
化粧品業界のM&A動向
化粧品業は、「化粧品」の開発、製造、販売などを手がける業種を指す。 医薬品医療機器等法第2条第3項では、化粧品を「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、第一項(医薬品の定義)第二号又は第三号に規定する用途に使用されることもあわせて目的とされている物及び医薬部外品を除く」と定義している。
化粧品を細かく分類すると、肌のコンディションを整える「スキンケア化粧品」、口紅やファンデーションなどの「メイクアップ化粧品」、シャンプーやコンディショナーなどの「ヘアケア化粧品」、ボディクリームなどの「ボディケア化粧品」や香水やコロンなどの「フレグランス化粧品」などに分けられる。
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日本における化粧品メーカーの誕生は、明治時代とされる。文明開化の影響を受け、誕生した化粧品メーカーが、「資生堂」「桃屋順天館」「ライオン」などである。現在も健在の「ウテナ」「マンダム」「ポーラ」なども、戦前に生まれた化粧品メーカーだ。高度経済成長とともに飛躍的に拡大をみせ、1970年以降は、化粧品メーカーが女優やタレントを起用したテレビコマーシャルを流し始める。1980年代後半〜1990年代には、見た目だけでなく、化粧品の効果や成分を重視し始め、機能性化粧品時代が幕を開けた。バブル崩壊後は、低価格志向が広がり、2000年代に入ると、肌の健康を考えた自然派化粧品や、美白・アンチエイジングなどの効果を謳った商品が多くを占めるようになった。
近年では、インターネットを使った通販専業の化粧品メーカーも増えている。 異業種からの参入事例としては、富士フィルムの参入が大きなニュースとなった。自社の持つ特殊技術を化粧品開発に役立てたセンセーショナルな事例といえる。その後、味の素、サントリー、江崎グリコなど、異業種から参入が相次いでおり、競争は激化している。

化粧品業界の業態は、販売ターゲットによって、大きく2種類に分けることができる。
一般消費者向けに百貨店やドラッグストア、ウェブサイトなど広く購入できる業態を「リテール業態」、サロン専売品など、業務専用に開発された商品を扱う法人向けの業態を「プロフェッショナル業態」という。 化粧品業界の利益構造は販路によって異なる。
メーカーから直接消費者に販売する場合、仲介手数料がないため高利益となり、百貨店やドラッグストアなど小売店に卸す場合は、卸価格での販売となるため、利益率は低くなる。 法人向けの販売の場合は、ディーラーを仲介し、ディーラーが美容室やエステサロンなどの店舗に販売することが一般的である。大手化粧品会社の場合は、自社で工場を持ち、開発からマーケティング、販売PRまでを一貫して行う場合が多い。
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2017年度の国内化粧品市場規模は、前年度比103.0%の2兆5,450億円。総市場の伸長に伴い、製品カテゴリー別でも、2017年度もすべてのカテゴリーで前年度実績を上回って推移した。増加の要因としては、インバウンド需要の継続が大きいが、国内需要の増加や、高い機能性のある商品が周知されたことによって、化粧品メーカーによる拡販が進んだことが挙げられる。

依然として増加が続く訪日外国人客は、東京オリンピックに向けてさらに増加する見込みだ。日本で化粧品を購入した外国人に対する越境ECなど、アウトバウンド需要の獲得も進むとみられる。 また、消費者の志向が高級志向から節約志向へ移りゆく中、ドラックストアで販売されているドラッグストアコスメは、安価で高品質なものも多く人気が高い。そのため、送料の発生するECサイトでの購入は伸び悩んでいるという側面もある。

化粧品業界の国内需要は、すでに頭打ち状態と言われている。
長引く不況で消費者の節約志向が進み、商品単価自体が下がっていることや、化粧品が嗜好品の位置付けであり、必ず買わないといけないものというわけでもないことから、化粧品業界全体の利益が減少しているという見方がされている。 国内需要が見込めない場合、日本の化粧品業界の将来性は「グローバル展開」にかかっている。国内トップシェアの資生堂においても、売上の海外比率は47%に留まっていることから、業界全体として海外展開の策が希薄であるという見方もされている。
少子化が進む中、国内需要の縮小は逃れられないため、海外施策の実行は急務といえる。

また、化粧品業界のマーケティング戦略において、SNSにおける口コミの影響力は無視できない。
Instagramなどを利用し、化粧品メーカーのアカウントから直接購入することも可能になった現在、ターゲットを絞ってSNS広告を出稿するなど、SNS時代におけるマーケティング戦略を推進できるかが鍵となるだろう。 さらに、拡大の余地としては、男性用化粧品の開発という道も残されている。シャネルをはじめとする海外ブランドは、基礎化粧品のみならず、ファンデーションなどのメークアップ商品においても男性用のライナップを揃えている。
性別を超えて顧客を取り込むことができるのであれば、国内需要拡大も見込めなくはないかもしれない。

異業種企業の参入の動きが盛んになっている。
富士フィルムや味の素など他業種メーカーが、本業で培ってきた技術を活かそうと、化粧品の開発に乗り出している。特に富士フィルムの「ASTALIFT(アスタリフト)」は、業界内だけでなく、消費者にもインパクトを与えた。写真フィルムの主成分でもあるコラーゲンやナノテクノロジーなど、美容分野と共通する技術を応用し開発。2007年の発売以降、エイジングケアブランドとして支持を得ている。 他にも味の素のアミノ酸、サントリーの酵母、第一三共のトラネキサム酸、江崎グリコのグリコーゲンなど、異業種メーカー各社は独自に開発・商品化している成分を化粧品に応用している。
健康志向や、アンチエイジグ、再生医療などに消費者の関心が寄せられていることから、異業種にとっては追い風といえるだろう。
化粧品業界では、有名ブランドを自社に取り込むためのM&Aや、研究開発施設、製造工場を目的とする買収が中心。
昨今では、異業種の企業が参入してきたことよって、販路拡大を狙うM&Aや、本業の独自技術を化粧品開発に生かすためのM&Aも見られるようになってきた。
国内需要の不透明感から、国内企業による海外企業のM&Aは今後も盛んになると予想される。
主な事例
2017年11月
株式会社資生堂は、アメリカ地域本社であり連結子会社であるShiseido Americas Corporationを通じ、米国のベンチャー企業Giaran Inc.(以下、Giaran社)を譲受。狙いは、Giaran社のAI技術にある。ディープラーニングやデータマイニングを駆使し、顧客のさまざまな情報を活用することによって顧客にとってより最適で有効な情報提供を実現しようとしている。
2019年4月
株式会社ナリス化粧品は子会社である株式会社ナリスアップ コスメティクスを合併。ナリスは今回の合併に伴い、両社の有する販促力や、イベント展開力を効率的に活用し、顧客満足度の向上を図るとともに、国内外に向けて事業拡大を進めようとしている。
2016年12月、大正製薬株式会社は、キョーリン製薬ホールディングス株式会社の連結子会社であるドクタープログラム株式会社の全株式を取得し、完全子会社化した。機能性基礎化粧品のスキンケア領域を主軸に事業展開をしているドクタープログラムは、販売経路のほとんどが通信販売。大正製薬は子会社化によって、通信販売を強化し、スキンケア領域の効率的な拡大を見込んでいる。
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弊社のM&Aご成約実績
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詳細業種 木造建築(注文住宅)・不動産 所在地 中部・北陸 概算売上 5億円~10億円 -
詳細業種 不動産開発 所在地 関東 概算売上 5億円~10億円 -
詳細業種 損害保険 所在地 九州・沖縄 概算売上 1億円未満 -
詳細業種 映像記録メディア買取販売 所在地 関東 概算売上 2.5億円~5億円 -
詳細業種 webマーケティングサービス開発・運用 所在地 関東 概算売上 2.5億円~5億円 -
詳細業種 ネットワーク機器関連 所在地 関東 概算売上 10億円~30億円 -
詳細業種 農業・野菜栽培業 所在地 非公開 概算売上 10億円~30億円 -
詳細業種 潤滑油製造 所在地 非公開 概算売上 10億円~30億円