設備工事(電気工事)業界のM&A動向
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電気工事業界におけるM&Aは、近年ますます注目を集めています。リーマンショック以降、中小企業を中心に売却希望の企業が増加し、M&Aが活発化しています。市場規模は約1兆6,529億円に達しているものの、新技術の導入や有資格者の不足などが課題です。
本記事では、市場動向やM&A事例、M&Aを実施するメリット、成功のポイントについて詳しく解説します。電気工事業界でM&Aを検討している経営者様や、今後の経営戦略に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
M&Aの前に押さえておきたい電気工事業界の情報
そもそも、電気工事業界とはどのような仕事を担っているのか、M&Aを検討する前に確認しておきましょう。
電気工事業界の定義
電気工事業界は、電気を安全に届ける仕事をしている企業の集まりです。電気工事は主に、以下の3つがあります。
- ・外線工事:発変電所から電柱や変圧器までの整備
- ・引込線工事:電柱の変圧器から建物までの整備
- ・内線工事:建物まで届いた電気をコンセントやスイッチへつなげる、内線の配線工事など
上記のほか、LED工事や太陽光パネルの取付工事、オール電化設備の導入に伴う工事なども含まれます。
なお、電気工事を行うためには資格が必要です。「電気工事士」の資格を有する場合、最大電力500キロワット未満の需要設備があれば、一般住宅からビルや工場の工事が可能です。
「電気主任技術者」の資格を持つ場合には、変電所等の電気設備現場の保安・監督や、電気工事の現場監督を請け負うこともできます。
代表的な企業
電気工事業界における代表的な企業は、以下のとおりです。
- ・エクシオグループ株式会社
- ・株式会社きんでん
- ・コムシスホールディングス株式会社
- ・株式会社関電工
電気工事業界の特色
電気工事業に従事するには資格が必要で、労働集約型の事業です。費用に占める人件費が高く、人材の確保や稼働率の管理が事業運営における重要なポイントです。
電気工事は建設工事における設備工事にあたるため、新規の建設需要によって売上が左右され、国や自治体の景気の影響を大きく受けます。
隣接する業界としては、通信事業が挙げられます。通信事業や電子エネルギー技術の発展に伴い、技術者は常に、新たな知識や技術を身につけなければなりません。
電気工事業界のM&A動向・市場規模
電気工事業界では近年、M&Aが活発化しています。市場規模の拡大や新技術の導入、人材不足が背景にあります。
国土交通省の調査によると、2021年度(令和3年度)の設備工事業に係る受注高は、官民併せて1兆6,529億9,000万円で、前年度比1.06%増となりました。
2020年度(令和2年度)には、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的に受注高が減少しましたが、その後は緩やかな増加傾向にあります。
また、2018年から2019年にかけて電気通信工事業界大手3社による業界再編が起こり、事業の拡大や強化を目的としたM&Aが増えています。
電気工事業界のM&A事例
ここからは、電気工事業界でのM&A事例を紹介します。成功例から学べるポイントを、順番に見ていきましょう。
ETSホールディングスとユウキ産業
2021年12月、株式会社ETSホールディングスがユウキ産業株式会社の全株式を取得し、完全子会社化を行いました。
譲受側のETSホールディングスは、電力事業、設備事業、海外事業を展開する企業です。譲渡側のユウキ産業は、空調工事、水処理工事、電気工事、各種環境測定等を行っていました。
ETSホールディングスは、ユウキ産業が保有する優良顧客とのリレーションの活用と、空調工事・電気工事の一括受注体制の整備による事業拡大を期待して、本件を実施しています。
セキュアとジェイ・ティー・エヌ
株式会社セキュアは2023年12月、株式会社ジェイ・ティー・エヌの株式を取得し、子会社化することなどを決議しました。
譲受側のセキュアは、主にオフィスや工場、商業施設等に対し、ソフトウェアの設計やハードウェアの選定・施工・アフターフォローまで、一貫したサービスを提供する企業です。譲渡側のジェイ・ティー・エヌは、監視カメラシステム構築等を含む、電気通信・電気設備関連の工事を行っていました。
セキュアは、慢性的な人材不足によるリスクの軽減と、ジェイ・ティー・エヌが有するノウハウ・専門性の獲得により、さらなる競争力の強化を目的としています。
エクシオグループと北日本通信
2023年11月、エクシオグループが北日本通信株式会社の全株式を取得しました。
譲受側のエクシオグループは、NTTグループ向けの各種通信インフラ設備の構築・保守を主として、無電柱化工事等のインフラ・一般通信工事を行っています。譲渡側の北日本通信は、岩手県において電気・通信・土木に関する公共工事の実績を多く持つ企業です。
本件の目的は、譲渡側の豊富なノウハウと、譲受側のインフラ・ICTに関するソリューションとの融合によって、東北地方における都市インフラ事業の基盤を強化することでした。
協和日成とガイアテック
株式会社協和日成は2021年3月、ガイアテック株式会社の全株式を取得し、完全子会社化が行われました。
譲受側の協和日成は、首都圏を中心にガス工事や建築・設備工事、電設・土木工事等を担う総合設備工事会社として事業を展開しています。譲渡側のガイアテックは、東京ガス供給エリアのガス設備工事を中心に、冷暖房・給排水衛生設備工事等の事業を行う企業です。
協和日成は、戸建て住宅の総合設備一括受注体制の拡大による、持続的成長・企業価値向上を狙っています。
燦キャピタルマネージメントと高山エンジニアリングB
2023年6月、燦キャピタルマネージメント株式会社が株式会社高山エンジニアリングの株式を一部取得して、子会社化を実施しました。
譲受側の燦(さん)キャピタルマネージメントは、投資事業やソリューション事業等を行う企業です。譲渡側の高山エンジニアリングは、建設業のほか、発電所・変電所関連の工事、再生可能エネルギーを活用する発電所の開発・運営等を展開していました。
クリーンエネルギー分野への進出を検討していた燦キャピタルマネージメントは、高山エンジニアリングが保有する、工事受注に必要な特定建設業許可の取得を目的としています。
ダイキアクシスとメデア
株式会社ダイキアクシスは2023年2月、株式会社メデアの全株式を取得し、子会社化しました。
譲受側のダイキアクシスは、水まわりの住宅関連商材・産業排水処理・浄化槽等の事業を展開する企業です。譲渡側のメデアは、太陽光発電設備を中心とした、再生可能エネルギーにまつわる事業や電気工事業を行っています。
メデアとの協業によりダイキアクシスは、大口電力需要家からの要望への対応体制構築や、グループの技術力・購買力向上を目指しました。
高島と新エネルギー流通システム
2022年11月、高島株式会社が新エネルギー流通システム株式会社の全株式を取得し、子会社化することを決議しました。
譲受側の高島は、建設資材・太陽光発電システム・断熱材・産業用資材等の取扱いのほか、電子・デバイス事業等を展開する多角的専門商社です。譲渡側の新エネルギー流通システムは、太陽光発電システム関連・オール電化システム工事を手がけています。
電気自動車(EV)と、V2H(Vehicle to Home)※の需要増加を見込んだ高島は、エネルギーソリューション分野における工事施工の機能強化と成長を目的としました。
※V2Hとは「車から家へ」を意味する言葉で、電気自動車などのバッテリーに蓄えた電気を自宅でも使えるように、有効活用するシステムのことです。
電気工事業界でM&Aを活用するメリット
電気工事業界でのM&Aがもたらす、主なメリットを紹介します。
シナジー効果によって収益が上がる
電気工事業界では、技術力が非常に大切です。そのため、同業種・異業種共にM&Aを実施することで、シナジー効果の発揮による業績アップが期待できます。
例えば、対応エリアを拡大したり、サービスを増強したりすることも可能です。どのようなシナジー効果が期待できるかを考慮して、M&Aを実施することが重要です。
資格を持つ人材を確保できる
近年、各業界では人員不足が深刻化しています。特に電気工事業界では、従事する際に資格が必要なため、人材確保の障壁になりがちです。
M&Aによって同業種を買収することで、有資格者を確保することが可能です。また、実務経験者を迎え入れることで、従業員の育成にかかる時間やコストを削減できます。
新規事業への参入コストを抑えられる
業界で実績を持つ企業を買収することで、新規事業進出に要する時間を短縮できます。
すべて自社で準備した場合、他社との競争に出遅れる恐れがあります。M&Aを活用し、研究開発や技術開発、従業員教育等に必要な時間を短縮することで、競争力を高めることが可能です。
電気工事業界におけるM&A成功のポイント
電気工事業界において、M&Aを成功させるためのポイントを解説します。
人材が流出しないようにする
電気工事業における人材は、重要な経営資源です。M&Aの交渉段階から、統合後の社員の待遇や労働環境等を考えて進めると良いでしょう。
譲渡側の社員が、買収がわかった時点で退職してしまう可能性も考えられます。従業員の離職を防ぐと同時に、モチベーションを上げるための施策を考えることが肝要です。
相手企業の工事実績・工事規模を確認する
候補企業を選定する際は、工事実績の多さや工事規模の大きさに注目することが重要です。
実績の程度や工事規模のスケールは、電気工事業社の評価に直結する要素です。統合後、相手企業のブランド力や実績を取り込むことで、大規模案件の受注につながる可能性が高まります。
特に、学校や美術館、病院等の難易度の高い工事実績や、官公庁に関わる工事実績を抱えている場合は高い評価を得やすいため、事前にチェックしておくことが大切です。
電気工事業界における今後のM&Aの課題と展望
現在の電気工事業界では、工事プロセスを一貫して行うことを目的とした事業内製化や、事業エリアの拡大を意図したM&Aが主流です。有資格者や経験者を囲い込むという、人材に目を向けたM&Aが多く行われています。
今後は人材だけでなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)や、脱炭素・カーボンニュートラル分野に関する、技術やテクノロジーを確保するためのM&Aも増えてくるでしょう。
少子高齢化による人口構造の変化、原材料やエネルギー価格の高騰、国内景気の変動など、目まぐるしく変わる市場環境に対応するためにも、電気工事業界のM&Aは一層活発化すると考えられます。
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