

100余年続く老舗材木店の歴史を、未来へ繋ぐ。
M&A後、新製品の共同開発も進展
香川県高松市を拠点として、木材の製造・販売を手がける株式会社マルトク。内装用木材・集成材を取り扱い、長きにわたり地域顧客に求められ続けてきたほか、木材業界において先駆けのような形で自社ECサイトを活用し、現在は全国へのネット通販事業も展開している。2024年、同社は日創プロニティ株式会社へ株式譲渡によるM&Aを行った。M&Aの経緯と今後の展望について、株式会社マルトク 取締役社長 中島 弘樹 様、日創プロニティ株式会社 代表取締役社長 石田 徹 様に伺った。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社マルトク
- 所在地
- 香川県高松市
- 事業内容
- 内装用木材・集成材の
卸売、加工、ネット販売 - 資本金
- 3,500万円
- 従業員数
- 約30名
- M&Aの検討理由
- 事業継続、従業員の雇用維持、
更なる成長発展のため
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譲受企業
- 会社名
- 日創プロニティ株式会社
- 所在地
- 福岡県福岡市
- 事業内容
- 金属加工事業
- 資本金
- 11億7,696万8,000円
- 従業員数
- 564名(連結)
- M&Aの検討理由
- 加工力の強化のため
焼け野原となった故郷への思いを胸に出発。苦難を乗り越え、100年企業に
まずは、株式会社マルトクの事業内容、および沿革についてご紹介ください。

マルトクは、香川県高松市を拠点とする木材の製造・販売会社です。
かつて大阪で木材商を営んでいた祖父が、第二次世界大戦下の空襲で焼け野原となった故郷・高松の復興に貢献するべく、戦時中に中断していた事業をこの高松の地で再開したのが原点となっています。初めは住宅建設に欠かせない柱や横架材などの販売を、次いで内装用木材の販売を主に手がけ、地域のお客様にお喜びいただいてきました。
やがて父、母、そして私と経営を引き継ぎ事業を続けてきましたが、一時は経営危機に陥り、工場閉鎖や整理解雇を余儀なくされる状態に。そこから事業の立て直しに奔走し、さらに自社ECサイトを立ち上げて木材のネット通販事業を始めるなど、会社の発展に向けた新たな取り組みにも積極的に挑戦してきました。この通販事業が会社を再び成長の軌道に乗せるきっかけとなり、おかげさまで2020年には創業100周年を迎えるに至っています。

どのようなきっかけからM&Aを意識するようになったのでしょう。

M&Aを事業承継の選択肢の一つとしてかねてより認識していましたが、本格的に考えるようになったのは後継者や人材の育成に課題を感じたことがきっかけです。
同世代の従業員たちと共に事業を伸ばすことに力を注いできましたが、顧みれば会社に“次の世代”がいないなと。会社の歴史を100年を超えて繋いでいくには後継者が必要ですし、インターネットを軸とした事業や新たなビジネスモデルを柔軟に考えるには、この次の世代の感覚や視点が欠かせませんから、「60歳で第一線を退く」と決断し人材育成に積極的に投資してきました。
しかしベテラン従業員が中心となる組織で若手を育てて定着させることに苦心し、60歳まで残すところ5年という時期には「このままでは次の世代に託して退くのは難しい」と思うようになっていたのです。当時、コロナ禍で好調を維持していたネット通販事業に陰りが見られ始めたこともあり、再び整理解雇を行うような事態に至る前にと育成以外の方法に目を向け、改めて強く意識するようになったのがM&Aという選択肢でした。
会社の“存続”ではなく“発展”を見据え、M&Aを選択
ここからは、担当アドバイザーの大木さんにも加わっていただきお話を伺います。お互いの第一印象からお聞かせいただけますか。
知人がM&Aキャピタルパートナーズの支援を受けてM&Aによる事業承継を成功させていたご縁で、私からご連絡を差し上げました。オンラインでのお顔合わせを経て、大木さんが高松まで足を運んでくださったのが初対面の機会でした。とてもにこやかで柔らかい雰囲気の方で、妻も心を開いていた様子が印象に残っています。

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 課長 大木 一樹(以下、大木):ご事業に対する強い思いや今後の事業課題をご相談初期のころからお聞かせいただきました。中島様の中で多くの試行錯誤を経て、このお時間を頂戴しているのだと理解し、身の引き締まる思いでした。また同時に、M&Aによってマルトクの事業課題の解決に向けて貢献できる可能性があるという強い実感もあり、是非お役に立ちたいという思いを感じたことを覚えています。
大木さんはどのように考え、どのような活動をされたのでしょうか。
「マルトクの歴史を繋ぎ、200年企業へ」という強い思いのもと中島様からお預かりしたご要望をふまえながら、最も重要な事業課題の一つである人材の採用・育成も後押しいただけるパートナーをお探ししました。

私からお伝えしたのは、社名を残したい、従業員たちの雇用を守りたい、そして工場における育成をサポートいただける人材の派遣をお願いしたいという3点でした。これらをもとにたくさんの候補先をご紹介いただき、「マルトクをただ存続させるだけでなく発展させること」をともに実現していただけるようなお相手を探そう、との思いで各社とのトップ面談に臨みました。
ビジョンの実現に向けて「絶対に必要なパートナー」
ここからは、譲受企業である日創プロニティ株式会社の石田様にも参加いただき、お話を伺います。まずは事業のご案内、およびM&Aに対するお考えを聞かせください。

日創プロニティは金属加工を幅広く手がける会社です。建築・建材や環境・エネルギー、工場・プラントなどをはじめ広範な業界へ各種金属製品をご提供しています。
お客様のあらゆるニーズにお応えできる「加工の総合企業」となるための重要戦略の一つとしてM&Aを位置付け、2016年より、製造業やその周辺事業を中心に約10社のM&A実績を積み重ねてきました。この姿勢は2024年に公表した第4次中期経営計画においても変わらず、新ビジョン「『創る』力で未来に挑む企業グループ」の実現に向け、引き続きM&Aによる事業領域の拡大に挑戦していくことを掲げています。
マルトクと日創プロニティ、お互い魅力に感じたのはどのような点でしょうか。

何よりの魅力に映ったのは、木材業においてBtoC領域、ネット通販事業に挑戦し、その成長を実現されている点です。日創グループとしても2023年に一般消費者向けにものづくりWEBサービスを立ち上げ、BtoC領域への事業展開を推進する途上にあることを背景に、私たちの掲げる構想とまさに合致するお相手だと考えました。
もちろん、これまでゴムやタイルなど多様な素材を扱う会社を日創グループに迎えてきた経緯がありますから、木材業を手がける会社が初めてその輪に加わることはビジョンの実現に向けて喜ばしいことですし、日創グループの顧客基盤がマルトクの事業を後押しできるのではという思いもありましたね。
同じ加工業を手がける事業者であり、ものづくりに心惹かれる者にとって、「加工の総合企業」として日本の製造業を束ね、活気づけていくという像は大変印象的なものでした。マルトクの存続ではなく発展を望む気持ちに適う、そのためにご尽力いただけるお相手ではないかと感じました。
トップ面談を経て、印象の変化などはございましたか。

トップ面談では、これまでの中期経営計画とM&Aのご実績、さらにリリースを1週間後に控えた ものづくりWEBサービスなどについてお聞きできました。事業領域の拡大やBtoC領域への展開に本気で挑戦されていること、そして前中期経営計画を策定された時点から木材業を熱望されていたことを改めて認識できた良い機会だったと捉えています。
またM&A後の体制づくりのために高松の工場への人材の派遣をご提案いただき、後継者の育成にも期待を持つことができた点が大変ありがたかったですね。
現在の状況や今後取り組みたいことについて直接お話をお聞きし、また現場や従業員の皆さんの姿も拝見した上で、お会いする以前と変わらぬ前向きな印象を抱きました。
現場の皆さんがとても真摯に働かれているのが印象的でしたし、事業の観点では、当社のものづくりWEBサービスにおいてはもちろん、今後挑戦しようとしている新製品の開発においても協同していけるだろうなと。直ちに大きなシナジーが生まれ業績が急変するということではなくとも、中長期的に見て絶対に必要なパートナーだと感じました。
両社が掲げる方向性の一致について活発に議論される様子に、同席させていただいた私も大変胸躍る思いであったことを今でも覚えています。
売り手・買い手とアドバイザー。 三者が揃って初めて成り立つ、M&Aという決断
今回のM&Aを振り返って、どのように感じていらっしゃいますか。
成約に至った直後は、仕事のあり方や従業員の皆さんの働き方がどう変化するのか、管理面での大きな変化に対応できるのか、といった不安の方が大きかったように思います。
しかしご一緒して1年が経とうとする今では、何より大きかった「歴史ある会社を次に繋げたい」という思いが形になりつつあることを感じ、また従業員の育成についても派遣いただいた人材のお力を借りながら少しずつ前に進められている手応えがありますね。
現場や事業における変化として実感されるものはありますか。
まずPMI(M&A後の経営統合)における日創プロニティの支援のおかげで、経営管理面の仕組み・体制づくりが進み始めました。
経営管理面では、特に計数管理にしっかりと取り組み経営の見える化を行うこと、規定類の整備やガバナンス体制の構築などルールづくりを行うことを重視しています。担当者が足を運び現場の様子を確認しながら、適切に利益を上げて従業員に還元できる仕組みを整え、自走を後押ししていきたいところです。
これはかねてより整備したいと社内で取り組みながらも実現できていなかったもので、今後後継者を育てていく上で大切な土台になるのではないかという期待があります。
またマルトクが日創グループに加わったことを機に、新製品開発の取り組みも始まりました。金属の日創プロニティ、タイルのニッタイ工業株式会社(2023年. 日創プロニティ株式会社と経営統合)、そして木材のマルトクのタッグで各素材を活かした洗面化粧台を共同開発し、展示会でご好評をいただいています。

新製品開発において早速頼られたことが嬉しく、また中小企業にとっては経営資源の観点から難度が高いブランド・商品開発の取り組みがこうして前進し、今後も広がっていくだろうと期待を持つことができているという点で、グループインしたことによる新たな可能性を感じました。
将来的にはさらに多くの中小企業で集まってシナジーを生み、優れた製品やものづくりの技術を海外にも展開していきたいですね。
ありがとうございます。最後に、今回のお取り組みにおけるM&Aキャピタルパートナーズの支援へのご評価をお聞かせいただけますか。

たくさんの候補先に出会わせていただいたことに大変感謝しています。多くの会社を知り、さまざまなお考えの方とお会いした結果として、日創プロニティや石田さんのお考えを「やはり良いな」と感じて決断できたのだろうと思います。
M&Aキャピタルパートナーズには、今回のご縁に限らず支援をいただいてきました。製造業だけでなく周辺事業も含め領域を拡大していきたいという方針を汲み、幅広く、積極的に情報を提供いただけること、スピード感を持って取り組みを推進していただけることに心強さを感じます。
会社どうしの出会いや交渉を取り持ち、決断まで後押しするというのは、責任の伴う大変な仕事です。売り手と買い手、そしてこの仲介を担うアドバイザーの三者がうまく揃って初めてM&Aが成り立つという点で、大木さんには大変なご尽力をいただいたなと感謝しております。
中島様の抱える課題の解決を実現するご縁をお繋ぎできたこと、トップ面談で議論されていた協業の展望が実際に新製品として形になったことの喜びを改めて感じます。伴走させていただいた10ヶ月という時間は、私自身にとって大変充実したものでした。
今後もぜひ日創グループの事業領域の拡大、そして非連続的なご発展を支援できれば幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。

文:伊藤 秋廣 写真:池田 清太郎 取材日:2024/12/2