会社分割における債権者保護手続きとは? 手続きの要否やプロセス、注意点などを解説

会社分割における債権者保護手続きとは?手続きの要否やプロセス、注意点などを解説のメインビジュアルイメージ

更新日


会社分割における債権者保護手続きについて

債権者保護手続きとは、会社分割により資産や債務の構成が変わることで、債権者に不利益が生じ得る場合に、債権者へ異議を述べる機会を与える制度です。会社分割では原則として必要ですが、債務が移転しない場合や重畳的債務引受を定める場合など、省略できるケースもあります。

M&A手法のひとつである会社分割では、債務の移転や資産構成の変化によって、債権者に不利益が生じる可能性があります。そのため、会社法上、異議を述べることができる債権者がいる場合には、債権者保護手続きが必要です。

本記事では、会社分割における債権者保護手続きの要否や流れ、注意点について解説します。

監修者情報

M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 執行役員 コーポレートアドバイザリー部長 公認会計士 梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。 これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。


会社分割における債権者保護手続きとは

債権者保護手続きとは、債権者にとって不利な影響を及ぼす経営判断が行われる際、債権者から会社に対し異議を申し出る機会を与える制度です。

会社分割では、事業に関する権利義務の全部または一部がほかの会社に承継されるため、分割会社や承継会社の債権者に影響が及ぶことがあります。そのため、対象となる債権者がいる場合には、会社法に基づく債権者保護手続きが必要です。

なお、会社分割には、分割会社が新たに法人を設立し、その法人に事業に関する権利義務の全部または一部を承継させる「新設分割」と、既存の他の会社に事業に関する権利義務の全部または一部を承継させる「吸収分割」の2つの手法があります。いずれの場合においても、対象となる債権者がいる場合には所定の債権者保護手続きを行わなければなりません。

手続きの必要性と目的

会社分割は組織再編行為であり、事業について有する権利義務の全部または一部がほかの会社に移されます。分割会社および承継会社では、資産や債権に変化が生じ、債務履行のための条件も変わる可能性が高くなります。
そのような事情から、当事会社の債権者にとって、自らの利益が今後も保護されるか否かは大きな関心事です。そこで、官報公告による通知、「知れたる債権者」への個別催告により、異議を述べる機会が法律で定められています。

手続き完了までの期間

会社法では、債権者保護手続きに関して、官報公告などで定めた債権者の異議申し立て期間につき1ヶ月を下ることができないと定められています。実際の手続きでも、少なくとも1ヶ月以上の期間を確保する必要があります。
会社分割の効力発生日までに債権者保護手続きを完了できるよう、官報公告や個別催告の準備期間も含めて、申請の予定から逆算し、余裕をもって手続きに着手しなければなりません。

なお、会社分割では、債権者保護手続きのほかにも、事前開示や株主総会決議、登記申請などの手続きが必要です。会社分割全体の流れや具体的なスケジュールについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

会社分割で債権者保護手続きが不要になる場合

債権者保護手続きは、会社分割において原則必要です。必要な手続きを行わないまま会社分割を進めると、登記申請が受理されなかったり、手続き完了後に会社分割の無効を主張されたりするおそれがあります。

ただし、債権者に不利益が生じない一定の会社分割の場合は、手続きを省略できる場合もあります。次のいずれかに当てはまる場合は、手続きの省略が可能です。

分割会社から債務が移転しない場合

会社分割の際、分割会社から債務が移転せず、効力発生後も従前と同じく分割会社が債務を履行する場合、分割会社側の債権者については債権者保護手続きの対象外となることがあります。これは、会社分割後も債権者が分割会社に対して債務の履行を請求できるため、債権者の利益が保護されると考えられるためです。

ただし、結果的に債権者へ不利益が生じる分割方法では、手続きを省略できません。たとえば、分割会社から多くの資産が承継会社へ移転するケースでは、債権者の回収可能性に影響が及ぶこともあるため、移転する権利義務の内容を事前に十分確認する必要があります。

債務移転にあたって重畳的債務引受を定めた場合

分割会社から債務が移転するケースでも、重畳的債務引受を定めることで、分割会社側の債権者については債権者保護手続きの対象外となることがあります。
重畳的債務引受とは、承継会社が債務を引き受けた後も、分割会社が引き続きその債務を負うことです。移転した債務について、会社分割後も債権者が分割会社に対して履行を請求できるため、債権者の利益を損ねにくいと考えられます。

一方、分割会社が債権債務関係の当事者ではなくなる「免責的債務引受」とは異なります。免責的債務引受の場合、債権者は分割会社に対して債務の履行を請求できなくなるため、債権者保護手続きが必要になる可能性があります。

会社分割における債権者保護手続きの流れ

債権者保護手続きを開始するのは、会社分割について事前の開示を行ったタイミングです。簡単な流れとしては、官報公告と個別催告で異議申し立て期間を通知し、期間内に異議がなければ、会社分割の効力発生の条件が整います。
各手続きの詳細については、以降に解説します。

官報公告のための掲載手続き

官報公告とは、国が発行する機関紙である官報を通じて、関係者にとっての重要事項について知らせることを意味します。
会社分割に伴う債権者保護手続きでは、次の事項をすべて公告しなければなりません。

  1. 会社分割をする旨
  2. 分割会社または承継会社の商号および住所
  3. 分割会社および承継会社の計算書類に関する事項
  4. 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

注意点として、既に述べたとおり上記4の期間は1ヶ月以上と定める必要があります。
なお、官報公告には掲載料金が発生します。2026年4月30日時点の掲載料金は、1行あたり3,947円(税込)です。

知れたる債権者への個別催告

官報公告とあわせて、会社法が定める「知れたる債権者」にも個別催告を行います。
知れたる債権者とは、会社が把握している債権者のうち、会社分割によって債務の履行条件や回収可能性に影響を受ける可能性がある債権者を指します。個別催告の内容は、会社分割を行う旨や異議申し立て期間など、官報公告に記載する内容と同趣旨のものになります。

なお、定款で公告方法を日刊新聞紙または電子公告と定めている会社では、官報公告に加えて、定款で定めた公告方法による公告を行うことで、知れたる債権者への個別催告を省略できる場合があります。ただし、不法行為によって生じた債権を有する債権者など、個別催告の省略が認められない債権者もいるため注意が必要です。

一方で、個別催告の実施にあたっては、次の留意点があります。

  • 個別催告も1ヶ月以上の異議申し立て期間を定める
  • 異議申し立て期間は「到達した日」を起算点とする※

※催告書の本文にも「本書到達日の翌日から」と異議申し立て期間を定める必要があります。

異議申し立てがあった債権者への弁済

官報公告および個別催告で定めた期間内に異議申し立てがあったときは、会社法で定められている方法による弁済を行います。弁済の方法は、次のいずれかとなります。

  • 金銭で債権者に弁済する
  • 相当の担保を債権者に提供する
  • 弁済を目的として、信託会社等に相当の財産を信託する

異議申し立てがなかった場合、もしくは弁済が完了した場合には、会社分割の効力発生の条件を備えます。その後、会社登記が完了した時点で、分割の諸手続きは終了です。

会社分割における債権者保護手続きの注意点

債権者保護手続きにあたって注意したいのは、実際にかかる日数を想定し、登記申請日からの逆算で予定を立てる必要がある点です。手続きのなかで見落としやすいのは、個別催告の相手方です。気を付けたいポイントを整理すると、次のようになります。

官報公告・個別催告の開始にタイムラグがある

債権者保護のための官報公告は、掲載依頼から実際に掲載されるまで10日から2週間ほどかかり、繁忙期などはさらに時間がかかる可能性があります。個別催告も、掲載準備または書面発送の準備にあたり、一定の時間を見込んでおく必要があります。
想定しておきたいのは、官報公告の掲載や個別催告の到達までの期間に加え、1ヶ月以上の異議申し立て期間も必要になる点です。
効力発生日までに債権者保護手続きを完了できるよう、最短1ヶ月に加えて各準備のための期間を見込み、余裕をもって着手しなければなりません。

債権者への個別催告の漏れに注意する

会社法が定める債権者への個別催告は、一人も漏れることが無いよう注意しなければなりません。万一にも漏れがあると、手続き瑕疵として、承認しなかった債権者等から会社分割無効の訴えを提起されるリスクがあります。
会社分割に着手する際は、債務の状況を記した債権者リストを正確に作成し、移転がある債務を漏れ無くチェックできるようにしましょう。
なお、知れたる債権者が多い場合は、官報公告に加えて、定款で定めた日刊新聞紙または電子公告による公告を行うことで、個別催告を省略できる場合があります。ただし、個別催告を省略できない債権者もいるため、公告方法や対象債権者の範囲は事前に確認が必要です。

労働者に対する7条措置も必要

会社分割では、債権者保護手続きとは別に、労働契約承継法に基づく労働者への対応も必要です。なかでも、同法7条に基づく措置では、分割会社が労働者の理解と協力を得るよう努める必要があります。

7条措置では、会社分割の背景や効力発生日以後の債務履行の見込み、労働契約の取扱いなどについて、労働者や労働組合に対して説明・協議を行います。債権者保護手続きそのものではありませんが、会社分割を進めるうえで重要な労務対応の一つです。

債権者保護手続きとあわせて対応が必要になるため、会社分割のスケジュールは十分に余裕をもって立てることが大切です。

異議申し立て期間の経過後に登記申請する

会社分割の登記申請を行う際は、異議申し立て期間が経過し、必要な債権者保護手続きが完了している必要があります。。登記申請の際には、手続きの完了を証明するため、官報公告を行ったことを証する書面や債権者に対する催告書の控えなどを添付しなければなりません。
債権者に知らせた異議申し立て期間の経過前に登記申請すると、会社分割の手続きをはじめからやり直す必要が生じる可能性があります。公告と催告を開始したときは、「異議申し立て期間が経過してから登記申請する」と念頭に置いておきましょう。

まとめ

会社分割に伴う債権者保護手続きは、債権者の利益保護のため分割の効力発生の条件として法律で定められた手続きです。手続きを最短期間で完了できるよう、官報公告および個別催告の準備日数を見込みながら進める必要があります。
会社分割などの組織再編行為には、債権者保護手続きのほかにもさまざまなリスク・課題が複雑に絡んでいます。実施にあたっては、余裕をもってM&Aの専門家に事前相談することをおすすめします。



よくある質問

  • 会社分割における債権者保護手続きとは何ですか?
  • 会社分割により分割会社や承継会社の資産・債務の構成が変わり、債務履行条件が変動する可能性があるため、債権者に不利益が生じ得ます。このため会社法上、債権者に対して官報公告や個別催告により異議を述べる機会を与え、必要に応じて弁済等を行う制度が債権者保護手続きとされています。
  • 会社分割で債権者保護手続きが必要とされる主な理由は何ですか?
  • 会社分割は事業に関する権利義務の全部または一部を他社へ移転する組織再編であり、分割会社や承継会社の資産・債務構成が変化します。その結果、債務履行能力や条件が変わる可能性があるため、債権者の利益保護を図る目的で債権者保護手続きの実施が求められています。
  • 会社分割における債権者保護手続きにはどれくらいの期間が必要ですか?
  • 会社法上、官報公告や個別催告で定める異議申立期間は1ヶ月未満にしてはならないとされています。加えて、官報掲載の準備期間や通知書の到達までの時間も必要なため、実務上は1ヶ月プラス準備期間を見込んでスケジュールを組む必要があります。
  • 会社分割でも債権者保護手続きが不要となるのはどのような場合ですか?
  • 分割会社から債務が一切移転しない場合や、債務を承継会社に移転する一方で分割会社が引き続き債務を負う重畳的債務引受を定めた場合など、債権者の法的地位や回収可能性に実質的な不利益が生じないケースでは債権者保護手続きが不要とされています。ただし、資産の多くが移転するなど債権者に不利益となり得る場合は省略できません。
  • 会社分割における債権者保護手続きの具体的な流れを教えてください。
  • まず、会社分割の旨や計算書類に関する事項、異議申し立て期間などを官報公告します。あわせて、知れたる債権者には個別催告を行い、1ヶ月以上の異議申し立て期間を設けます。期間内に異議があった場合は、弁済や担保提供などの保護措置を講じ、期間経過後に必要な登記申請を行います。
  • 知れたる債権者への個別催告ではどのような点に注意すべきですか?
  • 個別催告の対象となる知れたる債権者を漏れなく把握することが極めて重要です。債権者リストを精査し、債務が移転する債権者を一人も漏らさず抽出する必要があります。また、催告書面には到達日を起算点とした1ヶ月以上の異議申し立て期間を明記し、到達から期間計算を行う必要があります。漏れや記載不備があると、後に会社分割の無効を主張されるリスクがあります。
  • 会社分割の債権者保護手続きで労働者に対して必要な対応はありますか?
  • 会社分割では、債権者保護手続きとは別に、労働契約承継法7条に基づく労働者への対応も必要です。分割会社は、会社分割の内容や労働契約の取扱いなどについて、労働者や労働組合に説明・協議を行い、理解と協力を得るよう努める必要があります。
  • 会社分割と登記申請のタイミングで気を付けるべき点は何ですか?
  • 債権者保護手続きで定めた異議申し立て期間が経過し、必要な弁済等を終えてから会社分割の登記申請を行う必要があります。官報公告や個別催告の証拠書類を添付して登記を申請しますが、異議申し立て期間の経過前に登記申請を行うと、会社分割手続きをやり直す事態を招く恐れがあるため、スケジュール管理には十分な注意が求められます。

ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。


M&Aを流れから学ぶ
(解説記事&用語集)

M&A関連記事

M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。