

後継者が身近にいながら決断したM&A。
社員の将来を最優先に考えた末の答え
鹿児島を中心に九州で広く家賃債務保証を行う株式会社アルファーは、M&Aにより業界大手のNSグループ株式会社の一員となった。創業から20年以上にわたり事業をともに築いてきた子息を後継者としながらも、なぜ「当初は全く検討する気もなかった」というM&Aに踏み切ることになったのか。創業者で前代表取締役社長の烏川 義生氏と、譲受企業・NSグループ株式会社 代表取締役社長 大塚 孝之氏に、決断に至るまでの想いをM&A成約式の直後にお聞きした。
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譲渡企業
- 会社名
- 株式会社アルファー
- 所在地
- 鹿児島県鹿児島市
- 事業内容
- 家賃債務保証業
- M&Aの検討理由
- 会社の持続的な成長のため
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譲受企業
- 会社名
- NSグループ株式会社
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 家賃債務保証業
- M&Aの検討理由
- 九州での事業基盤強化と
さらなる規模拡大のため
感謝の言葉を述べる顧客の姿に決意した恩返しの新事業
まずは創業に至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。

私は広島の出身でしたが、自分で事業をやりたいという思いから、20代前半で鹿児島の地にたどりつきました。ゆかりがない土地でしたが、ここならビジネスで勝負できると知り合いからアドバイスを受け、それを頼りに出てきたのです。まだ競争相手の少ない、消費者向けの金融業を一から始めました。
若い時分は「豊かな暮らしがしたい」「いい家に住みたい」といった自分本位な思いから仕事に取り組んでいたと思います。それなりに事業を拡大していましたが、やがて貸金業を取り巻く政策が大きく変わり、金利の引き下げが進んだことで、業態縮小は確実なものとなっていました。
そこからどのように家賃保証へとビジネスを転換されたのでしょうか。
沖縄で事業を営む親戚から、視察に来ないかと声をかけてもらいました。そこで見せてもらったのが、家賃保証でした。賃貸住宅の入居者が家賃を滞納した場合に、代わりに保証会社が立て替える仕組みです。保証会社はオーナーや管理会社に代わって、滞納の督促や集金という手間のかかるプロセスを請け負います。当時は親族に連帯保証人となってもらうのが当たり前で、保証会社の存在はほとんど知られていませんでした。
ある不動産会社を見学させてもらったとき、女性経営者が家賃保証の担当者に対して、深々と頭を下げている光景を目にしました。家賃保証を利用するまではご自身で電話をかけて催促し、集金にも回る必要がありましたが、女性であるがゆえに危ない目に遭うこともあったそうです。それを代行してくれる家賃保証会社には、大変感謝しているとおっしゃっていました。
このように顧客から感謝される仕事を、私たちもぜひやりたいとすぐに決意し、もとは1ヵ月ほど沖縄に滞在する予定だったものを、わずか3日で切り上げて鹿児島に戻りました。鹿児島では初めての業態でしたから、誰かに先を越される前に事業を立ち上げたかったのです。
50代になってからの再挑戦に不安はありませんでしたか。
ありませんでしたね。これまで自分本位に事業を続けてきましたが、この家賃保証に出会い、私の仕事観はまるで変わりました。それまで鹿児島で生活し、多くの恩恵を受け、多くの方に応援もしていただきました。これからの人生後半は、もらった命だと思って、お客様や社員のために、そして鹿児島に恩返しをするために事業を営むのだと決意しました。
保証料は、利益を度外視して相場よりかなり安く設定しました。恩返しのつもりでしたし、鹿児島で誰も知らない仕組みを広めるには、誰が見ても得だとわかる条件でなければ話も聞いてもらえないと思ったのです。利用される方には喜んでいただけたと思います。
はじめから事業は順調に拡大できたのでしょうか。

家賃保証を理解してもらうこと自体が大変でした。保証を保険と混同されてしまうのか、保証料をいくらか頂戴して、万一のときに家賃を立て替えるのだと説明しても、「そんなうまい話があるわけがない」「詐欺だ」と言われたことも一度や二度ではありません。保証会社が立て替えた分は、入居者に1件ずつ請求して回収することももちろん伝えるのですが、1年以上は理解してもらえませんでした。本来は両者にメリットのある仕組みのはずですが、前例がないビジネスの魅力を伝えるのはこれほど大変なのかと、当時は本当に苦労したものです。
それでも地道に、相手に喜ばれることをやろうと心がけました。電話が鳴ればワンコールで受話器を取る、請求から最短で即日、遅くとも3日以内以内に立て替えたお金を振り込むといったことです。これなら同じ金額でも、お客様はより価値を感じてくれます。こうした活動によって、お客様は着実に広がっていきました。
その後、九州全域へ展開されましたが、そのきっかけは何だったのでしょう。
私は鹿児島県内だけで十分だと思っていましたから、当初はそんな予定はありませんでした。ところが他の地域から家賃保証をやっていた同業者が九州に上陸し、やがて鹿児島にも入ってこようとしていることがわかったのです。
その話を聞いて自分たちも外に出ようと決心し、創業10年を迎える頃には、鹿児島以外の九州全県に支社を構えるまでに至りました。
当社が九州各県で家賃保証を展開したことで保証料率の相場が半分近くまで下がり、利用される方には大いに喜んでいただきました。結果的には、競争相手の存在がちらついたからこそ、発展のきっかけになったのです。
県内でも真似をする会社はいくつか出てきましたが、どこも半年ともちませんでした。審査力や回収経験といったノウハウがないまま、後発として当社よりも安い価格設定をしたため、ビジネスが成り立たなかったのでしょう。
描いていた通り、多くのお客様から感謝される会社になられましたね。これまでの歩みを振り返って、どのようなお気持ちですか?
やはりお客様に感謝していただけるのが一番うれしいことです。
同時に、私はこの仕事を通じてお金では買えないものを手に入れた気がしています。子どもの頃から、私は人前で話すことが苦手な人間でした。うまく言葉を継ぐことができなかったのです。それが家賃保証という仕事に出会い、未経験の営業にも取り組まなくてはならなかったとき、「この仕事は必ず役に立つ、絶対に必要とされる」と信じ続けました。毎日毎日、朝礼で社員にこの仕事の意義を話し続けたからこそ、今日のようにテレビカメラや多くのマイクを前にしても、話ができるようになりました。人生が大きく変わったのです。
後継者がいるにもかかわらずM&Aが有力な選択肢となった
順調に事業を拡大されたなかで、事業承継についてはどのようにお考えでしたか。

当社は創業時から、息子の和也(烏川 和也様、株式会社アルファー 現・取締役社長)が一緒に事業拡大に取り組んでくれていました。私もやがては彼に後を継がせるつもりでしたし、本人も強い意欲を持っていました。今回、こうしてM&Aを決断するまでにも多数のお誘いがありましたが、当社にはその必要がないと周囲にはっきり宣言していたほどです。
ただ一点、20年以上かけて育ててきたこの事業と会社に関心を持つ会社があるのか、その興味はありました。自ら手放す気はありませんでしたが、他者による評価を聞いてみる好奇心です。仮に興味を持ってくれる会社が存在するなら、当社のやってきたことに対する自信も得られます。そんな動機から天本さんとお会いしました。
烏川様と初めてお会いした際の様子を教えてください。

最初にお会いしてから1年ほどですが、そのときのことは今でも鮮明に覚えています。この業態をゼロから立ち上げ、九州全域にまで広げられた経営者ですから、まずは烏川様が会社をどのように育て、これから先をどのように考えていらっしゃるのかをきちんと理解することが大切だと考えていました。
初回は弊社の会社概要に加えて、M&A市場の動向や、M&Aを選択した場合にどのような可能性があるのかを30分ほどご説明しました。烏川様はほとんど口を開かれることなく、最後まで静かに聞いておられました。お考えを話してくださるようになったのは、それから何度かお会いしてからです。
最初は私なりに警戒心がありました。M&Aの仲介会社ですから、当然、会社を売る方向へ話を進められるのではないかと思っていたのです。ところが、天本さんはM&Aを無理に勧めることがありませんでした。何度かお会いしても、「M&Aをするべきです」という話ではなく、私が会社や社員の将来をどう考えているのかを聞いたうえで、選択肢のひとつとしてM&Aについて説明してくれました。それなら自分の考えていることを率直に話しても大丈夫だろうと思えるようになり、少しずつ深い話をするようになりました。
M&Aはあくまで経営の選択肢のひとつであり、M&Aそのものを目的にするべきではないと考えています。アルファーの場合、ご子息への親族内承継という有力な選択肢が既にありましたので、それが会社や社員の将来にとって最善なのであれば、あえてM&Aを選択する必要はありません。一方で、アルファーの強みをさらに伸ばし、将来の成長可能性を高められるパートナーがいるのであれば、一度話を聞いたうえで比較してみる価値はあるのではないかとお伝えしました。最終的にどの道を選ばれるかは、経営者ご自身が納得して決めることが何より重要だと思っています。
お考えが変わっていったきっかけは何だったのでしょうか。

天本さんが見せてくれた、M&Aを成立させた経営者の体験談を集めた資料です。M&Aを経験した経営者に話を聞いたことはありましたが、あれほど胸の内を吐露した物語を読んだ機会はありませんでした。M&Aを選んだ経営者は、自身の損得よりも、社員や会社の将来を心から考えて決断したのだと納得したのです。天本さんがこれまで実際にM&Aをご支援された20名近くの経営者の事例も伺いました。M&Aを決断した理由は一社一社異なっていましたが、私の考えと近しい方もおり、それを機にM&Aに対して少し関心が出てきました。
それまで私は、M&Aとは利益をあげるための売買であり、社員や会社はそうした都合に振り回されるというイメージを持っていました。そのようなイメージが、他の経営者の体験談によって覆されました。M&Aを誤解している方、これから考えようとしている方にとって、実際に経験した人の生の声ほど役に立つものはないと感じます。
それでも事業そのものは順調だったのではありませんか。
たしかに業績は、毎年10%ずつは伸びていました。それでも不安はありました。これまではアルファーが九州でトップクラスを走っていましたが、今後は全国規模で事業を展開する同業他社の参入が予想されます。さらに巨大資本をもつ銀行やカード会社といったライバルが参入してくる流れにも抗えません。そのような規模の相手と競うこととなったら、どこまで対抗できるか、5年先10年先も安泰だとは到底言い切れませんでした。
私の見立てでは、一度ほころびが出てしまえば、そこから崩れるのはあっという間です。採算の合わない拠点を閉じれば、撤退戦になります。社員は不安になり、離職者が増えるでしょう。戦力が落ちてさらに売上が下がるというスパイラルに陥ります。会社としての魅力は地に落ちるので、そうなってからでは、何かを起こすにはもう遅いのです。大げさではなく「今がラストチャンス」だと考えました。
どのようなパートナーが現れれば、M&Aを決断してもよいとお考えでしたか。
どうしても譲れない条件は、3つありました。社員の雇用と待遇を守ること、アルファーの名前を残すこと、そして息子の処遇です。
天本さんからは、さまざまな企業をご紹介いただきました。投資ファンドや異業種の方ともお会いしましたが、私の感覚では同業のほうがよいと考えました。同じ事業に取り組んでいるほうが、将来のビジョンを描きやすいと考えたからです。
候補先の選定にあたっては、烏川様が重視されていた社員の雇用と待遇、アルファーの社名を残すこと、ご子息の処遇を実現できることに加え、アルファーのさらなる成長につながることを重視しました。その観点から、投資ファンドや異業種企業を含めて幅広く可能性を検討しましたが、最終的には、アルファーと同じく家賃保証業に長年取り組んできた大手企業との組み合わせが、最も大きなシナジーを生み出せると考えました。
アルファーは九州で非常に強固な顧客基盤を持つ一方、全国展開する大手企業にとって九州は相対的に開拓余地の大きい地域です。事業エリアの重複も少なく、お互いの強みをそのまま活かせる、パズルが組み合わさるようなパートナーシップが期待できると考えました。
ご子息である和也様には、いつお話しされたのでしょうか。
NSグループをお相手として決めた直後です。それまでは社内の誰にも相談していません。創業時から一緒にやってきた運命共同体のような息子に、M&Aの話を進めていると打ち明けたときの反応は、「社員にとってはプラスかもしれないが、自分は納得できない」というものでした。長年、自分が会社を継ぐものだと思っていたのですから当然でしょう。
それに対して「5年先、10年先も会社を伸ばせると断言できるか」と問いました。断言できないのなら、社員に対して無責任だというのが私の考えです。私には会社も、社員も、息子も等しく大切な存在です。会社が確実に伸びる方向へ進めば、皆が幸せになるはずであり、その方策がM&Aなのだと、強く訴えかけました。幹部たちも私の気迫に負けたのか、最後には納得してくれたと思います。
黎明期を歩んだ者同士だから分かりあえた
譲受企業であるNSグループの概要およびM&A戦略について、お聞かせいただけますか。

当社は、グループの中核である日本セーフティー株式会社を事業運営の主体として、1997年から家賃債務保証サービスを提供してきました。2023年に現在のNSグループを発足させて経営管理を担う体制とし、2025年12月には東証プライム市場へ上場しています。現在は全国に30拠点を構え、取扱店数は業界最多、住居用・事業用を合わせた市場でもシェア1位の位置にあります。
ただし、当社のシェアは1割強に過ぎず、独立系の家賃保証会社が200社程度あるのが現状です。30年前にはゼロだった市場が2,000億円超まで成長しており、伸びる余地もあります。ほぼ全国的に浸透しつくしたので、これから先は規模の経済がより効いてくると考えており、ロールアップ(同業を連続的にM&Aして規模拡大を図る成長戦略)によって規模拡大を目指しています。
M&Aがグループ全体の成長にもつながるとお考えですか。
M&Aで規模を拡大し、テクノロジーへの投資ができる体力をつけることが、成長のカギを握ると考えています。
この業界では、いまだに紙とファックスによる連絡が主流です。当社も例外ではなく、入居審査では今もアナログな手法が残っています。しかし、利用される賃借人の7割にあたる20~30代の方々は、ファックスなどを使った経験がありません。
私たちにとって直接のお客様である管理会社は全国に10万社ほどありますが、その多くは情報システム部門を持たない規模です。顧客が健全に成長して利益を確保できなければ、私たちの業界にも影を落とします。こうした顧客の効率性や利益率の向上に寄与する仕組みを提供することが、我々の長期的な成長につながると考えています。
今回、アルファーの件が耳に入ったときの印象はいかがだったでしょうか。

とてもよい出会いになるのではと直感し、すぐに検討すべきだと考えました。私たちがロングリスト(M&Aの候補先を網羅的にピックアップしたもの。比較的多くの企業が含まれる)を作る過程でも、アルファーの名前が含まれていたほどです。
全国展開するNSグループにとって、九州は最大の弱点でした。福岡に拠点こそ構えているものの発展途上であり、他県にいたってはほぼ手が届いていません。過去に九州進出を試みた際はことごとく失敗に終わっており、その最大の要因がアルファーの存在だったのです。アルファーがいるなら、九州で勝ち目はないと結論付けるほどでした。
そんな両者が初めて直接お会いになるトップ面談の様子はいかがでしたか。
鹿児島中央駅そばの会議室に、大塚さん、鳳山さん(NSグループ株式会社 専務取締役 鳳山 一洋様)がお見えになりました。その後、何社かとトップ面談をすることになるのですが、その最初の相手となったのがNSグループでした。
冒頭で数分の自己紹介をすべきところ、私は1時間ほど話し続けていました。このM&Aで会社の行く末も、社員の人生も大きく変わると思っていましたので、自分のすべてをさらけ出すつもりで臨んだのです。

そうでしたね。烏川さんの気持ちが強く伝わってきました。
同じ業界にいる者同士、どのようなビジネスをしているか細かな説明は不要です。しかし、誰がどういった想いで経営してきたかは、膝を突き合わせてみなければわかりません。烏川さんの場合、本来なら何度もお目にかかって少しずつ理解していく部分も、この最初の機会でかなり理解できたと思っています。
面談後、烏川様がご自身から大塚様と鳳山様のもとへ歩み寄り、握手をされた姿が強く印象に残っています。烏川様は、「地域は違っても、業界の黎明期から同じように苦労しながら事業を発展させてこられた戦友として感じるものがある」と感慨深くお話しされていました。M&Aでは、条件や事業上のシナジーはもちろん重要ですが、会社を託す経営者と、託される経営者が互いを尊重できるかという点も非常に大切です。業界を一から作ってこられたかつての戦友のような方々が、20年以上の時を経て、初めてお互いの健闘を称え合うような場に立ち会い、「これはよいご縁になるかもしれない」と感じたことを覚えています。
私は鹿児島の小さな会社で、日本セーフティーとは規模も異なります。しかし、何もないところから始めたという感覚は同じでした。それに大塚さんはフランクで笑顔が多く、上場企業のトップとは思えないほど話しやすい方でした。鳳山さんは日本セーフティーの初期から家賃保証に携わり、全国を回ってこられた方です。少し話しただけで、同じ時代に同じ苦労をして事業を育ててきたことがわかり、そんな相手と出会えた感覚が何よりうれしかったです。
決断の決め手はどこにあったのでしょうか。
自分たちにはできなかった夢を、叶えてもらえると思ったからです。私たちは九州一円まで進出するのがやっとでした。一方、NSグループは日本のトップですから、その仲間に加われたら、さまざまなノウハウを共有できます。そしてアルファーの社員たちが、日本一の会社の社員になれるのです。これまでよりもモチベーション高く、そして味わったことのない達成感も得られるはずだと考えました。
烏川さんの「社名を残したい」というお考えにも異論はありませんでした。今回の件で言えば、九州で日本セーフティーを知る方は残念ながらほとんどいません。合理的に考えても、アルファーの名前を残したほうがよいのは明らかです。
また烏川和也常務の社長就任についても、問題はありませんでした。アルファーの社員からすれば、勤務する会社が譲渡されることはショックに感じると思いましたし、創業者である烏川さんが退任されるとなれば、なおさらでしょう。今後の前向きな成長のためには、和也さんに社長をやっていただくほうがよいと考え、グループの取締役会でも了承を得たというわけです。
さらに福岡を除き、拠点は一切重なっていません。この重複があると、M&A後にどちらかに寄せるか、片方の拠点を閉じるかといったプロセスが必要になりますが、それも不要だったのは非常にスムーズだったと思います。
デューデリジェンス(企業監査)についても振り返っていただけますか。

初めてのM&Aということもあり、念入りに取り組ませていただきましたが、それだけ真剣に考えていた裏返しでもあります。同業とはいえ違う歴史を歩んできたわけですから、なおさらです。かなりご負担をかけたとは思いますが、必要なプロセスだったと思います。
実務面では、新社長となられた和也様をはじめ、取締役や各部門の皆様に大変丁寧にご対応いただきました。デューデリジェンスは譲渡企業にとって相応の負担がかかるプロセスですが、一方で、譲受企業が対象会社への理解を深め、M&A後の経営を具体的に考えるための重要な機会でもあります。今回はアルファーの皆様に誠実にご対応いただいたことで、NSグループ側の理解も深まり、その後の円滑な事業承継につながったと感じています。
幹部陣は対応に奔走していましたが、必要不可欠なやりとりでした。執行部に任せ、途中から私は遠くで見ていましたが、自ら対応するなかで彼らの覚悟も固まり、私としては次の世代へ引き継ぐよい機会になったと感じています。
ここまでのプロセスを振り返って、M&Aキャピタルパートナーズについての評価をお聞かせいただけますか。
天本さんは、信用できる人です。今日、こうして成約を迎えるまでには山あり谷ありで、白紙撤回しようかと考えたこともありました。そのときも天本さんは、M&Aを成立させる方向へ私を説得しようとはしませんでした。私の考えを聞いたうえで、「それで結構です。最終的に判断されるのは社長ご自身ですから」と言ってくれたのです。
私にとっては22年かけて育てた会社と、家族のように思っている社員の将来が左右される判断です。私の気持ちを理解しながら、必要なときには客観的な意見を伝え、最後まで双方の間に立って着地させてくれました。仲介としての手腕は、本当にすばらしかったと感じています。
最初にお会いしたときから誠実な印象でしたが、プロセスを通じてもその印象は変わりませんでした。私たちからはハードルの高いこともいろいろ申し上げましたが、できることと難しいことを明瞭に整理して双方の間に入っていただきました。譲渡企業・譲受企業それぞれに考えがありますから、M&Aではどうしても意見がぶつかる場面があります。その中で論点を一つずつ整理し、最後まで円滑にプロセスを進めていただいたことに、本当に感謝しています。

身に余るお言葉です。ご両者とも、最後まで相手を尊重される姿勢を崩されませんでした。その間に立たせていただけたことが、担当者として何より有り難いことでした。
社員の表情が変わった日、そして始まるPMI
社員の皆さんに伝えたときのことを振り返っていただけますか。
NSグループは上場企業ですから、適時開示より先に社内へ伝えるわけにはいきません。開示30分後に、各県の責任者に本社へ集まってもらい、各現場の社員はWeb会議に参加する形で説明しました。22年の歴史を振り返っているうち、言葉に詰まった場面もありました。そんな私の様子を見て、涙を流したり目を赤くしたりしていた者が数名いたと思います。
そして、NSグループと約束した条件を伝えました。誰一人解雇されないし、待遇も役職もそのままであり、アルファーの名前は残って、新社長に和也が就任するのだと。それを言った途端に、社員の顔が明るくなりました。
私たちも同席しましたが、当然ながら社員の方々は不安な顔をしていました。社長の隣に私たちという見慣れない人間が座っているのですから、無理もありません。烏川さんが何のためにこの決断をしたのかを、順を追って理解してもらおうと丁寧に説明していったことで、場の空気は少しずつ変わっていきました。新社長を含めて幹部陣と食事に行った際にも、社員の方は前向きに受け止めているとおっしゃっていました。
その後、基本的に社員とは顔を合わせないよう、オフィスへの出入りは控えるようにしました。しかし、以前は毎日フロアをめぐって声をかけていた私は、社内の様子が気になって仕方ありません。古参の社員に聞くと、異変もなくみんな明るく働いていると。取り越し苦労だったわけです。
各県から報告される日報には毎日目を通しています。NSグループとのM&Aのニュースを聞き、「アルファーが大きな会社となったことでより信用が増した」というお客様の反応もあったそうです。それを読んで、M&Aに踏み切ってよかったと実感しました。
NSグループとしては、ここからが本番ですね。
早速、PMI(M&Aによる統合効果を最大化するための統合プロセス)がスタートします。まずは、原理・原則を定めていくつもりです。お互いをリスペクトし、透明性を持ってコミュニケーションを取り、自由にものを言えるようにしていきたいと考えています。
これまでは中途入社の社員に、当社のやり方を教えることが一般的でした。今回は一度に160名の方々が仲間になります。20年以上の歴史や背景を理解したうえで進めていかなければなりません。当社では初めてですが、私自身はPMIをいくつも経験してきました。アメリカ系の会社では、自分たちのやり方に染めようとするのを見てきましたが、日本で同じやり方ではうまくいきません。やはり、お互いが理解しながら、信頼感を持って進められるかが鍵になると思っています。

成約式で地元マスコミに向けてスピーチを行う烏川様と大塚様
期待される相乗効果についてお聞かせください。
短期的には、九州のシェアと顧客ネットワークの拡大です。中長期的には、その顧客基盤を活かした営業の展開に加えて、日本セーフティーがこれまで培ってきたノウハウやAI、システムを連携させることで効率化を進め、収益を伸ばしていきたいと考えています。
アルファーの顧客基盤と地域密着の営業力に、当社がバリューアップの支援をしていくことで、九州における競争力を高めていきます。
最後に、M&Aを検討される経営者へのメッセージをお願いします。
悩んだ結果ですが、間違いはなかったと思っています。会社を買う側も、その利益だけを求める時代ではありません。Win-Winの関係で会社を伸ばし、社員の未来にも責任を持つことのできる方法なのだと実感しました。
経営者には、誰かに託すタイミングが必ず訪れます。そのときに、正しい判断ができるかどうかで経営者の値打ちは分かれるのではないでしょうか。私にとっては、よい出会いとよいご縁でした。
ありがたいお言葉ですが、本当によかったと言えるのはこれから次第だと思っています。それを結果で証明することが私たちの責任です。今回のご縁をいい形にし、他の方々にもNSグループと一緒にやりたいと思っていただけるようになればと思っています。
今回のM&Aは、アルファーが九州で築いてこられた顧客基盤や地域での信頼と、NSグループが持つ全国規模の事業基盤やノウハウが、非常に親和性の高い形で組み合わさったM&Aになったと思っています。一方で、烏川様は当初からM&Aを前提としていたわけではありません。ご子息への承継という選択肢があるなかで、「会社と社員にとって何が一番よいのか」を考え続け、そのひとつの答えとして今回のM&Aを選ばれました。
M&Aを検討することと、M&Aを実行することはまったく別の話です。まずは自社にどのような選択肢があるのか、どのような企業が関心を持つ可能性があるのかを知ったうえで、親族内承継や自社での成長と比較していただければよいと思っています。
その結果としてM&Aを選ばないという判断も、もちろんあると思います。経営者の皆様が将来を考える際に、より多くの選択肢を持って納得のいく意思決定をしていただく。そのためのお手伝いをすることが、アドバイザーの役割だと考えています。

(左から)弊社 天本/烏川様/大塚様
文:蒲原 雄介 写真:加藤一樹 取材日:2026年7月17日
基本合意まで無料
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