「素晴らしい経験をさせてもらった。」
創業30年の会社が迷いや葛藤を経て納得合意したM&A
1995年の創業以来、予防・未病領域を中心に事業展開してきた株式会社ウエルアップ。大手企業や官公庁、自治体に向けてヘルスケアソリューションを提供し、実績を積み重ねながら、生活習慣病予防や介護予防など、健康維持とセルフメディケーション推進を目的としたサービスを提供している。2024年、同社は株式会社フジテックスへの株式譲渡を行った。創業者で30年にわたり同社の舵取りを続けてきた木村 孝一様に決断までの経緯と今後の展望を伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社ウエルアップ
- 所在地
- 横浜市西区
- 設立
- 1995年
事業内容- 健康測定機器、トレーニング機器の販売及び販売レンタル
健康づくり事業、デイサービス運営など - 資本金
- 1,000万円
- 従業員数
- 50名 (グループ従業員含む)
- M&Aの検討理由
- 更なる成長・発展のため
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譲受企業
- 会社名
- 株式会社フジテックス(ジャフコ グループ株式会社投資先)
- 所在地
- 東京都新宿区
- 設立
- 1978年
事業内容
総合商社- 資本金
- 3億円
- 従業員数
- 300名(グループ会社含む)
- M&Aの検討理由
- 健康事業の強化のため
時代の流れに乗ったヘルスケア産業を確立し発展に寄与
創業の経緯からお話しいただけますか。

大学卒業後は大手事務機器専門商社に勤務していました。営業力には自信があり、戦力として会社に貢献していた自負がありました。独立意識が高かったわけではありませんが、「起業しても自分ならやっていけるのでは?」という思いがあり、事務機器商社に3年半ほど勤めた後に、仲の良かった先輩と一緒に起業しました。
しかし、なかなか軌道に乗らず事業は実を結びません。そんな中、とある出会いとご縁に恵まれて、当時は珍しかった体脂肪計を取り扱うようになりました。40年ほど前の日本では体脂肪についての認識自体が薄く、もちろん体脂肪計などもありませんでした。さらに、当時の体脂肪計はアメリカ製のみだったため当然ながら欧米人仕様。日本人向けにカスタマイズする必要性に気づいたところ、日本人の各種データを収集している企業にタイミングよく出会ってご一緒できた結果、日本人に最適化された体脂肪計が完成したのです。
この体脂肪計の販売を開始したのがヘルスケア事業を始めたきっかけとなり、その経験を活かして会社を立ち上げたことが、現在のウエルアップにつながっています。

ヘルスケアという新しい産業を切り開くなかで、どのようなやり甲斐を感じてこられましたか。
顧客と一対一で向き合う中で、病気の予防や未病対策はこの国の未来を明るくする要因の一つであると確信し、ヘルスケア産業の存在意義とやりがいを感じてきました。また、事業を大きくしていく過程で「お金をいただきながらも人から感謝される」のは幸せなことでした。
例えば、地方自治体主催のイベントなどで健康測定機器を使用した「足裏健康測定」という測定業務をご依頼いただいて、全国各地へ出向いていた時のことです。
地域住民の方を対象に、測定結果から姿勢や足腰などの健康度合いを伝えたり、簡単な運動などのアドバイスをしたりしていたのですが、朝から昼過ぎまで並んでくださる人が絶えないほどの盛況で、健康度測定の大きな需要を感じました。
その中で今でもよく覚えているのが、脳梗塞を患った方が「去年アドバイスしてもらった軽い運動を続けた結果、おかげさまで新聞が読めるようになりました」と、私のアドバイスにより思いもよらず以前よりも目が見えるようになったと感謝してくださった方がいらっしゃったことです。
「実際に人から必要とされて感謝される」こんなにありがたいことはありません。だからこそ、なぜ我々がヘルスケア産業に力を注いでいるのか、現場を経験して一人ひとりの方と向き合って、その本質を理解してほしいと社員にはよく話してきました。
還暦をきっかけに意識が変わり真剣に検討し始めたM&A
なぜM&Aを考えるようになったのでしょうか。
会社経営をしていると、毎日のようにM&Aに関するダイレクトメッセージやメールをいただくので、M&A自体については、なんとなく理解はしていました。
また、古くからの知り合いの会社社長から、ご自身の年齢や健康問題のため、ご希望があって譲受側としてその会社を引き受けた経験もありました。本格的にM&Aなどを考えるようになったのは、コロナ禍で悪化した業績を、3年かかって立て直しができた時でした。
「もうすぐ還暦になるけれど、この会社は今後どうするべきなのだろうか」どこかおぼろげに、「いつか会社の事業承継をなんとかしなければならない」という意識はずっとありましたが、会社の未来のことを考えておかなければならない時期が迫っていることに改めて気がつきました。
還暦は生まれ直し、人生の新たなスタートと言われますが、事業をされていると大きな節目になるのですね。
そうですね。そして2年ほど前の話なのですが、たまたま家族で食事をしていた際に長男が私の会社に入る意向を申し出てくれたのです。実は、息子が私の会社を継ぐことは全く想定していませんでした。人を束ねる大変さは身にしみていましたし、我が社の社員の平均年齢は比較的高いので、「まだ30歳の息子には荷が重いのではないか」という懸念もありました。しかしながら親心からすると非常にありがたいというか、嬉しい申し出であり、息子に入社してもらうことにしました。その頃もいろいろな仲介会社からM&Aの話の提案の連絡が来ていたため、複数の会社とは情報交換を目的に、時々会ってお話を聞いてはいました。
複数のM&A仲介会社とお話をされる際、どのような観点を大切にされていましたか。

実際に仲介会社に会ってみると、特に我が社に興味があるわけではなく、「なんとなく我が社のような業態に興味を示している会社がある」というような不明確な話が多いように感じたため、具体的にウエルアップに興味を示す提示をしてくださる会社であればお会いすると決めました。それに、「我が社に興味を持ってくれる会社は、どのような会社なのか」を知りたいという思いもありました。
そのような中で去年、M&Aキャピタルパートナーズではない、別の仲介会社の方とじっくり話す機会がありました。すると、M&Aは「悪い話ではない」と思い始めました。
「M&Aは悪い話ではない」と思われるようになった理由を教えてください。
すでに息子が入社していたので、事業承継では問題がありませんでした。 当時は、「今の事業モデルのままでこの先5年、10年と同じような成長ができるか」、成長戦略的に次のステージをどう描こうかという課題感がありました。ヘルスケア事業以外で違う事業領域を拡大したり、 新たなヘルスケアの事業モデルを作ったりしなければならないということは考えていて、社員にも「とにかく新しいことを始めよう」と常に言っていたのですが、なかなかうまくいきませんでした。
そんな時に、その仲介会社から提案があったのは、事業会社ではなく投資ファンドと資本提携を行って必要な支援を受けられるというものでした。
投資ファンドの支援を受けるということは、新規事業の立ち上げが得意な人材のアテンドやサポートが可能になることに魅力を感じました。そして、次のステージを目指せるのではないかと思ったのが大きかったですね。
その提案により、新しい視点が生まれたのですね。
はい。そしてお相手の会社の社長とトップ面談を始めた頃から意識が急激に変わり始め、自社をステップアップさせるための一つの選択肢であることが理解できた、腑に落ちたという感覚でした。そして「やらない意味がないのではないか?」「こんなに可能性が広がるんだったらやった方がいいのでは?」という考えに変わりました。
御子息が入社されたことで、会社をさらに拡大しておきたいという思いもありましたか。
ありました。だからこそ投資ファンドの力をお借りできればと。ただ、投資ファンドの場合はいずれ別の会社に譲渡されることになるので、その仲介会社からの提案もあり、事業会社も並行してトップ面談を行うことにしました。
そのような具体的な行動に移していた時期に、2019年頃からお会いしていた安田さんからタイミングよく連絡をいただきました。
安田さんは、初めてお会いした時からすごく誠実に対応してくれる印象がありました。だからこそ、安田さんからも具体的なお話を聞いてみたいと思ったのです。
ここからは、M&Aキャピタルパートナーズ 担当アドバイザーの安田さんにもお話を伺います。安田さんが木村様にお会いした時の印象を教えてください。

2019年にお会いした当時の木村社長は、事業意欲が旺盛で、まだまだご自身で事業成長させたいお考えが強いご印象でした。ただ、その時はご子息が入社されていなかったため、いつか事業承継を検討されるタイミングが来るだろうということは、私も考えていました。
そのためどこかでお声がけしたいなという意識がずっと頭にあり、もし木村社長がお考えになられる時が来たら、即座にご支援できるようにしたいと思っていました。
確かに、コロナ禍でも定期的に連絡をくださっていましたよね。けれどそのころは、売り上げが落ちてしまっていたし、「それどころではないから」という話をしていたと思います。
比較検討することで最良の選択が明確に
木村様は安田さんの前に他の仲介会社からじっくりお話を聞いていたと思いますが、どうしてそのまま進めなかったのでしょうか。
いろいろな意味で不安というか、1社だけから話を聞いてると、その情報が「本当に私にとって有利なのか」判断できないと感じました。安田さん経由でも並行で進められたのは、比較検討できたのですごくよかったと思います。紹介してくださるリストの内容もそうですし、アプローチが違いました。
天秤にかけてるみたいで申し訳なかったのですが、最終的には安田さんに紹介していただいた複数社の中からフジテックス、他の仲介会社紹介の中の1社で相当悩みました。
結果としてM&Aキャピタルパートナーズの仲介で話を進めることなった理由をお聞かせください。

フジテックスに魅力を感じたというのが最終的な理由になりますが、安田さんがとにかくすごかったのです。譲受候補先への紹介のために安田さんが用意してくれた我が社の企業概要書は、なんと70ページもありました。本当に膨大な量で、もう1社の仲介会社よりも後から動き出したのに短期間で渾身の資料を完成させてくれたのだなと、びっくりしました。
最初お会いした時から誠実な方という印象はありましたが、その印象はずっと変わりませんでした。さらにクオリティの高い資料も作っていただき、安田さんは信用できると確信しました。丁寧に段階を踏んでくれて、ものすごく尽くしてくれて。声を大にして感謝を伝えたいですね。
安田さんは木村様へのご提案をどのような流れで考えていましたか。

ウエルアップは営業を自主的にされてなくても、毎年売上が120%成長されている素晴らしいビジネスモデルを持っていらっしゃいました。木村社長がおっしゃっていた「セルフメディケーション」や「未病・予防」などはここ数年盛んに言われ始めてきたことですが、ウエルアップでは数十年取り組んできた時代に求められる事業であり、高い評価が得られる会社だと考えていました。
また、木村社長自身が一番考えていらっしゃったのは、既存事業の強化よりも「新しい展開の可能性が広がる相手と組みたい」という点でしたので、そこまでを見越したお相手かどうかも大事でした。
フジテックスは商社として様々な事業を展開していますが、その中の健康事業ではウエルアップと近しいビジネスを行っていました。また、2万社以上の法人顧客基盤を持っているため健康経営支援の需要があったり、新規事業開発で協業できるパートナーを引っ張ってくる力があります。さらに株主にジャフコ(ジャフコ グループ株式会社)がおられ、 投資ファンドとしての経営支援や人材採用支援に加え、国内最大級のVCとしての新技術を持ったベンチャー企業との接点、フジテックスとともにIPOを目指す姿勢など、木村社長のお考えと合致すると考えました。
不安や葛藤を経て信頼できるM&Aのお相手を決定
木村様が、たくさんの候補の中でフジテックスを最終的に選んだのはなぜでしょうか。

フジテックスの皆さまは総じてお若く、熱いエネルギーみたいなものを感じていたのと、我が社を高く評価していただいたことも理由にあります。
また、フジテックスに資本参加しているジャフコがいるのは大きいですね。ジャフコの投資先の企業と、さらに事業連携ができる可能性があるのは我が社にとって大きなメリットです。
それに、フジテックスと会食した際に、馬が合ったというか。先方は現場からの叩き上げで経営陣になられている方なんですよね。私ももともと、営業ノルマの厳しい環境で飛び込み営業からやってきた経験があり、 同じノリというか気概を感じました。この方たちとだったら、一緒に進めていけるのではないかと思いました。これが最終的な決定打かもしれないです。
それでも結論を出されるまでに葛藤や迷いはありましたか。
すごくありましたね。息子が入社してくれた中でM&Aを進めるべきなのか。ただ30歳の息子よりも年上の社員が多いため、そのまま息子に承継すると大変な将来を想像して不安を感じていました。実は今回M&Aを進めるにあたって最終的な2社に絞ってからは、打ち合わせや会食に息子も同席させていました。親心からすると、「息子が納得してくれないと決められない」という気持ちがあったからです。
もう1社の仲介会社が紹介したお相手に対しても、木村社長はずっと好印象を持たれていました。実は、一度は「もう1社の方と進めます」というお話までいただいていたのです。ですが「やっぱりもう少し検討します」というところから、もう一度戻ってきていただいた流れがありました。もう1社もいいお相手だったので、葛藤があったのだと思います。
そうでしたね。我が社に足りていない分野でお力がある企業でしたので、ご一緒できることがとても魅力的で、心底迷いました。
木村様がM&Aを検討されたのは、御子息にきちんと引き継いでいくための一つのステップというお考えでしたから、ご本人に納得いただけないと進められなかったわけですね。

そうですね。フジテックスは息子が入社した背景も理解してくれていて、「息子さんが成長できるステージを一緒に作っていきましょう」というありがたい話もしてくださいました。息子自身もまだ決める前なのに、「今以上にいろいろな方たちと仕事ができることにワクワクしかない!」と、新しい未来を期待してくれていました。そんな息子の前向きな気持ちも、背中を押してくれました。
安田さんはどのような心境で伴走されたのでしょうか。
ベストは尽くしましたので、あとは社長のご判断にお任せしようと思っていました。両方のメリット、留意点をフラットにお伝えすること、情報提供はできる限り惜しまないことを心がけました。私自身も木村社長とよくお食事をして楽しい時間を過ごさせていただいていたのですが、フジテックスとの会食も良い雰囲気でお話も非常に盛り上がっていましたので、そうした感性の一致が決め手になったのかと思います。
心強いパートナーの伴走によりたどり着いた成約、この先の未来
パートナーを決定された時のお気持ちやその後の状況をお聞かせいただけますか。

フジテックスと決めてからのプロセスは、おかげさまで想定してたより大変ではなく、手続き関係も率先して安田さんにサポートいただいきました。決断した後は、本当に全てお任せできた感覚です。
社員はなんとなく変化を感じて、不安もあったのだと思いますが、先日フジテックスとウエルアップの両社員を交えて懇親会を開催したところ大盛り上がりし、その様子を見て、心の底から安心しました。この決断をして本当に良かったと感じました。まだ始まったばかりですが、この先の未来に心が躍りますし楽しみです。
これから社員間で交流が始まると、ウエルアップの社員も刺激を受けてモチベーションが上がったり、良いシナジー効果が生まれたりして、良い形で会社が循環していく気がしています。
M&Aキャピタルパートナーズの支援に関して、どのような感想をお持ちですか。
安田さんは何から何まで頼りになりました。緻密な資料づくりはもちろんのこと、事前に細やかに気配りしてくださったり、スムーズに必要な方をアテンドしてくださったりと本当によくやっていただいたなという思いです。素晴らしい体験をさせてもらって、私にとっても良い経験になりました。
「素晴らしい体験」という表現がとても素敵だと感じました。
例えば「投資ファンドってどういうことなのか」など、今まで言葉としては聞いていましたが、実際どんな人がどんなことをしてという仕組みまで肌で感じながら学べたことなどが挙げられます。
安田さんのような優秀な方たちが黒子となって我々を支え、前に進めてくれる役割を担っているということも知ることができました。すごく頼りになると感じました。感謝しています。
お世話になった安田さんとは、一生涯お付き合いしていただきたいと思っています。

そのようなお言葉をいただきとても光栄です。 木村社長は非常に人間的な魅力に溢れていらっしゃり、会食などを重ねて互いのプライベートの話もたくさんさせていただき、楽しい時間を過ごさせていただきました。2019年から繋がりがあったというのもありますが、なんとかお役に立てるといいなと、ずっと思っていました。
木村社長は最初の頃はずっと「よっぽどのことがない限りM&Aはしないよ」ということをおっしゃっていたのが印象に残っています。ご子息様も入社された中だったので、最終的にM&Aを選ばれなかったとしても、その比較検討のための最大限のご支援ができたらいいなという思いで、ずっと伴走させていただきました。
これからM&Aを検討する経営者の方々にメッセージをお願いします。

私はM&Aは「よくある会社の将来の選択肢の一つ」という認識でしたが、M&Aの本質のようなものを聞く機会があって、トップ面談をして、成約にたどり着きました。ただ単に事業承継だけの話ではなく、「自分が退いたあとの会社の成長のために何すべきか」という経営先約の選択肢の一つとして、話だけでも聞いてみた方が絶対良いと思います。
また、今回安田さんと私のように、仲介会社の担当の方との相性は伴走してもらう上ではすごく大切だと思います。
「少しでも考えられている経営者の方は、一度お話を聞いてみるべきですよ」ということをお伝えしたいです。
今回は素敵な会社、社長のご支援をさせていただけたことをとても嬉しく感じています。
経営者の方々は、さまざまな仲介会社から日々アプローチを受けられていると思います。M&Aキャピタルパートナーズでは、各社の魅力を最大限引き出して良いお相手や条件を見つけること、オーナー様が決断された後はストレスなくM&Aのプロセスが進められることを大事にしており、そのような体制が整っています。もし少しでも情報収集をしてみようとお考えになれば、ぜひご支援をさせていただければありがたく思います。

文:伊藤 秋廣 写真:長坂 佳宣 取材日:2025/1/17
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