
スーパー業界のM&A動向
スーパーマーケットとは、高頻度に消費される食料品や日用品などを、セルフサービスで短時間に買えるようにした小売業態をいう。スーパーマーケットの経営形態には、日用品から食料品・衣料品・玩具・文具などまでを取り扱う「総合スーパー」と、生鮮食品や日用品に特化した「食品スーパー」の2つの形態があり、特に「総合スーパー」は、日常生活で必要な衣料品や家電、家具など幅広く取り扱っている。また、スーパーマーケットの売り場面積は250平米以上の広さの場所と定義されており、ショッピングモールも「総合スーパー」に分類される。

日本で最初の「セルフサービス」のスーパーは、1953(昭和28)年に東京都港区赤坂青山北六丁目に開店した「紀ノ国屋」といわれている。「セルフサービス」方式が導入されたことにより、店側は客の個別対応が不要となり、レジでの精算に集中できるため労働コストを下げることに成功した。当初は、小売店にはない「万引き」のリスクの増加が懸念されていたが、大量仕入れによって薄利多売が可能となり、セキュリティーコストも吸収したため、全国に普及することとなった。 以降、専門小売店と競争はあるものの、政府の規制緩和も手伝って、酒類やタバコ、医薬品など販売対象商品が増えていった。また、チェーンストア化が進んだことにより、商品の規格化・標準化を実現。生産性を向上させ、シェアを拡大してきた。営業時間についても、徐々に延長され、特に都市部では深夜営業や24時間営業のスーパーも増えてきている。
経済産業省「商業動態統計調査」によると2018年度のスーパー販売額は13兆1,609億円で、前年比は0.9%増。1事業所当たりの販売額が減少したものの、事業所数は増加した。既存店ベースでは、前年比-0.5%の減少となっている。

商品別の販売額では、「婦人・子供服・洋品」などは低下したものの、飲食料品等は上昇している。そのため、生鮮品や惣菜が好調な食品スーパーの業績は伸長する一方、衣料品の売上高構成比の高い総合スーパーは大手を中心に業績の低迷に苦しんでいる。 景気の先行き不透明感によって消費者の節約・内食志向が強まり、生鮮品の需要は増加すると予想される。一方、有職主婦の増加により食の簡便化志向がさらに高まり、惣菜の需要も増加すると見込まれる。
多様化する消費者行動

消費者行動に着目すると、平日か休日かによって行動は異なる。仕事の忙しい平日は時短を目的とし惣菜を購入、休日は大型店舗に家族で出かけ、日常よりも上等な商品を購入するなどの傾向がある。 また、消費行動は地域によっても異なる。食品市場における都道府県間の格差も大きく拡大。食品市場は全国平均で約5%の減少であるのに対し、都道府県の中で最も人口減少が著しい秋田県の食品市場は約2割も減少している。8割近い36都道府県が全国平均を下回る減少となり、食品市場の地域間格差は今後ますます厳しい状況になることが想定される。 計画性の有無も、どの店舗を選択するかの判断に影響を与える。あらかじめ買うものを決めている場合は低価格スーパー、産地直送やオーガニック商品などストーリー性のある商品は百貨店や高品質スーパーといった具合に変化する。テレビや雑誌等、メディアで知り得た商品を購入する場合も百貨店が多い。このように多様化する消費者行動に合わせて、コンセプトの異なるスーパーが出現している。

団塊の世代の大量退職や少子化の影響により、多くの業界で慢性的な人手不足に陥っているが、スーパーマーケット業界も例外ではない。政府が2017年度税制改正大綱で盛り込んだ配偶者控除の見直しにより、配偶者の年収用件が103万円から150万円まで引き上がることになり、人手不足に悩むスーパーマーケット業界にとって労働力の拡大が期待される。労働力の拡大と並行して進められているのが、労働力を逓減させる取り組みである。スーパーマーケット業界では、IT活用・IT投資が進んでいる。セルフレジの導入によるレジ人員の削減や、ICタグで在庫発注管理をすることによって、欠品ロスの防止人員の削減が行われている。それにより、店舗の人員削減が実現し、早朝深夜帯の営業が可能となった。 物流面では、IoT投資を行い、総合スーパーなどの大型店をベースとした物流センターやプロセスセンターを地域の店舗ごとに最適化することによって、さらなる労働力の逓減を目指している。
また、ネットスーパーは、店舗へ行けないネットユーザーに対しての販売を可能にした。テクノロジーをフル活用した新形態のスーパーも続々登場している。「アマゾンゴー」やアリババが手掛ける「フーマ(盒馬 鮮生)」などは、カメラやセンサー技術の活用で無人化・ キャッシュレス化を実現し、新しい買い物体験を提供している。「アマゾンゴー」や「フーマ」が目指すのは利便性・効率性の追求である。事前に購入したい商品があればこれ以上ないストレスフリーな買い物となる。こういった新形態のスーパーの誕生は、消費行動を促進してはいるが、独自性が強いため、従来のスーパーと競合関係にはなりにくいとされている。

正社員・パート・アルバイト人数の比率(業界推計値)は正社員の場合で平均87.7%、パート・アルバイトの場合で平均84.9%であり、(出典:平成29年「スーパーマーケット年次統計調査報告書」)店舗運営を担うパート・アルバイトの人員確保が課題の一つと言える。 また、チェーンストア化になり商品の規格化と標準化が進んで生産性の向上とシェア拡大する一方で、消費者の嗜好が細分化し、現在のスーパーは消費者のニーズに応えられなくなってきているという危機感を抱く業界の経営者もいる。実際にコンビニエンスストア、ドラッグストア、ネット通販などの異業種でも食品の取り扱いが増えている状況である。取り組みの一つとして、地元商品の発掘、独自のプライベートブランド商品の開発などが挙げられる。
地方の有力スーパー提携の動きが強まっている。イオンの一極集中の流れに歯止めをかけるための対抗軸として、2018年12月にアークス(北海道札幌市)、バローホールディングス(岐阜県恵那市)、リテールパートナーズ(山口県防府市)の3社が、資本業提携を締結。それぞれ約60億円ずつ出資して「新日本スーパーマーケット同盟」という戦略的なプラットフォームを構築し、地方の有力スーパー同士での提携の強化を目指している。
流通大手のグループでは、GMSトップで食品スーパーも展開するイオングループが代表格。
同社は全国の食品スーパーの買収を続けており、資本・業務提携による規模拡大も意欲的に進めている。イオンの主な系列企業は、連結子会社のマックスバリュの他、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東による共同持株会社)、いなげや、ベルクなどが挙げられる。同社の買収は1990~2000年代に活発だったが、2010年以降も2011年にマルナカ、2013年にピーコックストア(現イオンマーケット)、2014年にレッドキャベツなどを子会社化している。
また、セブン&アイ・ホールディングス傘下の主要企業はヨークベニマル、ヨークマートで、2社は事業統合を進めている。また、同傘下のイトーヨーカ堂は2013年に北海道帯広市地盤のダイイチ、岡山県地盤の天満屋ストアに出資している。
2017年8月にはユニー・ファミリーマートホールディングスとドンキホーテホールディングスが資本・業務提携で合意したことを発表。食品事業を得意とするユニーと、若年層からの支持や、娯楽性の高い店舗展開に強みを持つドンキホーテのノウハウを活用し、GMS事業の立て直しを図る。
2018年10月、イオンは、スーパーマーケット事業の再編と統合に乗り出した。地方を北海道、東北、東海中部、近畿、中四国、九州の6つに分割し、重複エリアを担当する事業会社の物流拠点の合理化を図り、地域密着の体制を敷くことで、各地域のトップを目指そうとしている。愛媛県松山市のフジと資本業務提携を結ぶことになり、イオンが2019年2月末を目処にフジの発行済株式のうち最大で15%を取得することとなった。
イオンは昨年末の中期経営計画で「2020年に目指す水準」として、営業収益10兆円、営業利益3400億円という目標を掲げた。今回の再編を実効性のあるものにするか、今後の動きに注目だ。
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