それぞれの選択 #128 建設業×資本業務提携

創業120年の伝統から革新へ
地域建設業の未来を切り拓く資本業務提携

1905年創業、秋田県男鹿市で120年にわたり地域のインフラを支えてきた株式会社清水組は、県内外の港湾整備に携わってきた老舗の総合建設会社だ。2025年7月、SBI地域事業承継投資との資本業務提携という新たな一歩を踏み出した。創業一族の5代目社長として経営を担う清水隆成氏は47歳。成長戦略としてファンドの力を活用する道を選ぶ、その決断の背景について詳しくお聞きした。

  • 譲渡企業

    会社名
    株式会社清水組
    所在地
    秋田県男鹿市
    設立
    1958年(創業1905年)
    資本金
    8,600万円
    事業内容
    総合建設業、内航海運業、貨物運送取扱事業、産業廃棄物処理業、宅地建物取引業
    M&Aの検討理由
    更なる成長・発展のため
  • 譲受企業

    会社名
    SBI地域事業承継投資株式会社
    所在地
    東京都港区
    設立
    2019年
    資本金
    事業内容
    投資ファンド
    M&Aの検討理由

5代目経営者が見据える120年企業の未来

清水様のご経歴、またどのような思いで経営してこられたかをお聞かせください。

清水
株式会社清水組 代表取締役社長 清水隆成 様(以下、敬称略)

私は大学時代に東京での生活を経験し、卒業後は岩手県にある建設会社で修業を積み、2006年に清水組に入社しました。しかし、経営環境は決して楽観できるものではありませんでした。公共事業不要論が叫ばれる時代に突入し、業界全体が逆風の中にいたからです。そんな折、2011年の東日本大震災という未曾有の災害を経験したことで、私は建設業の社会的使命を改めて認識することとなりました。社会からもインフラを支える建設業の重要性が再認識されるきっかけとなり、私たち自身も自社の仕事が社会に不可欠であるという誇りを取り戻せたと思います。比較的被害が少なかった日本海側にある清水組は発災直後の警戒作業から太平洋側に出向いて復興工事に全力を注ぎ、特に港湾や漁港の復旧には長期間にわたって携わりました。この頃から人材採用も活発に行うようになり、事業は安定軌道に乗り始めました。国土交通省をはじめとする官公庁からの信頼も厚く、安定した受注基盤があります。

私が社長に就任したのは2019年、平成最後の年でした。あくまで5代目に受け継いだ1人の社長であって、創業者ではありません。120年続いてきたこの会社をより良い状態で次世代に引き継ぐことが私の使命であり、言わばリレーにおける1人の走者だという認識が経営姿勢の根幹にあります。そのために必要な仕組みを構築し、持続可能な経営基盤を整えたいと考えてきました。

震災復興以降、経営環境の変化についてはどのようにお考えでしょうか。

清水

震災を機に建設業の必要性は認められるようになりましたが、地方特有の構造的な課題は解決されておらず、むしろ深刻化していると感じています。かつて秋田県が建設業から異業種への進出を推奨していた時期もありましたが、今では「建設産業活性化センター」を設置し、私たちをバックアップしてくれています。それにもかかわらず人材確保という根本的な課題は、解決できていません。

全国的に見ても秋田県の人口減少スピードは速く、数少ない若者は高校卒業と同時に県外へ出て、そのまま戻ってきません。私自身も、東京や他県での生活経験があり、一度県外に出る意義があることはよく理解しています。外の世界を知った上で「秋田を良くしたい」と思って戻ってくる、そういう人材が理想です。しかし現実には、県外に出た若者に清水組という会社の存在すら知られていません。地元高校からの採用は、長年の関係性もあって比較的安定していますが、大学生は難しいのです。

企業の認知度を高めることの難しさに直面していたのですね。

清水
清水

採用を強化しようにも、その入り口でつまずいていたように感じています。創業120年、海上土木工事という専門性を持ち、全国に協力会社のネットワークもあります。しかし、地域の方々からは、海の仕事をしている会社という程度の認識しかありません。陸上の土木工事も、民間の建築工事も手がけ、それも評価されている自負はありますが、県内のトップレベルの企業とは売上額に差があるのも事実です。

しかし単独で認知度を上げて、売上規模を拡大し、県内での存在感を増すことは容易ではありません。無理な売上拡大を図ろうとしても、従業員を疲弊させるだけです。特に今は働き方改革が叫ばれる時代ですので「保育園の受け入れ時間の間にきっちり仕事を終わらせよう」と言いながら、売上ありきで受注を取りに行くのでは矛盾しています。すなわち身の丈に合った経営をしながら、それでも成長していく必要があり、それには従来とは違うアプローチが必要だと考え始めていました。

自社の成長を模索する中で訪れた投資ファンドという斬新な選択肢

今回の決断にいたるまでのプロセスを教えていただけますか。

清水

慢性的な人材不足、資材価格の高騰、急速に迫られるDXへの対応など、めまぐるしい変化に単独の企業で努力するだけでは対応困難な時代に突入しています。DXについては独自にさまざまなツールや請求書の電子化なども試しました。しかし、建設業特有の経理処理の複雑さもあり、既存システムとの連携がうまくいかず、結局、手作業でのデータ処理が残るなど苦い経験もしています。

また2023年に、直営での労務者を確保するねらいから県内の建設会社をM&Aで譲り受けましたが、シナジー効果は限定的でした。両社それぞれが業務に追われ、人材交流もままならなかったのです。M&Aを成功させるマネジメント力の重要性を学ぶとともに、こうした経験から自社単独での成長には限界があることを認識し、外部の力を借りて次のステージへ進む必要性を感じていました。

 

そこにM&AキャピタルパートナーズがSBI地域事業承継投資からのオファーを持ち掛けたのですね。

本林
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 課長 本林龍磨(以下、本林)

SBI地域事業承継投資からは、地域に根ざした優良な建設会社を探しているというご相談を受けていました。すでに建設関連事業への投資実績があり、蓄積した支援ノウハウを活かして、次の投資先を検討していたという状況です。その中で、清水組に強い関心を持ったのは、120年もの歴史とともに国土交通省や県庁など、官公庁からの厚い信頼と海上土木工事という専門性などの要素が、投資の基準に合致していたためです。地域における信頼性と実績は、後から簡単に築けるものではありません。

清水様がまだ40代で、長く経営の第一線で活躍できること、そしてご本人が成長への意欲をお持ちであることも重要なポイントでした。成長戦略として投資ファンドを活用できる理想的な企業として、清水組への投資を検討していたのです。以前から清水組と情報交換をさせていただいていたご縁もあり、このオファーをお伝えさせていただく流れになりました。

 

清水

初めて聞いた時は驚きました。なぜSBI地域事業承継投資のようなファンドが、秋田の地方建設会社に興味を持つのか半信半疑でしたが、本林さんがファンドにとってのメリットを丁寧に説明してくれました。投資した企業の価値を上げ、数年後により高い価値で売却することで利益を得ることがビジネスモデルですが、だからこそ投資先企業を本気で成長させる必要があります。清水組の成長そのものが、出資者にとって最大の利益になると説明を聞き、一気に私の関心は高まりました。

さらに「清水組をファンドの力でテコ入れし、より良い会社にして地域で存続し続ける手伝いをしたい」という提案に心が動きました。私は引き続き社長を務め、本社も男鹿市に置いたまま、秋田県の企業として発展していける可能性が開けます。そこにファンドが持つ経営ノウハウ、ネットワーク、資金力が加われば、さまざまな課題を解決することにつながるかもしれないと感じました。

須田
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 課長 須田真和(以下、須田)

私は、清水様の率直に疑問をぶつけ、納得できるまで議論を重ねる姿勢に感銘を受けました。こうしたアクションからも、現状に満足せず常により良い会社にしたいという強い成長意欲が垣間見えます。SBI地域事業承継投資は、清水組の単独成長だけを見据えるのではなく、ロールアップ戦略(連続的に同じ業界の企業に対してM&Aを行い影響力を高める)による建設業グループの形成を構想していました。ファンドの持つ資金力、情報網、M&Aのノウハウを最大限活用し、清水組を中核とした企業グループを形成していく。そのことこそ、自社単独では実現困難な、ファンドならではの成長戦略だったのです。

清水

私自身もロールアップへの思いは強く持ってきました。志を同じくする仲間を集め強固なグループを形成すれば、業界における影響力を得ることができます。重要なのは、ただ規模を追求するのではなく、地域に必要とされる企業グループを作ることです。同世代の建設業経営者たちも同じような課題を抱えているのは明らかなので、Win-Winの関係を作ることができるはずです。

今回、投資を受け入れることで、清水組がロールアップをけん引する役回りになれることも魅力的だと思いました。仮にこのチャンスを逃したら、私たちは誰かが行うロールアップを後押しする役目になっていたことでしょう。

自社単独のこだわりを手放すことで将来に向けてさまざまな選択肢が示された

資本を受け入れる決断を下すには葛藤や不安もあったのではないでしょうか。

清水

もちろんです。最大の懸念は、先祖代々と受け継がれてきた経営の主導権を失うかもしれないということでした。大量の人材が送り込まれ乗っ取られたり、120年の企業文化が壊されたりといった想像もしました。ファンドは投資を回収することが前提ですから、将来見ず知らずの第三者に売却される可能性もあります。

しかし会長である父や、その弟の専務に本件について相談した時「清水家が筆頭株主であり続けることと、清水組がこの地域に残り発展し続けること、どちらが重要か」と私は問いかけました。強い決意と覚悟を示すことで、ふたりからはどのような結論であっても支持すると言ってもらえたのです。

 

本林

不安を解消する上で重要だったのは、SBI地域事業承継投資からの具体的なオファーでした。引き続き、清水様が社長として経営を先導することで、当面は経理総務部門の強化を目的として1名を派遣いただく方針が示されました。

本林
清水

将来の出口戦略についても、3~5年というスパンで考えてもらうことになりました。その時にどの程度買い戻すのか、第三者に譲渡するのか、上場するのか、いろんな選択肢があることをお話しいただきました。いずれにしても会社として清水組は変わらず存続し、経営をより良くするため全力で行動を取るとの約束に勇気づけられました。

デューデリジェンスのプロセスも、ある意味で安心材料になっていたと思います。120年の歴史がある分、資料は膨大でしたが、その過程で私たちの真の価値を理解してもらえたと感じます。財務内容の健全性、従業員の士気の高さ、地域での信頼を高く評価してもらえたことで、「自分たちがやってきたことは間違っていなかった」という確信を持つことができました。

ただ、M&Aキャピタルパートナーズのお二人のサポートは本当にありがたかったです。資料を整理するだけでも膨大な作業でしたし、M&Aの詳細を社内に明かせない中で、経理担当者に資料提出を依頼するのは難しいものです。

須田

嬉しいお言葉をありがとうございます。求められる資料の中で、代用できる資料を提案したり、先方と交渉したり、現場の負担を少しでも減らせるように心がけました。老舗企業にもかかわらず、必要な書類がきちんと整理され、すぐに取り出せる状態になっていたのは、長年にわたって真摯に経営と向き合ってこられた証だと感じました。

清水

それでも想定以上に長期化し、まだ終わらないのかと何度も思いました。ただ、その分じっくりとお互いを知ることができたので、急いで成約して後から問題が出るより、納得できる形で進められたのは良かったと思います。成約の日は令和7年7月7日と、7並びで縁起のよさそうな日、地元のお祭りと日付が重なったのも印象深い出来事でした。

始動する変革、そして地域と共に歩む次の120年へ

成約からまだ期間は短いですが何か変化を感じたことはありますか。

清水
清水

SBI地域事業承継投資より受け入れた方には、まずは総務経理関連資料の確認から着手いただき、120年間の慣習を全く新しい視点から見直してもらっています。我々が当たり前だと思っていたことに対して、次々と改善提案をもらえる他、外部からの目によって社内に適度な緊張感と変革への意欲が生まれていると感じています。

これまで自社単独では実現できなかったDXは、今後ぜひ実現したいところです。建設業特有の複雑な経理処理をどうシステムへ反映するか、顧客管理をいかに効率化するか。これらについては、グループの持つノウハウや他の投資先企業の成功事例なども参考にしながら、本格的な改革を進めていきたいと考えています。さらにロールアップに向けては、私たちの動き出しが期待されていると思います。そのため、海上土木という専門性や県内・東北におけるネットワークを駆使しつつ、地域全体のインフラを支える存在としてさらなる成長を目指していく所存です。

一つの重大な決断を経た今、地方で奮闘する企業経営者へのメッセージをお願いできますか。

清水

経営者が一人でできることには限界があります。私と同じようにまだ40代の経営者は、この先20年は現役で働けますし、そうでなくてはなりません。この期間をどう使うかが、企業の未来を決めることとなるはずです。現状維持もしくは衰退を迎えるのか、それとも外部の力を借りて大きく飛躍するのかで、私は後者を選びました。ファンドとの連携は、事業承継の手段ではなく、成長戦略の選択肢です。人材不足、DX化、事業承継問題など、地域企業が抱える課題を加速度的に解決できる可能性があります。M&Aを目的化することなく、あくまでも会社を成長させ、地域に貢献し続けるための手段として捉えれば、決してネガティブに考える必要はありません。まずは、情報収集から始めることをお勧めします。話を聞くだけならリスクはありませんし、むしろ知らないことのリスクの方が大きいと思います。

本林

私たちがご支援するM&Aの約半数は成長戦略を目的としたもので、今回の清水組のケースはまさにその好例です。地域に根ざした優良企業が成長することは、地域経済全体にプラスになります。雇用を守り、取引先との関係を維持しながら、より強い企業体質を作ることは、ファンドを活用したM&Aの本質的価値だと考えています。秋田県内、そして東北地方には、清水組のような優良企業がまだまだありますので、そうした企業と連携し、成長するサポートができれば本望です。

須田

振り返ると清水様は最初から好奇心を持って話を聞いてくださり、空振りに終わるかもしれないけれど、面白い展開になるかもしれないとおっしゃっていました。この前向きな姿勢こそ、今回のご縁組みの大きな要因だったと思います。情報はただ待っているだけでは、入ってきません。地方であればなおさら、積極的に情報を取りに行く姿勢も重要ではないでしょうか。清水組の事例が、秋田県のみならず地方を支える企業経営者にとって、新たな成長戦略を考えるきっかけになれば幸いです。

清水

清水組の企業価値が予想以上に高まって、一つの目安である3~5年後には自社で買い戻せないほどになっていれば理想的です。願わくば、次の120年に向けて日本を代表する企業であるトヨタ自動車のように、社員から、創業家から、外部からとその時々に会った人材が清水組の6代目、7代目となり新陳代謝とともに発展を遂げる組織となることを期待しています。今回の決断が、その第一歩につながったと言えるよう、努力を続けていきます。


 

文:蒲原 雄介  撮影:守屋 皓平 取材日:2025/7/25

担当者プロフィール

  • 企業情報部 課長 本林 龍磨

    企業情報部課長本林 龍磨

    新卒で大手証券会社に入社し、上場・未上場企業オーナーの資産運用及びIPO支援・M&A支援に従事。当社入社後は建設業、サービス業、製造業等の幅広い分野でのM&A支援実績を有する。建設業界M&Aプロフェッショナルチームメンバー。

  • 企業情報部 課長 須田 真和

    企業情報部課長須田 真和

    新卒で銀行に入行し、中堅・中小企業向けの融資業務・コンサルティング業務や個人の資産運用業務に従事。当社入社後は一貫してM&Aアドバイザー業務に従事し、建設業・工事業・運送業・製造業・IT企業等の幅広い分野において経験と実績を有している。建設業界M&Aプロフェッショナルチームメンバー。

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