

情に流されず、情も忘れない。
選択と集中で、黒字事業の成長を託す決断
病院に設置されている放射線機器のメンテナンスを手がける株式会社ウイング・ティは、同じ医療分野で電子カルテ事業を手がけるグループ会社・株式会社ライラの譲渡を決断。創業者の想いを引き継ぎ、2024年に代表へ就任した榊原 健洋氏が見据えたのは、本業への集中と、ライラのさらなる成長だった。譲渡を決断した背景と展望を、榊原氏と新たな譲受企業・株式会社マイクロニティ 投資戦略室室長の伊地知正幸氏にお聞きした。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社ウイング・ティ
(譲渡対象会社:株式会社ライラ) - 所在地
- 愛知県名古屋市
- 事業内容
- 医療機器のメンテナンス業
- M&Aの検討理由
- 本業への経営資源集中、
電子カルテ事業のさらなる成長のため
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譲受企業
- 会社名
- 株式会社マイクロニティ
- 所在地
- 東京都渋谷区
- 事業内容
- AI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォームの運営、ソフトウェアの企画・開発・運営・販売
- M&Aの検討理由
- 医療IT領域への進出・拡大のため
医療機器メンテナンスという安定した事業基盤と多角化
まずはウイング・ティの事業概要をお聞かせください。

当社は、病院の放射線部門で使われるCTやレントゲン装置といった医療機器の保守・メンテナンスを担っています。日々、医療の現場で使用される機器には、メンテナンスが欠かせません。各病院を回りつつ、修理など急な依頼にも対応できるような体制を整えています。医療は人々の健康、生活に密接にかかわる仕事のため製品知識や対応力が求められる一方、新規参入の障壁が高く景気の影響も受けにくいため、ビジネスとしては安定しています。そうした底堅さのある事業を築いたのが、創業者である私の父・榊原 浩恭でした。
私が社長に就任したのは2024年です。それ以前、親族に会社を継がせる意向のなかった父は別の社員に経営を託しましたが、その後に父が社長として再登板したという経緯がありました。年齢的な問題から、改めて後継者が必要な時期になっていたのです。私は、父の意向もあってウイング・ティとは距離を取っていましたが、組織づくりの面から会社を手伝い始めたのを機に、取引先や従業員の将来を考えて、自身が引き受けようと決めました。
今回譲渡した事業は、ウイング・ティにとってどのような存在だったのでしょうか。
譲渡対象である株式会社ライラは、先代社長がM&Aを行い、株式の100%を取得した会社です。30年近くにわたって電子カルテや調剤のシステム提供を手がけていました。
ウイング・ティの主な顧客が大型の病院なのに対し、ライラは個人経営のクリニックに対して顧客基盤を持っています。電子カルテもまた、日々の運営には欠かせないものです。ライラは長年営業を積み重ねてきたことで、多くの開業医に直接お会いして話ができるという太いパイプを持っていました。この最大の財産のおかげで、顧客である開業医から新規開業する医師を紹介していただき、提案するチャンスをいただくこともあります。
また電子カルテ事業は、継続的に収益が積み上がるストックビジネスで、経営としても非常に安定しています。ウイング・ティの歴史をひも解くと、この電子カルテ分野は、創業者にとっての悲願でもありました。今ではすっかり当たり前になった電子カルテですが、実は紙カルテ全盛の20年以上も前に、父はレセプトコンピューターや電子カルテの事業化に取り組んでいたのです。ただし、当時は機が熟さず、事業からは撤退した過去があります。そうした経緯から、ライラの譲り受けは、いわば先代の思いに対する再挑戦という意味も持っていました。
さらなる事業成長を思うからこそ黒字でも譲渡を決断
譲渡を決断された背景を教えてください。

同じ医療分野と言っても、医療機器と電子カルテ等のソフトウェアでは顧客対象が大きく異なります。
ウイング・ティは大病院の放射線部門が中心で、ライラは個人で開業しているクリニックが対象です。お客様の層は異なりますが、ウイング・ティのグループの中でも、さらに利益を生み出せる企業へと成長していました。
ただライラの更なる成長を見据えた際に、私自身限界があるのではないかと感じておりました。
黒字事業を切り離す決断をするのは簡単ではなかったのではありませんか。
葛藤はありました。ただ、より強固な事業シナジーを生み出せる相手に託したほうがいいのではないかという結論に至りました。そこで真っ先に、ライラの譲受にあたってお世話になった相澤さんへ相談しようと考えたのです。
最初に相談を受けたときにはどのように感じましたか。

本業に経営資源を集中させるというご意向もお聞きして、ライラと電子カルテ事業の成長を誰よりも熟慮されたうえでのご決断でしたので、それならばライラを本当に伸ばしてくださる相手を全力でお探ししようと、そういう気持ちで臨みました。
相澤さんは、率直に何でも話せて、一緒に仕事をしていて心地よい相手だと思っています。本来、経営者というのはとても孤独な存在であり、重要な判断ほど誰にも相談できないことが多いものです。特にM&Aのような会社の将来に関わる内容は、トップシークレットであるケースが珍しくありません。その点、相澤さんには遠慮なく本音をぶつけることができました。
お相手を探すにあたって、どのような点を大切にされたのでしょうか。

何より大切にしたのは、投資ファンドのように株式を一時的に保有し、やがて譲渡益を目的とするビジネスモデルではなく、会社と事業を大事に育ててくれるかどうかです。一方で、同業の近すぎる相手も避けた方がよいと考えていました。同じ業界同士だと、自分たちのやり方を一気に押し付けてしまい、せっかくのライラの良さが消えてしまいかねないと思ったからです。
ライラには創業期から会社を支えてきた人たちがいますし、ビジネスとして確かな基盤が確立されています。その方たちが、これまでどおり自由に力を発揮できる、いわば自走を任せてくれる相手が理想でした。そして、ストックビジネスとしての価値や、クリニックと直接つながっている販路の強みを、きちんと魅力として理解してくれることも欠かせません。こうした点を念頭に候補を絞っていきました。
榊原様のお考えをお聞きし、現在は医療分野に精通していなくても、将来的な強い意欲と関心があり、ITやAIなどの領域から事業シナジーを生み出せる会社を思い描きました。いわば近すぎず、遠すぎずの立ち位置にある会社が最適ではないかという方針です。ストックビジネスとしての価値を正しく理解したうえで、現場の自走を尊重してくださる候補を厳選し、榊原様にトップ面談へ臨んでいただきました。
トップ面談で感じた価値観の一致
まずマイクロニティの事業概要を教えていただけますか。

株式会社マイクロニティは、代表の山﨑が2025年に立ち上げた会社です。私も前身であるメタップスホールディングス時代からの縁で、事業構想に共鳴して加わりました。事業を立ち上げた背景には、ソフトウェア業界ならではの事情があります。
現在、1990年代に次々と生まれたソフトウェア企業の創業経営者の多くが高齢を迎え、事業承継の波が訪れています。当社の根底にあるのは、「このままでは長年培われた技術や、お客様からの信頼の系譜が途絶えてしまう」という危機感です。そこで当社は「AI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォーム」を展開してきました。
私たちの事業の特徴は、業界特化型のソフトウェア企業をグループにお迎えし、そのブランドやカルチャーを尊重しながら、AIを活用して再成長を後押しする点です。私たちは投資ファンドとは異なり、株式の永続保有を掲げています。これはそこで働く方々が、安心して仕事を続けられる環境をつくりたいという想いが根底にあるためです。
どのような方針で、グループに迎える会社を選んでこられたのでしょうか。
最初から特定の業界を意識しているわけではありません。業界を問わず、よい会社との出会いがあれば検討するという姿勢でいます。
医療の領域も、もともと強く念頭に置いていたわけではありませんでした。ご縁があって、眼科向けのシステムを手がける株式会社ビーラインをグループにお迎えしたのが入り口で、今回のケースは医療で2例目にあたります。ただ、実際に医療へ踏み込んでみますと、想像以上に奥行きの深い世界で、これは本格的に取り組むべき領域だという手応えを得ました。
榊原様は複数の会社とトップ面談を重ねられたそうですが、最終的にマイクロニティを選ばれた決め手は、どこにあったのでしょうか。

何社かとのトップ面談を重ねて分かったのは、マイクロニティが最もライラの事業に本腰を入れ「育てよう」と決意していることでした。その証拠として、マイクロニティだけがライラの株式を永続保有すると宣言していたのです。譲受後に事業が伸びたとしても、またすぐに新たなオーナーの元へ譲渡する心積もりだとしたら、従業員は決して安心できないでしょう。山﨑社長(株式会社マイクロニティ 代表取締役 山﨑 祐一郎様)によるプレゼンテーションからは、事業を成長させる構想がはっきりと感じられました。
マイクロニティは、山﨑さんを中心として、小規模でも特徴がはっきりした個性ある会社をいくつも束ねています。それぞれを成長させることでグループも大きくなり、やがて上場を見据えるというビジョンを持っていました。ライラも決して大きな組織ではありませんが、そうした会社の未来を本気で描いていると確信できたことが、決め手になっていると思います。
相澤さんは、トップ面談の様子をどのようにご覧になっていましたか。
榊原様は、条件や価格だけでお相手を判断せず、トップ面談での感触を非常に大切にされているようにお見受けしました。ライラの経営陣はこのトップ面談に同席していませんでしたので、本当にシナジーを生み出せる相手は誰なのか、そして本気の熱量があるのかを榊原様ご自身の目で見極める必要がありました。だからこそトップ面談の場では、業績などよりも、経営者の人柄や姿勢を重視されていたのではと感じています。
まさにその通りです。実は私がマイクロニティに心を動かされた要因の一つが、山﨑さんがトップ面談の際に持参してくださった手土産でした。中身は和菓子だったのですが、その心遣いに温かみを感じるとともに、価値観の近さを感じました。
私自身もお客様を訪問する際には手土産を持参するようにしていますし、そうした気配りを大切にしています。ウイング・ティにも、来客時に自然とお茶をお出しする文化がありますが、これは創業者が大切に築いてきたおもてなしの文化です。
もちろん最終的な判断は事業戦略や将来性を踏まえたものですが、このような細やかな配慮が自然にできる会社であれば、PMI(M&A成約後の経営統合プロセス)も円滑に進むだろうという安心感がありました。
ライラについて具体的に魅力を感じた点をお聞きできますか。
まず私たちが注目したのは、ライラがこの東海エリアで強い地盤を築いており、しかも他社がなかなか入り込めないという点でした。この事業は、医療機関との長年の信頼関係があって成立するものです。電子カルテのような日常の診療になくてはならない基幹システムですから、クリニックがそう簡単に馴染みの薄い会社の製品を採用するとは考えにくいです。そういった意味で、ライラの営業現場が築いてきた各医療機関との信頼関係は、一朝一夕で真似できるものではないのです。
また、先ほど短期間での譲渡が懸念されるのではないかとの話がありましたが、私たちにとっては問題ではありませんでした。榊原さんがすでに1年以上にわたって経営に取り組み、社内の状況をしっかりと把握していましたし、オーナーの方から直接譲り受ける場合に比べて客観的な目線が加わっていたおかげで、むしろ足場が整っているように感じられました。
業界特化型、いわゆるバーティカルな企業を次々とグループに迎えていくというのは、難しさもあるかと思います。

たしかに難しさはあります。ソフトウェアの世界では、どの業界でも応用できるホリゾンタルなサービスほど参入障壁が低く、競合がたくさんいます。一方で、特定の業界に特化したサービスは、業界ならではの事情に深く入り込んでいる分、業界外からは簡単に入り込めません。しかし、私たちはその参入障壁の高さにこそ価値があると感じています。
ライラと同業になる競合他社もそれぞれの地域に点在していますので、そうした会社をグループに迎え入れることができれば、いずれは日本全国を視野に入れることも可能です。そうした構想を描けるのが、このバーティカル戦略の面白さでもあります。参入障壁が高いということは、参入後には安定的な地盤を築くことができるとも言えるのです。
M&A前に行われるデューデリジェンス(企業監査)については、いかがでしたか。
当社がライラを譲り受けた際、調査に必要な資料があまり残されておらず苦労しました。そのため、当社がさまざまな書類を作成し直した経緯があったのです。結果的に、今回マイクロニティとのデューデリジェンスにおいては、資料が一通りそろっていたので、スムーズにできたのではないかと思います。伊地知さんが話してくださった、私たちが関与していた安心感という表現には、そうしたスムーズさの部分も含んでのことだったと受け止めています。当時の苦労が、こうして報われたことはよかったですね。
おっしゃる通りです。どれほど優れた事業、企業でも、新たにグループへ迎え入れるためには相応の手続きが必要になります。創業オーナーが長い年月経営を続けてきた企業ほど、さまざまな記録、書類が欠けていることは珍しくありません。そういった点でも、榊原さんたちが苦労してくださった恩恵があったことは間違いありませんでした。
今回のデューデリジェンスは終始スムーズでした。マイクロニティとウイング・ティの双方が手続きに慣れており、手際がよかったことも大きいですが、両者が互いにリスペクトしていたことも、最後まで滞りなく進めることができた主因だったと思います。
それぞれが見据える成長。再び交差する未来を目指して
これからライラをどのように伸ばしていく構想をお持ちですか。
まず、すでにグループにいる医療業界向けの会社と連携していくことが考えられます。それぞれが持つプロダクトやノウハウを掛け合わせれば、グループ全体としてのシナジーが生まれ、売上面、利益面ともに改善できる余地は大きいのではないかと考えています。
それから、私たちが得意とするAIの活用です。たとえば当社グループでは、日々寄せられる問い合わせへの対応や営業担当者がやり取りするメールの処理など、これまで人の手と時間をかけてきた業務をAIで仕分けして、自動化していく取り組みを進めています。これがライラの業務にもそのまま当てはめられるかどうかはまだ分かりませんが、これまで属人的になっていた業務を少しでも可視化できれば、プラスに働くはずだと考えています。
マイクロニティは各社の独立を尊重しているとお聞きしました。ライラの現場や独自性については、どのように考えておられますか。

基本的には、これまでのライラのやり方をそのまま引き継いでもらうつもりです。これまでも、オーナー側の意向に縛られて動いてきた会社ではありませんから、従来の良さをそのまま生かしていきたいと考えています。ご認識の通り、グループの方針として、すべてマイクロニティ流に染め上げたいなどとは考えていません。私たちはよく「連邦型」「合衆国型」という言い方をするのですが、いろいろな州に、いろいろな考え方があってよいというスタンスで運営しています。
社長をはじめ、創業期から会社を支えてこられた現場の皆さんが、これまでどおり力を発揮できることがいちばん大切です。繰り返しになりますが、永続保有は、働く方々が安心して仕事を続けられる環境をつくりたいからにほかなりません。
榊原様は、これからウイング・ティをどのように展開されていくお考えですか。
本業にあらためて力を注いでいきます。大きな目標としては、営業エリアの拡大です。これまでは東海地方が中心で、関西はまだ手薄でした。単純に私たちの人手が足りず本腰を入れることができていなかったので、ここをしっかり整えて、関西の市場を広げていきたいと考えています。
もう一つは、お客様に提供できる価値の幅を広げることです。最近では、新たな商材も扱い始めました。こうした取り組みも含め、従来の強みを活かしつつ、新しい付加価値を提供できればと考えています。
ライラの株主ではなくなりますが、今後も同じ医療業界で仕事をする仲間であることには変わりありません。ひょっとすると、互いに成長を続けることで得意な領域が重なることもあるでしょう。そんな日が来るということは、ライラもマイクロニティのもとで大きな成長を遂げたという証になりますので、大変楽しみです。
M&Aキャピタルパートナーズの仲介について、率直な評価をお聞かせください。
相澤さんの仕事ぶりからは、こちらに負荷がかからないよう、いつも配慮してくれているのが伝わってきます。また、譲渡すると決意し、それが経営的には合理的な判断だったとしても、やはり働く社員の顔が次々と浮かんでは、寂しさや迷いを感じるものです。短期間だったとはいえ家族だった存在が、家を離れていくような気持ちと言ってもいいかもしれません。相澤さんは、そうした感情にも寄り添ってくれましたし、どの段階で何をどう準備すればよいかを明確に示してくれたので、ストレスを感じた場面はありません。感謝しています。
相澤さんには、本当に尽力していただきました。私たちから、あれこれと無理なお願いをした場面があったかと思いますが、その都度私たちの意図を汲み取って、うまく調整してくれました。最後のSPA(株式譲渡契約書)の調印に至るまで、危なげなく整理し支援してくださった姿は非常に心強かったです。
当社がM&Aキャピタルパートナーズと取引したのは、今回が初めてでした。さすが仲介会社の中でも、最も知名度の高い会社の1つだと感じましたし、相澤さんはそんなハイレベルな組織でも指折りの存在なのではないかと感じたほどです。
これからM&Aを検討される経営者の方々へのメッセージと、未来に向けた一言をお願いします。
経営者は、情に流されるべきではありません。かといって、情を忘れてもいけません。これは私がずっと大切にしてきた考えです。会社には社員がいて、その人たちの家族がいます。多くの取引先への責任もあります。したがって最後に問うべきは、経営者がどうしたいかではなく、その人たちにとって何がベストなのかということです。
私は、ライラをもっと伸ばせる場所へ送り出すことが、社員のためになると信じて、この道を選びました。M&Aは決して終わりではなく、会社の未来をより大きく飛躍させるための一手です。今同じように悩んでおられる経営者の方がいれば、自信を持って、そうお伝えしたいと思います。
私たちは、10年以内にグループ100社という目標を掲げています。それぞれの業界に深く根ざした会社が一社、また一社とグループに加わり、その知見が積み重なれば、単体では生み出せなかった価値を創出できると確信しています。
もちろんライラも、その大切な一社です。30年近い、これまでの現場の知見に私たちのAIを掛け合わせれば、医療のデジタル化にも貢献できるはずです。M&Aは、引き続き重要な選択肢ですので、M&Aキャピタルパートナーズのご助力を引き続きお願いいたします。

左から弊社・相澤、榊原様、伊地知様
文:蒲原 雄介 撮影:蔵屋 憲治 取材日:2026年5月29日
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