それぞれの選択 #113 ホテル業×株式譲渡

鈴村 竹下
鈴村 竹下

北海道と九州をつなぐ異業種M&A。
価値観の共感が生んだ異例のスピード成約

北海道の富良野と函館で長年ホテル経営を続けてきた有限会社ノース・カントリー。後継者不在を背景に事業承継を模索する中、九州を拠点とする竹下製菓株式会社とのM&Aが実現した。業種の違いを超えて互いの価値観に共感し、異例のスピードで成約を迎えたその理由について、譲渡側の有限会社ノース・カントリー 元代表取締役 鈴村 保司様と譲受側である竹下製菓株式会社 代表取締役社長 竹下 真由様にお聞きした。

  • 譲渡企業

    会社名
    有限会社ノース・カントリー
    所在地
    北海道札幌市
    設立
    1993年
    事業内容
    リゾートイン・ノースカントリー、笑 函館屋、函館クラシックホテルズ 藍の運営
    資本金
    3,00万円
    M&Aの検討理由
    後継者不在のため
  • 譲受企業

    会社名
    株式会社竹下製菓
    所在地
    佐賀県小城市
    設立
    1927年(創業1894年)
    事業内容
    冷菓、菓子製造販売
    資本金
    1000万円
    M&Aの検討理由
    サービス拡大のため

お客様が喜ぶホテルづくりを追求しつづけた40年

鈴村様がこの地でホテルを創業するまでの経緯を教えていただけますか。

鈴村
有限会社ノース・カントリー 元代表取締役 鈴村 保司 様(以下、敬称略)

もともと私の実家は、名古屋で物流関連の製造業を営んでいました。工業高校を卒業後、祖父は商売を学ぶために問屋に行くことを私に命じ、名古屋で一番大きな仏壇の問屋の社長を紹介してくれました。将来への展望がなかった当時の私は、特に反発せず従うつもりでした。しかし、いよいよ就職を迎えると、このまま働き始めたら好きなように自分の時間を確保して、気ままに旅行もできなくなるだろうという思いが強くなり、社長から3ヶ月ほどの猶予期間をもらって、日本一周を決行することにしました。自転車を積んだ車を沖縄から北海道まで走らせました。

まだ見たことのなかった各地を巡るうちに、このまま言われたところに就職するのは嫌だという考えが芽生え、半ば家出のような形で北海道に住みはじめました。父や祖父を激怒させてしまったのは当然ですが、自分自身の手で自らの人生を切り拓くような興奮を抑えることはできなかったのだと思います。拠点を北海道にしたのは、全国を回る中で特に魅力を感じた土地だったためです。なんの伝手もありませんでしたが、阿寒湖にあるユースホステルに頼み込んで受付から雑用まで何でもやる生活を通して、北海道の魅力をさらに深く知ることができました。

その後、ご自身でビジネスを始めたいと考えるようになったのですね。

鈴村

独立するには料理の基本を学ばなければと、釧路にあるレストランでさらに2年間修行し、その後、縁があって富良野に引っ越してきました。最初は小さな喫茶店の経営からスタートし、借り手のいなかった近所の小屋を月数千円程度で借り、自力で改装して宿にしました。建物も内装も完全に素人の手作りでしたが、現在のノースカントリーの原型ということになります。この民宿は「やっとかめ」と名づけました。生まれ故郷である名古屋の言葉で「久しぶり」という意味です。一度訪ねてくれたお客様が再び来てくれるようにという願いを込めた名前でしたが、聞きなれないフレーズだったことが逆に若い旅行者たちには覚えやすかったようです。

ドラマ「北の国から」の影響で富良野にはペンションブームが訪れていたものの、地元の伝統的な旅館業者には仲間に入れてもらえませんでした。スキー場のリフト券の優待を受けるためには、この組合に加盟するしか方法がなかったのですが、私がよそ者だったことや、手作りの民宿を宿屋とは認めたくないという風潮もあったようです。

それでもやがて組織化できたのは、何か宿としての独自性があったからでしょうか。

鈴村

とりわけ大きな強みがあったわけではありません。「よくウリは何ですか」と聞かれてきましたが、そのたび回答には困ってきました。強いて言えば、お客様が泊まりたくなるような取り組みを常に考えていました。とにかく喜んでもらおう、楽しんでもらおうという気持ちが、心のこもったサービスや高いホスピタリティに繋がり、結果として評判がついてきたのかもしれません。

しばらくはアルバイトだけ雇って自分一人で運営していましたし、安い宿を狙っているバックパッカーをターゲットにしていたので、私自身も生活するのに必死でした。事業拡大を考える余裕すらありません。まだ私も若かったので、日々がとにかく楽しくて継続できたのだと思います。

2年ほど経過して、現在のリゾートイン・ノースカントリーの場所を見つけ、ここに現在の建物を建てたことで法人化したのです。家族経営のペンションが多く、事業を拡大しないケースが大多数でしたが、私はこのまま民宿を運営することに不安を抱いてもいました。お客様とは少しずつ年齢も離れていくので、だんだん話も合わなくなりますし、ずっと現場で働き続けるにも限界があると思ったのです。そのためホテルの規模を拡大し、従業員を増やせるように、少しでも事業を大きくしようと考えるようになりました。

組合に入れてもらえなかったという厳しい環境で、どのように顧客を獲得したのでしょう。

鈴村
鈴村

今のようにインターネットがなかった頃でしたから、口コミと言っても限界があります。最も大きかった出来事は、大手航空会社系列の旅行代理店が取りまとめている冊子にうちのホテルを掲載してくれるようになったことでした。営業経験もなかった私は、何もわからず富良野のワインをお土産にもって、アポイントも取らずに旅行代理店各社を訪問したことがあったのです。今なら無謀な試みだったとわかりますが、当時は怖いもの知らずだったのですね。もちろん門前払いになった企業もありましたが、たまたまその代理店では、私と同い年の担当者が対応してくれて、カヌーやスノーボードなどの話で盛り上がりました。これがきっかけとなり、取り扱い商品に加えてもらえました。

富良野の小さな名もなきホテルが、著名な旅行代理店からお墨付きを得たようなものです。多くの同業者が載せてもらいたくてもかなわない中で、うちだけ取り上げてもらえるなんて本当に奇跡のようでした。これで知名度が一気に上がった結果、他の旅行会社からも次々に引き合いが来るようになりました。本当に運が良かったと思います。

その後は事業の多角化にも挑戦されたそうですね。

鈴村

商売人として上場を目指したいと考えていた時期がありました。ホテル以外では、レンタカー事業やメガネの小売りチェーンなどを手掛けていた時期もあります。ホテル事業でも知人からの紹介で函館にあるホテルを取得しました。頼まれて、初めて見に行ったときは本当にひどい有様で、廃屋同然の建物の中に鳥が住処を作っているような荒れようでした。多額の修繕費用が必要になるのは避けられないので、取得したいとは思わなかったんです。

しかし、立派な大浴場を見たときに私の直感が働きました。特に岩風呂の質が素晴らしく、リノベーション後にお客様が喜んでくれる姿が頭に浮かびました。宿泊業では、お客様の喜ぶ様子がイメージできるかはとても大切な要素だと考えています。その通り、建物の雰囲気と岩風呂が魅力を活かしたホテルとして生まれ変わった結果、今も多くのお客様に愛されています。

ノース・カントリー

 

事業承継を模索するもコロナ禍によりM&Aは進展しなかった

事業承継は、いつごろから意識し始めたのでしょうか。

鈴村

55歳を過ぎた頃から承継のことを考え始めました。子どもは4人いますが、いずれも最初から積極的な様子ではありませんでした。よほど「やりたい」という声が上がらなければ、自分から継いでほしいというつもりはなかったです。自ら歩んできた経営者としての道のりの厳しさを思えば、子どもには別の可能性を見出してほしいとも思っていたためです。

レンタカーやメガネの事業はは譲り渡し、飲食事業はコロナ禍ですべてクローズしたので、残ったのは宿泊業です。60歳になったとき、ある仲介会社と契約し、本格的に承継先を探し始めました。体力があるうちに経営を退いて、余生を楽しみたいという思いがありましたので、可能な限り早く事業承継を進めたいと思っていました。

M&Aキャピタルパートナーズとの出会いについてお聞かせください。

鈴村

地元の銀行を通じて依頼をしていましたが、良い相手先が見つからないまま時間だけが経過していくので少しずつ焦りが募っていました。コロナ禍のために数年間、ロスしたような感覚もありました。そんなとき、タイミングよくM&Aキャピタルパートナーズからダイレクトメールが郵送されてきたので、私から返信したのです。テレビCMも放映するような大手仲介会社だと知っていたので、むしろうちのような小さな会社は相手にしてもらえないだろうと期待していませんでしたが、すぐに担当の田中さんから連絡があったのには驚きました。しかもオンラインではなく、対面して話を聞きたいから富良野へ飛んでくるというスピード感にも驚かされました。承継の話が遅々として進まないことに焦る中で、このようなレスポンスの早いパートナーならなんとかしてくれるかもしれないと淡い期待をもったものです。

田中
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 主任 田中 裕基(以下、田中)

昨今、面談はオンラインで行うほうが合理的だという考え方が広がってきていますが、直接対面することで経営者のお考えをお聞きしやすく、価値観やお相手に求める条件などへの理解も深まるというメリットがあります。私たちの拠点がある東京から富良野までは、気軽に通える距離とは言えませんが、ゼロから事業を構築し、一代で40年、発展させてこられた経営者とぜひお会いしたいと、私から面談をお願いしました。実際にこれまでの道のりに対する自信、責任感を強く感じましたし、誠実な方だというのが鈴村様に対する第一印象です。

M&Aを検討する際に、特に重視したいポイントとして伝えたことはありますか。

鈴村

私は事業の将来性だけでなく、人間味あふれる企業風土を大切にする会社に託したいと考えていました。率直に言って、投資ファンドや外国人投資家に譲渡したいとは考えていませんでした。同じ北海道のニセコの現状を見ると、外国資本がどんどん入ってきた結果、地元で暮らしていた日本人が安い賃金で使われているような状況です。そんな結果を招くようならなんのための事業承継か分かりません。できれば日本人、日本の企業にこの土地でホテル業を発展させてほしいと考えていたのです。

そしてもう一つはやはりスピード感です。こちらの希望にあわせて、速やかに対応、検討、実行いただける相手なのかも重視していました。

馬渕
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 主任 馬渕 良輔(以下、馬渕)

M&Aにおいては、入り口の段階で候補先を絞り込み過ぎるのはあまり良い選択ではないと考えています。まずは幅広くご提案し、その中から少しずつ選択肢を狭めていただくことをお勧めしています。今回のノースカントリーのケースでは、同業のホテル関連の会社に譲渡したいという希望は伺っていましたが、あえてそこに限定せず、様々な業種の企業をご紹介しました。もちろん鈴村様が考えていた温かい企業風土を持つ会社を選ぶという思いは尊重しつつ、業種にとらわれない選択肢をご提案しようと考えました。

結果的に譲渡先からの条件提示や実際の面談を通じて、当初の印象が変わることはよくも悪くも頻繁に起こります。実際、今回の竹下製菓の本業が異業種であっても、経営者同士の価値観が合致すれば、想像以上の相乗効果が生まれる可能性があるからです。複数の候補をお示しし、同時に進行することによって、譲渡条件の比較検討もできます。比較によって、一緒にやっていきたいという確信も持ちやすくなるのです。鈴村様も最終的に10社弱とお会いして、その中から竹下製菓との間に相性の良さを感じ取られました。

したがって私たちが勝手に考える選択肢ではなく、オーナー自身が納得して選べるようにやや多めのチョイスを提示し、それぞれのメリットや気になるポイントをお伝えすることを心がけています。各社の特徴や提案内容、経営スタイルなどの情報を客観的に整理して、最終的な判断をサポートする立場であると考えています。

長年大切に育ててきた会社だからこそ、「この経営者、この組織なら安心して託せる」と心から思える相手を見つけるプロセスは非常に重要です。だからこそ、先入観で選択肢を狭めず、様々な可能性を探ることをお勧めしています。

田中

もう一点、鈴村様がこだわられていたスピードを極力速めるために意識していたことがあります。それは相手先にとって論点になりうる箇所について、早めに情報を開示してから検討を進める形にしたことです。ホテルの運営には、修繕費が定期的に生じますが、これらも決して隠し立てせず、問題点を事前に開示することで後に条件変更を申し出られるリスクを軽減しました。鈴村様からも、積極的に情報の共有があったため、円滑に交渉を進めるための原動力となったように思います。

深い対話による価値観の共有がM&Aを後押しした

ここからは譲受側である竹下製菓株式会社 代表取締役社長 竹下真由様にも加わっていただきます。竹下製菓の事業紹介、M&Aに対する方針をご説明いただけますか。

竹下
竹下製菓株式会社 代表取締役社長 竹下 真由様(以下、敬称略)

竹下製菓の創業は1894年、私で5代目になります。本社のある佐賀をはじめ九州全域で菓子の製造販売を行っている会社です。代表的な商品である「ブラックモンブラン」は、九州では知らない人がいないといわれるほど親しまれています。創業以来、地域の皆様に愛される菓子づくりにこだわり続け「おいしい、楽しい商品を作って社会に奉仕する」を企業理念に掲げてきました。

製菓業は伝統的な要素が強い一方で、消費者の嗜好や市場環境は常に変化しています。今の時代、どんな業種でも急激な環境変化にさらされていて、長年築いてきたブランドや事業モデルが突然立ち行かなくなるリスクを常に抱えています。そこで先代が宿泊業への挑戦を始め、ビジネスホテルのフランチャイザーになって運営を続けてきました。特に私が2016年に社長に就任してからは、製菓以外の事業も一層強化するよう努めてきたつもりです。

M&Aに対しては、私は「人と人とのつながり」を最も重視しています。経営スタイルの強みは、様々な得意分野を持つ人材同士をつなげ、ともにワクワクする世界を描くことだと思っています。M&Aにおいても、単に事業規模や収益性のシナジーだけでなく、その会社が築き上げてきた企業文化や人材、そしてそれまでの経営者の想いを大切にしたいと考えています。

ノースカントリーに興味を持ったのは、まさにこうした考え方が背景にあります。北海道という魅力的な地域性、ビジネスホテルとは異なるリゾートホテルとしての特性、そして何より鈴村さんが長年かけて築き上げてきた経営哲学に共感したことが今回重要な要素でした。これまで都市型のビジネスホテルしか運営ノウハウのなかった私たちにとってもリゾート特化型の経営メソッドから学ぶことは多いだろうと考えました。

最初の両者の顔合わせでの印象についてお聞かせください。

鈴村 竹下
竹下

まずは数字やビジネスの詳細よりも、経営者である鈴村さんがどのような価値観を持ち、どのような思いで事業を築き上げてこられたかを重視していました。企業はトップの考え方や姿勢によって風土が形成され、それが従業員の雰囲気にも大きく影響すると考えているからです。鈴村さんが長年をかけて醸成された企業文化や、地域との関わり方、お客様との向き合い方について、知りたいと考えていました。ゼロからビジネスを立ち上げ、数十年にわたって守り育ててこられた経験は、学ぶことが多いだろうと思いました。

鈴村

実は菓子メーカーとお聞きしていたので、はじめは期待していなかったというのが本音なんです。しかし、実際にお会いすると宿泊業界の話題にとらわれず、北海道における在来鉄道の赤字や存続の問題、どうすれば地域を活性化できるかなど様々な話で盛り上がりました。その間、竹下さんが真剣に私の話を聞いてくれる姿勢に、誠実さを感じたことをよく覚えています。初回ということもあり、面談は1時間の予定でしたが、気が付けば30分以上も延長していました。九州と北海道で地域はまったく異なりますが、これまでも地元やそこで生活する人を大切にする考え方が共通していることを確認できた時間は、とても心地よかったです。私もホテル経営を通じて、地域と共に成長していくことを大切にしたつもりなので、この会社なら任せられるかもしれないと初めて思いました。

事前に田中さんが「九州では知らない人がいないほどの会社です」と興奮気味に話していたのですが、北海道の中の枠にこだわっていたらお会いできなかったわけですからご縁を感じます。

田中 鈴村 竹下
田中

私は熊本県出身なので、小さい頃から「ブラックモンブラン」を食べていました。九州で暮らしていている人なら一度は口にしたことがあるのではないかと思います。

通常のM&Aの初回面談では、多少なりとも緊張感があり、事業内容や財務状況など事務的な話で終始することも少なくありません。しかし、実際にお二方の初対面の場に同席しましたが、私たちの目から見てもすぐに通じ合うものが生まれる空気を感じました。お会いして数分もしないうちに、ビジネスの枠を超えた対話が始まったからです。特に北海道内の経済課題など鈴村様が富良野で40年培ってきた地域との関わり方や経営哲学に、竹下様が深く共感されている様子が伝わってきました。

竹下

私は父から受け継いで経営者となったため、ゼロから会社を立ち上げた経験はありません。だからこそ、鈴村さんのように叩き上げで組織を作り上げた方には尊敬の念があります。しかも私たちにとって、北海道はほぼビジネスの実績がない土地です。そこで40年にわたって事業を展開、成長させてこられた話の一つひとつを学ばせてもらいたいと思いました。

両社とも1対1で話し合う貴重な時間だったのですね。

竹下
竹下

トップ同士が会っていない段階で、財務面の話をしても仕方ありません。初回は、他のスタッフを同行させるという発想さえありませんでした。数字を見れば経営状態は把握できますが、それだけでは企業の本質は何もわかりません。企業の風土はトップの考え方や姿勢によって形成され、それが従業員の雰囲気にも大きく影響するので、何よりも鈴村さんご自身のお考えをお聞きしたいと思ったのです。

馬渕

竹下様がおっしゃったように、「人」を中心に据えたアプローチは、M&Aキャピタルパートナーズが大切にしている価値観でもあります。業種の異なる会社のM&Aでは、ともすれば事業シナジーや数字面ばかりに目が行きがちですが、竹下様もまず人を見ようとされていました。

田中

結果から言えば、初めての顔合わせからわずか5ヶ月という短期間でのクロージングに到達できました。両社の価値観の一致、そこから信頼関係が積み上がったことによって実現できたものだと感じています。

鈴村

それまでM&Aには、売却によって自分の手を離れるという感覚が強かったのですが、竹下さんとお会いして、バトンを渡す気持ちへと変わったように思います。小さいながらも40年かけて築いてきたものを、さらに発展させてくれる方に引き継ぐという前向きな気持ちになれました。顔合わせのあとに、竹下さんが家族とともにホテルへ泊まりに来てくれたこともうれしかったです。一人の客として私たちのホテルを体験し、従業員とも自然に交流されていました。私自身がいなくなった後も、スタッフたちのことを大切にしてくれるという安心感がさらに強くなりました。

竹下

最初にお会いしたのは札幌だったので、富良野や函館に立ち寄ることはできませんでした。もちろんホテルそのものをこの目で見て体験したいという思いがあったので、お盆の休暇を利用して北海道を旅行しました。子どもたちは普段、九州では見られない自然に溢れる風景に感動していました。それに小中学生年代の率直で素直な反応や感想も聞けます。

ホテルについても、北海道ならではの魅力を最大限に活かした運営がなされており、窓から見える自然の景観、函館では温泉の質の高さなど、立地を活かした魅力的な演出がされていることに感心しました。本物の価値を見極める目が随所に活かされていると感じました。また建物だけでなく、特に印象的だったのはスタッフの方々が生き生きと働いている姿でした。海外スタッフの方々も日本語を一生懸命に話し、お客様に積極的に話しかけるホスピタリティの高さに感動しました。

鈴村
鈴村

近年、海外スタッフの雇用が増えています。少しずつ日本人スタッフの採用が難しくなってきたことがきっかけで、数年前からインドネシアの若者を中心に採用し始めました。それまでの日本人スタッフと比較して、何か特別扱いをしたり、明確な指導方針を作ったりしたことはありません。
自分が先頭に立ってキッチンに入ったり、朝食時にお客さんに声をかけたりする姿を見せることで、従業員も自然と同じように行動するようになりました。私は、彼らを単なる労働力ではなく、日本で3年間の仕事を通じて良い経験ができたと思ってもらいたいという思いで接しています。もちろん厳しいときは厳しく指導しましたが、人種や年齢に関係なく、全員大切なメンバーとして接してきました。初年度のメンバーが来日して3年目を迎えていますが、日本語能力もかなり上達しています。特定技能の資格を取れば、制度上、滞在を2年延長できる可能性もあります。

竹下

こうしたスタッフも、一朝一夕で育てることのできない会社としての大切な財産です。私たちが滞在したときも、食事の時間に話しかけてもらい、どのようなお客さんが来るのか、働いていてどうかなど直接聞くことができ、彼らもホテルをよりよくしたいという主体的な思いを持っていることがわかりました。

この組織文化は、鈴村さんが自ら先頭に立って範を示してきた結果であり、非常に貴重なものです。このよい文化もそのまま受け継いで、スタッフが引き続き誇りをもって働けるようにサポートしていきたいと思います。

成約に向けたM&Aキャピタルパートナーズのサポートについて評価をお聞かせください。

鈴村

常にレスポンスが早く、不安や疑問がすぐに解消されるよう真摯に対応いただいたおかげで、ストレスなくM&Aを進められました。田中さんは本当に熱心で勤勉な方で、物腰柔らかく、対話型の姿勢で接してくださったので好感が持てました。

数字に基づいた分析をしっかり行いながらも、私の考えや希望に耳を傾けてくれたり、後から条件変更になるリスクを減らすような進め方を提案してくれたりと会社の規模に関わらず十分にサポートしていただけたと思います。

特に金額面だけでなく、人との相性を重視した案件の進め方は私の希望通りでした。初めてのM&A経験でしたが、わかりやすい説明とスピード感ある対応で安心して任せられました。

竹下

自分の意見をはっきり持っている点が信頼できると感じました。過去には仲介役のパートナーに見解や仮説立てがないまま、双方の希望を伝言ゲームのように伝えられた経験がありました。そうなると相手の本当の思いや状況が見えず、疑心暗鬼が生じてしまいます。

しかしM&Aキャピタルパートナーズのお二人は、相手方の希望、考えの背景や真意まで率直に話してくださり、時には自分の意見も織り交ぜ、はっきりした言葉でコミュニケーションを取ってくれました。売り手と買い手双方の希望を推し量り、丁寧に両者の考えを擦り合わせる工程は、今後M&Aを検討する上での学びになりました。

九州と北海道をつなぐ連携の可能性と未来への展望

竹下製菓にとって、今回のM&Aがどのような意義があったかを教えてください。

竹下

まず製菓業以外の事業強化において、意義が大きいと感じています。富良野と函館という観光地のホテルを持つことで、九州だけでは接点を持てなかった顧客層との新たなつながりも生まれています。さらに、私たちが知りえなかった独自のホテル運営ノウハウを取り入れることで、より自由度の高い、お客様に喜ばれる運営が可能になると期待しています。

事業としてのリスク分散という側面もありますが、それ以上に持続可能な企業成長のための戦略的判断です。強固な柱が複数あれば、たとえ製菓業に何かがあったとしても、立て直す時間や余力を確保できますし、従業員の雇用機会損失も防げます。こうした企業の生存戦略においても、今回のM&Aは意義のある判断だったと考えています。

また製菓業にとっても未開拓のマーケットである北海道進出の足掛かりになる可能性もありますし、北海道の素材を活かした新商品開発といった相乗効果も望めます。ホテル宿泊客へのサンプリング機会などといった展望も生まれるかもしれません。

そして鈴村さんが築いてきた地域に根差した企業文化から多くを学び、私自身の経営者としての視野も広がったように感じています。

鈴村様の心境の変化についてもお話しいただけますか。

鈴村

まず信頼できるパートナーに引き継ぐことができたことを、本当に幸せを感じています。経営者としての時代を振り返ると、常に事業の行方や従業員に給料を払い続けられるかといった精神的なプレッシャーとの闘いの連続でした。ようやく肩の荷を下ろすことができたため、この年齢になって初めて時間的にも精神的にも余裕を持って生活できるようになっています。仕事の責任からも解放され、友人や家族と心安らかに過ごせていることが今一番嬉しいです。長いこと頑張ってきたご褒美の時間なのかと感じています。

今後のノースカントリーの展望はいかがでしょうか。

竹下

経営状態も良好であること、そして従業員に安心して働き続けてもらうことを第一に何かをただちに変えることは考えていません。これまで通り、自信をもってサービスを提供してほしいと伝えています。細部の工夫によって、ホテルの魅力をさらに引き出していきたいとは思っています。特に北海道ならではの自然環境を活かして、窓から見える野生動物の姿や美しい季節の花々などを体験、体感できるようにしたいです。

これからM&Aを検討する経営者の皆さまに向けたメッセージをお願いします。

鈴村

M&Aという選択肢を考える際は、スピード感と相手選びが重要だと実感しました。特に自分の地元や土地へ思い入れがある場合、数字だけでなく、相手の経営哲学や人となりをしっかり見極めることが大切です。人生をかけてきた事業を託すパートナーとの相性は、最終的な満足度を大きく左右します。相手と膝を突き合わせて話す時間を大切にしていただきたいと思います。

竹下

M&Aは、人と人とのつながりこそが核になると考えています。私たちは、初回面談から互いの経営者としての考え方や価値観を知ることを優先しました。数字は後からでも確認できますが、企業風土や従業員の雰囲気を形作る経営者の人間性は、書類だけでは掴めません。

たとえ業種が異なっていても、お客様に価値を提供するという根本的な姿勢が共通していれば、想像以上のシナジーが生まれる可能性があります。リスクについてもどこまでなら許容できるかを先に考え、判断のスピードを持つことも重要です。何より、互いに敬意を持って向き合える相手との出会いが、成功への最大の鍵となるでしょう。

田中

北海道のノースカントリーと九州の竹下製菓という地域と祖業が大きく異なる両社の価値観が調和したM&Aに携わらせていただいたことを、大変光栄に思っています。通常なら1年以上かかるM&Aが5ヶ月で成立したのは、鈴村様のスピード重視の姿勢と竹下様の決断力、それ以上に両者の信頼関係が短期間で構築できた証です。コロナ禍を経験した宿泊業界において、本件が事業承継の一つのモデルケースとなれば幸いです。


 

文:蒲原 雄介 写真:伊藤 竜也 取材日:2025/4/23

担当者プロフィール

  • 企業情報部 主任 田中 裕基

    企業情報部主任田中 裕基

    前職は自身にて、保険や証券を扱う代理店を創業。TOT基準達成等の実績を残したが、従業員の拡大に悩み、会社を譲渡。
    その経験を活かしながら、創業経験者として、オーナー様に寄り添った支援を信条に活動している。

  • 企業情報部 主任 馬渕 良輔

    企業情報部主任馬渕 良輔

    前職は、公認会計士として大手監査法人に勤務し、会計監査・内部統制監査業務や財務書類の翻訳業務に従事。
    自身が持つ財務・税務の専門的な知識を活用しながら、クライアントを第一線で支援することができるM&Aアドバイザーとしての業務に魅力を感じ、M&Aキャピタルパートナーズに参画。

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