葬儀業界のM&A動向
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葬儀業界の収益構造は、少子高齢化による人口減少や葬儀形態の変化などにより大きく変わりつつあります。
短期的に見れば高齢化の影響によって葬儀件数は増えるものの、長期的に見れば、人口減少により葬儀件数の減少はおそらく避けられないでしょう。また、家族葬などの小規模かつ簡易的な葬儀形式のニーズが増えていることから、葬儀件数あたりの収益も減少傾向です。
こうした状況を踏まえ、葬儀業界では今、M&Aを活用した組織再編が積極的に行われています。
本記事では、葬儀業界の市場規模やM&Aの動向などを整理したうえで、M&Aの事例を紹介し、最後に活用するメリットや成功のためのポイントなどについて解説します。
M&Aの前に押さえておきたい葬儀業界の情報
葬儀業界のM&Aについて解説する前に、葬儀業界の定義と葬儀業界ならではの特色やビジネスモデルについて見ていきましょう。
葬儀業界の定義
一般的に、人が亡くなってから葬儀を行い、火葬〜寺社供養に至るまでの過程に関わる業界を葬儀業界と呼びます。
葬儀業界では、寺社供養を除き、消費者に対して、葬儀社と呼ばれる業態の企業が一貫してサービスを提供するのが一般的です。しかし実際には、個別の役割を担う専門の企業が、葬儀社と連携してサービスを提供しています。具体的な提供サービスは主に以下のとおりです。
- ・葬祭時の飲食接待に必要な仕出し
- ・霊柩車、火葬場への移動用バス
- ・葬祭用の生花
- ・仏具、仏壇
- ・返礼品用のギフト
- ・火葬
- ・寺社供養等
葬儀業界の特色
現在の「告別式」が誕生したのは1900年代のことです。それまでは、庶民に対しては簡素な葬儀が奨励されていました。戦後、段々飾りの祭壇を使った告別式が一般にも普及し始め、1960年頃には現在の葬式の形が定着していきます。
1970年代以降、告別式と葬式を2日間で行うスタイルが主流になると、設営などのハード重視の業態から、専門知識を駆使して遺族のサポートをするソフト面重視の業態へと変化。80年代から90年代には斎場での葬儀が一般化しました。近年では、家族葬など小規模な葬儀のニーズが高まり、葬儀業界にも変化が求められています。
葬儀業界の特徴は「時間」や「曜日」の概念が一切無いことです。どのような時間帯や休日であっても、人が亡くなればすぐさま仕事が発生し、迅速に葬儀の準備・遂行を行いながら、遺族のケアやその後のサービスにも気を配っていくという、究極のサービス業界といえるでしょう。その特殊な性質上、ビジネスモデルとしても、いったん遺族の前に立ってすべてを取り仕切る葬儀社の存在が不可欠であり、彼らが提携するさまざまな専門業者に発注をかけていくスタイルとなっています。
葬儀業界のM&A動向・市場規模
経済産業省の「特定サービス産業動態統計速報」によると、2022年12月における葬儀業界の売上は約542億円で、前年同月比+10.1%、14ヶ月連続の増加となっています。
また、葬儀件数は48,052件で、前年同月比+ 13.9%とこちらも14ヶ月連続の増加となりました。
高齢者数の増加により葬儀のニーズが高まっており、葬儀業界の売上高や葬儀件数が増加していることがわかります。
しかしながら、葬儀のトレンドは家族葬を代表に簡略化・小規模化する傾向にあることから、今後は葬儀1件あたりの単価が減少することが予想されます。また、高齢者数の増加は第1次ベビーブームを牽引した団塊の世代までであり、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、長期的に見ると高齢者数の減少による葬儀件数の減少も避けられないでしょう。
こうした状況を踏まえ、今後は経営の効率化や生産性向上のために、M&Aを活用した大規模集約化が有効となる可能性が高くなると予測されます。
葬儀のM&A事例
上述のような状況により、葬儀業界では現在M&Aが活発に行われています。さまざまな事例の中から、以下に5件の具体例を紹介します。
アルファクラブ武蔵野株式会社と株式会社ケイズハウジング
2024年3月、アルファクラブ武蔵野株式会社は、株式会社ケイズハウジングが運営するリラクセーションサロン「ほぐし屋 いこい」の事業を譲り受けました。
アルファクラブ武蔵野は、冠婚葬祭や互助会を中心に結婚式場や葬斎センター、多目的ホールなどを運営しています。
一方、「ほぐし屋 いこい」は、ケイズハウジングが埼玉県や栃木県、群馬県などに19店舗を運営するリラクセーションサロンです。
アルファクラブ武蔵野は葬儀の際の遺族へのケアや、互助会会員に向けた冠婚葬祭以外のサービス、近年社会問題化しつつある独居老人の見守りなど、多方面での活用によるシナジー効果を見込み、今回の事業の譲り受けを決定しました。
株式会社ティアと株式会社八光殿・株式会社東海典礼
2023年11月20日、株式会社ティアは株式会社八光殿と株式会社東海典礼の株式を取得し、両社を完全子会社化しました。
ティアは、葬儀会館ティアを展開し、葬儀施行を行っています。売り手となった八光殿は大阪府、東海典礼は愛知県にそれぞれ拠点を置く葬儀会社です。
今回のM&Aは、ティアの関西圏での経営展開を目的としたもので、取引額は72億円となり、葬儀業界でのM&Aとしては最高額となりました。
株式会社よりそうとライブネット株式会社
2023年1月、株式会社よりそうは、ライブネット株式会社からライフログピクチャー事業を譲り受けました。
よりそうは、「よりそうお葬式」をはじめ、さまざまなライフエンディングに関するサービスを提供しています。
ライフログピクチャー事業では、訃報をデジタル化してスマートフォンなどで簡単にやり取りすることにより、遺族の満足度を高めつつ葬儀社の新たな収益を創出するサービスです。
よりそうでは葬儀社向けクラウドサービス「よりそうクラウド」の提供を2022年6月より開始しています。今回のM&Aにより「よりそうクラウド訃報案内」のサービスを順次展開していく予定です。
アルファクラブ武蔵野株式会社とテクニカルブレイン株式会社
2023年1月、アルファクラブ武蔵野株式会社は、テクニカルブレイン株式会社が開発した「ネット霊園 風の霊」の事業を譲り受ける契約を締結しました。
アルファクラブ武蔵野は、墓離れが進んでいる現在において、メタバースにおける霊園に今後の需要があると考え、今回の契約に至りました。
なお、今後はデジタルを導入した新しい葬儀サービスを提供すると発表しています。
東京博善株式会社とTSO International株式会社
2022年1月、東京博善株式会社は、TSO International株式会社より、葬祭業界において国内最大規模の展示会「エンディング産業展」の事業を譲り受けました。
東京都内で6ヶ所の斎場を運営している東京博善は、シニア層およびその家族が穏やかなエンディングライフを送れるためのエンディングプラットフォーム構想を2021年1月に掲げており、今回のM&Aはその実現に向けた取り組みの一つとなります。
今後は東京博善が展示会を主催し、葬祭業界の発展と最適なサービスの提供を目指します。
葬儀業界でM&Aを活用するメリット
葬儀業界がM&Aを活用するメリットとして、代表的なものを3つ紹介します。
売り手のリソースを引き継げる
葬儀業界がM&Aを活用することで得られる1つ目のメリットは、売り手のリソースをそのまま引き継げることです。
M&Aを効果的に活用できれば、売り手が保有している経営資源や独自のノウハウ、事業に必要な設備などをそのまま活用することができます。
特に、売り手が火葬場や葬祭会館を保有している場合は、これらの設備をそのまま引き継ぐことができるため、設備確保のための手間やコストの大幅な削減が可能です。
また、昨今では葬儀の簡略化も進んでおり、利用者のニーズも多様化していますが、M&Aの対象企業を同業種に絞らず、異業種にも広げることで、VRやメタバースといったこれまでに無い葬祭サービスの提供が望めます。
地域における市場優位性を確保できる
葬儀業界がM&Aを活用して得られる2つ目のメリットは、地域での市場優位性が確保できることです。自社と同じエリア内で展開する企業が買収できれば、当該地域内での売上を寡占化できるでしょう。
遺族が葬儀を検討する場合、自身の生活圏内にある葬儀社を選択することがほとんどであることから、同一圏内に存在する葬儀屋が多ければ多いほど、商圏内での競争は激化します。
こうした葬儀ならではの特性を利用し、自身と同じエリア内の企業を買収すれば、市場における優位性の確保が可能です。
また、地域内でのシェアを拡大すれば知名度が高められるため、さらなる経営基盤の強化も期待できます。
売却側の人材を獲得できる
葬儀業界がM&Aを活用して得られる3つ目のメリットは、必要な人材が確保できる点です。例えば新規事業として葬儀事業を始める場合、人材の確保や教育には多くの時間とコストが必要となります。
特に葬儀ではミスが許されず、細やかなサービスや徹底したスケジュール管理が求められるだけに、他業種と比べても葬儀業界は人材育成に比較的コストがかかる事業です。
M&Aを活用すれば、売り手企業の人材が獲得できるため、獲得や育成に関するコストを省略しつつ、優秀な人材が確保できる可能性が高まります。
葬儀業界におけるM&A成功のポイント
最後に、葬儀業界でM&Aを活用して成功するためのポイントを、以下に3点紹介します。
早めに準備をする
葬儀業界でM&Aを成功させるためには、何よりもまず、早めに準備を始めることです。
上述のように、昨今では葬儀スタイルが簡略化しており、葬儀単価も減少しています。こうした業界の変動に対応しきれず、経営が悪化してしまってからでは、マッチングができず、廃業せざるを得なくなるリスクが高まってしまいます。
そのため、M&Aを視野に入れている場合は、自社の経営状況を把握すると共に、業界の動きを踏まえたうえで早めに動き出すことが大切です。
設備状況を確認する
M&Aの買い手にとって、対象企業の設備状況を確認することは重要です。葬儀という業務の関係上、一定以上の大きさの設備が必要ですが、これを維持するためにはある程度のコストが必要となるからです。
仮に、売り手の保有する設備を引き継ぐことを見越してM&Aを実施したとしても、老朽化が進んでいれば買い替えの必要が生じるため、予期せぬコストが発生しかねません。
したがって、売り手側は、自社の設備をM&Aのアピールポイントの一つとするためにも、あらかじめ設備の状況を確認しておき、そのまま使用を継続できる状況であるかなどを調査しておくと良いでしょう。
従業員の過重労働となっていないか
葬儀業界は、その業務の特性上、葬儀が生じれば曜日や時間を問わず仕事をしなければなりません。そのため、稼働率や売上を重視するあまり、従業員に過重労働を課している可能性も少なからずあります。
仮に、従業員に無理な労働を強いている企業に対してM&Aを実施した場合、統合後に従業員が離職するだけでなく、未払賃金や時間外労働などを巡り訴訟に発展するリスクもゼロではないでしょう。
したがって、買い手として対象企業を選ぶ場合には、従業員の労働状況が適切であるかを確認することが大切となります。
葬儀業界における今後のM&Aの課題と展望
近年の葬儀単価は価値観や葬儀様式の多様化により、減少傾向にあります。また、少子化による人口減少に対して有効な対策が見つかっていないことから、将来的には葬儀の件数そのものも減少せざるを得ません。
こうした葬儀業界における市場規模の縮小や業界の変動に対応するためには、エリアの拡大や別事業への展開を目的としたM&Aが一層活発化することが予測されます。
したがって、できるだけ早い段階から将来のM&Aを視野に入れて準備をしておくと良いでしょう。
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弊社のM&Aご成約実績
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詳細業種 ワイヤーハーネス製造業 所在地 非公開 概算売上 非公開 -
詳細業種 セキュリティ機器製造・販売 所在地 関西 概算売上 5億円~10億円 -
詳細業種 コンテンツ配信・サブスクリプションサービス 所在地 関東 概算売上 1億円~2.5億円 -
詳細業種 注文住宅の設計・施工・販売及びアフターサービス、リフォーム 所在地 中部・北陸 概算売上 10億円~30億円 -
詳細業種 型枠大工工事業 所在地 関東 概算売上 5億円~10億円 -
詳細業種 ツアー企画 所在地 九州・沖縄 概算売上 5億円~10億円 -
詳細業種 グラフィックデザイン・Web/UI/動画デザイン制作 所在地 関東 概算売上 2.5億円~5億円 -
詳細業種 自動車整備業 所在地 中部・北陸 概算売上 5億円~10億円 -
詳細業種 セラミックス加工、金属加工 所在地 九州・沖縄 概算売上 1億円~2.5億円
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