食品卸業界のM&A動向
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業界の定義
食品卸会社とは、生産者などのメーカーから主に農畜産物、水産物、食料品、飲料などを仕入れ、スーパーやコンビニエンスストアなどの小売業、外食・中食企業、旅館、ホテルなどに卸売する会社のことを指す。 また、仕入卸売業務だけでなく、メーカーと小売業者の間に位置していることから、双方の中間に生じる物流、在庫、決済業務などを一括して行うことで、効率的かつ安定的な商品の供給を実現している。
業界の特色
食品卸会社は、商流に沿って元卸業者、中間卸業者、最終卸業者に分類される。元卸業者が生産者であるメーカーから飲食料品を仕入れ、中間卸業者や最終卸業者を介して、小売業者、外食・中食企業、旅館、ホテルに販売する。
食品卸会社の収益は、「リベート」と呼ばれる売上高や物流の機能などに応じてメーカーから食品卸会社に支払われる割戻金に依存してたが、近年ではそれが廃止される傾向にある。リベートに取って代わって近年主流になってきたのが、メーカーが出荷価格だけを設定し、卸売価格は卸売業者が設定し、小売価格は小売業者が設定する「オープン価格」という仕組みである。
また物流という面においては、消費者ニーズが多様化していることが、小売業者の品揃えの種類の増加につながり、食品卸会社は、より細かな商品の管理が必要になっている。そのため、商品の輸送車を用意しておく必要があるが、多くの輸送車を保有することで売上高に占める運送費も大きくなってきている。
食品卸業界の損益構造をみると、売上原価率が84%と高く、また売上の15%を占める販売費・一般管理費における物流コストの占める割合が高い構造になっており、経常利益率は1%を切る水準で推移している。さらにドライバーや倉庫人員の人手不足を背景にした輸送費、保管費の上昇から物流コストは上昇傾向にある。
市場規模
経済産業省の調査によると、2020年度の食品卸業界の市場規模は約86.2兆円(試算値)であり、成長率は前年から18.2%増となっている。フードビジネス全体の市場規模は193.5兆円、成長率は2.0%増であり、食料品卸業界の成長率の高さがうかがえる。
回復途上のフード・ビジネス、2021年上期は再び低下へ │ 経済産業省
企業別で比較すると、売上高1位の株式会社日本アクセスが2兆1,209億円。2位の三菱食品株式会社が1兆9,556億円、3位の国分グループ本社株式会社が1兆8,814億円となっている。 食品卸業の用途別にみると、2020年度の農畜産物・水産物卸売業の販売額は33.3兆円で前年から41.0%増、食料・飲料卸売業は52.8兆円で前年比から7.3%増となっている。
また、2020年の惣菜市場規模は9兆8,195億円で前年から4.8%減となっている。惣菜市場規模は2010年以降、右肩上がりで推移してきた。2020年の市場規模減少は新型コロナウイルスの影響によるものだろう。外出する機会が減ったことや、自宅で過ごす時間が増えたことから、惣菜が購入される機会も減ったものと思われる。現に、惣菜(中食)の市場規模の減少に伴い、内食や外食の市場規模が増加することもなかった。
食品卸業界の市場規模は、短期的な観点でみると、新型コロナウイルス感染症に伴う生活様式の変化に影響されている。例えば新型コロナウイルス感染症の流行前の2016年では、フードビジネス全体の58.8%を飲食店・飲食サービス業が占め、食品卸を含む食料品流通業は35.9%だった。2020年では飲食店・飲食サービス業が13.0%、食料品流通業が68.7%と逆転しており、中食産業の市場規模減少もわずかなものだ。
回復途上のフード・ビジネス、2021年上期は再び低下へ │ 経済産業省
また中食等のチルド品、冷凍食品等の需要増加に伴い、市場規模は拡大傾向が続いている。ただし、中長期的な観点でみると、国内人口減少の影響から市場規模は縮小する可能性があると予測されている。
課題と展望
スーパーやコンビニエンスストアなどの小売業の大規模化により、メーカーや元卸業者から直接小売業へ納入する直取引が拡大傾向にあり大きな懸念点になっている。また物流コストの上昇や国内人口の減少による需要縮小も懸念されている。
そんな中、食品卸会社は地域密着型取引の強化やM&Aを含めた他地域への進出による事業基盤の拡大など、国内事業における競争力強化に加え、海外への食品卸事業の展開を図っていくことが重要になってくる。 コールドチェーンを強化した物流拠点を整備することで、人口増加と生活水準の急上昇により、生鮮食品の需要が増加しているアジア太平洋地域に対しての事業展開が食品卸会社にとって大きな鍵となるだろう。
食品卸のM&A動向
食品卸業界は、他地域への進出による事業基盤の拡大や小売業の大規模化などの経営環境の変化に対応するため、M&Aが活発的に行われている。また、他社との差別化を図るため、食品卸業界内でのM&Aだけでなく、給食業界や店舗内設計・施工業などの会社のM&Aや海外企業のM&Aも目立ってきている。
―主な事例―
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-2021年2月、BtoBプラットフォームの運営を主な事業とする株式会社インフォマートは、食品卸企業向け受発注・販促サービスを提供する株式会社タノムと資本業務提携契約を締結した。新型コロナウイルスの影響により企業間商取引のデジタル化が進む中、食品卸業界でもデジタル化のニーズが高まっている。これに応えるため、インフォマートはタノムへの出資を通じて、食品卸業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていく方針だ。
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-2019年8月、株式会社トーホーはシンガポールの業務用水産食品卸Golden Ocean Seafood (S) Pte Ltdの全株式を取得し、子会社化した。シンガポールにおいて、5社体制で現地の外食産業向けに日本食材の業務用食品卸売などを展開している株式会社トーホーはシンガポールにおいてホテル・レストラン等へ、主に活き水産品(活きロブスター、活きオイスター等)を販売する業務用水産食品卸売会社であるGolden Ocean Seafood社をM&Aすることで、シンガポールにおける取扱い商品の充実、販路の拡大が図られた。
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-2019年7月、佐藤株式会社は燈尚物産有限会社の全株式を取得し、子会社化した。福島県内を中心に実績・信頼のある燈尚物産有限会社をM&Aすることで、福島県内における和洋日配・チルド商品の販売基盤強化が図られた。
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-2019年4月、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスの100%子会社であるYOSHIMURA FOOD HOLDINGS ASIA PTE. LTD.が、シンガポールの水産品加工メーカーであるPACIFIC SORBY PTE. LTD.の発行済株式70%を取得し、子会社化した。シンガポールにおいてニーズが増加している一次加工済み原料(カット済みのカニやロブスター等)の良質な水産品の仕入れルートと、自社工場における加工設備や技術をもっているPACIFIC SORBY PTE. LTD.をM&Aすることにより、アジア地域における事業を拡大が図られた。
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