さらなる高みを目指したM&Aの決断。
自社成長のボトルネックを解消するためのパートナーシップ
2002年の創業以来、ITのものづくりにこだわり、大手企業を中心としたWebやスマートフォンのアプリケーション開発を手がけてきた株式会社ソニックムーブ。クライアントからの信頼を積み重ねてきた同社は2024年、株式会社クラウドワークスのグループに参画。今後、高品質な開発実績とプラットフォーム事業のシナジーを創出することで、両社の新たな価値創造を目指す。譲渡側の株式会社ソニックムーブ 代表取締役 大塚 祐己 様と、譲受側である株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO 吉田 浩一郎 様に、M&Aの経緯と今後の展望について伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社ソニックムーブ
- 所在地
- 東京都千代田区
- 事業内容
- Webおよびアプリケーションの企画、制作、開発、運用
- 資本金
- 6,200万円
- 従業員数
- 82名
- M&Aの検討理由
- 成長の加速、営業・マーケティングの強化のため
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譲受企業
- 会社名
- 株式会社クラウドワークス
- 所在地
- 東京都渋谷区
- 事業内容
- フリーランス人材、SaaS、コンサルティングサービスの提供
- 資本金
- 27億8,469万円
- 従業員数
- 320名(単体)
- M&Aの検討理由
- クラウドワーカーのグループ内活用、開発の内製化のため
ものづくりへの誇りとこだわりを追求してきた
はじめに大塚様が創業された経緯をお話しいただけますか。
自分の進路について真剣に考えたことはさほどなく、学生時代から「絶対に事業を興す」などと意識高く準備していたわけではありません。ただ、自分自身がサラリーマンとして働いている姿をあまり想像できなかったというのはありました。
当時はまだまだインターネットの黎明期でしたので、何か「おもしろいおもちゃ」に出会ったような感覚だったことは今も覚えています。何か自分の手で作り出せたらと思い、2002年に共同創業者と2人で会社を立ち上げました。
最初はWebデザインの仕事からスタートし、徐々に事業を広げていきました。ソニックムーブという社名の由来は、音速のようなスピード感でムーブメントを作り出したいという決意を込めたものですが、今のように通信は光回線が当たり前になる前の時代の名残ですね。
ソニックムーブは、いわゆるガラケー(携帯電話)向けのコンテンツ制作に始まり、その後もWebサイトやFlashコンテンツ、スマートフォンアプリなど時代のニーズにあったプロダクトを送り出してきました。大きな転機は、携帯電話向けのアプリやコンテンツが評判となり、大手企業から続々と声がかかるようになったことです。それ以来、秘密保持契約の観点から名前を明かせないような大きなプロジェクトにも関わり、お客様の製品を下支えしてきた自負があります。
次第に貴社の強みが磨かれていったのですね。
特にスマホゲームが市場としても急成長するなかで、お客様に依頼されて受託開発をするとともに、自社プロダクトも手がけて事業規模を拡大させました。ビジネスの仕組みは違っても、お客様がアプリを使った結果、フィードバックが届き、さらにより良いものに仕上げていく工程は同じです。最終的に多くの方が楽しんでくれている姿を目の当たりにできることは、私たちの大きなやりがいにもつながっています。
率直にいえば、当時は少ないリソースでもサービスをリリースできた良い時代でした。今なら一つのゲームを作り上げるための金額や人的リソースは桁違いに増えています。しかし、ものづくりを大切にする精神は、創業当時からまったく変わっていません。「デジタルの世界で最強のものづくり集団になる」とビジョンに掲げていますが、今もものづくりが大好きなメンバーが集まって、みんなで最高のものづくりを目指しています。
現在はLINEを活用したアプリなどを含めて、消費者目線でのシステム開発が得意なエンジニアが、UXデザイン(ユーザー体験の設計)やシステム設計、開発や運用までをワンストップで実現しています。この点は、お客様からも高く評価いただいているポイントの一つです。
自分たちも納得できるものづくりを追求する環境を提供できたことによって、私たちはここまで成長できたのではないかと感じます。
大塚様はIPOを目指していた時期もあるとお聞きしました。
4〜5年前頃だったと記憶していますが、IPOを見据えて会社としての成長を加速させようとしていた時期があります。IT系企業の友人や知人にはIPOを目指す経営者が多く、実現させた人も少なくありません。競合他社が資金調達のスピードを速めるなかで、私たちだけが自社の資金調達力のみでは開発スピードで後れをとってしまう危機感があったのも事実です。
ただ振り返ると「自分もいつかは」と憧れる気持ちが強いものの、社員に対して「なぜIPOを目指すのか」、納得できる理由を提示できなかった反省もあります。また、これまで取り組んでこなかった業務にも向きあわなくてはなりません。不慣れながらも、管理部門の体制を整え、経営計画、予実管理など重要な数字の見える化を進めていきました。取り組みとしては大切なことでしたが、IPOとなるとかなり高度なレベルが求められます。
私たちは、ものづくり志向の強い人材が多く、数字を扱う業務が苦手だったり、意義を感じにくかったりしたのも事実です。社内にひずみが生じ、社員たちが疲弊していく様子も肌で感じられたため、そこで一度立ち止まって考えました。IPOを目指すのは時期尚早だと判断して、まずは会社の基盤を整え、安定的に収益を生み出せる体制づくりに注力しようと舵を切りました。
再び成長を目指すなかで知ったM&Aによって自社のボトルネックを解消する方法
その頃初めてM&Aキャピタルパートナーズにお問い合わせをいただきました。
当時はIPOを完全に諦めたわけではなく、会社の成長を加速させて、いつか再挑戦できないかと考えていました。そのための手段として、M&Aによって外部から補完することで刺激を与えることが良いのではと思い立ち、譲渡を検討している良い企業があれば紹介を受けたいと希望しました。そこでM&Aキャピタルパートナーズに連絡したところ、対応してくれたのが下岸さんだったというわけです。
はじめは、譲り受けできる企業を探したいと伺っていました。IPOをいったん中止して、自社で成長する手段を模索しているとのご意向でしたが、印象的だったのは、大塚様が会社概要を説明するときの表情です。自分たちが手塩にかけてきたアプリやWebサイトの話を、目をキラキラさせながら教えてくださり、まだまだご自身の手で事業を大きくしたいと、そして事業を心から楽しんでいるお気持ちを感じ取りました。
ただし、成長の再加速に向けて何らかの障壁があるものの、それらをどのように取り除けば良いか迷っていらっしゃる様子でした。そこで、中期経営計画の策定や収益構造の分析を通じて、一緒にボトルネックを特定するところからご支援させていただきたいと、ご提案させて頂きました。
改めて当時の課題を整理すると、成長の阻害要因は2つありました。一つ目は、収益構造の問題です。私たちは、受託開発の依存度が高かったため、収益の不安定であったといえます。一昨年は順調に案件も取れていて売上も立っていたのですが、逆に前期は既存取引先からの受注が止まり、売上が低迷する時期がありました。しかし、その穴を埋めるだけの営業的な施策が打てませんでした。
2つ目の課題は、まさにその営業面です。これまでの営業は属人化しており、仕組み化に取り組めていませんでした。私や取締役の個人的なつながりで古くからの知り合いから依頼される状態が続いていたので、新たに顧客を獲得する営業のスキルも、ノウハウも定着していませんでした。当然、組織的な営業活動や数値管理もできていなかったのですね。特定の個人が顧客とつながっていると、営業の再現性が上がらないため、規模を拡大するうえでは大きな妨げとなっていたように感じていました。
より正確にいえば、営業というポジションそのものが存在していなかったのです。受注は偶然や運に左右される部分が大きく、戦略的なアプローチができていませんでした。その根本には私たちはものづくりが大好きな人たちの集団であり、「良いものを作っていたい」というエンジニアの思いの強さがあったのだと思います。
こうした課題を克服するためには、さまざまな選択肢が想定されました。まずは、大塚様が想定されていたM&Aによって外部のリソースを補強するという「足し算」の考え方です。組み合わせ次第で、これまでの弱みが長所に化ける可能性もありますが、受け入れる自社の側にマネジメントする能力がなければ、期待したような効果は得られないリスクも孕んでいます。
一方、既に十分なリソースがあり、しっかりマネジメントも行える企業グループにジョインするという逆の発想もあります。どちらが正しいということではなく、結局は代表ご自身が会社をどのように導きたいかによって最適解は変わるでしょう。
弱みを自社単独で補う方法も、もちろんあります。投資資金が不足していれば、経営面にはそれほど関与しない投資ファンドと組んで、事業は自分たちでコントロールしながら、投資ファンドの資金を使って事業を育てる方法も有効かもしれません。
M&Aで譲受企業になったときの未来、株式を譲渡したときのストーリーも含めて、さまざまな選択肢について、大塚様とディスカッションを重ねながら、それぞれの選択肢において想定されるメリット・デメリットの解像度を上げていきました。
その後はどのようなことをお考えでしたか。
当初はM&Aで譲渡する側にまわることは想定していませんでしたが、譲渡によるメリットも認識したとき、「私たちの経営課題の解決を支援頂ける意欲・能力のある譲受企業が存在するのだろうか」、という素朴な疑問が湧き起こりました。
IPOを目指し、そして中断した経験から「社員が幸せになることを最優先すべき」だという気付きを得ていました。そのため、もし理想的なパートナーとのタッグが会社成長を加速させ、それが従業員の処遇の向上・自己実現にプラスに繋がるのであれば、それがベストな経営判断なのではないだろうか。一方今までのような自由闊達な社風が失われてしまうのではないか、そんな迷いを抱えながら数社の企業様との面談に臨んだことを今でも覚えています。
実際に下岸さんから可能性のある候補先企業を複数社ご紹介頂き、そのうちの数社からご提案のお申込みを頂けたときは、創業から今までの事業活動が評価されたことを実感でき、本当にありがたかったです。自分たちの強みや立ち位置について、客観的な評価を頂けたことも得難い経験になりました。
譲受企業の候補先を募るにあたり、真っ先に手を挙げられたのが、今回ご紹介したクラウドワークスでした。その後、面談などのスケジュール調整が最も速かったのも、大塚様に宛てたお手紙を渡してほしいと申し込みがあったのも、クラウドワークスが一番手。その時点で圧倒的な熱量を感じていました。
両者の初めての顔合わせでは、クラウドワークスのご担当者が既に、相当なレベルまでソニックムーブの事業を研究されていました。
ソニックムーブのプロダクト・開発力を褒めてくれただけでなく、私たちが自信をもっている点を的確に評価してくださいました。その理解度が深く、驚きと喜びを感じました。「従業員の立場で、初回からこんなことを言うべきではないかもしれないけれど」と前置きしながら、一緒にビジネスをしたいと熱心に誘ってくれたことが今でも心に残っています。
その後もクラウドワークスの方々は、私たちの中期経営計画をベースに、実現するプランを綿密に示してくれました。その高い解像度は、自然と実現できるビジョンが浮かぶほどのものでした。ここまで本気で向き合ってくれるなら、自分たちの事業を任せても一緒に成長できるのではないかと感じました。
それでもM&Aを決断するまでには不安や葛藤があったのではないでしょうか。
もちろん毎日が葛藤の連続でした。特に不安だったのは、仮にM&Aを決意したとしても、成長ストーリーに沿って思い描いたとおりの未来が実現するのか、これまで大切に育ててきたものづくりの環境が、外的要因によって損なわれてしまうのではないかということです。それでも、下岸さんに細部に至るまで、一つひとつの疑問に対して、端的な説明・解説を頂けたおかげで、分からないこと・情報がないことによる不安や迷いを丁寧に解消して頂きました。
創業から23年間、これまでも重要な決断を自分で下してきましたが、これほど思い悩む決断はありませんでした。決断した瞬間を覚えていないくらい、四六時中そのことを考えていたように思います。
最後の決め手となったのは、クラウドワークス 吉田社長にお誘い頂いたランチ会食での対話でした。多忙を極められる中、休日にお招きいただいたことも嬉しかったですし、その折に個人の人生観や価値観等についてもお話をさせて頂き、その上で直接さまざまな将来像をご提案を頂けたことで心が決まりました。私のために時間を使ってくださり、ビジネスに対する真摯な眼差しを目の当たりにし、本気で向き合ってくれるパートナーだと確信に至ることができました。
ビジネスに対する深い理解と徹底した対話が両者の距離を縮めた
ここからは、譲受側である株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEOの吉田 浩一郎様にも加わっていただきます。株式会社クラウドワークスの事業紹介、M&Aに対する方針をご説明いただけますか。
私たちは、フリーランス業界No.1プラットフォーム(登録ワーカー600万人・登録企業100万社)を基盤に、IT人材&コンサルティングサービスを提供している会社です。「個のためのインフラになる」をミッションに掲げ、インターネットの利用を通じて個が各々の能力や経験を他者のために役立てることで、報酬を得られる世界を目指しています。当社の経営の強みは次の5つに集約されると考えています。
一つ目は、年間約80万人のクラウドワーカーが流入するクラウドソーシングのプラットフォームです。ワーカーの新規獲得コストはほぼゼロで、クライアント側も年間7万社ほどが登録する状態になっています。
2つ目は、プラットフォームとエージェントの両立です。これは私たちの業界では珍しく、プロダクトが強いものの営業は弱い、またはその逆であることが一般的です。このように欠けているほうを提供できることは、私たちの重要な資産といえます。
3つ目は、アカウントセールス、つまり一つの企業の複数部門やプロジェクトに対して、あらゆる角度から解決策を提供する経営課題解決型の営業モデルです。グループイン企業のサービスも含めて顧客に提供することで、1社あたりの単価を向上させています。
4つ目は生産性向上プログラムで、社員一人ひとりが日々の売上総利益向上やコスト削減を目指す仕組みを導入しています。
そして5つ目は「CW Management Policy」。経営ノウハウをポリシー化し、再現性のある経営を実現していることです。
「CW Growth Driver」と定義した5つの強みを利用して、どう価値を生み出せるのか、どのような会社ならシナジーを創出できるかを検証することが、私たちのM&A戦略の基本です。ソニックムーブのケースでは、長期にわたってアプリの開発・運用を行っている実績があり、私たちのクライアントに対してアドオン(ソフトウェアへ新たな機能を追加するためのプログラム)やクロスセル(顧客が購入を希望している商品と組み合わせて使うことのできる商品の購入を促すこと)の提案が可能になると考えました。
このように、お互いの強みを活かせる関係性を重視しています。
クラウドワークスにとって今回のM&Aはどのような意義がありましたか。
私たちには膨大な数のクライアントがいるにも関わらず、常に機会損失が起こっています。従来はエージェント型のビジネスモデルのため、人材を月額で提供することしかできませんでした。
例をあげると「アプリを開発したい」という顧客のリクエストがあっても、できることは、アプリ開発が得意なプロジェクトマネージャーを紹介する程度で、本来なら丸ごと受注できたはずのアプリ開発の業務を取り逃していたことになります。
原因は言うまでもなく、私たちの組織力や開発力が不足していたためです。一方のソニックムーブには、名前を明かせないような大手企業のアプリを長期間にわたって開発・運用してきた実績があります。これまで不可能だったアドオンやクロスセルの提案が可能になり、非常にわかりやすいWin-Winの関係構築が可能だと考えました。
実は、私たちが想像していた以上の大手クライアント企業の著名なWebアプリがソニックムーブの力によるものだったと、あとから知りました。守秘義務の関係上、M&Aの話を進めているなかでも知り得なかった情報だったので、のちに本当の実力を見せつけられることになりました。良い意味での驚きでしたね。
大塚様とお会いした時点でソニックムーブの課題は明確に把握されていましたか。
もちろん大塚さんと初めて会話した時点で、ご自身が考えている課題などは伺えました。ただし、大切なのはこちらがその答えを用意するというスタンスではなく、対話を通じて知っていく、一緒に答えを探す姿勢ではないかと思っています。
当社は「Be Agile」という考え方を大事にしており、バリューにも据えています。もとはエンジニアリングの開発用語で、迅速や俊敏といった意味です。これを経営全体に広げると、変化に対しても柔軟に対応するというニュアンスが加わります。
アジャイルを実践するために重要なのは、あらゆる前提条件を排して考えることです。思い込みやこれまでの常識に捉われないことは、全社共通の約束であり、すなわちメンバーに対する私からの約束でもあります。社長が「絶対こうだ」と言っても、異なる提案をして構いません。それを社長も含めて、いったんは全員が受け入れるということです。
アジャイルを心がけている理由を、もう少しかみ砕いて教えていただけますか。
私たちは人材市場を主なビジネスのフィールドとしていますが、働くことに対する意識が急速に変わってきました。たとえば、10年前なら副業はほんの一部のカルチャーでした。しかし、現在は副業を認める大企業が続出しています。かつては、株式会社を作らなければビジネスを展開できないと思われていた常識も、YouTuberやサロン運営などによってくつがえりつつあります。
こうした猛スピードの変化を踏まえると、これからの正解は現在の社長の頭のなかにあるのではなく、社会のなかにあると考えるのが妥当です。逆算思考によって未来の姿を固定化して、今やるべきことを定義する、いわゆるウォーターフォール的な考え方で通用する領域もあるでしょう。しかし、人材市場においては、むしろ社会の変化を観察し、そこから学んでいくことが必要です。
そうした意味で、大塚さんと話すときにも、対話によって知る姿勢を大切にしました。知るということは、やればやるほどその難しさがわかってきます。多くの人は自分の解釈や理解の範囲でラベルを付け、わかった気になってしまいますが、それだけは避けたいと考えています。
特にソニックムーブは、大塚さんを中心に23年間も経営してきました。このなかでの苦労や大切にしてきたことは、私たちにわからないこともたくさんあります。時間軸でいえば、クラウドワークスが創業するよりも前から努力されているので、私たちよりも豊富な経験をお持ちです。
それに終始一貫して、ものづくりを大切にされてきたことは、はっきりと伝わってきたので、課題がものづくり以外の部分にあるのは明白でした。ここに私たちの強みを活かせる余地があることを、確信できました。
アジャイルの大切さには共感する点が多くありました。受託開発では、クライアントのオーダーに対して柔軟に変化していくことを是としてやってきたので、私たちも柔軟性は持っていたと思います。
でも、吉田さんの考えるアジャイルはもっと広く、経営・組織全体に及ぶものです。今期から、私たちも「Be Agile」を会社のバリューに取り入れましたが、吉田さんのお話に感銘を受けたことが理由です。
特に印象的だったのは、クラウドワークスのカルチャーを共有する「カルチャーブック説明会」でのお話です。吉田さんが3時間にわたってグループのコアとなるカルチャーを説明してくださり、本当に惹きつけられました。自分たちの事業がどのように社会と接点を持つのか、どこから始まっているのか、労働や雇用といった歴史を紐解きながら解説してくれるので、学ぶべきことがたくさんありました。
カルチャーブック説明会のねらいについてお聞かせください。
カルチャーブック説明会は月1回、定期的に開催しており、新入社員を中心に誰もが自由に参加できる仕組みにしています。プログラムの前半は、働き方に関わる会社としてのクラウドワークスの位置付けについてがメインです。歴史のなかで働き方がどう変わってきたか、フリーランスやクラウドワークスが社会でどういう位置付けにあるかといった話をします。江戸時代からの働き方、世界における資本主義の始まりなど、大きな文脈のなかで現在の立ち位置を考える内容です。
ただ、一方的に社長の考えを組織全体に広げる目的ではなく、メンバー自身が自らの仕事の意義を考えるきっかけにしてもらうことを目的にしています。
そのため、プロダクト開発のようにユーザー、すなわちスタッフからのフィードバックで改良を重ねてきました。「入社時に聞いたときととても内容が変わりましたね」といった感想もよく聞かれます。
ソニックムーブのマネージャーやスタッフ、何人もが参加しましたが、みんな楽しそうに感想を話していました。個人的に印象的だったのは、働き方についての考え方です。
ソニックムーブの社員はリモートワークを尊重しているので、今後その働き方が変わってしまうのではないかと不安もあったのですが、心配無用でした。クラウドワークスでもエンジニアリングチームはフルリモートで働いていると知ったうえで、私たちの文化を尊重していただいていることも理解できました。
早くも生まれるシナジー。真価を発揮する日は近い
M&Aの実施から3ヶ月が経過しました。今、どのような相乗効果をお感じでしょうか。
吉田さんが予見していたとおり、クラウドワークスの営業リソースやノウハウと私たちの開発力をマッチさせることで、間違いなく売上拡大に反映されるようなシナジーが見えています。特に数字の見える化が進み、自分たちの事業がどのような状態か把握できるようになったことは大きな一歩です。
得意ではなかったKPIの設定や予実管理がクリアになったことで、組織として取り組むべきことも明確になりました。クラウドワークスのメンバーが、私たちの経営管理や営業にフルコミットする様子は、予想以上でした。
働き方についても、当初社員は不安を持っていましたが、むしろクラウドワークスは私たちの文化をちゃんと尊重してくれています。
具体的な業務面での変化はいかがですか。
今、PMI(M&A後の経営統合)の最中ですが、私が本当にずっとやりたかったことがひとつずつ着実に実行できています。例えば、私たちの会社でも今期からアジャイルという価値観を取り入れました。元々アジャイル開発はよくやっていたので、親近感がありました。もちろん、吉田さんの考えるアジャイルと開発者の考えるアジャイルには違いもありますが、私たちなりの解釈をしながら、全社に浸透させているところです。
数字に関しては結果がまだ完全には出ていないので、若干の不安は残っています。でも、このやり方で会社が成長できないのなら、ほかの道は無かったと納得できるくらい、今の方向性には確信を持っています。
今回のM&Aキャピタルパートナーズのサポートについて、それぞれのお立場から評価をいただけますか。
まず下岸さんがとても熱心で、勤勉なことを頼もしく感じていました。レスポンスが早く、不安や疑問がすぐに解消されるというのは、ストレスなくM&Aを進めるうえで重要な要素です。
また、物腰がやわらかく、対話型の姿勢で接してくださったことにも好感を持ちました。譲受側・譲渡側の間に立ち調整していくのは、難しい判断が求められると想像しますが、終始論理的でニュートラルな姿勢を崩されず、妥当な調整を図って頂いたものと思っています。
M&Aは交渉事ですから、条件面での歩み寄りが必要なこともあります。ただ「下岸さんが言うのなら、間違いはないだろう」と思わせるだけの説得力と信頼感があったのは確かです。最終的に気持ちよく合意できたのは、下岸さんのおかげです。
自分の意見をはっきりお持ちだったことが、信頼できると感じさせた要因なのではないかと思います。過去のM&Aでは、仲介役の見解や仮説が無いままに、双方の希望をただ伝言ゲームのように、エージェントから伝えられていた経験がありました。こうしたケースでは徐々に相手方の本当の思いや状況が見えず、疑心暗鬼が生じてしまい、折り合いがつかなくなりがちです。
その点、下岸さんは、相手方の希望・考えの背景や真意まで率直にお話頂き、ときにはご自身の論拠をもって、「相手方の意見が妥当だと思います」などと、はっきりした言葉でコミュニケーションを取ってくれました。売手・買手双方の「できること」「できないこと」を推し量り丁寧に双方の考えを擦り合わせる工程は、今後M&Aを検討するにあたっての学びとなりました。
これからM&Aを検討する経営者の皆さまに向けたメッセージをお願いします。
IPO、M&A、その他さまざまな選択肢がありますが、すべての経営者が同じゴールを目指す必要はありません。かつての私は、IPOを当然目指すべきものとして、ある種の呪縛を抱えていたように思います。
一皮むけて一段上のステージに登るためには、自社の資産だけでは不十分だと気付くことが大切です。そのおかげで、私たちは重要な経営判断を行うことができました。以前にも増して幸せそうに働いている社員の姿が目の前にあるので、現時点では、今回の経営判断は最善であったと感じています。
ずっとやりたかった経営改革も、実現できたことの一つです。
ただし、私たちがIPOを追求するのをやめたように、M&Aが常に正解とも限らないのは当然です。組織ごとに異なる、最も大切な事柄を実現するために最適な手段を選ぶ。これこそが、経営者の責務ではないでしょうか。
結局、企業経営は社長の考え方次第だと思います。もし迷っている内容があるなら、まずはさまざまな対話を試行することをおすすめします。対話の結果、やはり自社の力だけで、独立独歩で進めたいと結論づけるかもしれません。
ソニックムーブとは別のケースですが、昨年グループに加わった会社に対して、最初にお声がけしたのは5年前のことです。当時は自力での成長にこだわっていましたが、対話を重ねた結果、一緒にやっていく道を選択しました。
M&Aのメリットは、契約締結までは自由度が高いことだと思います。そこまで深刻に構えず「どのような方法があるだろうか」とリサーチしてみるのも、一つの考え方でしょう。
このたびは、優れた開発力を擁するソニックムーブと、営業や経営のノウハウという強みを有するクラウドワークス、相互を補完し合えるご両社の有意義なM&Aに携わらせて頂けたことに職業人として、大きな感謝と喜びを感じています。改めて関与させて頂きましたこと、心より御礼申し上げます。
また本件は、大塚様が自ら会社成長を思い、積極的に我々との接点を持って頂き、不足している情報を獲りに動かれたからこそ、実現に至ったものと省みております。その進取の経営姿勢に心からの敬意を申し上げます。
今後、本件を機に、ご両社が更に躍進されることを楽しみにしています。その傍ら、またいつか様々な形でご両社をご支援できるよう、精進致します。
(左から)大塚様、吉田様、弊社 下岸
文:蒲原 雄介 写真:平瀬 拓 取材日:2024/10/8