トップダウン型経営からの脱却。
成長の壁を越えるためのM&Aを選択した
創業から23年、スマートフォン修理店「iPhone修理救急便」を全国各地のターミナル駅などに展開し、約70店舗を誇るまで直営で成長させてきた株式会社every。トップダウン型のすばやい決断力と実行力で急成長を遂げてきたが、さらなる飛躍のためには組織改革が必要だと感じていた。その解決策として識学のメソッドを導入するため、M&Aという選択肢を選んだ経緯について、代表取締役の藤本昭様にお話を伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社every
- 所在地
- 神奈川県相模原市
- 設立
- 2013年
- 事業内容
- iPad修理、中古スマホ買取販売、ネイルサロン
- 資本金
- 800万円
- M&Aの検討理由
- バックオフィス強化・成長発展のため
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譲受企業
- 会社名
- 新生識学パートナーズ株式会社
- 所在地
- 東京都港区
- 設立
- 2021年
- 事業内容
- SBI新生企業投資および識学の投資会社
- 資本金
- ―
- M&Aの検討理由
- 更なる発展のため
ECからスマホ修理へ-叩き上げの起業家が築いた独自のビジネスモデル
はじめに創業までの経緯を教えていただけますか。

10代後半から飲食業界でキャリアをスタートし、10年近く自分で店を持つなどして働いていました。ただ不規則な生活になってしまうため、子どもが生まれたことをきっかけに営業職へと転職したのです。後に独立し株式会社everyを立ち上げました。創業時は現在の業種とは全く異なり、毎週泊りがけでの出張が多い業務内容でした。しかし家庭の事情から私が小さな子どもを一人だけで育てることとなり、地方出張を続けることが困難になりました。そこで、以前から空き時間を活用し運営を始めていたECサイト事業へと、経営の軸足を移すことにしたのです。
どのようなきっかけで、スマートフォン修理の事業を始めたのでしょうか。
ECサイトでは個人的にも興味があり自身でも使用していたiPhoneケースをメインに取り扱い、中国輸入による仕入れを行ない展開していきました。その後ECサイトのスキマ時間を利用してiPhoneの修理事業をスタートさせることにしたのです。神奈川県相模原市にあるJR横浜線の淵野辺駅付近に1号店をオープンしたのが始まりです。
ご存知のようにiPhoneは毎年新しい機種がリリースされますので、今では種類も覚えきれないほどさまざまありますし、iPhone以外のスマートフォン端末も随分増えました。しかし私たちがビジネスを始めた当時は、数えるほどの機種しかなく、修理技術も比較的シンプルでした。バッテリーと画面交換さえできれば、基本的な修理は可能だったんです。したがって、私もフランチャイズに加盟して2日間ほどの研修を受けただけで、大抵の修理はできると自信をもって言えました。
もちろん競合となる修理業者もすでに存在していましたが、まだまだ個人経営の小規模な店舗が多かったように思います。2010年代の半ばには、副業ブームが起きて、修理を個人で行っているフランチャイズ加盟の店舗が増えていきました。
現在のような多店舗展開を成し遂げるまでの道のりをお聞かせいただけますか。
当初は自分とパートさんのお給料が出せれば良いという程度に経営していたので、新たな店舗を出したり、組織化してビジネスを大きくしたりなど特に考えていませんでした。しかしあるとき、古くからの友人を雇用する事となったため、多店舗展開をして売上を増やすことを決意しました。そこで彼にも修理の技術を教えて、東京の町田に2号店を出したのですが、これがなかなか軌道に乗らず苦労したのです。
業績が改善したきっかけは、徹底した価格戦略と口コミの拡大です。周辺店舗での修理価格を調べ上げて、常に100円でも安くするよう料金を調整しました。またECサイトではすでに「口コミ」による売上への影響が大きいことが当たり前になっていましたが、リアルな店舗には浸透していなかった時代です。私自身、ECサイト運営で口コミの重要性はよく知っていました。特にスマホの修理店では、先駆けた取り組みだったため、新規顧客の獲得に効果があったと思います。
その後、鉄道会社が所有する駅ビルなど審査が厳しいながらも集客効果の高いビルへ出店を果たしたことで、一気にビジネスの可能性が広がりました。
拡大する戦略が一気に軌道に乗った要因はどのようにお考えですか。
同業他社の多くがフランチャイズ展開する中、私たちは直営店にこだわり、利便性と低価格を徹底したことも奏功していたと思います。フランチャイズには本部へ支払うロイヤリティの制度がありますし、仕入れの金額面でも不利です。直営だからこそ、価格面で優位に立てるのです。
成長軌道に乗ったことで、さらにアクセルを踏むことができたのですね。
私たちは首都圏の主要エリアでドミナント戦略を取っていたので、例えば渋谷で働いていた人材が新宿や池袋、秋葉原などの店舗にも行くことが出来るという柔軟性があり、その事により多くのコスト削減を実現しました。競合店の中で小規模フランチャイズ店や個人店などは過熱する価格競争に追随する事が出来ず多くの店舗が撤退していきました。
さらにコロナ禍の時期は商業施設などが空き店舗の増加に悩む中、私たちにとっては好立地のテナントに出店できるチャンスが拡大することになります。さらに多くの採用を進めることが出来たので事業規模を拡大出来た時期でもありました。
驚異の成長スピードも踊り場へ M&Aという選択が浮上する
順調に成長を続ける中でM&Aを検討し始めたのはなぜだったのでしょう。

一言でいえば、成長が踊り場に差し掛かってきたと感じたからです。業績はその後も毎年1割程度は伸びていましたが、以前のような著しい成長を感じることが少なくなっていました。しかし、M&Aへの興味はまったくなく、様々な仲介会社から話が来るので、一度話を聞いてみようかなと思った程度です。どんなアプローチをされるのかという単純な興味や、自社の価値がどれほどか知ってみたいという思いもありました。メインバンクをはじめ、いくつかオファーが届きましたが、初めは話を聞くだけという姿勢でした。
少しずつM&Aへの興味が高まったのはなぜですか。
会社が大きくなるにつれ、バックオフィスの体制が追いついていないという課題も感じるようになりました。様々な会社の話を聞いて、M&A業界の手法や相場感を学び、次のステップとして「名指し案件以外は話を聞かない」というスタンスに変わっていきました。もし話を進めるなら、具体的で熱心なパートナーの話だけを聞きたいと思ったためです。
M&Aキャピタルパートナーズの印象についてお聞かせください。
私は厳しいことをはっきり伝えるタイプですが、そんな私に対してもM&Aキャピタルパートナーズはしっかりと向き合ってくれました。他の会社だとストイックな言葉に対して「これはダメだ」と諦めるケースもありましたが、彼らは食らいついてきてくれました。
私には営業職やテレアポの経験もあるので、「厳しい客ほどつかめば強い信頼が得られる」という感覚があります。そういう意味では、彼らの姿勢は私にとって信頼できるものでした。
アドバイザーの三浦さん、鈴木さんから見た藤本様の第一印象はいかがでしたか?

藤本様は、いわゆる叩き上げのオーナーでいらっしゃいます。急成長に導いている実績から尊敬に値することはもちろんですが、実際にお会いするとビジネスモデルの秀逸さや決断力の高さを感じ取れました。
適切なお相手と引き合わせることができれば、日本でナンバーワンのスマートフォン修理会社になれるはずだという確信に似た期待を感じました。それにズバズバと本質を突いたご発言は、常に的確で、私自身も勉強になりました。

M&Aキャピタルパートナーズでは後継者がいない高齢者オーナーの事業承継を支援する事例が多いのですが、私は比較的若いオーナーが経営戦略のひとつとして選択するM&Aのご支援をさせていただく機会が多いです。まだご自身での挑戦を続けたいとお考えの経営者は「これからビジネスを拡大させていきたいけれど、ボトルネックがある」という問題意識を持っていることが多く、藤本様も同様だったかと思います。
しかし、私たちのネットワークをフル活用すれば、そのボトルネックを解決できる適切かつ有力なお相手を見つけられると確信していました。M&Aキャピタルパートナーズの特色として、具体的な相手からの条件提示まで無料でサポートしていることや、ネットワークの強さをお伝えしました。さらに、よいお相手が見つかって具体的な条件提示を受けてから、比較検討すればM&Aのイメージが深まるとご提案したのです。
当初はM&Aキャピタルパートナーズが紹介した先のみ斡旋という限定的な契約でしたが、次第に信頼関係が築かれていき、全面的にお任せすることにしました。他社の営業と比べ、厳しいことを言っても食らいついてくる姿勢は信頼できると感じていました。
理想のパートナー選びで会社の未来を託せる相手と出会えた
どのように候補先を提案していったのでしょうか。
everyのビジネスモデルを活かせる企業、例えば転用可能な遊休不動産を持っている会社や、バックオフィスの管理体制を強化できるような投資会社などをご提案しました。結果的にトップ面談は6社ほど設定しましたが、藤本様には明確な希望条件がございましたので、それを満たせる候補先を幅広く探しました。
当初は、事業会社へ株式を譲渡するのがよいか、投資ファンドと組んで自分が主導して成長させるべきか迷っていました。いずれの選択肢にも一長一短あるためです。事業会社の傘下に入れば大きな組織の一部になって安定するかもしれませんが、自由度が失われる可能性もあります。一方、投資ファンドなら資金と経営ノウハウを提供してもらいながら、自分たちのペースで成長できる可能性があります。私の中で重要だったのは「従業員が安心して働ける環境をつくる」ということでした。どの選択肢が従業員にとって幸せな未来を作れるかを考えながら判断していきました。
その中でパートナーを選んだ決め手を教えていただけますか。

識学のメソッドについては初めて会ったときに、ぜひ当社にも取り入れたいと感じていました。識学の経営手法自体に興味を持ち、すぐに本を買って勉強しましたし、読んだ感想としては私が普段から思っていることがわかりやすく言語化されていることに驚いたのです。
しかし実際には、私の考えは末端に行けば行くほど薄くなっていきます。直下の社員に対してもなかなか意識を植え付けられていないという課題がありました。識学のメソッドはまさにその点を解決してくれそうだと感じました。新生識学パートナーズ株式会社とのやり取りが増えるほど人間関係もできてくるので「この人たちと一緒にやっていきたい」という気持ちも大きくなっていたように思います。
デューデリジェンス(企業監査)の過程などM&Aキャピタルパートナーズのサポートについてもご評価をお聞かせください。
率直に言って、デューデリジェンスにおける書類の用意の負担が大きかったのは事実です。月次の店舗別のPLなど、そこまで細かな資料が必要となるのかと感じたものです。ただM&Aキャピタルパートナーズのサポートがあってこそ、なんとか期限内に必要な情報を開示できたのではないかと思います。私は普段の業務を継続しながら、必要な時だけ打ち合わせに参加するといった形で進められたのはありがたかったです。

今回は、買い手が投資会社だったため、外部の銀行から資金調達をする必要がありました。そのため事業計画や店舗別PLの作成など、藤本様にご負担をおかけした面もあったかと思います。上記のような資料を作成するために、外部の公認会計士にも協力もらい、日夜ミーティングを重ねてデューデリジェンスの対応を行いました。
藤本様のお考えが終始はっきりしていたことが、信頼関係を築く上で大きかったと思います。M&Aでは、遠慮や虚勢が理由になるとは思うのですが、売主が大事な局面で本音を言わないケースがよくあります。そうなると徐々に相手方の本当の思いや状況が見えず、疑心暗鬼が生じて折り合いがつかなくなりがちです。その点、藤本様は初めてお会いした時からご自身のお考えをはっきりと伝えてくださっていたので、進行中も双方の「できること」「できないこと」を丁寧に擦り合わせながらデューデリジェンスを乗り越え、クロージングすることができました。
M&A後の変化と今後の展望
M&Aによる変化、効果をどのようにお感じですか。
会社に行く時間が早くなり、帰る時間が遅くなったように思います。これは半分冗談ですが、識学のハンズオンサポートを受けており、社内トレーニングも定期的に行っています。従来のトップダウン一辺倒だったカルチャーが少しずつ正常化してきていると感じています。
従来は滝のように、上から降りてくるものを見ているだけという組織文化だったものが少しずつ変わり始めています。識学のロジカルトレーニングも多くの社員とともに受けていますが、私自身については、自分の中での復習や答え合わせをしている感覚に近いと思っています。
お電話で藤本様から、PMIが順調に進んでいると伺った際は、仕事冥利に尽きると感じました。双方のノウハウが合わせ、日本でナンバーワンのスマートフォン修理会社となることを応援させていただいております。
私の目から見ると、藤本様のコミュニケーションが以前より明るさが加わったように感じています。デューデリジェンスの負荷や、これまでご自身だけで組織運営されていた部分に、サポートしてくれる方が入ったことで、精神的な負荷が軽減されたのではないでしょうか。

その通りですね。私が描く理想は、組織が自律的に動き、決裁だけすれば良い状態です。とはいえ、本来の私は口出ししたくなるタイプなので、少なくとも幹部は私から言われたことを自分なりに咀嚼して、現場に落とし込んでいけるような組織にしたいです。これまでは修理が得意な人材ばかりでしたが、今後はマネジメントができる人材も採用していきたいと考えています。
最後に今後M&Aを検討する経営者に向けてのメッセージをそれぞれからお願いいたします。
創業社長は自分のやりたいことだけをやっていきたいという方が多いと思います。しかし、やらなければいけないことが足かせになって推進力を持てなかったり、ブレーキになったりすることもあります。私の場合は一点突破でやってきましたが、もっと早い段階でバランスの取れた経営ができていれば、もっと早くに成長できたのかもしれません。経営者がやりたいことを実現するには結局、社員の力が必要なのだと強く実感しています。
M&Aによって「自分ごと」として会社に関わってくれる人が増えることを実感しました。コンサルタントに高額なフィーを払うよりも、自らに投資してくれる人たちのほうが、本気で取り組んでくれる、これは当然と言えば当然のことですがとても有難いことだと感じています。
M&Aキャピタルパートナーズでは、情報収集を行う中で、M&A含め様々な選択肢を比較検討していただきたいと考えております。特にM&Aについては、お相手ありきの要素が強い為、我々を良いようにご利用いただければ幸いです。
M&Aにおいては、事業内容だけでなく企業理念やビジョンの親和性も重要な指標です。単なる規模の拡大だけが目的ではなく、お互いの価値観が合致することで、一緒になった後もスピード感を持ってより大きな相乗効果が生まれると確信しています。それらを把握するうえでも情報収集で積極に弊社をご利用いただけますと幸いです。

文:蒲原 雄介 写真:松本 岳治 取材日:2025/4/9
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