は、同業で取引もあることからよく知る存在でした。中古再販業界で最も急成長されている勢いのある会社という印象があったため、最初は“難しいかな”と感じていたのですが、実際にお会いして大きく考えが変わりました。
「新卒入社のメンバーが辞めずに活躍している」という話を聞いて、とても従業員を大事にする会社なのだろうと感じたことが特に印象に残っています。
お相手の社長は40代と若い方だったのですが、話をしていて引き込まれるような魅力があり、だからこそ若いメンバーも辞めずに付いていくのだと感じました。過去に取引のあった当社の社員のことも覚えていて、私たちの会社が好きだと伝えてくれたことが嬉しかったですね。
この人なら私たちの会社を大事にしてくれるのではないかと感じ、面談後すぐに話を進めることにしました。
ご成約後の率直なお気持ちをお聞かせください。
「社員に安心してもらえるように私が会社に残ること」をはじめ当社から提示した条件に適う形での成約となり、安堵する気持ちもありましたが、社員にどのように伝えるべきかという不安はありました。
お相手先がよく知る会社であったこともありますが、竹内さんにもアドバイスをいただきながら丁寧に話をしたおかげで、社員からの理解が得られたと感じています。
羽田さんが退任され、共同創業者としては山崎さんが一人会社に残られることになりました。
羽田から財務系の業務を引き継ぎ、 “社長とはこういう仕事をしなければならないのか”と必死に取り組む日々です。
これまで30年近く羽田と一緒にいて、良いことも悪いことも何でも共有しながらやってきたので、やはり寂しさはあります。ですが、自ら望んでこの会社に残りましたので、さくら不動産販売のカラーは残しながらも、レジデンシャル不動産のグループ企業として会社を成長させていけるよう、しっかりと臨みたいと思っています。
私はとてもスッキリとした気持ちである反面、今でも夜に1人でお酒を飲んでいると、頭に浮かぶのは会社のことです。それがだんだんと無くなっていったときに、何か新しいことができるのかもしれません。
M&Aキャピタルパートナーズのサポートをどのようにご評価いただいていますか。
親身になって相談に乗り、的確かつ誠実に回答してくださる竹内さんは、初めてお会いしたときから最後まで一貫して私にとって信頼のおける方でした。仲介会社という同じ立場で、売主の信頼を得ることの重要性を理解する者として、竹内さんのホールド力の強さを感じます。
成約に至れたのは、M&Aに係るサポートはもちろん、事業運営での課題に対しても支援してくださったおかげです。経理職者が不在で悩んでいた当社に、竹内さんの知り合いで信頼出来る方を竹内さんからご紹介いただきました。その方はM&A成立後もさくら不動産販売の一員として活躍してくれています。そこまで面倒を見ていただけるとは思ってもみないことで、大変感謝しています。
ありがとうございます。最後に皆さまから、これからM&Aを検討される経営者の方々にメッセージをお願いいたします。
人それぞれ置かれている環境や立場は違うため、必ずしもM&Aが正解だとは限りません。「どのような形が最適なのか?」をまずは相談してみた上で、最終的にご自身でしっかり検討し判断をされると良いのではないでしょうか。
自分の幸せはもちろん、残された社員の幸せを重要視することが、M&Aにおいて最も大切なことだと思います。
今回は、お二人が強く意識されていた「会社の成長」を実現できるようなお相手企業とのご縁をお繋ぎできたことを、大変嬉しく思っております。会社の将来について悩みを持たれているオーナー様は、ぜひ一度ご相談ください。
(左から)弊社竹内、羽田様
文:伊藤 秋廣 写真:コミヤコウキ 取材日:2024年10月18日