それぞれの選択 #148 フォトスタジオの運営×エンタメ事業

上場を視野に入れながらの方針転換。
次世代への最適なバトンをM&Aに託した決断

夫婦二人のプリントショップとして創業し、時代の変化を捉えながらフォトスタジオ事業へと転換し、全国108店舗(取材時)を展開するまでに成長を遂げた株式会社キャラット。上場準備を重ねる中で、M&Aという大きな方向転換を決断したのは、創業者であり、30年以上社長として会社を率いてきた佐野 隆之氏だった。エンターテイメント企業である株式会社GENDAへの参画を選んだ決め手、そして今後の展望について詳しくお話しいただいた。

  • 譲渡企業

    会社名
    株式会社キャラット
    所在地
    奈良県香芝市
    事業内容
    フォトスタジオの運営
    M&Aの検討理由
    更なる成長・発展のため
  • 譲受企業

    会社名
    株式会社GENDA
    所在地
    東京都港区
    事業内容
    アミューズメント、カラオケ等のエンタメ事業
    M&Aの検討理由
    新規領域への展開のため

内定式で芽生えた起業への思いと偶然気づいたビジネスの種

まず佐野様がキャラットを創業するまでの経緯についてお聞かせください。

佐野
株式会社キャラット 会長 佐野 隆之様(以下、敬称略)

実家が小さいながらも商売をしていた関係で、親族にはサラリーマンがほとんどいない環境で育ちました。いずれは起業したいという思いがありましたが、バブルの時代で、どこでも就職できるような空気もあり、一度は就職してみようと金融機関から内定をもらいました。
ところが内定式に出席すると、同期入社の人数の多さに圧倒されると同時に、全員が同じ色のスーツをまとう姿にも違和感を抱いたのです。個性が感じられず、ここで自分一人がいなくなっても誰も気づかないだろうと思い、入社を辞退しました。それに金融機関の初任給よりも、大学時代から続けていた建設現場で監督を務めるアルバイトのほうが倍以上稼げることに気づきました。短期間で起業資金を貯めるなら、こちらが最短ルートだったのです。経営者になるなら金融機関で学べる知識も重要だったでしょうが、当時の私にとっては、目の前のお金のほうがより重要でした。
プリントショップを選んだ理由は、私自身が毎日、何十本ものフィルムを現像に出していたことから商機を感じたためです。建設の現場では、鉄筋や配管を正しく工事した証拠として、膨大な枚数の写真を残します。当時はフィルムの現像料が高く、毎日2~3万円は支払っていたはずです。通っていた写真屋の店主やフィルムメーカーに利益構造を教わると、現在の給料を超えるためにどのくらいフィルムを現像すれば良いかという試算もできました。奈良県内の小さなDPE店が、キャラットの第一歩です。

現像だけを行うプリントショップ創業から、どのように事業を広げていかれたのでしょうか。

佐野
佐野

常連客から写真撮影を頼まれるようになったのがきっかけです。私も妻もまだ二十歳前後だったため、同世代の若いお母さんたちから支持してもらえました。こうしたお客さんは、子どもの成長を写真におさめるので、ほぼ毎日フィルムを持ってきてくれます。そして、うちで新しいフィルムを買い、翌日また来店してくれるという方が本当に多かったのです。
ある時、「子どもの写真をここで撮ってほしい」とリクエストをいただくようになりました。ただ、私たちは撮影の経験がなかったため、しばらくは断っていたんです。しかし、赤ん坊の頃からうちの店に来ている子どもは、ここなら人見知りすることなく、自然な表情が撮れると言われ、根負けしました。これが撮影事業の始まりです。
ほどなくして、デジタルカメラが登場しました。DPE業界にとっては激変の時代でしたが、当社にとってはむしろプラスだったのです。もともとコンピューターは得意でしたので、すぐデジタルカメラの販売を始めました。その売上がフィルムカメラを上回ったら、プリント事業はやめようと決めていたこともあり、事業転換はスムーズに進んだと思います。その頃、撮影のニーズはさらに伸びていましたので、デジタル技術によって早く写真を見せられるうえに、店の利益率も向上するのでメリットばかりでした。時代の変化と、自分たちのやりたいことがうまく重なりました。

さらに、チャペルを新設してブライダル事業にも乗り出されましたね。

佐野

ありがたいことに撮影の依頼がどんどん増えていき、あっという間にキャパオーバーとなりました。1組のお客様が来店して、着替えやメイクを行って、撮影を行うまでにはどうしてもそれなりの時間とスペースが必要となります。そこで近くの土地を取得し、新たにフォトスタジオを作ることにしました。ただ、写真撮影だけでこの投資を回収できるのか不安だったため、リスクヘッジもかねてブライダル需要も取り込めるようにしたかったのです。

佐野

そこでチャペルとフォトスタジオを併設して、ブライダル雑誌にも広告を出して集客を図ったのです。ほぼすべての写真館、あるいは写真店が家族経営のまま留まる中、私たちが組織化、そして多店舗展開を目指したのは、新しく加わる社員のためでした。それまでは着付けやヘアメイクに長けた女性スタッフを重宝していたのですが、次第に男性からも入社したいと言われるようになったんです。新卒の男性スタッフに適した仕事はあまりなかったのが本音でしたが、何度も入社したいと言われて、男性の新卒第一号を採用することにしたのです。実はこの彼が、後に社長となる奥野(貴之氏、現・株式会社キャラット 代表取締役社長)でした。
人材が増えても店舗が少ないままでは、またすぐに成長の限界を迎えてしまいます。つまり、彼らの給料を上げ続けることができません。社員の人生設計のために店舗を増やし、会社を大きくするしかないのだと覚悟を決めました。そんな動機だったがゆえに、始めから100店舗を目指していたわけではありません。社員が増えるたびに、その状況の最適化を考えて、組織を変えてきました。

上場準備を開始しバトンタッチの準備を進める中での気づき

株式上場を目指したきっかけを教えてください。

佐野

以前から、55歳あたりを節目として経営の第一線は退く計画を考えていました。逆算すると、50歳を迎える前後には上場準備を始めておかなくてはならないなと。私たちの顧客層は、30代半ばのファミリー世代です。自分自身が同世代だった頃は、お客様の悩みや課題をすぐに想像できました。しかし年齢が離れていくと、顧客理解という点で少しずつギャップが生まれるのは否めません。経営者は、できるだけ顧客層に近い年齢のほうが適しているのだと考えてきました。
内部統制の整備やコンプライアンス強化といった地道な作業にも取り組み、4年ほど経過した頃には、上場の目標としていた段階まで来ていました。いよいよ「来年の夏には上場できそうですね」と外部からお墨付きをもらえるほどまで準備は進んでいたのです。

その方針を変えられたのはなぜだったのでしょうか。

佐野

一言で言えば、上場が最終目的ではなかったためです。創業者にとっては、上場は分かりやすく、美しいゴールであるのは間違いありません。上場準備とは、人間がデトックスして毒を抜くように、浄化するプロセスでもあります。しかし、上場したとしても、M&Aを選択した場合であっても、会社そのものが健全な状態で継続することのほうがお客様や従業員にとっては重要です。したがって、私は会社が最も成長できる方法を選ぶこと、この一点だけを重視しました。
よく言われることですが、上場後こそ荒波の中を突き進まなくてはなりません。株主の期待に応え続けなくてはならず、次に経営のバトンを受け取った人たちが、かえって苦労するのではないかと思うようになったのです。さらに、上場維持基準の見直しの話題も出てきました。上場後わずか5年で時価総額100億円が求められるなど、従来よりも高いハードルを越えるためには、早期成長と企業価値向上が不可欠になります。それは本当に幸せなのだろうか、という疑問です。
そこで、上場準備は継続しながらも、さまざまな選択肢を知る目的でM&A仲介会社の方ともお会いするように努めました。当時、上場を経験した詳しい人間が社内にいないことは、私にとって大きな悩みでした。社内にいないのなら、外部の頼れるパートナーを探すしかありません。これによって、M&Aの意義やメリットを学ぶだけでなく、自分たちの会社の客観的な評価についても知ることができました。

そのなかで、M&Aキャピタルパートナーズの印象についてお聞かせください。

佐野

すでに多くのM&A会社の方とお会いしていましたが、M&Aキャピタルパートナーズの安田さんは、はじめから一人だけ印象が違いました。他の方は、私の決断を催促しようと連絡されるのですが、安田さんは静かに待っている感じでした。適切なタイミングでそっと連絡をいただけるのですが、決してプッシュをしない方針が私にはあっていたように思います。

安田
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長 安田 韻

そのように言っていただき、ありがとうございます。改めて創業からのストーリーをお聞きして、ご夫婦での写真館の創業からここまで成長させてこられたことに非常に感銘を受けました。事業を成長させる手腕はもちろんですが、佐野様は非常にロジカルな方で、かつ社員の方々のことを本当に大切にされていらっしゃいます。そのバランスが今日までの健全な成長につながったのだと思います。
一番最初は、あるファンドからのご指名で佐野様にお話を聞いてほしいということでコンタクトを取らせていただきました。最初にお目にかかったのは渋谷にあるホテルのラウンジでしたが、上場の直前まで準備をされていたことや、他のM&A会社とも多くお会いされていたこともあって、M&Aを選択するメリットやデメリットなど、基本的な情報はすでに十分把握されていたのを覚えています。不要な時間やお手間を取らせないように、端的に必要な情報だけをお伝えするように心がけました。

佐野 安田
佐野

一緒に上場を目指してくれる相手がベストだろうと考えていました。当時は、まだ上場が最有力の選択肢だったわけです。先ほども話したように、上場を経験した人材が身内にはいませんでした。率直に言えば、社外の人たちの言葉をどこまで信じて良いのかは分かりません。だからこそ、味方を作りたいと思いました。当初は、その候補が投資ファンドだったのです。

適切な情報提供とアドバイスがあったから最善と思える選択にたどりつけた

投資ファンドとのM&Aを検討した結果はいかがでしたか。

佐野

投資ファンドだけで7~8社はお会いしたと思います。ただ、ファンドの仕組みを詳しく聞いていくと、ファンドが銀行から資金を借り入れて譲渡企業に投資するものの、その資金は結局、譲渡企業が背負う借金になるのだと知りました。そもそも上場維持基準がハードなのに、自ら借金を背負いつつ、事業を成長させ続け、株式市場からの評価を得なくてはなりません。複数のファンドに聞いても、構造は同じだったので、消去法によってファンドという選択肢はなくなりました。

安田
安田

これはLBO(レバレッジド・バイアウト=譲渡企業の資産や将来の事業成長を担保に金融機関から融資を受ける)と呼ばれ、M&Aに必要な自己資金を少なく抑えられるため、M&Aの手法としてはよく用いられるものです。多くのプライベート・エクイティ(PE)ファンドは、投資家から資金を募り、投資対象となる非上場企業に出資して得られた利益を投資家に還元するビジネスモデルを採用していますが、LBOを用いた方が投資効率が高く、自己資金にレバレッジ効果が働きやすいためです。
譲渡企業にとっても、企業価値が高く評価されて株価上昇につながることや、ファンドからの経営面や人材採用の支援を受けられるなどのメリットはあります。ただ、佐野様がおっしゃったように、今回のキャラットのケースでは、すでに上場直前まで会社が整備されていたこともあり、メリットよりもデメリットが大きく感じられたのも事実だと思います。また、東証の上場維持基準の厳格化の情報提供や、上場後に機関投資家の投資対象となる基準、ファンドと上場した類似会社の事例のご紹介などをご説明し、キャラットの今後の選択肢について、佐野様とも幾度となく議論を重ねました。

佐野

いつも安田さんが細かな質問にもすぐ答えてくれたのは、本当に心強かったです。たとえば同業種の企業の上場後の様子など、私が知りたい情報を的確なタイミングで提供してくれました。どんな道を選んだとしても、基本的に元に戻すことはできません。そのなかで決断しなくてはならないことが最大のストレスであり、不安でもありました。判断のための材料を出し惜しみなく伝えてくれ、私の頭を整理するのにもとことん付き合ってくれたことにはとても感謝しています。

結果的に事業会社とお会いしたのは少なかったそうですが、GENDAと出会われた経緯を教えてください。

佐野

当初から、安田さんからはGENDAも含めた事業会社も並行してご紹介もいただいていました。ただ、先行してファンドとの協議に多くの時間を費やしていたため、事業会社とお会いするだけの余裕がなかったのです。ただ、方針転換後に改めてGENDAのことを知るうちに、本来私たちがやろうとしていた事業を、はるかに早いスピードで実現していることを知り、関心が高まりました。かねてから私たち自身も、将来的にはフォトの事業をエンターテイメント領域にまで展開させたいと考えていたからです。

安田

事業会社では、GENDAがパートナーの有力候補になりうると、早い段階で考えていました。私自身も以前にGENDAとのM&Aを支援させていただいた経緯があり、会社のビジョンや目指している方向性を理解していたことが背景にあったためです。佐野様の構想と通じる点を多く感じていました。結果的に、私がご紹介してご面談いただいた事業会社はGENDAだけでした。

先方と初めてお会いした面談時の印象をお聞かせいただけますか。

佐野 安田
佐野

第一印象は、とてもフレンドリーだと感じました。次々にM&Aの実績を積み重ねているにもかかわらず、人間味があり、私たちの事業の良さに焦点を当てて話してくれたのは嬉しかったです。ポジティブだったことに加えて、私たちが上場後に描いていた内容を話したときには「それを一緒に実現しましょう」と言っていただいたので、自分たちのやりたいことに近づける感覚ももちました。

安田

GENDAは、弊社が作成した企業概要書をもとに、シナジーについてご提案した時点から、終始一貫してキャラットに対して良い印象を持っていました。「GENDAエンタメ経済圏」を広げるというビジョンを掲げる中で、フォトという領域は新しい分野であると同時に、魅力的だと感じていたようです。面談の際も、とても前向きで積極的な姿勢が、言葉の端々から伝わってきました。

佐野

結果的に、トップ面談は2回だけでした。幸い、上場準備で資料がすべて揃っていたため、デューデリジェンス(企業監査)もスムーズに進みました。書類を整えたり、作成したりするのは大変だと聞いていましたが、何年もかけて準備してきた成果が、ここで生きた形です。
順調に物事が進んだのも、M&Aキャピタルパートナーズのサポートのおかげですね。安田さんが話していた企業概要書ですが、見せてもらったときの完成度に驚かされました。複数の事業が絡み合っているにもかかわらず、わずかな時間のヒアリングで、きっちり因数分解し、かつ誰にでも分かるように整理してくれていました。また、譲渡にあたってはGENDA含めた関係者全員の利益を最大化するため、会社分割、合併、株式交換、現物配当、新株予約権の処理など非常に複雑なスキームとなりました。ここでも安田さんと周りにいらっしゃる会計士などの士業の方々のアドバイスと実務面の支援があったからこそ実行できたので、本当に素晴らしかったと思います。

安心感のあるパートナーを得たことで、ビジネスを加速させる素地が整った

M&A成約後、どのような変化がありましたか。

佐野

同グループ企業である株式会社GENDA GiGO Entertainmentが展開するアミューズメント施設「GiGO」用の景品写真を当社のスタジオで撮影するなどの取り組みはありますが、まだ成果が出る段階ではありません。ただし、十分な準備期間を過ごせたように感じています。車で言えば、アイドリング段階を終え、まさにこれから走り出そうとしている状態です。これまでは、いわば車を走らせながら同時に現状分析や社内整備を行っているような感覚で、どうしても余計に時間がかかっていました。しかし今は、アクセルを思い切り踏める状態にあるかを判断できるテクノロジーの力が、チームに加わったような感覚があります。それが大きな安心材料です。業界自体は少子高齢化に立ち向かっていますが、それを打破できるような成長の仕方を示していきたいです。今回のキャラットのような会社や事業の受け継ぐ方法が、同業の方々の参考になれば嬉しいです。

アミューズメント施設「GiGO」用の景品写真をキャラットのスタジオにて撮影

アミューズメント施設「GiGO」用の景品写真をキャラットのスタジオにて撮影

最後に、M&Aや上場を検討されている経営者の方々へメッセージをお願いします。

佐野

上場もM&Aも、会社を大事にする手段の一つでしかありません。自分自身でずっと握っておきたいという考えも理解できますし、上場させ世の中に広く知ってもらいたいという経営者もいます。その中で私は、長く利益を出しながら、働く人やお客様に愛される会社であり続けるための選択を追求して、今回のような結論にいたりました。自分の会社が長く続くためには何が最適か、という判断軸で決めるのは、良い方法ではないでしょうか。

安田

おっしゃる通り、上場もM&Aもさまざまある手段の一つです。「その後、将来どうなりたいか」を定めていただくのは大変重要です。もちろん、業種やマーケット、その会社や経営陣の状況によって最適な選択は変わってきます。佐野様のケースのように、上場準備をしっかり進めてこられた会社がM&Aを選ぶこともありますし、その逆もありました。比較検討する材料として、M&Aという選択肢も並行してご検討いただくことに、損はないと思います。


 

文:蒲原 雄介 写真:松本 岳治 取材日:2025/12/16

担当者プロフィール

  • 企業情報部 部長 安田 韻

    企業情報部部長安田 韻

    大学卒業後、大手信託銀行にてオーナー経営者等の個人向け資産運用・承継業務(遺言信託・生前贈与)に従事。
    2017年に当社に入社後は、投資ファンドとの大型案件も含めた成長戦略型M&Aの成約実績を多数有する。

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