
それぞれの選択
M&Aご成約者事例
#60


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新しい時代を生き抜くための
新しいリーダーを見つけることができた
“理想の動物医療の実現”という大きな志を抱き、若き獣医師たちが北海道札幌市で開業を果たし、牛馬といった大型動物から犬猫などのペットまで、幅広い診療を行ってきた株式会社札幌総合動物病院。長きにわたり、地域に根ざした頼れる動物病院として圧倒的支持を集めてきた同院がなぜM&Aを決意することになったのか。代表である土佐 悦朗様、譲受側の株式会社Withmal代表の山崎 智輝様に、これまでの経緯と未来についてうかがった。
“動物に寄り添い、人に寄り添い、地域に寄り添う”病院を運営

生き物が好きだったので獣医師をめざしました。中でも犬や猫でなく、牛や馬の担当獣医師になりたいと思い、大学卒業後、農協組織の診療部門に入職しました。当時は札幌の街中にも牛がいるような時代でしたので、近郊だけでも100軒以上もの酪農家がいて、獣医師だけで20名以上が所属していました。札幌だけでなく、旭川やニセコなど方々に酪農家がいるので、それぞれの担当エリアを分担して往診していました。私も自分が担当する80軒の酪農場に往診に出かける毎日。忙しくはありましたが、とても充実した日々を送っていました。
入職して5、6年が経過したころでしょうか、自分の中で“酪農家サイドに立った、質の高い診療がしたい”という思いが湧き上がってきました。同じような志を持った仲間がいたので、理想の診療ができる環境を自分たちで作っていこうと独立を決意しました。私を含めた4人が集まり、開業したのです。
世の中は甘くはありませんでした。自分たちの“思い”だけで開業してしまい、どのくらいの数の酪農家が私たちの診療を求めるか考えていませんでした。また前職との関係性も良くなかったため、なかなか思うようにはいきません。それでもあきらめずに理想の診療を追い求めるなか、徐々に、診てほしいという酪農家が増えてきて、口コミが広がっていきました。また、どんな時間であっても、お声がけがかかったら必ず往診に行くようにしていたので、緊急で依頼してくださる酪農家も増えていきました。“酪農家サイドに立つ”という姿勢が評価されていったのだと思います。

徐々に遠方からも依頼がくるようになり、1日中車に乗りっぱなしという日も増え、1日に500キロほど移動することも月に1、2回はありました。当時は若かったですし、やりがいを感じていたのであまり苦にはなりませんでしたが、往診を専門にしていると、診に行ける距離は限られていきます。また獣医師4人が常に忙しいわけではなく空き時間があったので、その時間を使って、犬猫も診るようになりました。
当時はちょうどペットブームが到来していたにもかかわらず、札幌で開業している動物病院は今の半分ほどだったこともあり、犬猫診療が伸びるだろうと判断しました。犬猫診療に力を入れていくことでどんどん仕事が拡大していきました。たくさんの犬、猫が連れてこられ対応できないほどになったので、数人の獣医師や看護師、事務スタッフなどを雇い、だんだんと病院自体が大きくなっていきました。ちょうど開業してから10年~15年ほど経った頃でした。
牛の往診と犬猫の診療、両輪での拡大が3年ほど続いていましたが、だんだんと犬猫の小動物の診療の方が上回るようになっていきました。新しく雇った獣医師も志が高く、“動物を治したい”と本気で思っている方が集まってくれたのもよかったのだと思います。病院として「動物に寄り添い、人に寄り添い、地域に寄り添う」という方針を掲げていたので、そのつもりで頑張ってほしいと犬猫の獣医師たちに伝えました。彼らはそれをしっかり実践してくれていました。
新しい時代に進むためには、新しいリーダーが必要
私が社長を引き受けて20年ほどになりますが、残念ながらその前後に、一緒に始めたメンバー4人のうち2人が離脱し、最終的に残った私たち2人も70歳を超えてしまいました。この先、10~20年と同じようなことをやっても、おそらく成長も発展もありません。新しい発想や新しいやり方を考え、実行していく必要があるという危機感を抱くようになりました。70代の我々の考えでは、もう無理だと思うようになっていたのです。古い時代から新しい時代に進むためには新しいリーダーが必要です。
もちろん、犬猫診療が中心となっていった過程で、病院を切り盛りする核となる獣医師を採用しました。彼は獣医師としての腕は超一流で人望もあり、人をまとめる力もあります。しかし、さらに“経営も任せる”となると忍びないし、無理なことを押し付けて彼のことを苦しめることが分かっていたので、それであれば、新しいリーダーを迎えたほうが良いのではないかと思いました。

とはいえ、どのような手段があるのか、明確な答えが見つからずに悩んでいたころに、ちょうど病院にM&A仲介会社からの案内が届くようになっていました。自分の中にあったM&Aのイメージは“吸収合併”で、あまり良い印象ではありませんでした。私には自分たちが作った「札幌総合動物病院」という名前を残したいという思いがありましたので、吸収合併されたら、それが叶わないのではないかと思いました。しかし、自分なりにM&Aについて調べてみると、必ずしもそういう形ではないということも分かってきたので、M&A仲介会社の方に会って話を聞いて確認しようと思いました。
M&Aキャピタルパートナーズ以外に、数社の仲介会社から案内がきていましたが、文面をしっかり読み込んで、自分の中でふるいにかけていきました。利点ばかりを強調し、具体性のない案内が多い中、誠実さを感じたM&Aキャピタルパートナーズにだけ会ってみようと思いました。様々な事例などを教えてもらう中で、10年、20年も続く企業は全体の2割ほどという話を聞きました。我々の病院は40年も続いてきましたし、我々創業者がいなくなっても、名前だけはこれから100年も残るかもしれないと感じ、その可能性に賭けてみたいと思いました。また、自分たちの希望も聞いてもらえるという感触を得たので、納得できる相手がいるならばM&Aの話を進めたいと思いました。
小澤さんは好青年です。我々の立場に立った対応をしてくれるので、とても信頼できる人だと感じました。どんな時もしっかり寄り添ってくださったので、もしも小澤さんが獣医師であれば、きっと優秀な医師になっただろうと思うほどでした。

自分自身を知っていただき、信頼していただこうと努めました。実際にお会いしても、土佐様のお人柄もとても良かったので、とにかくお力になりたいと思っていました。
お話を伺ったところ、これまでの病院を変えてくれるような新しいリーダーを求めていらっしゃったので、同じように動物病院を経営しているだけでなく、より新しいことに取り組んでいるという視点でお相手を探しました。とにかく先入観を持たずに、幅広く情報を収集しました。調べてみると、動物病院の業界自体に変革が起こっていないという気づきがあり、私なりに解決できる手段を探していました。
譲受企業に対し、応援しようという気持ちが大きかった

株式会社Withmalと有限会社ヤイマルの連結で、地域の中核病院からかかりつけ病院まで様々なタイプの動物病院を23院、獣医師とともに経営しています。私も獣医師ですが、動物の飼い主は病院を調べるのに苦労していると思い、ホームページがあれば便利なのではと6年ほど前に個人事業で動物病院向けのホームページの制作会社を立ち上げました。そこで動物病院の獣医師とコミュニケーションを図っているうちに、各々の経営課題が見えてきました。特に「税理士に丸投げ」「経営数字のことはよく分からない」といった話をよく聞きました。私は小さいながら会社を経営していて、会計なども勉強し、経営数字をできるだけかみ砕いて理解するようにしていたので、その知識を業界に活かしていきたいと考えるようになりました。
そんななか、懇意にしていた獣医師に対し、動物病院専門のM&Aの仲介会社から、「引き継ぎに困っている動物病院がいる」という話を耳にしました。そういった問題があるのであれば、私が引き継ごうと考え、行政から制度融資を受けて、沖縄にある動物病院を事業承継しました。そこから同じような課題を抱える動物病院を次々に譲り受けていきました。
獣医師のおよそ3割が一都三県にいると言われており、地方ほど人材がいないという問題を抱えています。また高齢の院長も多く、思うような手術ができない場合もあるので、飼い主からすると、かかりつけで院長に診てもらうのは安心するけれども、一方で技術が追いつかないという課題もありました。そのような病院に若い獣医師を送り込み、院長と協力しながら、臨床に集中できるような環境を整えています。
経営基盤がしっかりして、北海道で名のある動物病院であることは知っていました。スタッフの数も多いため“経営が大変”といったイメージはありましたが、北海道という土地で動物病院を成立させるためには、ある程度規模でなければ難しいのではないか?とも思いました。北海道にはまだ我々の病院がなかったこともあり、事業を承継したいと思うようになっていました。
日本の獣医大学のうち、私立の大学は国立に比べて獣医師の輩出が多いのですが、全国に6校しかない私立の獣医大学のうちの2校が北海道と青森にあります。リクルートの観点から、その2校の人材を押さえるために、北海道もしくは青森の動物病院が必要だと考えていました。そういった意味でも、とても良い病院だと感じていました。

自分にはまったく発想がなかったビジネスを展開されていたので、それだけで私の中では“推しだな”と思いました。山崎さんはお若いですが、私は決して若さを侮る人間ではありません。後生可畏(こうせいおそるべし)という言葉がありますが、若いということはそれだけ可能性がたくさんあるということです。山崎さんが、私の知らない世界で、私の知らないやり方で事業を展開していると知り、応援しようという気持ちが大きくなりました。また実際にお会いして話をしたのですが、山崎さんはまったく裏表がなく、私ともフィーリングが合うと感じ、応援するに足りる人物だと判断しました。
また、山崎さんの「利益一辺倒ではなく、その病院の地域を大切にする」という言葉にも惹かれました。自分が大切に思っていることが、山崎さんも同じように大切にしていることがわかって、すぐにでもご一緒したいと思いました。小澤さんからしっかり説明をうけていたので、もともとM&Aに対する不安はなかったのですが、第一印象から“新しいリーダーを見つけた”と直感的に感じ、後戻りすることなくこのまま進んでいこうと思いました。
小澤さんのセッティングもあり、土佐社長とはとても仲良くお話をさせていただいたので、私も“頑張らなくては”と思えたファーストミーティングになりました。M&Aキャピタルパートナーズは、私の性格も知った上でお相手候補を出してくれたのではないかと思うほどフィットしました。様々なタイプの院長がいますが、一人で頑張ってしまう方よりも、土佐先生のように“みんなで協力すべき”という考えを持っている方のほうが、M&Aや事業承継という道を選んでいるように感じています。私はそのほうが業界のためになると考えています。
新しい発想の人に引き渡せば、「100年企業」も夢ではない

気持ちの上では半分安心しました。“やっと自分の会社が次の段階に進めた”という気持ちと残りの半分は楽しみな気持ちです。これからどうなっていくのかが、やはり気になります。私の中では完結しておらず、これからまだ続く話なので、応援していきたいし見守っていきたいという思いです。山崎さんがまた、新しい発想を持って新しい事業をはじめるかもしれないし、それがとても楽しみですね。
頑張らなければならないという責任感がわいてくるのと同時に私も同様に“楽しみ”という気持ちが大きくありました。私は、基本的に新しいことをするのが好きで、かつ新しい土地なので、自分の中でも知識が増えるかもしれないという期待があります。また、土佐社長から「良いスタッフが多い」という話をうかがっていたので、皆さんと協力できることもまた、楽しみのひとつとしてあります。
関東、とくに東京には動物病院がたくさんありますが、北海道はまだまだ足りないと思います。ですので、経営の効率化や人材交流など、様々な視点がいろいろな病院から入ってくるような、カラフルな世界観を実現したいと思います。経営の効率化だけでは寂しいではないですか。豊かな市場にしたいと思うので「動物病院×北海道」という領域で頑張っていきたいと思います。
私は小澤さんと年齢が近いこともあり、とても話しやすかったです。例えば、銀行も担当者次第というところもあるかと思いますが、同じようにM&Aも担当者次第で、進み方が大きく変わってくると思います。小澤さんは本当に“優秀な担当者だ”と思っているので、“当たりくじを引いた”と感じています。

M&A仲介は、譲渡側、譲受側どちらの目線も拾わなければならないので、その塩梅の取り方が上手い人は優秀だと感じます。また、言い回しの上手さも評価しています。優秀な人は、ケンカが起きないように、バランスを取るのがうまいのではないでしょうか。
仲介者の人柄は重要です。どれだけ誠実に対応してもらえるか、我々のことをしっかり見て理解してくださるか、信頼できる人間に大切な会社を託したいと思います。時にはプライベートな話も織り交ぜながら話をさせてもらいましたが、小澤さんは実にオープンに自分のことも話してくださいました。小澤さんが裏表ないので、こちらも裏表なく対応しなければと思うようになります。お互いの波長が合う中で進めていけば、より良い結果が出ると思います。本当に良い人に担当してもらったなと感じています。私は駆け引きをするタイプではないし、おそらく小澤さんもそのようなタイプではないので、お互いに本音で話すことができてスムーズに進んだのだと思います。
ご両者それぞれに思いがあることがわかりましたし、そのお二人の思いに引っ張られました。“私としてはこう思うが、お二人がそう言うなら…”という場面が何度かあり、私としてはお手伝いしているつもりでも、勉強になることがたくさんあったように感じています。

私は“M&Aや事業承継が本当に好きなのだ”と実感しています。動物病院は新規開業がスタンダードで、最近ようやく事業承継という考え方が入り込んできました。私は事業承継を積極的にしていますが、それは“今まであったものを無くさない”という観点がとても大事だと考えているからに他なりません。何でも新しく塗り替えればいいというわけではないのです。若い人はどちらかと言うとその思考になりがちだと思いますが、私は、今まであるものをさらに良くすることが好きです。事業承継が好きだから、今の仕事につながっているのだと思います。私も獣医師で、動物に関してはプロなので、それと経営を掛け算していき、できるだけ業界の発展に寄与できればという思いを持ちながら事業を進めています。
また、スタッフをそのまま引き継げることも事業承継の良い点だと思います。それが悪い方向に働くこともたまにはありますが、ほとんどの場合は“やりたいこと”がある前向きなスタッフが多いので、その思いを経営者が変わったタイミングで伝えてもらい会社にとって良いアドバイスになることが多々あります。
先ほども札幌総合動物病院の女性獣医師から「これからこの業界はどうなっていくのか」と質問をされました。私は「猫の飼育頭数は横ばいで犬は下がってきているから、自分たちでも経営努力をしなければいけないね。自分たちでやれることを探していこう」と答えました。普通に働いていると、こういうことに触れる機会はなかなか無いと思いますが、経営者が変わったタイミングでメッセージを伝えるだけで、みなさん新鮮な気持ちになってくださります。これもM&Aを実行する意義のひとつだと思っています。
会社を譲渡するという意味合いでは、“自分が作って育てた会社を売り渡して、次の人に引き継いでもらう”という発想ではなく、もっと積極的に考えて、“自分が作った会社をさらに発展させるために、新しいリーダーに自ら橋渡しをする”という能動的な発想でM&Aを検討すると良いと思います。自らの手で、新しい発想の人に引き渡していけば、「100年企業」も夢ではありません。
経営者の代わりはなかなか見つかりません。経営者の強みはリスクを取りに行けることだと思いますが、そういった能力を持つ人材はそれほど多くありません。そんな人材を社内で見つけるというのはとても難しいことだと思うので、自分で探すのも良いとは思いますが、M&Aによる第三者への事業承継を検討してもいいのではないでしょうか。スタッフや取引先のためにもいろいろな選択肢があってしかるべきだと思います。
次のことを考え、信頼できる人に引き継ぐのはとても大切なことです。先に述べたように、私は、M&A=吸収合併というイメージが無くなり、理想の形で引き継ぐことができたとお伝えしたいです。先入観は捨てて、まずは一歩踏み出してみることが重要ではないでしょうか。
M&Aはあくまで選択肢のひとつです。決断する瞬間まで選択肢のひとつであるべきで、フラットに情報収集していただくことがとても重要だと思います。弊社が大切にするメッセージに「決心に、真心でこたえる。」というフレーズがあり、私はその言葉がとても好きです。私は、今回、譲り受けを決断された山崎社長と新しいリーダーに譲り渡すと決心した土佐社長に“真心でこたえる”だけだったかと思いますので、これからも愚直なまでにそれを続けていければと思っています。

(左から)弊社アドバイザー 小澤、土佐様、山崎様
文:伊藤秋廣 写真:田中則幸 取材日:2023/6/23
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