「動かなければ何も始まらない」。
70年誠実な経営を貫いた企業が踏み出した一歩
創業以来、70年以上にわたりガラス工事から建築商材・資材の施工販売へと事業を拡大し、地域の安心・快適な暮らしに貢献してきた株式会社戸塚。2025年、同社は長年の課題であった人材不足の解消と、さらなる成長を目指し、SoFun株式会社への株式譲渡を行った。その経緯と今後の展望を、株式会社戸塚 戸塚 尚 様に伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社戸塚
- 所在地
- 群馬県渋川市
- 設立
- 1952年
- 事業内容
- ガラス工事業、建具工事業、
建築工事業、大工工事業など - 資本金
- 1,000万円
- M&Aの検討理由
- 更なる成長と発展のため
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譲受企業
- 会社名
- SoFun株式会社
- 所在地
- 滋賀県近江八幡市
- 設立
- 2021年
- 事業内容
- 事業承継型投資、投資先企業の経営、
次世代経営者の育成・サポート - 資本金
- 6,952万円(資本準備金含む)
- M&Aの検討理由
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祖父の代から続く実直な仕事を礎に地域の信頼を築いた住宅関連事業
株式会社戸塚の創業経緯と事業内容を教えていただけますか。

株式会社戸塚は、1948年(昭和23年)に祖父が群馬県渋川市でガラス工事店として創業したことに始まります。1952年に法人化し、当初は木製サッシにガラスをはめる工事を主としていました。その後、父の代にアルミサッシが普及し始めると、時代のニーズに合わせてアルミサッシの工事も手がけるようになり、「開口部のことなら何でも対応しよう」という方針のもと、スチールやステンレスのサッシ、自動ドアやシャッター、オフィスのパーテーション、トイレブースの設置工事まで事業の幅を広げていきました。
事業は拡大してきましたが、私が会社を継ぐ頃には状況が一変していました。バブル期が終わり、地元の建設需要は減少。価格競争が激化し、長年お付き合いのあったゼネコンが倒産するような厳しさでした。それにもかかわらず社内には、「自然と仕事は来るだろう」と危機感がなく、旧来の空気が根付いていました。建築業未経験の私が会社に入り、営業の強化や組織改革を進めようとすると、年上の社員たちとの間に軋轢が生じ、結果として多くの退職者を出してしまうという辛い経験もしました。
しかし、この厳しい状況こそが、会社を変えるきっかけとなりました。約15年前から、まずは残ってくれた仲間とともに、ただ待つのではなく、積極的に営業を仕かける組織へと改革を進めました。また、新築工事が減少傾向で改修工事の割合が増える状況の中、熟練社員の施工管理力を最大限に活かすよう努めてきました。同時に、私たちにはガラス修理などを通じて一般のお客様と直接つながれるという独自の強みがありました。メーカー各社が窓のリフォームを推進し始めた時期でしたが、実際にお客様と向き合ってみると、そのニーズはキッチンやトイレといった水回りなど、多岐にわたっていました。そこで「ガラス屋」「サッシ屋」という枠にとらわれず、“お客様の要望には何でも応える”姿勢でBtoCの割合を増やす取組をしました。その結果、エンドユーザーからゼネコンまでの幅広いお客様に対応できる柔軟で強い会社になったと思います。
長く事業を継続されている秘訣は何だと思われますか。
祖父の代から受け継がれる「売上だけを追うのではなく、地域で喜ばれる良い仕事をしよう」という想いが、会社の根底にあるからだと思います。以前、お世話になった税理士に「70年以上も事業を続けているのに、これしか資産がないのですか」と驚かれたことがありますが、それも目先の利益より、誠実な仕事を一つひとつ積み重ねてきた結果だと思っています。
そうした“誠実な仕事”を象徴するのが、お客様との向き合い方です。たとえお相手が大手ゼネコンであっても、本当に良い仕事をするために必要なことであれば、忖度せずに言うべきことをしっかり伝えます。その姿勢が実直すぎると嫌がられて離れていかれるケースもありましたが、長い目で見れば、これこそが本物の信頼につながり、より良いお客様との関係性を築くことができたのだと感じています。
もちろん、私自身が最初からこの哲学を深く理解していたわけではありません。会社を継ぐ覚悟を決め、さまざまな改革を進める中で、「自分たちの仕事がこの地域になかったら、多くの人が困るだろう」という、事業に対する責任感と誇りが芽生えてきたのです。数々の困難な時期を乗り越え、会社が柔軟に変化し続けてこられたのも、この想いがあったからこそだと思っています。
迫りくる人材不足と属人化の危機。同業者の事例から気づきを得た会社存続のヒント
事業が順調に推移する中で、どのような課題があったのでしょうか。

会社の将来を長期的に見据えたとき、このままでは立ち行かなくなる2つの大きな課題が顕在化してきました。
1つは人材確保の難しさです。株式会社戸塚は群馬県にありますが、若い人たちは都市部へ流出してしまいます。以前は地元の工業高校に求人を出せば新卒採用も可能でしたが、近年はまったく応募がありません。高校生は安定した大手企業に目を向けがちで、我々のような地方の建設業、特に下請けというイメージのある会社は選んでもらえないのです。さらに、工業高校自体が進学コースに力を入れるようになり、就職を選ぶ生徒が減っているという背景もありました。中途採用を試みても人材が定着せず、社内の高齢化は進む一方でした。
そして、この問題をさらに根深くしていたのが、もう1つの課題である業務の属人化でした。社内には腕の良い熟練の施工管理者たちがいるため技術力には自信がありました。
しかし、会社として統一された業務フローや明確な役割分担がなく、良くも悪くも彼ら個人の能力と経験に頼り切っていたのです。それぞれが自身のやり方で仕事を進めているため、若手が入社しても、その場その場で見て覚えなければならず、育成に非常に時間がかかるという課題がありました。当然技術の継承もうまく進みません。「組織化における分業、業務の効率化」を試みましたが、長年自分のやり方をしてきたベテラン社員たちの意識と行動を変えるのは、容易ではありませんでした。
外からの新しい人材は得られず、中では技術の継承ができない。 このままでは、ベテランたちが引退した後に技術やノウハウが継承されず、事業が立ち行かなくなる。そんな強い危機感が生まれました。
人材確保と属人化に悩まれていたのですね。その危機感からM&Aを本格的に検討するきっかけを教えてください。
最初からM&Aを具体的に考えていたわけではありません。その現実的な可能性に気づかせてくれたのは、私たちの身近で起きていた変化でした。主要なお客様である地元のゼネコンが、後継者不在などを理由に次々と大手企業のグループに入り、親会社から若い人材が送り込まれて活気を取り戻していく。そんな様子を目の当たりにしたとき、「これも一つの選択肢だな」と思っていました。
若手人材の獲得競争が激化する建設業界において、当社が単独で採用を続けるのは限界だと感じていました。そこで、M&Aによって大手グループの一員となり、強固な経営基盤を得ることが若者にとって魅力的な会社となり、人材確保という長年の課題を解決する道筋ではないか、という結論に至ったのです。この気づきから、本格的なM&Aの検討を開始しました。
6社もの面談を経て見えてきたM&A仲介会社の選び方。人柄が最終的な決め手に
M&Aを本格的に検討し始めて最初に着手したことは何でしたか。
M&Aで最初に頭に浮かんだのは地元の銀行でしたが、銀行経由だと銀行の取引先の範囲内で話がまとまってしまうのではないかという懸念がありました。より広い選択肢の中から検討したかったので、会社に届いていたダイレクトメールなどを参考に複数のM&A仲介会社と直接会って話を聞き、情報収集をしていきました。6社ほどのM&A仲介会社と面談し比較検討を始めると、私の中には信頼できるパートナーを見極めるための明確な基準ができていきました。
その基準を教えていただけますか。

1つ目は「手数料体系の透明性」です。多くのM&A仲介会社は、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仕組みですが、買い手が合計でいくら支払っているのかが売り手からは見えません。そこに不透明さを感じましたし、その手数料が最終的な譲渡価格の交渉に影響するのではないかという懸念がありました。
2つ目は「会社の品格」です。このような業界では、担当者やその会社の悪い噂を聞くこともあります。
3つ目は「企業の信頼性」です。実際にオフィスを訪問し、その規模や雰囲気を自分の目で確かめもしました。
そして、これらすべての条件を満たした上で最終的な決め手となったのは、やはり“人”でした。M&Aは1年近くかかる長丁場です。だからこそ、話をしていてストレスがなく、信頼できる担当者と二人三脚で進めたいと強く思いました。話しやすさや説明の分かりやすさ、何よりその人柄が最大の判断基準になりました。
実は、M&Aキャピタルパートナーズ以外で迷っていたもう1社のM&A仲介会社も、決して悪くはなかったのです。ただ、私たちの「まずは情報収集から」という思いに対して、着手金の発生タイミングが早すぎたこと。そして、「手数料を払ったからには、もう進めるしかない」という状況になることに少し抵抗を感じました。さらに大変失礼ながら、全幅の信頼を寄せきれなかったことがネックになりました。会社の未来を一緒に背負ってもらうパートナーとして、心から信頼できるかどうか。その差が、M&Aキャピタルパートナーズを選んだ決断につながっています。
M&Aか、単独経営か。アドバイザーと客観的に比較検討し下した最終決断
ここからは、担当アドバイザーの常峰さんにも加わっていただきます。戸塚様の第一印象を教えてください。

戸塚社長のもとへ初めてお伺いした日のことはよく覚えています。会社の工場や執務室を拝見したのですが、非常に整理整頓されていて、とても綺麗だったのが印象的でした。こうした細部に経営者の方の性格が表れるものです。「きっと、しっかりされている誠実な方だろう」と直感し、実際にお会いした戸塚社長は、まさにそのイメージ通りの方でした。
戸塚様は、常峰さんにどのような印象を持たれましたか。
他のM&A仲介会社の方の中には、正直に言うとやや押しの強い印象の方もいましたが、常峰さんは非常に落ち着いていて冷静。客観的で丁寧な対応が印象的でした。何よりも特定の選択肢を押し付けることなく、常に客観的な情報をフラットに提供してくれる。こちらの状況を理解し、冷静な判断材料を与えてくれようとするその姿勢が、私にとっては大きな信頼につながりました。
M&Aは、数ある選択肢の中の一つに過ぎません。我々がやるべきことは、無理に話を進めることではなく、まずはお客様に寄り添い、正しい情報を提供することだと考えています。その上で、最善の道を選ばれるお手伝いをさせていただく。そのように普段から心がけておりますし、M&Aキャピタルパートナーズの基本的な姿勢でもあります。
どのようにM&Aプロセスを進めていったのでしょうか。

まずは、「具体的なお相手からの条件提示がなければ、M&Aが良い選択肢かどうかも判断できないはずです。まずは情報収集として、どんな会社が関心を示してくれるかを見てから、M&Aを進めるか、単独で経営を続けるかを決められてはいかがですか」と提案しました。その上で、戸塚社長が抱える“人材不足の解消”と“組織的な運営体制”、“販路拡大”という課題を解決できるような、相乗効果が期待できるお相手を探すことを基本方針としました。戸塚社長には幅広い譲り受け候補がいることをお伝えし、同業や異業種、投資会社等幅広い企業から提案を聞いていただき、比較検討してもらいたいと考えていました。
私の気持ちが情報収集から本格的な検討へと大きく動いたのは、具体的なお相手候補の企業が現れてからです。今回ご一緒することになったSoFun株式会社を含め、複数の企業が手を挙げてくださったのです。株式会社戸塚の事業規模やエリアを考えると複数社から声がかかるとは思っていなかったので、選べるというだけでも大変ありがたい状況でした。「自社に関心を持ってくれる会社が、しかも選べる立場で存在する」という事実が、M&Aを現実の選択肢としてとらえる大きなきっかけとなりました。
SoFun株式会社を選ばれた最終的な決め手を教えてください。

それぞれの企業とお話しましたが、その中でSoFun株式会社は、「日本を面白くする」という理念を掲げています。地方の過疎化という問題意識を抱えていた私は、会社や人を支援することで地域を元気にするという理念に強く共感したのです。面談でも、私たちの課題を丁寧に理解し、どう解決していくかを具体的に語ってくださったことで、「この会社となら」という強い手応えを感じました。
とはいえ、その手応えだけで即決はしませんでした。会社にとって最善の道を選ぶため、改めて「単独経営を続ける未来」と「お相手先と一緒になる未来」を、常峰さんのサポートのもとで客観的に比較検討したのです。その際に驚いたのは、常峰さんが決してM&Aの方向に誘導することなく、両方の選択肢を公平に比較できる資料を作成し、私たちの意思決定そのものを支えてくれたことでした。
ご決断をされるのは、最終的にオーナーご自身です。私たちの仕事は、そのための判断材料を偏りなく、正確に提供することだと考えています。M&Aか、単独経営か。それぞれをフラットに検討していただくのが、重要だと思っています。
その客観的な資料をもとに、じっくりと考えを整理しました。そして最終的にM&Aを決断した理由は、「スピード」と「確実性」です。自分たちの力だけで課題解決を目指すより、一緒になった方が圧倒的に早い。そして、成功確率の高さも感じられました。お相手先は多くのM&Aを手がけ、企業を成長させてきた実績が豊富にあります。課題解決というゴールへの到達確率が格段に高まると考え、この選択がベストだと確信できたのです。
「これからはチームで未来に取り組める」。楽しみと期待を手にしたM&A
成約直後の率直なお気持ちや今後に向けた思いをお聞かせください。

成約した瞬間、安堵よりも先に「これからどうなるのだろう」という未来への期待感、ワクワクする気持ちがこみ上げてきました。これまでは経理から営業、施工管理まで、経営のすべてを事実上私一人で背負っていました。誰かに相談しても、最終的な決断は自分一人。ストレスに感じることも多くありました。しかし、これからは同じ目標を持つ経営陣というチームで会社の未来に取り組める。それが何よりも心強く、楽しみです。
従業員にとってはまだ大きな変化はないかもしれませんが、会社は確実に変わり始めています。すでに新しい人材の採用も決まっており、これから組織の作り方や課題解決の方法など、これまでとはまったく違うアプローチをチームで学んでいける。そのことに、私自身が一番期待しているのかもしれません。もちろん、変化には困難もともないますが、それすらも仲間とともに楽しみながら乗り越えていきたいと強く思っています。
今回の取り組みにおけるM&Aキャピタルパートナーズの支援を、どのようにご評価いただいていますか。
M&Aの成功は、信頼できるパートナーと出会えるかにかかっていると言っても過言ではありません。その意味で、最初から最後まで真摯に対応していただいたことに心から感謝しています。
特に助けられたのは、私たちの課題を深く理解した上で、数字という客観的な根拠をもってメリット・留意点を示し、判断を支えてくれた点です。漠然とした不安が大きな安心感に変わりましたし、プロセスを通じて自社を客観視できたことは、改めて「うちの会社はこうなんだ」と学ぶ良い機会となり、私自身の成長にもつながりました。
ありがとうございます。最後に、これからM&Aを検討する経営者の方々にメッセージをお願いします。

M&Aをご検討される背景には、何かしらの課題解決への思いがあるはずです。自身の経験から申し上げると、大切なのは、「とにかく動いてみること」です。私のケースも、「まずは自分の目で確かめよう」という課題意識を持って多くの方と話したことが、結果として今回のM&Aに結びつきました。動かなければ、何も始まらないのです。
また、良いご縁に恵まれる大前提として、自社が選ばれる会社であることが何より重要です。私は日頃から、誰が見ても、「しっかりした会社だ」と思っていただけるよう、業務や資料の整理を徹底してきました。業界の先行きが厳しい中でも、やるべきことをしっかりやっている会社は、必ず誰かが見ていて正当に評価してくださる。今回のM&Aは、その証明になったと自負しています。
それでは最後に、常峰さんから今回の取り組みの総括と、読者の皆様へのメッセージをお願いします。

まずは、戸塚社長が抱えていらっしゃった課題の解決をご支援でき、安堵しています。両社のさらなるご発展を心からお祈り申し上げます。今回の戸塚社長のように、これからM&Aを検討されるオーナーの皆さまは、会社の重要局面において多くの情報と時間をかけて難しいご判断をされることと思います。そのプロセスにおける仲介者の役割は、M&Aという選択肢の“解像度”を上げることです。具体的なお相手候補や条件を提示することで、漠然としたイメージをクリアにし、単独経営など他の選択肢とも公平に比較検討していただければと思います。我々は、ご自身の会社にとって最善のご決断を下せるよう、客観的で質の高い情報を提供し、誠心誠意ご支援を続けてまいります。

文:伊藤 秋廣 取材日:2025/7/17
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