

選択肢の先にあった、想いを託せる出会い
1974年創業の株式会社海成。解体工事を主軸に、大手ゼネコンや地域ゼネコンとの直接取引を実現。専門性の高い有資格者が多数在籍する会社として、着実な経営基盤を築いてきた。2025年、同社は大栄環境株式会社へ株式譲渡を行った。35年にわたり同社の舵取りを続けてきた元代表取締役社長 越川正様と元専務取締役 越川知子様、譲受企業である大栄環境株式会社の代表取締役社長 金子文雄様、執行役員 出射邦彦様に、M&Aに至るまでの経緯と今後のビジョンを伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社海成
- 所在地
- 千葉県千葉市
- 設立
- 1974年
- 事業内容
- 建物総合解体工事、産業廃棄物収集運搬など
- 資本金
- 2,000万円
- 従業員数
- 35名
- M&Aの検討理由
- 後継者問題の解決
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譲受企業
- 会社名
- ⼤栄環境株式会社
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 設立
- 1979年
- 事業内容
- 環境関連事業・有価資源リサイクル事業など
- 資本金
- ―
- 従業員数
- 2,701⼈(グループ従業員数)
- M&Aの検討理由
- エリア拡大・シナジー創出
会社の主軸として一から育て上げた解体工事業
はじめに創業の経緯をお聞かせください。

私の父が職人を集めて、はつり工事(コンクリートや石材などを削ったり切ったりする工事)を行う会社を立ち上げたのが、海成のはじまりです。それから15年ほど経過し、父が突然会社を辞めてしまいました。当初は番頭をしていた方に事業を譲り、職人もそちらへ移籍したのですが、私のところへ数名の若い職人がやって来て「会社をやってほしい。そうすればついていきますから」と言われました。その一言に、迷いながらも心が揺さぶられたのを覚えております。
とはいえ、学生時代に建築を学んだ私は、その当時、塾を経営しており、妻も別の塾で勤務しており、将来は夫婦で塾を運営するつもりだったため、会社を継ぐことは全く考えていませんでした。
その一方で、当時は解体工事事業が好調で、事業として面白そうだと思っていました。父の事業をそのまま引き継ぐだけでは物足りなさを感じていたため、1989年の1月に思い切って重機を1台購入し、解体工事を手がけるとともに自ら経営を始めました。

私は塾の仕事の傍ら、義父に頼まれて帳簿をつけていたので、会社のことを全然知らないというわけではありませんでした。夫が会社を継いだあとは、子育てをしながら会計事務所とのやりとりを担当していました。
当時は塾の生徒が50〜60人いたので、昼間は会社経営、夕方は塾の仕事という二足の草鞋を履く生活を1年ほど続けていました。正直、体力的にも精神的にも大変でしたが、それでも家族や若い職人の期待に応えたいという想いが背中を押していました。しかし、このままでは「良くない」と思い、会社経営に専念することにしたのです。
最初の10年、15年は、とにかく目の前のことをこなさなければという想いでいっぱいでした。朝5時頃に事務所へ行って職人を送り出し、夕方まで現場回りや営業をして、夕方帰宅して入浴と食事を済ませて、また営業に出るといった日々でしたね。でも、その時はつらいと全く感じませんでした。
お忙しい日々を過ごされる中で、現在の経営方針はどのように確立されたのでしょうか。

40代のときに、経営に関する講習会などへ参加するようになり、「このままではいけない」という焦りと、「もっと良い会社にしたい」という願いが入り混じる中、会社としてあるべき姿を模索するようにこれがきっかけで、経営理念から会社の方向性なども考えるようになったのです。
仕事には厳しさがあって当然ですが、会社の中で「やっていて良かった」と思えるようなものを作れるかどうかというのが、一番の課題でした。
どのような形であれば自分自身の性格とマッチングするのか考えていく中で、50代くらいで従業員との距離感を縮めることが一つの答えだと気づいたのです。ただ単に距離感を縮めるとなると、どうしても公私混同しがちです。従業員はもちろん、その家族のことまで気になってしまうので、他の経営者からは「甘い」と言われ続けていました。
私から見ても、夫は人の成長に喜びを得るタイプなので、学校の先生が天職だった思います。そういう観点から見ると、途中から社員育成に舵を切ったのは正解だと感じていましたし、彼の性格から考えても腑に落ちました。
若い従業員が技術を磨き、資格も取得する。さらに結婚をして、家庭を持ち、子どもができて、家を建てる――といった過程に、夫も私も非常に喜びを感じてきました。それこそが会社のイメージそのものになったと思います。
そこからどのような流れでM&Aを考えるようになったのでしょうか。
6~7年前に若手を育てるためにはどうすればいいか、主要メンバーを集めて話し合いました。会社を継続させるための方法を考える際に、会計事務所や銀行へも相談していましたが、資本の承継なども考えると最終的にはM&Aしかないと判断しました。
でも、M&Aだと決断することはなかなかできませんでした。現在68歳ですが(※2025年3月時点)、「70歳になったらやろう」という気持ちでいましたね。
M&Aキャピタルパートナーズとはどのようにして出会われたのでしょうか。
2023年4月にM&Aキャピタルパートナーズの岡山さんからお手紙をいただいたことが、ご縁のはじまりでした。翌月には実際にお会いして、M&Aの流れや進め方について丁寧にご説明いただきました。当時は他のM&A仲介会社の方ともお会いしていましたが、時期が来たら改めて相談しようという思いで、やりとりを続けていました。
実際にお会いされて、担当者の印象はいかがでしたか。
岡山さんとは、2023年に初めてお会いしましたが、その際に率直さと純粋さを感じられる、とても誠実なお人柄だと感じました。もちろん他にも、大手の仲介会社やメインバンクの担当者の方々からもお話を伺っていましたが、私自身の中では、どこか説得力に欠ける印象が残っていました。
その後、岡山さんに加えて、上席である土井さんもご同席いただくようになり、お二人とやりとりを重ねる中で、より一層の誠意と安心感を持つことができました。
特に、M&Aキャピタルパートナーズの持つ選択肢の幅広さは群を抜いており、初回のご提案時点で50〜60社ほどご提示いただいたことには大変驚かされました。
そこから、具体的に動くことになったきっかけは何だったのでしょうか。
2024年4月頃、夫婦で人間ドックを受けた際に、少し気になる所が見つかりました。幸い大したことはなかったのですが、「こういう時こそ早めに動いて結論を出したほうがいい」と考え、M&Aの話を具体的に進めることにしたのです。
アドバイザーの寄り添い続ける姿勢で、“後悔しない選択”へ
ここから担当の岡山さん、土井さんも交えてお話を伺います。まずは株式会社海成、越川様の印象をお聞かせください。

私がお送りした手紙に対して丁寧にご返信をいただき、お会いすることができました。これまでの実績もそうですが、従業員を大切にされている社風が伝わっており、本当に素晴らしい企業だと感じました。
やりとりをさせていただく中で、土井とも「この社風だけは絶対に崩してはいけない」と心に刻みながら進めていきました。
譲渡にあたり、どのようなご要望があったのでしょうか。

越川様は当初、異業種の企業とのご縁を希望されていました。また、従業員の方々を大切にしてほしいというお気持ちに加えて、長年会社を支えてきた稲垣様を、M&A後の新たな代表として迎えてほしい、というご要望もいただいていました。そうした条件に合致する企業として、ちょうど異業種の1社をご紹介できる見込みが立っていました。
ただ、1社だけでお話を進めてしまうと、比較ができず、本当にご納得いただけるかどうかがわかりません。ご希望にしっかり沿った選択をしていただくためにも、もう1社ご紹介したいという想いがありました。
いくつか候補がある中で、大栄環境様であれば社風も合うのではと感じていたのですが、ご紹介するには越川様の許可が必要でした。
ただ、同業に近いという点から、なかなかご了承をいただくのが難しく、丁寧なやりとりを重ねる必要がありました。
海成は一次請けの解体工事業者として、大手企業をはじめ地域のゼネコンと直接取引をしています。実はこれまでにも取引先を含め、さまざまなお話をいただいていたのですが、今後の経営体制や方向性を慎重にを見据えたうえで、丁重にお断りをしてまいりました。
また、私たちが異業種の企業とのM&Aを希望したのは、同業の子会社になることで”下請けのような立場”と見られてしまう懸念があったからです。そのような変化は、従業員の理解や納得を得る上で難しさがあると考えたことも、大きな理由の一つでした。
ご提案の初期段階では、越川様から「うちに寄り添えていないのではないか」と、3度ほどご指摘をいただいたこともありました。それでも私たちは、将来的に後悔のないご判断をしていただくためには、譲受企業の候補をできる限り幅広くご提示することが重要だと考えていました。仮に比較した上で「違う」と感じられた場合は、その時点でお断りいただければ構いません。そうした柔軟な姿勢を持ちながらも、岡山とも相談を重ね、越川様のご意向や価値観を丁寧に汲み取りながら、真摯にやりとりを続けてまいりました。
多くの企業様をご支援する中でも、越川様が従業員一人ひとりにこれほどまでに深い愛情を注がれているご姿勢は、私の中でも特に印象に残っています。
そこから許可を得られて、最初に書面で⼤栄環境株式会社を紹介されたときの印象はいかがでしたか。

大変恐縮ですが、私たちの拠点が関東ということもあり、大栄環境の社名を存じ上げておりませんでした。ただ、海成としては譲受先の条件として「上場企業であること」を重視していたこと、そして何より、従業員のことを第一に考えてくださる姿勢に安心感を覚えました。そうした点から、大栄環境様も選択肢のひとつとして検討させていただくことになりました。
ここからは譲受企業である大栄環境株式会社の金子様、出射様にもお話を伺ってまいります。まずは事業内容から教えていただけますでしょうか。

当社は、環境関連事業の中でも主に廃棄物処理を中核事業としています。
1979年に大阪府和泉市で創業し、もともとは廃棄物の最終処分事業からスタートしました。
その後、収集運搬・中間処理・再資源化・最終処分と、廃棄物処理のすべての工程を自社で担う“ワンストップサービス”体制を構築してまいりました。
現在の従業員数は2,700名を超えており、グループ全体では52社の体制となっています。
内訳としては、連結子会社が39社、さらに非連結・持分法適用会社・共同出資会社などを含めた構成です。実はこのうち、約7割の企業がM&Aによって当グループに参画いただいた会社になります。
M&Aに対する考えをお聞かせください。
これは業界の特性でもあるのですが、廃棄物処理事業は、極端に言えば“車1台あれば始められる”と言われるほど参入のハードルが低く、日本全国に数多くの事業者が存在しています。その結果、市場は非常に細かく分かれた「超分散型市場」となっています。
しかし近年では、収益性の確保や経営者の世代交代といった課題を背景に、事業の集約化が徐々に進んでいます。当社もグループ規模の拡大に取り組んでいますが、それでも市場シェアはまだ1%未満に過ぎません。だからこそ、より多くの企業と連携しながらシェアを拡大し、業界全体の認知度や信頼性を高めていくことが、私たちの使命だと考えています。
とはいえ、M&Aでグループに加わっていただいても、その先に成長戦略が描けなければ意味がありません。私たちは単なる買収ではなく、お互いにとってプラスになる“シナジー”が見込めることを、グループ化の前提として最も大切にしています。
M&Aキャピタルパートナーズからはどのような流れで紹介されたのでしょうか。

今回のご紹介にあたっては、以前から別の案件でお付き合いのあったM&Aキャピタルパートナーズさんのご担当者からお声がけいただきました。
実は当社では、これまでも同社を通じて複数のM&A案件をご相談いただいており、その中で信頼関係が築かれていたこともあって、今回もスムーズにお話を聞かせていただける流れとなりました。
そうした中で、新たにご提案いただいたのが海成さんでした。
ご紹介いただいた資料を拝見し、解体工事の実務力に加えて、有資格者の多さや従業員育成への取り組みなどがしっかりと記載されており、第一印象から非常に好感を持ちました。
タイミングとお互いの人柄が、シナジーを生むマッチングに
書面での印象をお聞かせください。

当社は関西を拠点に事業を展開していますが、廃棄物やリサイクルの市場規模という点では、東京圏が全国でもトップクラスです。そのため、市場拡大を見据えて関東エリアへの進出を進めており、2020年4月には埼玉県で中間処理事業を行う「株式会社共同土木」をグループに迎えました。さらに、同社の設備や拠点を活かせる体制を整えるべく、2024年4月には、東京を拠点に産業廃棄物の収集運搬を手がける「栄和リサイクル株式会社」もグループに加わりました。
栄和リサイクルは解体工事も扱っていますが、主に営業窓口や管理業務を担っており、実際の工事は外部に委託している状況でした。
そうした中で、実務面を担える企業としてご紹介いただいたのが、千葉に拠点を持つ海成様です。共同土木・栄和リサイクル・そして海成の3社が連携することで、関東エリアにおいて大きなシナジーが生まれると確信しました。
これまでも解体工事業の企業に関するM&Aのご提案は数多くいただいていましたが、当社にとってはメインの事業領域ではなかったため、基本的にはお断りをしておりました。
しかし、グループに栄和リサイクルが加わり、関東エリアでの事業強化に向けて動き出していたタイミングでご紹介いただいたのが、海成さんでした。
解体工事の実務を自社で手がけており、しかも有資格者の方々が多数在籍されているという点が非常に印象的で、「この会社と一緒に仕事ができたらいいな」と素直に感じたことをよく覚えています。書面だけでも、その実直さや社風が伝わってくるような内容だったのが印象に残っています。
トップ面談の際のお互いの印象はいかがでしたか。

まず驚いたのは、金子社長がご自身でスーツケースを引いてお越しになったお姿でした。
東証プライム上場企業のトップというお立場でありながら、出張の合間を縫って直接足を運んでくださったのだろうと感じ、とても印象に残りました。
出射さんも、肩書きにとらわれない穏やかで物腰の柔らかい方で、そのギャップも相まって、非常に好印象でした。
また、金子社長とは偶然にも同い年ということもあり、面談中も話が弾み、和やかな雰囲気のなかでお話ができたのがとても良かったです。
実は、面談をするまでは別の譲受候補先にほぼ気持ちが傾いていたのですが、金子社長と出射さんのお人柄やお話の内容に触れたことで、面談を終えた帰り道には「もう決まりだね。ここにお願いしよう」と、二人の気持ちが自然と一致していました。
大栄環境の皆さんとお会いする前は、正直なところ、気持ちの8割ほどは別の会社に傾いておりました。しかし、実際に金子社長と出射さんにお会いしてみると、その誠実で温かなお人柄に触れ、「この方たちにお任せすれば間違いない」と、自然と気持ちが変わっていくのを感じました。
また、私たちがこれまで大切にしてきた“従業員を想う姿勢”についても、しっかりと受け止めて高く評価していただけたことが、本当にうれしかったです。
「自分たちのやり方は間違っていなかったんだ」と、改めて確信することができました。
私自身、会社を続けて45年の間に、さまざまな企業の経営者とお会いしてきましたが、越川社長と奥様には、解体工事業のオーナーという枠にとらわれない、良い意味で洗練された雰囲気をお持ちだと感じ、大変驚きました。それが、最初にお会いしたときの強い印象として残っています。
また、会社としても、資格取得をはじめとする社員教育に積極的に取り組んでおられ、家族的で温かなコミュニケーションが社内に根づいていることが、会話の中からしっかりと伝わってきました。こうした素晴らしい社風は、私たち大栄環境グループにとっても大きな刺激となる、かけがえのない存在だと感じています。
実際にお会いして、越川社長ご夫妻の誠実で温かなお人柄に触れ、「この方たちであれば、安心して引き継ぐことができる」と自然と確信を持つことができました。
越川社長が従業員の皆さんを本当に大切にされている姿勢は、社内の随所からも感じ取れましたし、同時に、従業員の皆さんもまた、社長や会社に対して強い愛着と誇りを持っておられるのだと、強く感じました。
従業員の納得と安心を醸成した、成約までの4ヶ月
そこから成約に至るまで、どのような過程を踏まれたのでしょうか。
一般的なM&Aのプロセスでは、従業員の皆さまへの情報開示は最終段階で行うのが通例です。ですが、越川様は従業員の方々とのつながりが非常に深く、「事後報告のような形ではなく、早い段階でしっかりと説明したい」という強いご意向をお持ちでした。
そのため、通常の流れとは異なりますが、できるだけ早いタイミングで開示し、従業員の皆さまが納得し、安心して受け入れられる環境を整えることを最優先に進めていく形となりました。
従業員との関係性が深いからこそ、「別会社の傘下に入った」などという事後報告のような伝え方は、どうしても避けたいと考えていました。
2024年7月に面談をして、翌月の8月には私たちの中では「大栄環境さんにお願いしよう」と決めていましたが、実際の成約に至ったのは12月です。その間、従業員一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを重ねながら、気持ちを共有していく時間を設けました。
やはり譲受先に対して、「蓋を開けたら中身が空だった」といった事態は絶対に避けたかったですし、何よりも全員が納得し、不安を取り除いた状態で会社を託したいという想いが強くありました。結果的に、従業員が本当に納得し、前向きに受け入れてくれるまでには少し時間がかかりましたが、2025年の1月頃からは、気持ちを切り替えて自ら積極的に動いてくれるようになっています。振り返ってみると、この“数ヶ月の猶予”があったからこそ、今の良い形につながったと感じています。
私としては、従業員を誰一人取り残すことなく新天地へ送り出したいという気持ちが強くありました。そのため、正式なお返事をする前に主要メンバーに話をしました。すると、社内では少し動揺が広がってしまいまして・・・。やはり、会社がこれから大きく変わってしまうのではないかという不安があったのだと思います。それでも最終的には、私たち夫婦の健康面のことも踏まえたうえで、「社長がそう言うなら…」と受け入れてくれました。その言葉には、これまで一緒に積み重ねてきた信頼関係があったからこそだと感じています。
グループに参画される企業の皆さまが、不安を抱くのは当然のことだと思っています。
「人的資本」という言葉もある通り、やはり“人材”は企業にとって最も大切な資産です。
だからこそ、譲受側としても、従業員の皆さんとどのように丁寧なコミュニケーションを重ねていくかが、最も重要だと感じています。
私たちもこれまで数多くのM&Aを経験してきましたが、常に意識してきたのは、「新たに加わってくださる従業員の皆さんに、できるだけ不安を与えない形でグループに迎え入れること」です。
そのためには、無理に急いで進めるのではなく、時間をかけてじっくり向き合っていくことも、ひとつの大切なアプローチだと考えています。
M&Aキャピタルパートナーズはどのように役立ったでしょうか。

海成さんに、ぜひ私たちのグループの一員になっていただきたいという想いを、しっかりとお伝えさせていただきました。先ほど、「別の会社に気持ちが傾いていた」というお話もありましたが、その中で岡山さんと土井さんが、海成さんのご要望や想いを丁寧に整理しながら、私たちとの相性や可能性について的確に橋渡しをしてくださったことが、今回のご縁につながったのだと感じています。
私としても、お二人が終始丁寧かつ真摯にご対応くださったことで、大きな安心感を持つことができました。
現在のお気持ちをお聞かせください。

調印式を終えて車で帰る途中、これまで会社経営に携わってきた中で初めて、「心から気持ちが軽くなった」と感じました。
長年背負ってきた責任から解放されたような感覚で、率直に言えば、肩の荷が下りたという思いでした。オーナー社長というのは、365日、常に何かしらの責任を背負っているものです。「免罪符をもらった」というと少し語弊があるかもしれませんが、それくらい、大栄環境という素晴らしい会社をご紹介いただけたことで、今は本当に安心しています。
大栄環境さんであれば、これまで海成が大切にしてきた社風を引き継ぎながら、さらに事業拡大など“プラスアルファ”の成長を期待できると思っています。
実際、海成の従業員も、今年1月からは「自分たちがやらなければ」と前向きな気持ちで業務に取り組んでくれるようになりました。
今は私も、必要なときに聞かれれば答えるというスタンスで、少し距離を置きながら、しっかりと見守っています。
実は、私は今回の譲渡を機にきっぱり退くつもりでいました。
ですが、新しいシステムの導入などにあたり、これまで自分が担ってきた業務をしっかりと引き継ぐ必要があり、現在はそのサポートを行っているところです。
大栄環境の皆さまからは、従業員も含めてさまざまなことを教えていただいていますが、皆さん本当にフレンドリーに接してくださっていて、とてもありがたく感じています。
「一緒にやっていこう」という温かい気持ちがしっかりと伝わってくるので、従業員たちも安心して新しい環境に向き合えており、これからが本当の意味での新たなスタートになればと願っています。
最後にこれからM&Aを検討する経営者の方々へメッセージをお願いします。
オーナー経営者として長年会社を牽引されてきた方々は、企業そのものに対する思い入れが非常に強いものだと思います。それは、単に事業への責任だけでなく、従業員一人ひとりへの想いや、培ってきた社風、そして地域とのつながりなど、実に多くの大切なものを背負ってこられたからこそです。M&Aは、単なる“会社の売却”ではなく、“未来へとつなぐための意思決定”です。だからこそ、自社が築いてきた企業文化や従業員への想いを何よりも大切にしながら、信頼できる相手とじっくり向き合うことが何より重要だと考えています。
私たち大栄環境も、そうした想いをしっかりと受け止めながら、譲り受けた企業の良さを活かし、未来へと発展させていくことを使命としています。
どの企業にもそれぞれの歴史や想いがあります。その一つひとつを尊重しながら、より良い形でバトンをつなげるM&Aが、今後ますます増えていくことを願っています。

私たちの世代にとって、M&Aによって自社を譲渡するというのは、どこか罪悪感に近い気持ちを抱くものでもありました。先日、ある経営者の集まりで今回の話をしたところ、50代前後の方々の中には、「60歳や65歳を目安に、会社の譲渡を考え始めている」といった声も聞かれました。
もし10年後、15年後にM&Aを視野に入れているのであれば、そこに至るまでの期間を、経営者としてどう会社と向き合うかを考えてみてほしいと思います。
そのうえで、自分が何を成し遂げたいのか、何を大切にしてきたのかを、あらためて見つめ直すことができれば、きっとその時間がより実りあるものになるのではないかと感じています。
一般的に、M&Aというと「経営が厳しくなった会社が買収されるもの」といったイメージを持たれることもありますが、私たちはそういった捉え方はしていませんでした。
今回のM&Aは、あくまでもこれからの私たち自身の将来、そして会社や従業員の未来を見据えたうえでの前向きな選択だったと考えています。
先が見えにくい時代だからこそ、これからの若い世代の将来をしっかりと考えていく必要があります。
大手企業と手を取り合いながら、より安定した経営体制を築いていくことも、次の世代へとつなげていくための大切な選択肢の一つではないでしょうか。
M&Aという言葉に対して、まだネガティブな印象を持たれている方も少なくないかもしれません。特に近年は仲介会社の数が急増し、一部では「売り手の意向が十分に尊重されないまま話が進んでしまった」「不十分な情報のもとで契約を急がされた」といったような、当事者の納得感を欠く事例も耳にするようになってきました。
そうした中で、私たちは「群を抜く誠実さと高い情熱」をもって、目の前の経営者一人ひとりと真摯に向き合うことを何よりも大切にしています。
私自身、これまで多くのご縁を通じてM&Aの現場に携わってまいりましたが、同じ案件はひとつとしてなく、毎回が学びの連続です。
だからこそ、どんなに小さなご不安やご質問にも真正面から向き合い、ご納得いただける形で前に進めるよう心がけています。将来の選択肢のひとつとして、「まずは話を聞いてみようかな」と思っていただけるような存在でありたい。そう思いながら、これからも日々のご相談に取り組んでいきたいと思っています。
私たちが大切にしているのは、オーナー様と同じ目線で、同じ気持ちで寄り添いながら将来を考えることです。ご自身でしっかりと比較・検討したうえで、「この選択をして本当に良かった」と心から思っていただくためには、目の前の条件だけでなく、5年後、10年後を見据えて何ができるかを共に考えることが必要だと考えています。
そうした未来を見据えた支援こそが、真のアドバイザーの役割であり、私たちが果たすべき使命だと思っています。
今後も、そうした想いを胸に、一人ひとりの経営者と真摯に向き合っていきたいと考えています。

文:寺地 美穂 写真:松原 卓也 取材日:2025/2/3
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