
調剤薬局業界のM&A動向
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調剤薬局の定義は、「薬剤師が常駐していること」「調剤を行える設備が整った調剤室があること」「医師の処方箋に基づいた調剤ができること」とされている。調剤薬局では患者から預かった処方箋を元に調剤を行うため、それを行える調剤室の設置が必須である。
また薬局には薬剤師が常駐していることが大前提だが、さらに各店舗にはその責任者として「管理薬剤師」を置く必要がある。管理薬剤師は、薬局内の薬品の管理だけでなく、勤務する薬剤師を統括する役割もあり、複数店舗での兼任は禁止されている。

調剤薬局業界が日本で誕生したのは、明治に入ってからのことである。それまでは、薬剤師という概念がなく、医師が診断から調剤までを行っていたが、西洋の医療制度を輸入する過程で医薬分業の考え方も入ってきた。その後、医薬分業が日本で本格的に広まり始めたのは1980年代からである。
最近では、病院で処方箋を受け取って薬局で薬を受け取るという流れは一般的になっているが、実は医薬分業率(処方箋を院外薬局にて調剤を受けた割合)が大きく伸びてきたのは、ごく最近になってからのことである(1992年の医薬分業率はわずか14%)。今では、医薬分業率が75%を超えるに伴い、薬局はコンビニエンスストアの数を上回るほど存在しているため、調剤薬局業界の市場成長も頭打ち傾向にあると言われ始めている。

調剤薬局における主な収益源は、薬そのものの販売益とそれに伴う調剤報酬に集中しており、いかに患者に処方箋を持ってきてもらうかが売上に直結する業界となっている。ゆえに、調剤薬局として成功するためには、“いかに病院の近くに店を置くことができるか”が、すべてであった。しかし、2018年度の調剤報酬改定により、処方箋の処理数や集中率、医療機関との賃貸借契約を持つ薬局に応じて調剤報酬の見直しが行われ(病院敷地内や、門前にて営業している薬局の報酬は低く調整され、街中などかかりつけ薬局として管理コストがかかる薬局の報酬は高く調整された)これまで、処方箋の数を捌くことだけが命題だった業界が、今やサービスの品質や多様性を迫られる状態になっている。
調剤薬局の市場は、最近まで積極的な新規出店が盛んであり、2019年には6万件を突破した(厚生労働省調べ)。また業界の拡大に伴い店舗数を拡大するためのM&Aも積極的に行われ、その他新たな調剤報酬の枠組みへの対応、在宅医療への展開、介護施設にいる患者への調剤などで処方箋の処理件数の増加など、業界全体として好調をキープしてきた。しかし、2年に1度、薬価改定および調剤報酬の改定が行われている中、昨今では、業界構造に大きな変化を強要しており、業界全体として業績が伸び悩み始めている現状がある。調剤薬局としての新規出店についてもいまだに続いているが、その伸びは年々鈍化しており、業界を牽引する大手チェーンを除けば、その成長は減退し始めていると言える。例えば薬局数6万件を突破した2019年は60,171軒、2020年は60,951軒と微増である。2010年を除き、2000年以降は薬局数が緩やかに増加し続けているが、ここ数年は増加ペースが落ちつつある。

衛生行政報告例:結果の概要 │ 厚生労働省を参考にM&Aキャピタルパートナーズが作成
今後の調剤薬局業界は、新規出店やM&Aを続け大型化していきつつ多様なサービスを展開していくだけの体力がある大型チェーンと、そうではない、比較的小規模な薬局・チェーンの二極化をしていくと考えられている。ただ、小規模な薬局・チェーンには大型チェーンへ合併する選択肢もあり、この選択肢を取る薬局が増えていくことも予想される。
調剤薬局業界は、医療という社会保障の一旦を担う業界に位置し、これからの少子高齢化が加速する日本においては、コスト削減の対象となっている業界であり、今後も削減傾向の法制度改正が続いていく可能性が高い。その中で、できるだけ事業規模を拡大できる体制をとることで、調剤報酬が減額傾向にあっても収益を確保するという動きが今後も続いていくと思われる。

また、少子高齢化の影響は薬剤師不足やそれに合わせた人件費の高騰という状況を生み出している。事業規模を拡大することが今後の業界での生き残りにおいても重要な対処の一つと言える一方で、そのための人材確保がさらに困難になっていくという高い壁が立ちはだかっている。特に、地域に密着した、あらゆる相談ニーズに親身に応じてくれる高い技術レベルとノウハウを持った薬剤師を確保することは、調剤薬局にとって最重要事項とも言える部分であり、この課題を解決できるかどうかが、調剤薬局業界において生き残れるかどうかに大きな影響を与えていくだろうと予測できる。
調剤薬局業界の見通しの影響は、すでに業界内で急増するM&Aという形で現れている。もともとM&Aを通じた規模拡大の動きがある業界だが、近年ではこれまで以上に急速に業界の再編が起こっている。M&Aを利用することにより、規模拡大だけでなくもともと地域で働いている経験豊富な資格者を獲得することができるため、非常に効率的な経営手法として捉えられている。 また調剤薬局の大半を占める中小規模薬局においては、従業員数も少なく、経営者の高齢化も大きな課題となっており、従業員の雇用確保等のためにM&Aを通じた事業承継を検討するケースも急増している。
―主な事例―
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-2022年5月、業界最大手のアインホールディングスは、株式会社ファーマシィホールディングスの全株式を取得し、子会社化した。ファーマシィホールディングスは、グループにおいて約100軒の薬局を全国展開しており、新規出店とM&Aを活用した事業拡大を図るアインホールディングスにとって、M&Aの絶好の対象といえる。このM&Aにより、アインホールディングスの薬局数は1,200件を超えた。
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-2020年1月、株式会社ココカラファインは、神奈川県で2店舗の薬局を展開する有限会社薬宝商事の全株式を取得し、子会社化した。ココカラファインはこれ以外にも、有限会社フライト(北海道、5店舗)や有限会社寿(大阪府、1店舗)など、地域に根ざした企業の子会社化に力を入れている。これらのM&Aにより、各地域におけるドミナント戦略を深耕し、その地域でのヘルスケアネットワークの構築を推進していく方針だ。
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-2018年8月、業界最大手のアインホールディングスは、コム・メディカルおよびABCファーマシーの全株式を取得し、子会社化すると発表した。コム・メディカル、ABCファーマシーは、発表時点で新潟県を中止として北関東も含め調剤薬局56店舗を展開しており、各地において地域医療に貢献していた。かかりつけ薬剤師や在宅医療などの地域密着の医療サービスに力を入れているアインホールディングスがその事業規模拡大と機能強化をする狙いがあった。また2019年2月にも、同様の理由で長野県において36店舗の調剤薬局を展開する土屋薬品株式会社の子会社化を発表している。
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-2016年10月、業界3位のクオール株式会社(現:クオールホールディングス株式会社)が、株式会社共栄堂の全株式を取得し、子会社化した。共栄堂は、新潟県を中心として87店舗を展開していた調剤薬局であり、これまで手薄だったエリアをカバーするのが狙いであった。
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-2013年10月、業界2位の日本調剤株式会社が、長谷堂製薬株式会社の株式の過半数を取得し、買収したと発表した。日本調剤の強みであるジェネリック医薬品市場における競争力強化をさらに高めることを狙ったものであった。
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