それぞれの選択 #105 AI関連事業×株式譲渡

AI技術とともに進化を続けるため、力強いパートナーを選択

「使えるAIを皆様のもとへ」をコンセプトに掲げ、AI導入検討から運用までを一気通貫で対応するトータルAIカンパニーである株式会社Pros Cons。同社は創業から5年目を迎える2024年2月16日、株式会社コアコンセプト・テクノロジーへの全株式の譲渡を実施した。なぜM&Aを進めようと考え、どのような未来を描いているのか。株式会社Pros Cons 創業者である代表取締役 安部 正一郎 様に話を伺った。

  • 譲渡企業

    会社名
    株式会社Pros Cons
    所在地
    東京都江東区
    事業内容
    AIを活用したシステムの企画・設計・
    開発事業、AI導入コンサルティング事業、
    AIトレーニング事業
    資本金
    650万円
    従業員数
    4名
    M&Aの検討理由
    更なる成長発展のため
  • 譲受企業

    会社名
    株式会社コアコンセプト・テクノロジー
    所在地
    東京都豊島区
    事業内容
    デジタルトランスフォーメーション支援、
    IT人材調達支援
    資本金
    5億6,500万円
    従業員数
    386名
    M&Aの検討理由
    DX支援サービスの拡充のため

先端のAI技術を製造業の外観検査に適用

まずは株式会社Pros Consの事業紹介からお願いできますでしょうか。

安部
株式会社Pros Cons 代表取締役 安部 正一郎 様(以下、安部)

製造業のお客様が活用されている外観検査AIのソフトウェア「Gemini eye」の開発を主に行い、他社製の優れたカメラや照明、装置などのハードウェアも含め外観検査を一気通貫で実施できるソリューションを提供しています。製造業において外観検査は、出荷前の最後の砦として重要であり、最も人的コストがかかっている工程です。正確に検査ができ、なおかつコストもカットできるという点が評価され、業界においても期待が寄せられる事業に従事しています。
もちろん、同様のビジネスを展開する企業も多数ありますが、Pros Consのソリューションには、“AIに良品だけを覚えさせて検査ができる”という特徴があります。一般的には、不良品のパターンを覚えさせることが多いのですが、不良品はバリエーションが豊富にありすぎて、数百種類ものパターンを覚えさせるのはかなりハードルが高くなり、不確かになりがちです。私たちが特許を取得している“良品だけで検査できるアルゴリズム”を主とする会社は、技術的なハードルの高さゆえにほとんどないのが現状です。

安部様が、株式会社Pros Consを創業した経緯をお話しいただけますでしょうか。

安部
安部

起業を考えたのは、高校生の頃です。当時、メディアを騒がせていたベンチャー企業の社長の姿を見て、自分の意思をもった起業家に憧れを抱いていました。志を持って神戸大学の経営学部に入学したのですが、周囲には“経営者になりたい”という人が少なくて驚きました。学生時代にもビジネスアイデアはあったのですが、“このまま起業しても小粒になる”と感じ、まずは大手企業に勤めながらヒントを探そうと、新卒で大手タイヤメーカーに入社しました。その会社を選んだ理由は、まず市場がワールドワイドであること、一般消費者向けと法人向けの両方のビジネスが学べると思ったこと、そして製品に対する強い思い入れがない分、ビジネスに徹することができるだろうと考えたからです。

その会社では、事業企画や営業企画の仕事を経験し、投資のシミュレーションにも携わっていました。2017年には東京モーターショーに参加したのですが、そこで当時、盛り上がりを見せていた「自動運転」の技術を目の当たりにし、“これからは自動運転の時代だ”“ここに身を置こう”と感じました。しかし、当時の自動運転はまだ、あくまで技術フェーズの真っただ中といいますか、まだまだビジネスになるまで時間がかかるだろうと判断し、それならばその手前にある、要素技術のひとつであるAI技術を学ぼうと考えました。社会人時代は40年ほどしかないので、その間に“時代を変えるような変化を生み出せる仕事をしたい”と思ったのですね。まさにこの先、AIは、時代を変えるのは間違いない技術ですから、まだ波が来る前から準備をしておくべきだと考えました。

まだまだ、AIは実用化のための研究開発が中心だったため、東京工業大学の研究室発のベンチャー企業に入社し、行きついたのが外観検査でした。当初、外観検査は、生産計画の最適化や言語解析、設備故障の予知解析など製造系カテゴリにおけるコンセプト技術のひとつでしかありませんでした。しかし、わかりやすく需要もあり、“参入していく隙間もある”と思いました。また私も製造業に身を置いていて、ベンチャー企業にいた同僚の一人も製造業出身ということで知識があり、AIと外観検査の相性が良いことも把握していました。そこで良品を集めて覚えさせる技術を研究して事業に活かそうという流れで、2019年、東工大初のベンチャー企業にいる技術系の仲間と新たに、株式会社Pros Consを立ち上げました。

会社は順調な滑り出しを見せたのですか。

安部
安部

新規のお客様向けに1日何十通もメールを送り、営業活動をしていました。同時並行で、システム開発に関する受託業務もお受けしながらキャッシュを獲得しつつ、大手企業からの信頼獲得にも努めました。サービスとして大手製造業と相性が良いことはわかっていました。商談を進めながら、需要の多さを実感していきました。私自身が大手製造業に身を置いていたので、勘所は理解していました。要するに、単純に「AIいれます」「検査できます」だけでは相手に響きません。大手が欲しいのは、ソフトウェア単体ではなく、トータルの提案ですし、現行の生産設備との連携です。実は撮像機器と設備を合わせた提供が難しく、そこは競合が嫌がるところだとわかっていたので、そのニーズをきちんと拾ってやりとげていきました。苦労はしましたが、比較的時代の流れにも乗ることができましたし、顧客も増加の一途をたどり、会社も順調に成長していきました。

事業コンセプトの“目線”が合致したことが大きかった

どのようなきっかけからM&Aを意識するようになったのでしょう。

安部

2019年に会社を立ち上げ、翌年に「Gemini eye」の提供を開始しましたが、私からすると“毎年違う会社を経営している”感覚でした。簡単にいうと2019年は“AIいりませんか?”という事業を進め、2020年は“Gemini eyeというソフトを使ってみませんか?”というビジネス、2021年は撮像機器と組み合わせたソリューションの提案、2022年と2023年は、周辺装置も含めて提案をしていきました。事業領域が広がればその難易度も上がり、当然リスクも増えていきます。振り返ってみると順調には見えますが、ここから大きく飛躍しようと思うと、小さな組織体が頑張るだけでは、広い専門性をカバーできないと考えるようになりました。もちろん、これから20~30年かければカバーできるかもしれませんが、進化の早いAI競争には適合できません。

安部

これまでベンチャーキャピタルからの出資を受けることもなく、自己資本だけで運営をしていたため、守りもしっかり考え小さな案件を中心に対応してきました。しかし、この先、大きなシェアの獲得が期待できるなか、これまでのやり方では難しいだろうと考えるようになりました。そこで、事業提携、ベンチャーキャピタルからの出資、そしてM&Aなどいくつかの選択肢の検討を開始しました。ベンチャーキャピタルの担当者やお付き合いのある会社と共同出資について議論をしたのですが、外観検査の領域はどうしても長期的な目線に立って投資すべきもので、腰を据えてやっていくべきという理解のある人と出会うことが非常に困難でした。M&Aならばリスクもリターンも一心同体で受け止めることができるのでは?”と考えはじめたころ、タイミングよく、M&Aキャピタルパートナーズをはじめ、4社ほどの仲介会社から手紙が届きました。そのなかから2社に絞ってこちらから連絡を入れて担当者とお会いすることにしました。

 

私は営業経験者でもありますし、ファイナンスの知識もあるので、各担当者に少し難しい質問を投げかけて、どこまでしっかりとした回答が来るのかを見極めようと考えました。結論から言うと、M&Aキャピタルパートナーズの岡山さんは、そのふるいのなかに残った方でした。

しかし、岡山さんは、とても若い方だったので、第一印象は“本当にこの先大丈夫かな?”と思ったのは正直なところです。私は例えば保険を選ぶときに、ついベテランの方から話を聞いて安心するタイプです。ただM&Aに関しては業界全体として若い方が多いという印象もありましたし、岡山さんと話していると理解力があってレスポンスも早く、変なクセというか、持論を押し付けてくることもないという点に好印象を持ちました。何回かお会いしているうちに、“やはり業界大手の社員なだけあるな”と思いました。 

 

M&Aは担当者の力や姿勢によって大きく結果が変わる仕事だとわかっていましたし、表面上だけでなく、長期的なお付き合いをするうえで信頼できるかどうかがすべてです。また、事業理解も重要です。AIだから何でもできるわけでないですし、本質を理解したうえでどのような相手にマッチするかを考えてもらう必要があります。AIの表面的な良い部分だけで判断されると、私たちが後々苦しくなります。そういった意味で、岡山さんは私が理想とするパートナー像に合致しました。

 

候補先を探す過程において、どのような条件を提示されていたのですか。

安部

候補先の条件として複数の特徴を提示し、いずれかに合致している企業を探してもらいました。まずは、AIというジャンルに精通している会社です。2つ目は、検査に関する装置を補える会社です。そしてファクトリーオートメーション(生産工程の自動化を図るシステム)関連の事業を行っている会社です。この3つの特徴を提示し、あとは譲渡対価についての希望も伝えました。

ここからは、M&Aキャピタルパートナーズ 担当アドバイザーの岡山さんにもお話を伺います。どのような提案をしたのでしょうか。

岡山
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 岡山 海斗(以下、岡山)

Pros Consは幅広い経営戦略で黒字も達成されていたため、まずはさまざまな方面でマッチするような幅広い選択肢をご提案して安部社長にご判断をいただいたほうがよいと思いました。“スピード感をもっていくつもの企業を見ていただくこと”を意識しながら活動を進めていきました。

安部

岡山さんに提案していただいた会社は期待通りのものでした。長く時間をかけて検討をすれば、さらに適した会社との出会いもあったかと思いますが、この活動を長く続けるのは大変です。従業員数名の会社の代表である私がM&A検討にリソースを割くとダイレクトに経営に響くので、半年という期間をきめていました。もちろん世の中の経済状況も悪くなる可能性もあったので、当初から期間を区切るべきだと考えていました。

今回のお相手先である株式会社コアコンセプト・テクノロジーに決定するまでの経緯を教えてください。

安部 岡山
安部

コアコンセプト・テクノロジーは、製造業向けにコンサルティングやシステム開発を提供しており、Pros Consの外観検査とはシナジー効果(相乗効果)が強いことは事前調査の段階でわかっていました。また製造業に対してバリューを提供していくという事業コンセプトの目線も合致していました。

さらに、金子社長(株式会社コアコンセプト・テクノロジー 代表取締役社長CEO 金子 武史 様)とトップ面談をして、「検査という“点”を提供しているPros Consは細かい部分に目が行きがちで、“点”の要素だけを重視しているとビジネスとして厳しくなる」と見抜かれていたことに驚きました。そして「お客様のデジタル化の一環として、全体の予算の中で一緒にやっていけば変わる。そこを一緒にやっていかないか?」と言われたときに、ビジネスの解像度が高い方だと感じました。私も色々と考えるほうだと思いますが、しっかり考えて行動するという経営者のキャラクターも合致し、相性がよいと感じました。

岡山

トップ面談の場に同席させていただきましたが、コアコンセプト・テクノロジーとのお話が一番、フィーリングがあっていると感じました。もっとも印象に残ったのは、「垂直統合を打破する」というフレーズにお二人が共感されていた瞬間です。今でも忘れられません。

安部

確かに言っていましたね。「製造業の型が決まってしまっているが、個でやっていても弱いソリューションになってしまう。この領域の中では一体となってやっていくべき」という話の流れで出てきた言葉だったと記憶しています。そこで、私も共感を覚え、一緒にやっていきたいと思いました。

M&A検討のプロセスそのものに意味がある

成約後に見えてきた、今後の展開についてお聞かせください。

安部
安部

経営者として、一緒に悩んでくれる方がいるのはとても心強く感じています。“小さく守りに入らなければ”という思考があったなか、“もっと大きく考えろ”と背中を押していただいている気分です。また新しい領域のビジネスへのチャレンジについては、我々だけでやろうと思うと何年もかかってしまいますが、一緒に進められるのであれば、スピード感をもって目標達成に向かえます。そういった可能性があるというのは単純に楽しいですよね。

いまは案件交流もあり、先週、展示会に共同出展し大きな反響を得て手ごたえを感じました。そういった意味で、お互いのシナジー効果も見えてきているように感じていますし、いつも“2~3年後はこういったことをやろう”とトップ同士でワクワクしながら話をしています。とにかく楽しい毎日を過ごしています。

ありがとうございます。最後に、これからM&Aを検討する経営者の方々にメッセージをお願いします。

安部 岡山
安部

M&Aに迷っている若い起業家に伝えたいのは、“少しでもM&Aが気になったら、その感覚は正解だ”というメッセージです。起業家たちの嗅覚は間違っていないですし、まず行動することが重要です。M&Aのプロセスは大変で長いのですが、財務だけでなく、企業の組織や戦略、文化を思い返して、色々な人に見られることで整理ができます。たとえ成約しなくてもそのプロセスには意味があると思います。整理されることで、もしかしたらM&Aではない別の答えが見つかり、通常の企業活動では解決できない根本的な問題の解消につながることもあります。迷ったら相談するべきです。重要なのは相談相手選びです。経営者は、お客様や従業員など、人を見るのが大事な能力であり、大事な仕事のひとつだと思っています。それは経営者全員の共通認識だと思いますし、その“人を見る目”に刺さるのがM&Aキャピタルパートナーズであり岡山さんだったということです。

岡山

安部社長、ありがとうございました。過分なるお褒めのお言葉をいただき光栄です。私からお伝えしたいのは、さまざまな状況のなか、経営者の皆様にとって必ずしもM&Aが一番良い選択肢であるとは限らないという点です。安部社長におかれましては、事業拡大を目的としてM&Aを選択されましたが、事業承継やアーリーリタイアなどさまざまな目的があるなか、M&Aありきではなく、あくまでその目的達成のための相談相手としてもご連絡いただければと思っています。


(左から)弊社 岡山、安部様

文:伊藤 秋廣  写真:小野 綾子 取材日:2024/6/27

担当者プロフィール

  • 企業情報部 主任  岡山 海斗

    企業情報部 主任岡山 海斗

    大手証券会社にて、上場・未上場オーナー及び法人の資産運用・事業承継コンサルティング業務に従事。
    当社入社後は、幅広い業界で後継者問題の解決や成長戦略としてのM&A支援業務に従事。


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