「圧倒的No.1獲得のため ファンドとのM&Aを選択」


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都心でも楽しめる室内型フィールドを展開し、マニアックだったサバイバルゲームをポピュラーなアミューズメントに昇華することに成功した株式会社エッジイノベーション。創業以来、順調な発展を続けてきた同社がなぜ、M&Aを決意することになったのか。創業社長である生田篤史氏と、買い手側のファンド・株式会社日本産業推進機構の秋山翔平氏に、これまでの経緯と未来についてうかがった。
起業時から“圧倒的No.1”を目指していた

大学時代からサバイバルゲームに興味がありました。プレイヤーとしてはもちろん、当時、私が所属していたチームのメンバーがアウトドアの有料フィールドを運営したいということで、その立ち上げに参画。大学生だったので出資をしたわけではないのですが、企画であったり、穴を掘ったりなど運営側の立場で仕事をしたことで、ビジネスとして興味が湧いてきました。
当時、ほとんどのフィールドがアウトドアで、天候に左右されやすい環境にありました。運営者としては、実際問題としてそこがネックになると感じていたこともあり、“いつかそれを仕事にできたらいいな”ぐらいの、漠然とした憧れのようなものを抱いていたに過ぎませんでした。大学を卒業してからは、起業というよりは社会人経験を積むために銀行に就職。融資担当としての仕事に打ち込む日々を過ごしていて、その間は、サバイバルゲームから離れていた時期でもありました。
やがて、社会人生活に慣れてきたころにサバイバルゲームを再開するのですが、ちょうどその頃、都市部には数多くの遊休不動産が存在することを、業務を通じて知ることになり、“これまではアウトドアでやっていたけれども、遊休資産をリノベーションした施設でインドアでやれたら、天候などを気にせず楽しめるのではないか”と思い至ります。
そこで、改めてサバゲーをビジネスとしてやりたいという気持ちが再燃。起業に向けて準備を進めることにしました。
銀行員的な視点から見て、当時のサバゲー業界に勝算ありというイメージはあったのでしょうか。

競技自体は面白いのですが、当時はマニアックでニッチなイメージが先行していて、とっつきにくい業界という感覚はありました。しかし、そこを変えていくことができれば、プレイヤーも増えるのではないかと思いましたし、潜在的なニーズはあると感じていました。
確かに当時は、市場として魅力的だったとは言い難い状況にはありましたが、どちらかというと“この競技を広めたい”という思いが先行して私を突き動かしていましたね。このゲームの面白さを理解してもらうためには、いつでもどこでも楽しめる環境が必要です。未経験者にとって車で山奥に行ってプレーすることはハードルが高く感じられるでしょうし、ましてや泥まみれになったり、虫が多かったり、トイレが汚いとなったら、絶対に女性は敬遠します。ですから、フィールドを都市部において室内型に変えていけば解決できるのではと考えました。

そういった分析、シミュレーションを繰り返す中で、やがて確信が生まれたことと、「会社を立ち上げるなら手伝うよ」と言ってくれるメンバーの声に背中を押されて開業に踏み切ったのが26歳の時。まずは大阪の江坂で一号店を立ち上げました。
もちろん、初心者を呼び込みたいので、アクセスの良さにこだわり、駅から徒歩でいける物件を押さえました。さらに他社との差別化を図るために徹底的に内装にこだわり、非日常感とアミューズメント性を高めていくことで、従来の“とっつきにくいイメージ”を取っ払いました。
もちろん考えていました。
ビジネスとしてしっかり取り組みたいと思っていたので、私がフィールドのオーナーになって現場に立ちたいというより、サバゲーを広めていきたいという気持ちが強くありました。ですから店舗を増やすことは私にとっての最重要事項でした。 しかも、もっといえば起業した時から、“どうせやるなら圧倒的No.1になりたい”という思いがありました。社名に最先端という意味を込めて、「エッジイノベーション」としたのもその想いの現れ。当初から業界を変えていく企業でありたいという理念を掲げていました。


一店舗目は最初から黒字でした。
起業してすぐに、このビジネスは成立するという手応えは感じていましたね。翌年には2店舗目として心斎橋に出店。そこも反響が大きく、手ごたえを感じていました。「心斎橋にできてよかった」という声が寄せられるたびに“やってよかった”という気持ちがわいてきましたし、特に未経験者の「サバゲーって、こんなにおもしろかったんだ」という声を聴くたびに喜びを感じていました。
その後、関東圏にも進出。登録会員数は4万人ぐらいに達するまで成長しました。そのうち3割強はリピーターとしてご利用いただいている状況。ここ数年は、体験型アミューズメントがトレンドになっており、私たちが提供する非日常体験がそのニーズと合致したのだと思っています。
M&Aは出店数を加速するための選択肢のひとつだった
そこまで順調に成長を遂げてきた御社がM&Aを意識するに至った経緯を教えてください。
3年目に入り、期間限定の物件契約をしていた心斎橋の店舗が建物取り壊しによって閉店。1店舗退店、2店舗出店の実務は私の体力的にも会社の資金的にも、そして組織的にも厳しさを感じていました。特に人材不足は切実な問題でした。この出店ペースでは、圧倒的No.1を獲得できないという焦りを感じていたのも確かです。
当時、社員は4人いましたが、皆、サバイバルゲームが好きで入社してくれた人たちなので、正直、ビジネスマインドを持っているわけではありません。事業展開に関する意思決定や実務のほとんど全てを私がカバーせざるをえない状況にありました。 私自身、店舗の企画を考え、出店することに大きな醍醐味を感じてはいましたが、同時にスピーディに数を増やしていくには組織力や資金力が不足しているというジレンマに悩まされていました。そんな中で、“M&Aという選択はありではないかな”と漠然と考えるようになっていました。
そう思い至ったのは、やはり銀行員としての経験があったからかもしれません。
そこで生田さんは、どのような行動に移ったのでしょうか。

まずは、自分たちの会社がどれくらいの評価をいただけるのか、あるいはどのような会社さんが手を挙げてくれるのかを知りたくて、ダメ元でプロに相談してみようと考えました。取引銀行に投げかけてみたところ、なかなか前に進まない。元銀行員としては、“やっぱりな…”とは思いましたね。 そこで、M&Aを専業とする企業にお任せしようと考え、インターネットで情報を収集。着手金不要のM&Aキャピタルパートナーズに行き着きました。
もちろん、私としては冷やかしのつもりは全くありませんでしたが、その時点ではあくまでM&Aは選択肢のひとつに過ぎなかったので、もし実現しなかった時に着手金というコストを払うという感覚はありませんでしたね。
相談するにあたり、M&Aキャピタルパートナーズの担当者に伝えたのは、店舗展開を加速したかったので、多店舗展開をされている企業さんとご一緒したいということ。それを絶対条件として相手先候補を探していただきました。
すぐにいくつかの候補先を提示してくださったのですが、最終的にパートナーとなった日本産業推進機構さんのようなファンドからご評価をいただけたことに素直な喜びを感じました。また、一般の事業会社であれば現状維持でOKという話になるかもしれませんが、ファンドにはM&Aによってバリューをあげなければならないという使命があります。
弊社のバリューをあげるには、店舗数を増やすことが必須となるはずなので、私が考えていた方向性と一致するし、M&Aをした後もそれはブレないだろうという確信がありました。
ニッチな事業にポテンシャルを感じた
ここからは、投資企業である株式会社日本産業推進機構の秋山翔平さんを交えてお話をうかがいます。まずは、日本産業機構様は基本的な姿勢として、どのような企業様に対して支援していらっしゃるのですか。

弊社の前身は米国の大手投資会社。その東京チームが独立して立ち上げた会社です。
2014年からスタートした活動の中で、日本の中小企業におけるM&Aのニーズの高まりを感じていました。それも事業に失敗して困っているというよりは、事業自体は非常に順調なのですが、なにかしらの理由で成長の天井を感じていらっしゃる企業が多くいらっしゃいます。そういった企業に対して、例えば人材が足りない、大企業とのネットワークが足りない、お金が足りないなどの天井を取り払うことによって、より良い事業活動が展開できるといったテーマで投資をさせていただいております。
また特徴的なのは、事業会社出身のメンバーも多く在籍しているという点。単純に金融的な投資リスクだけでなく、自分たちで事業を回してきたメンバーが、より経営者に近い目線で物事をとらえることができるという強みも持っています。
そういった観点からすると、この株式会社エッジイノベーションを最初に知った時に、どのような印象を持たれましたか。

成長ポテンシャルがあると感じました。
サバゲーが一般的にはアウトドアと言う形で広まっていることは知っていましたので、一定のマーケットは存在するだろうと。そこに対してインドアというコンセプトをしっかり打ち出している点をまず評価しました。
特に私が注目したのはお台場の店舗。あのような商業施設の中で、特に初心者の方にアプローチして、裾野を広げながらビジネスが成立している点に可能性を感じました。まさに我々が保有する店舗のソーシングネットワーク、投資採算の考え方、資金調達のノウハウを掛け合わせることで、生田社長の目標である業界No.1のポジションをとって、そのまま独走していける。そういう絵が描けるのではないかと感じ、お話をいただいた瞬間に面白いと、前のめりになりました。
企業としてのポテンシャルを評価する際に経営者の姿勢や人間性、ポテンシャルなどもある程度影響を及ぼすものなのでしょうか。

そうですね。我々は「パートナーシップwithマネージメント」を重要視していまして、経営層とのコミュニケーションを密にして、同じ方向を向いていけるかどうかという点はしっかり確認しています。経営者の中にはバッと突っ走る方もいて、それはそれで爆発的な力を発揮する時もありますが、生田さんは非常に堅実で、しっかりダウンサイドを抑えながら仕事をなされている。
その一方で、前向きに熱い想いを持っていて非常にバランスが取れている方だなという印象でした。
この方とだったら共に歩んでいけるであろうという予感はありました。
経営について相談できる心強いパートナーを得た

日本産業推進機構さんが出資されたユーエスマート株式会社の実績を知ったことでしょうか。室内遊園地事業を展開する会社なのですが、傘下に入ってからの店舗数の伸びを見て、自分自身の会社の成長イメージを明確にできた点は大きかったです。
M&Aキャピタルパートナーズが、きちんと繋いでくださって、対話の時間をしっかり設けていただいたことで、生田さんが目指したい姿と我々の実績がかなり明確に合致するようになっていたのではないでしょうか。密なコミュニケーションの中、弊社で投資判断をする委員会の人間を説明する材料をたくさん得ることができたのも大きいです。弊社の投資委員会も現場に近い目線で仕事しているので、私が確信していたエッジイノベーションのポテンシャルを共有。スピーディに判断を下すことができました。

確かに、M&Aキャピタルパートナーズの担当者は私が考えていることを正確に汲んで、しっかりつないでくれたと感じています。正直言って、M&Aを進めるには、かなり手間がかかるのではないかと危惧していたのですが、必要最低限の部分だけを自分たちで実施し、後は“丸投げして安心”という点は非常にありがたく感じました。
M&Aキャピタルパートナーズは売り手、買い手、両方の立場をしっかり理解しているからこそ、クッションとしての役割をしっかり果たしてくれるのでしょう。片方だけにつくアドバイザーもいますが、両方について両方の間を取り持つ仲介という関わり方にも大きな価値があると思います。

まずは、ユーエスマート株式会社との間で共同調達を開始。
購入資材や消耗品のボリュームが変えることでコストダウンにつなげています。もちろん、出店も加速していきます。全国で展開するユーエスマートの大型店舗のエリアにサバイバルゲームのフィールドをオープン。ユーエスマートがターゲットとするお子様が遊んでいる時間に、その親御さんにサバゲーを楽しんでいただこうと考えています。
現在、広島においてそのプロジェクトの第一弾を検討している段階です。

これまで、ほぼ一人で経営に携わってきましたが、本当に良き相談相手ができたことはうれしく思っています。まだまだ、これからの話ではありますが、私が下す決定に対する的確なアドバイスを期待しておりますし、そういう意味で心強さを感じます。
何度も申し上げるように、目指しているのは圧倒的No.1。それは絶対にあきらめません。店舗数でいえば、あと2店舗でNo.1になりますが、クオリティも認知度も含め、圧倒的No.1を目指します。
まずは政令都市には必ず1店舗はあるぐらいにまでもっていきたいですね。

生田さんのように志の高い経営者を支えることが大きなやりがいにつながります。我々が関わった企業が大きく成長し、経営者の方にとっても新しいチャレンジができている。それを支えることができるのは大変喜ばしいことです。
一方で、第三者的な立場で物事をみないといけないこともあるので、そのバランスを保ちながら、ということも意識しています。

私は仕事柄M&Aに対してポジティブなスタンスです。日本の場合、特にそうですが、中小企業の割合が非常に多く、それぞれの企業が単独で頑張るより、一緒になった方がうまくいくこともあると思うのです。今回のケースのように投資先同士で協力体制ができて、新しい可能性が生まれるのは明白です。M&Aが単なる事業承継ではなく、社会にとってプラスになる形で進んでいくのは間違いないでしょうね。
私もM&Aに対して、元々抵抗感はありませんでしたが、事業拡大をする手段として選択して取り組んでみて、実際に良かったなと現時点では思っています。特に創業社長となると、思い入れのある会社が自分のものでなくなることに抵抗を感じるというのもわからないわけではありませんが、もう少し身近で手軽な事業拡大手段の一つとして認識されるようになれば良いのではないかと思いましたね。

(文=伊藤秋廣 写真=伊藤元章)2019/09/20
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