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事業売却について
事業売却とは、会社が営む特定の事業部門や関連する資産・契約・従業員などを第三者に譲渡するM&A手法です。会社全体の経営権を移す会社売却とは異なり、対象事業だけを切り離せる点が特徴です。実務では、事業譲渡を指す場合だけでなく、会社分割などを含む広い表現として使われることもあります。
事業売却は、売却範囲や承継方法の整理が不十分なまま進めると、会社売却や事業譲渡との使い分け、税金、契約移転、従業員対応などで判断が複雑になりやすい手法です。売り手と買い手ではメリット・デメリットが異なり、価格算出や株主総会承認、移転手続きにも確認すべき点があります。
本記事では、事業売却の目的や会社売却との違い、メリット・デメリット、税金、手続きの流れ、成功のポイントについて解説します。
また、M&Aの意味と基本知識について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
事業売却とは
事業売却とは、会社が営む特定の事業部門や、それに関連する資産、契約、従業員などを第三者に譲渡するM&Aの手法です。会社全体を売却するのではなく、一部の事業だけを切り離して売却できる点が特徴です。
主に、不採算事業の整理、主力事業への経営資源の集中、成長資金の確保、後継者不在の事業承継などの目的で活用されます。柔軟に事業ポートフォリオを再編できるため、中小・中堅企業の経営戦略としても注目されています。
会社売却との違い
会社売却とは、株主が保有する株式を第三者に売却し、経営権ごと企業を譲渡する形態です(株式譲渡)。一方、事業売却では株式の移転はなく、譲渡するのは事業単位の資産や負債、契約などに限定されます。
| 項目 | 会社売却(株式譲渡) | 事業売却 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 株式 | 事業資産・負債など |
| 経営権 | 買い手に移転する | 会社全体は維持(対象事業は移転) |
| 従業員の取扱い | 雇用契約がそのまま継続される | 原則として転籍・再契約が必要 |
| 手続きの複雑さ | 比較的簡易(株主の同意や契約のみ) | 個別資産や契約の移転が必要で手続きが煩雑 |
| 向いているケース | 会社全体を譲渡・承継したい場合 | 特定の事業だけを切り離したい場合 |
なお、事業売却(事業譲渡)と会社売却(株式譲渡)の違いについては以下の記事で詳しく解説しています。
事業譲渡との違い
事業売却と事業譲渡はほぼ同義として扱われることもありますが、厳密には異なる意味合いをもつケースもあります。
「事業譲渡」は会社法上の概念で、特定の事業に関わる資産や負債、契約などを選別して個別に移転する方法です。
一方、「事業売却」は実務上の広い表現として使われることがあります。事業譲渡を指す場合もあれば、会社分割など他の手法と組み合わせた事業の切り離しを含む場合もあります。
事業売却が実施されるケース・目的
事業売却は、会社全体ではなく特定の事業だけを切り離したい場合に非常に有効な選択肢です。主に以下のような目的で活用されます。
- 不採算事業やノンコア事業を整理したい場合
- 主力事業に人材・資金・設備などの経営資源を集中させたい場合
- 事業売却によって得た資金を、借入金の返済や新規事業への投資に充てたい場合
- 会社全体ではなく、一部事業の承継先を探したい場合
特に後継者不在の事業を残したい場合などに有効です。ただし、会社全体の承継や経営権の移転を目的とする場合は、事業売却ではなく会社売却(株式譲渡)が適しているケースもあります。
売却したい範囲や目的を明確にしたうえで、どちらの手法が自社に適しているかを慎重に検討することが重要です。
【売り手側】事業売却のメリット・デメリット
ここでは、売り手側から見た事業売却のメリット・デメリットを説明します。
事業売却は経営権を維持しながら特定事業のみ譲渡でき、資源集中や財務基盤強化、資金調達に活用できる手法です。一方、税負担の増加や手続きの煩雑さ、競業避止義務のリスクもあり、慎重な対応が求められます。
売り手側における事業売却のメリット
事業売却に伴う売り手側の主なメリットは、以下のとおりです。
会社の経営権を残したまま一部事業を売却できる
事業売却は会社全体の売却とは異なり、経営権を残したまま特定の事業のみを切り離すことが可能です。社名や株主構成、所在地など会社の基本情報は変わらず、法人格はそのまま存続します。
また、売却する事業以外の資産は会社に残る点も事業売却のメリットです。例えば、新たな事業を立ち上げる場合にも、必要なリソースを確保したうえで柔軟な経営戦略を描くことができます。
経営資源を主力事業に集中できる
不採算部門やノンコア事業を売却することで、人材・資金・設備などの経営資源を収益性の高い事業に再配分できます。これにより、限られたリソースを成長分野に集中投下できるだけでなく、経営の効率化や全体の収益力強化も期待できます。さらに、事業ポートフォリオを見直し、将来の成長に必要な領域への「選択と集中」を図ることが可能です。
資金調達や財務基盤の強化につながる
事業売却によって得られた売却益は、財務体質の改善や新規事業への投資原資として活用できます。例えば、借入金の返済に充てて財務レバレッジを抑えたり、成長領域への投資に回したりすることが可能です。売却益を社内で循環させれば、外部資金に依存せず経営再構築を進められます。
売却対象の事業に一定の利益があり、安定した収益性が見込める場合は、買い手からの評価が高まり、売却価格の上振れも期待できるでしょう。独自性のあるノウハウや技術、ブランドなどの差別化ポイントが明確であれば、買い手にとっても魅力的な案件となり、高値での売却につながる可能性が高まります。
また、売却益の金額は事業の状態によって大きく左右されるため、高値売却に向けた準備が、結果としてより大きな資金調達効果につながります。
売り手側における事業売却のデメリット
事業売却に伴う売り手側の主なデメリットは、以下のとおりです。
会社売却(株式譲渡)に比べると税負担が大きくなりやすい
事業売却で譲渡益が発生した場合、売り手企業に法人税等が課税されます。これが、株式譲渡の手法を用いた会社売却との大きな違いです。
株式譲渡の場合、株主が個人の場合は譲渡所得税として申告分離課税(最大20.315%)が適用されるのに対し、事業売却では売り手法人の利益に対して法人税等(実効税率約30%前後)が課されるため、税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。特に、資産の簿価と売却価格の差額が大きい場合は課税対象となる譲渡益も膨らみ、手残り額が想定より少なくなる可能性があります。
実際の手残り額は譲渡対価だけでなく、簿価、譲渡費用、法人の所得状況などによって変わるため、事前に税理士などの専門家に相談し、税務シミュレーションを行っておくことが重要です。
なお、事業売却(事業譲渡)と株式譲渡でかかる税金の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
手続きが煩雑になりやすい
事業売却は会社売却(株式譲渡)とは異なり、資産や負債、契約の個別移転が必要です。そのため、取引先との契約変更や従業員の転籍手続きなど、多くの対応が発生します。スムーズに移転が進まない場合、買い手との交渉に支障が出る可能性もあります。
競業避止義務が発生する可能性がある
事業売却の場合、売り手企業には会社法上の競業避止義務が課されます。原則として、事業を譲渡した日から20年間、同一の市町村および隣接する市町村の区域内で、譲渡した事業と同一の内容の事業を行うことはできません。
また、譲渡契約で別途「同一事業を行わない」旨を定めた場合には、その効力を最長30年間まで認めることができます。会社売却(株式譲渡)では契約によって競業避止義務を設けるケースはありますが、事業売却では会社法で自動的に義務が発生する点が大きな違いです。
将来的に同業種への再参入や関連事業の展開を検討している場合は、契約書で競業避止義務の範囲や期間を事前に十分確認しておくことが重要です。
【買い手側】事業売却のメリット・デメリット
ここでは、買い手から見た事業売却のメリット・デメリットを解説します。
事業売却は、取得対象を柔軟に選べてリスクを限定できるため、中小企業でも安心して買収できる点がメリットです。一方で、契約手続きの複雑さや消費税負担がデメリットとなります。
買い手側における事業売却のメリット
事業売却に伴う買い手側の主なメリットは、以下のとおりです。
譲受事業範囲を柔軟に選べる
事業売却では、買収対象となる事業や資産の範囲を買い手側が柔軟に選択できるため、必要な資源だけを取得することが可能です。不要な資産や負債の引き受けを避けつつ、ピンポイントで事業拡大を実現できるでしょう。また、取得対象が限定されるため、デューデリジェンス(買収監査)にかかる費用や時間を抑えられる場合もあります。
過去のリスクを引き継がずに済む
事業売却は、会社売却(株式譲渡)と異なり法人格そのものの引き継ぎがないため、過去の債務・訴訟リスク・税務リスクなどを回避しやすい点もメリットの一つです。譲受ける資産・負債・契約を限定的に設計できるため、法的・会計的リスクを最小化した買収が可能です。特に中小企業買収においては、事前にリスクの切り分けができる点が大きな安心材料となります。
のれんの損金算入による法人税の負担軽減が期待できる
M&Aにおける「のれん」とは、買収価格が譲り受けた資産・負債の時価純資産額を上回った場合に発生する差額です。事業売却の場合、のれんを一定期間で償却でき、税務上も損金として計上できる可能性があります。これにより、買収後の法人税負担を軽減できるメリットが期待できるでしょう。
ただし、株式譲渡では、買い手が対象会社の株式を取得する形となるため、事業譲渡のように、買収価格と資産・負債との差額を損金として計上できるとは限りません。そのため、買収後の税務メリットという観点では、事業譲渡の方が有利に働く場合があります。
買い手側における事業売却のデメリット
事業売却による買い手側の主なデメリットは、以下のとおりです。
契約・許認可の移転手続きが煩雑化しやすい
先に挙げたように、事業売却では、資産や契約を1件ずつ個別に移転する必要があります。そのため、不動産や設備の登記変更、取引先との契約再締結、従業員の転籍処理など、多くの書類対応や調整が発生します。
特に、取引先などと締結している既存の契約については、契約上の地位を買い手に移転できるか、相手方の承諾が必要か、再契約が必要かを事前に確認しておくことが重要です。また、許認可が必要な事業では、買い手側で新たに許認可を取得しなければならないケースもあるため、スケジュールや交渉の難易度が上がる点に注意が必要です。
課税資産が多いと買収時の資金負担が大きくなる
事業売却では、株式譲渡の手法を用いた会社売却とは異なり、取得する資産の種類によって消費税が課税されます。建物、設備、ソフトウェア、商標・特許権などの課税資産が多い場合、譲渡価額とは別に消費税相当額を用意しなければなりません。
これにより、買収時の資金負担が大きくなり、資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。
事業売却価格の算出方法・考え方
事業売却の価格は、会社売却と同様に明確な相場があるわけではありません。事業の収益性、資産内容、将来性などを総合的に評価して決定されます。以下では、主な価格算出方法とその考え方を解説します。
事業売却価格に明確な相場はない
事業売却価格には、明確な相場はありません。対象とする事業の収益性、保有資産、将来性、買い手とのシナジー効果などを総合的に評価して決定されます。
中小企業の事業売却では、「時価純資産+営業利益の3〜5年分」程度を目安として用いられるケースが見られます。ただし、最終的な価格は、買い手との交渉や譲渡対象とする資産・契約の範囲によって大きく変動します。
事業売却価格を算出する主な評価方法
事業売却価格を検討する際には、対象事業の資産価値や収益力、類似する取引事例などをもとに事業価値を評価します。代表的な評価方法としては、以下が挙げられます。
| 算出方法 | 概要 | 主な活用場面 |
|---|---|---|
| 年買法 |
|
|
| マルチプル法 |
|
|
| DCF法 |
|
|
| 時価純資産法 |
|
|
年買法
年買法とは、対象事業の時価純資産に、営業利益の一定年分(通常は3〜5年程度)を加算して事業価値を算定する方法です。中小企業の事業売却では比較的よく用いられる手法で、計算がシンプルでわかりやすいというメリットがあります。
ただし、加算する年数や利益水準の設定方法によって評価額が大きく変わりやすく、理論的な精度に限界がある点がデメリットです。そのため、年買法は売却価格の検討初期の目安として活用し、最終的な価格は他の評価方法や買い手との交渉を踏まえて決定することが重要です。
マルチプル法
マルチプル法は、類似する企業や過去のM&A取引事例の評価倍率を参考に、対象事業の価値を算定する方法です。売上高、営業利益、EBITDAなどの財務指標に一定の倍率を乗じて評価するため、市場相場を反映しやすいのが大きな特徴です。同業種で比較可能な企業や類似取引事例が豊富にある場合には、客観的な価格目安を把握しやすい手法といえます。
ただし、対象事業と十分に類似した企業や事例が見つかりにくい場合や収益構造などが大きく異なる場合には、評価の精度が低くなる可能性があります。
DCF法
DCF法は、対象事業が将来にわたって生み出すと予想されるフリーキャッシュフローを、現在価値に割り引いて事業価値を算定する方法です。現在の資産価値だけでなく、将来の成長性や収益力を反映できるのが最大の特徴です。安定的なキャッシュフローを生み出している成熟企業における事業売却価格の算出では、DCF法による評価が参考にされるケースがあります。
ただし、将来の事業計画や割引率などの前提条件によって評価額が大きく変わるため、信頼性の高い事業計画を作成できるかが重要なポイントとなります。
時価純資産法
時価純資産法は、対象事業に含まれる資産と負債を時価で評価し、資産総額から負債総額を差し引いて事業価値を算定する方法です。設備、不動産、在庫などの有形資産価値が大きい事業では、価格算定の参考になりやすい手法といえます。
ただし、現時点の純資産価値を重視するため、将来の収益力やブランド、技術力などの無形資産を十分に反映しにくいことから、成長性よりも保有する資産の価値を重視して評価したい場合に向いています。
事業売却にかかる税金
| 立場 | 主な税金 | 課税対象・注意点 |
|---|---|---|
| 売り手側 | 法人税等 | 事業売却によって譲渡益が出た場合に課税される |
| 買い手側 | 消費税 | 建物・設備・ソフトウェア・特許権・商標権などの無形固定資産、棚卸資産などが課税対象になる |
| 不動産取得税・登録免許税 | 譲渡対象に不動産が含まれる場合に発生する可能性がある |
事業売却には、さまざまな税金がかかります。ここでは、事業売却にかかる税金を、売却側と買収側に分けて見ていきましょう。
売り手側にかかる税金
事業売却で譲渡益が発生した場合、売り手企業には法人税等が課税されます。譲渡益を算出する計算式は、以下のとおりです。
譲渡益=譲渡対価-(譲渡資産の帳簿価額-譲渡負債の帳簿価額)
譲渡対価が譲渡対象事業の帳簿価額を上回る場合、その差額が大きいほど課税対象となる利益も増え、税負担が重くなる可能性があります。
なお、「法人税等」と一括りにされていますが、実際には以下が含まれます。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
上記の踏まえた「実効税率」は、約30%程度です。
ただし、譲渡損が生じた場合は、法人税等が発生しないケースもあります。実際の税額は法人の所得状況や譲渡内容によって異なるため、売却前に税理士などの専門家へ相談し、シミュレーションを行っておくことが重要です。
なお、売り手が個人事業主の場合は、法人税ではなく所得税が課税されます。
買い手側にかかる税金
事業売却では、買い手側にも税金が発生します。特に注意が必要なのが消費税です。
建物、設備、ソフトウェア、特許権・商標権などの無形固定資産、棚卸資産などは消費税の課税対象となります。一方で、土地、有価証券、売掛金・貸付金などの債権は非課税です。
消費税は買い手が売り手に支払い、売り手が納付する仕組みになっています。課税対象となる資産が多い場合には、譲渡価額とは別に消費税相当額を用意する必要があるため、買収時の資金計画にしっかり含めておくことが重要です。
また、譲り受ける資産に不動産が含まれる場合は、不動産取得税や登録免許税も別途発生します。
事業売却の手続きと流れ
ここでは、事業売却の手続きと流れを紹介します。
1.売却事業を決定する
事業売却の第一歩は、どの事業を売却対象とするかを明確に決定することです。会社全体ではなく一部の事業のみを譲渡するため、売却する事業と会社に残す事業をしっかり切り分ける必要があります。
検討する際には、各事業の収益性・成長性、保有資産・契約内容、従業員や取引先への影響などを総合的に整理することが重要です。対象範囲が曖昧なまま進めると、その後の価格交渉やデューデリジェンス、契約手続きで認識のズレが生じやすくなります。
2.売却事業に関する資料を整理する
売却する事業が決まったら、貸借対照表や損益計算書といった資料を事前に整理しておきましょう。
会社売却(株式譲渡)とは異なり、事業売却の場合は、事業ごとに数字を整理する必要があります。複数の事業の数字がまとまっている場合は、数値を事業ごとに切り分け、対象となる事業の数値のみを抽出する作業を行わなければなりません。
事業の数が多くなる分だけ手間も増えるため、なるべく早期に着手することが重要です。
3.買い手探し・選定を行う
売却事業の準備が整ったら、次は買い手探しに移ります。主に以下の方法があります。
| 買い手候補の探し方 | 概要 |
|---|---|
| 候補企業へ直接打診する | 売り手側が関心のありそうな企業へ直接相談する |
| 知人・業界関係者に相談する | 共通の知人や業界内のつながりから紹介を受ける |
| M&A仲介会社に相談する | 買い手候補の探索や交渉、契約手続きの支援を受ける |
| 金融機関に相談する | 取引先ネットワークを活用して候補企業を探す |
事業売却では情報管理が非常に重要です。売却を検討している事実が社内外に漏れると、従業員の不安や取引先との関係悪化を招く可能性があります。
そのため、匿名での情報提供や秘密保持契約(NDA)を徹底しながら進めましょう。買い手候補の選定や条件交渉に不安がある場合は、M&A仲介会社などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
専門家のネットワークを活用することで、より適した買い手を見つけやすくなります。
4.条件交渉・基本合意締結を行う
買い手候補が見つかったら、まずは条件交渉を通じて、売却の方向性やスキーム、価格帯のすり合わせを行います。この段階で行うのは、お互いの希望条件を提示し合いながら、譲渡対象や引き継ぎの範囲、今後の進行スケジュールなどの調整です。
その後、ある程度の合意が得られたタイミングで、基本合意書(MOU)を締結します。基本合意書に記載される主な項目は、事業売却のスキーム、売却価格の目安、譲渡対象の資産や負債、今後の手続きの進め方などです。
なお、基本合意書は通常、法的拘束力を持たないものの、双方の認識を文書化することで、後のトラブル防止や交渉の前提整理に役立ちます。
5.デューデリジェンスに対応する
売却を実行する前には、買い手によってデューデリジェンス(DD)と呼ばれる事前監査が行われます。DDの目的は、法務・財務・税務などの観点からリスクや契約整合性を確認し、売り手は財務資料や契約書、雇用関係書類などを整理して迅速に提出できる体制を整えることです。DDの円滑な進行は、買い手からの信頼や、売却条件にも影響します。
6.事業譲渡契約書を締結する
デューデリジェンスが完了したら、事業譲渡契約書の締結に移ります。
事業譲渡契約書に記載する内容に法的な定めはありません。譲渡対象事業の資産と負債、譲渡対価、譲渡期日など、記載内容を買い手側と売り手側の双方の合意によって決定します。
7.株主総会での承認を得る
事業の全部または重要な一部を譲渡する場合、譲渡会社は、原則として、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議によって事業譲渡契約の承認を得る必要があります。なお、事業の重要な一部の譲渡については、譲渡する資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1を超えない場合など、株主総会の承認が不要となるケースがあります。特別決議では、定款に別段の定めがある場合を除き、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を得なければなりません。
また、反対株主の株式買取請求に対応するため、効力発生日の20日前までに、株主へ事業譲渡等を行う旨を通知する必要があります。ただし、公開会社の場合など、一定の条件下では公告によって通知に代えることができます。譲渡対象の規模や取引形態によっては、株主総会の承認を省略できるケースもあるため、事前に要件を確認しておくことが重要です。
8.移転手続き
事業譲渡契約書の締結後は、売り手側が持つ資産を買い手側の企業に移転するために、個別の契約を行います。具体的には、買い手側が取引先や従業員との契約、許認可手続きなどを進めることになります。売り手側は、買い手側の手続きがスムーズに進むよう協力することが大切です。
事業売却を成功させるポイント
事業売却を成功させるためには、売却対象の選定から契約締結、引き継ぎまで、慎重かつ戦略的な準備が欠かせません。ここでは、中小企業が事業売却を円滑に進めるための重要なポイントを解説します。
事業ポートフォリオを整理して売却対象を見極める
事業売却を成功させるためには、まず自社の事業ポートフォリオを整理し、売却対象を慎重に見極めることが重要です。各事業の収益性、成長性、将来の見通し、投資負担などを比較し、「今後も自社で続けるべき事業」と「外部へ譲渡を検討する事業」を明確に分けましょう。
- 花形
- 成長市場でシェアが取れている/大きな投資が必要
- 問題児
- 成長市場でシェアが取れていない/大きな投資が必要
- 金のなる木
- 成熟市場でシェアが取れている/投資額が小さい
- 負け犬
- 成熟市場でシェアが取れていない/投資額が小さい
代表的な手法としてPPM分析があります。事業を「花形」「問題児」「金のなる木」「負け犬」の4つに分類して評価する手法です。これにより、不採算事業やノンコア事業を整理し、主力事業への経営資源集中を図ることが可能です。
ただし、現在収益性が低くても、買い手にとっては技術力、顧客基盤、人材などに価値があるケースもあります。自社視点だけでなく、外部から見た事業価値も考慮しながら売却対象を検討することが成功の鍵となります。
売却対象の収益性や強みを説明できる状態にする
事業売却では、買い手が対象事業の収益性や将来性を慎重に確認したうえで、買収の可否や価格を判断します。そのため、売却対象事業の売上・利益状況、主要取引先、顧客基盤、保有技術・ノウハウなどを整理し、買い手に明確に説明できる状態にしておくことが重要です。
特に複数の事業を展開している企業では、売却対象事業のみの損益や資産を正確に切り分けられていないケースがよく見られます。事業ごとの収益性や強みを具体的に示せれば、買い手が事業価値を正しく評価しやすくなり、価格交渉や手続きも円滑に進みます。
資産・契約・従業員の引き継ぎ範囲を明確にする
事業売却では、譲渡対象となる資産、契約、従業員の範囲を事前に明確に整理することが成功の鍵となります。具体的には、どの設備・在庫を引き継ぐのか、取引先との契約や許認可の移転が可能かどうか、従業員の転籍や雇用条件はどうするのかなどを詳細に確認しておかなければなりません。
引き継ぎ範囲が曖昧なまま進めると、デューデリジェンスや契約締結の段階で買い手との認識のズレが生じ、価格変更やスケジュール遅延を招くリスクが高まります。売却対象を明確にしたうえで、買い手と十分に合意形成を図ることが、スムーズな事業売却を実現する重要なポイントです。
事業売却の成功事例
ここでは、事業売却の成功事例を3件紹介します。それぞれ、成長戦略の実現、経営資源の最適化、コア事業への集中など、目的が異なります。
株式会社アルファドライブの事例
2025年7月、株式会社アルファドライブ(以下、アルファドライブ)は、子会社である「株式会社fufumu」が展開していた離乳食ブランド「paqupa(パクパ)」(以下、paqupa)事業をキッコーマン株式会社(以下、キッコーマン)に譲渡しました。
paqupaはもともとキッコーマンの社内新規事業制度「K2」から生まれたプロジェクトであり、アルファドライブが事業化を担っていました。事業が軌道に乗り、さらなる成長フェーズを迎えたタイミングで、発案元であるキッコーマンに事業を引き継ぐ形で譲渡を実施しています。
この売却により、アルファドライブは事業開発支援の成果を発案元企業への移管につなげました。一方、買い手であるキッコーマンには、品質・製造・販売などの自社リソースを活か、譲渡後のさらなる成長を目指しています。
花王株式会社の事例
2024年2月、花王株式会社(以下、花王)は、茶カテキン飲料「ヘルシア」に関する事業を、キリンホールディングス株式会社のグループ会社であるキリンビバレッジ株式会社(以下、キリンビバレッジ)へ譲渡する契約を締結しました。
花王は、中期経営計画の達成に向けて事業ポートフォリオの強化を進めており、その一環として「ヘルシア」事業の譲渡を決定しました。一方、キリンビバレッジは、清涼飲料事業におけるヘルスサイエンス領域の強化を目的として、同事業を譲り受けました。
この事業売却により、花王は基盤事業の競争力強化に向けた経営資源の集中を図り、キリンビバレッジは「ヘルシア」のブランド資産を活かしながら、ヘルスサイエンス領域の強化・拡大を目指しています。
シオノギファーマ株式会社の事例
2025年5月、シオノギファーマ株式会社は、医療従事者向けに提供していた「抗がん薬曝露調査」事業について、環境未来株式会社と事業譲渡契約を締結しました。
本事業は、抗がん薬を取り扱う医療現場において、従事者の曝露リスクを評価・可視化するサービスです。譲渡先である環境未来株式会社は、分析業務に関する専門性や受託業務の経験を有しており、シオノギファーマは同社への譲渡を通じて、主力事業である医薬品製造に経営資源を集中させる方針を示しています。
まとめ
事業売却は、会社全体ではなく特定の事業のみを譲渡できる柔軟なM&A手法です。不採算事業の整理や主力事業への資源集中、資金確保などに有効ですが、税負担や手続きの複雑さに注意が必要です。
事業売却をご検討の際は、M&Aキャピタルパートナーズへお気軽にご相談ください。専門的な視点で最適な方法をご提案いたします。
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よくある質問
- 事業売却とは何ですか?
- 事業売却とは、会社が営む特定の事業部門や、それに関連する資産、契約、従業員などを第三者に譲渡するM&A手法です。会社全体を売却するのではなく、一部の事業だけを切り離して売却できる点が特徴です。
- 事業売却と会社売却は何が違いますか?
- 会社売却は、株主が保有する株式を第三者に売却し、経営権ごと企業を譲渡する方法です。一方、事業売却では株式の移転はなく、譲渡対象は事業単位の資産、負債、契約などに限定されます。
- 事業売却と事業譲渡は同じ意味ですか?
- 事業売却と事業譲渡はほぼ同義で使われることがありますが、厳密には異なる場合があります。事業譲渡は会社法上の概念で、特定事業に関わる資産や負債、契約などを個別に移転する方法です。事業売却は、事業譲渡や会社分割などを含む広い表現として使われることがあります。
- 事業売却はどのような目的で行われますか?
- 事業売却は、不採算事業やノンコア事業の整理、主力事業への経営資源の集中、借入金の返済や新規事業への投資資金の確保、一部事業の承継先探しなどを目的として行われます。
- 売り手側にとって事業売却にはどのようなメリットがありますか?
- 売り手側にとっては、会社の経営権を残したまま一部事業を売却できること、経営資源を主力事業に集中できること、売却益を資金調達や財務基盤の強化に活用できることが主なメリットです。
- 事業売却のデメリットや注意点は何ですか?
- 売り手側では、会社売却に比べて税負担が大きくなりやすいこと、資産や契約の個別移転により手続きが煩雑になりやすいこと、競業避止義務が発生する可能性があることに注意が必要です。買い手側では、契約や許認可の移転手続き、消費税などの資金負担を確認する必要があります。
- 事業売却価格はどのように算出されますか?
- 事業売却価格に明確な相場はなく、対象事業の収益性、資産内容、将来性、買い手とのシナジー効果などを総合的に評価して決定されます。主な算出方法には、年買法、マルチプル法、DCF法、時価純資産法があります。
- 事業売却ではどのような税金がかかりますか?
- 売り手側では、事業売却によって譲渡益が発生した場合に法人税等が課税されます。買い手側では、建物、設備、ソフトウェア、特許権、商標権などの課税資産に消費税がかかるほか、不動産が含まれる場合には不動産取得税や登録免許税が発生する可能性があります。
- 事業売却はどのような流れで進めますか?
- 事業売却は、売却事業の決定、資料整理、買い手探し、条件交渉と基本合意、デューデリジェンス、事業譲渡契約書の締結、株主総会での承認、移転手続きという流れで進みます。売却対象の範囲や契約・従業員の引き継ぎ内容を事前に整理することが重要です。
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- 事業承継時の消費税の取扱い
- 承継時の債権・債務の取扱い
- 地位承継
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