更新日
吸収合併の契約承継について
吸収合併では、消滅会社が締結していた契約は、原則として存続会社に包括承継されます。そのため、通常は契約ごとに再締結する必要はありません。ただし、契約書にCOC条項がある場合や、通知義務、口座名義変更などの実務対応が必要な場合は、合併前に個別確認を行うことが重要です。
組織再編およびM&A手法の一つである合併を行う際には、合併契約の締結だけでなく、既存の契約関係の整理や債権者保護手続きなど、さまざまな対応が必要です。
そのなかで、「取引先との契約は合併後どうなるのか」「契約を結び直す必要はあるのか」といった疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、吸収合併における契約承継の基本と、注意点について解説します。
また、M&Aの意味と基本知識について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
吸収合併では、消滅会社の契約は原則として承継される
| 契約の扱い | 代表例 |
|---|---|
| 原則として承継される契約 |
|
| 例外として承継に注意が必要な契約 |
契約書にCOC条項(支配権変更条項)が含まれている場合
|
吸収合併では、消滅する会社が結んでいた契約は、原則としてすべて存続会社にそのまま承継されます。
吸収合併は、会社法第2条第27号により以下のように規定されています。
-
会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
引用元:会社法第2条第27号
つまり、消滅会社が結んでいた資産・負債・契約関係などのあらゆる権利義務は、包括的に存続会社へ引き継がれます。
これは、契約ごとに個別の同意が必要となる事業譲渡(特定承継)とは異なり、法律上まとめて権利義務が移転する「包括承継」という仕組みによるものです。
吸収合併で契約が承継されない可能性があるケース
吸収合併では、原則としてすべての契約が承継されますが、例外として契約書に「COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)」が含まれているケースでは注意が必要です。
COC条項とは、M&Aなどにより経営権(支配権)が変更された際に、取引先への通知を義務付けたり、相手方に契約解除や条件変更の権利を認めたりする条項です。これは、取引先が競合企業の傘下に入ることで、自社の技術やノウハウが流出するリスクを防ぐ目的や取引相手の信用リスク等の前提が変化することへ対応する目的等で設けられます。金融機関との契約(銀行取引約定)にはこの条項が含まれているのが一般的です。
COC条項が含まれている取引が存続会社にとって大きなメリットや相乗効果を見込めるものであれば、COC条項の発動による契約条件の変更や解除が吸収合併の実施判断に影響する可能性もあります。
そのため吸収合併を検討する際には、まず、既存契約にCOC条項が含まれていないかを事前に確認することが重要です。
COC条項がある場合には、取引先への通知や協議を行い、契約の継続が可能かどうかを確認することが求められます。
吸収合併における契約承継の実務上のチェックポイント
吸収合併における契約承継では、原則は包括承継ですが、実務上は個別の確認や対応が必要な場面もあります。ここでは押さえておくべき主なチェックポイントについて解説します。
通知義務が定められている場合は速やかに対応する
吸収合併では、消滅会社の既存契約における契約書が旧社名や旧代表者名のままであっても、原則として契約の再締結や覚書の作成は不要です。仮に消滅会社名義で請求書の発行・受領が行われた場合であっても、権利義務は存続会社に帰属するため、契約の有効性に影響はありません。
一方で、契約書に商号や代表者の変更時の通知義務が定められている場合には、再締結が不要であっても、条項に基づき速やかに通知を行う必要があります。
また、合併により契約内容と実態に乖離が生じる場合には、トラブル防止のため契約内容の見直しや修正契約の締結を検討することが重要です。
銀行口座の名義が変わる場合は手続きが必要
銀行口座の名義は自動的に変更されるわけではないため注意が必要です。合併後は、消滅会社の取引銀行に対して口座名義の変更を依頼する、もしくは預金残高を存続会社の口座へ移管したうえで旧口座を解約するなどの手続きを行いましょう。
金融機関との融資契約や与信契約においては、名義変更に加えて、支配権の変更に関する通知や承諾が求められる場合もあります。
また、変更後には取引先に対して振込先口座の変更を速やかに通知しなければ、入出金処理に混乱が生じるおそれがあります。契約内容を含め事前に確認し、必要な手続きを漏れなく進めることが重要です。
必要に応じて取引先と覚書を取り交わす
吸収合併では契約上の権利義務に変更は生じないものの、実務上は、取引先が契約相手の変更に不安を感じる場合もあります。その場合、法的義務とは別に、取引関係を円滑に維持する観点から、合併による契約承継の事実を明確にする覚書や確認書を任意で取り交わすことがあります。
ただし、覚書は契約条件の補足や修正にも用いられるため、不要な書類作成はかえって内容の誤認を招くおそれもあります。対応に迷う場合には、契約内容や取引関係の重要性を踏まえたうえで、法務部門や専門家と相談しながら判断することが重要です。
まとめ
吸収合併では、消滅会社が締結していた契約は、原則として包括承継により存続会社へ引き継がれます。そのため、通常は契約ごとに再締結する必要はありません。
ただし、契約書にCOC条項が含まれている場合や、商号・代表者変更に関する通知義務がある場合、銀行口座の名義変更が必要な場合などは、個別の確認と実務対応が求められます。取引先との関係維持のために覚書や確認書を取り交わすケースもあるため、吸収合併を進める際は既存契約を事前に精査し、必要に応じて専門家に相談しながら対応方針を整理することが重要です。
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。
よくある質問
- 吸収合併では、契約は自動的に承継されますか?
- 会社法第2条第27号のとおり、吸収合併では消滅会社の権利義務の全部が存続会社に包括承継されます。そのため、原則として消滅会社が締結していた契約も存続会社へ引き継がれます。
- 吸収合併で承継される契約にはどのようなものがありますか?
- 取引先との取引基本契約、ITシステムの利用契約、賃貸借契約、知的財産権のライセンス契約、従業員の雇用契約などは、原則として存続会社に承継されます。契約に関連する権利義務も、包括承継の対象として引き継がれます。
- 吸収合併でも契約が承継されず、結び直しになる可能性があるのはどのような場合ですか?
- 主な例がチェンジオブコントロール条項(COC条項)が入っている契約です。支配権の大きな変更があった場合に、取引先に契約解除権を与える条項で、これが発動すると相手方が解除を選択し、契約を結び直す必要が生じるケースがあります。特に重要かつ代替性の低い契約では、M&A後の事業基盤が揺らぐリスクがあるため、慎重な対応が必要です。
- 吸収合併後に契約書や覚書を新たに作成する必要はありますか?
- 原則として必要ありません。吸収合併により権利義務は存続会社に包括承継されるため、既存の契約書やその内容を修正した覚書は、そのまま有効と考えられます。取引先から新契約や覚書の締結を求められることはありますが、社名変更などがあっても契約の有効性自体は通常維持されます。ただし、双方が合意すれば再締結することも可能です。
- 吸収合併後、存続会社や消滅会社の取締役の地位はどうなりますか?
- 吸収合併が行われても、存続会社の取締役の地位や任期には原則として影響はありません。一方、消滅会社の取締役が自動的に存続会社の取締役になることはなく、存続会社の取締役に就任させるには株主総会での選任決議が必要となります。その任期は会社法や存続会社の定款、株主総会決議に従います。
- 吸収合併は従業員の雇用契約にどのような影響がありますか?
- 雇用契約は吸収合併によりそのまま存続会社に引き継がれるため、従業員の雇用は保護されます。吸収合併そのものが解雇やリストラの直接の理由にはなりませんが、大規模な組織再編の一環として配置転換や管理職の降格、希望退職募集などが行われる可能性はあります。
- 吸収合併を進める際、契約承継で特に注意すべきポイントは何ですか?
- 既存契約にチェンジオブコントロール条項が含まれていないかを事前に洗い出し、その契約の重要性や代替可能性、相手方が競合かどうかなどを踏まえて慎重に対応方針を検討することです。通知・届出の要否やタイミング、誰がどのように説明しにいくかまで設計しておくことで、合併後の事業基盤を安定させやすくなります。
M&Aを流れから学ぶ
(解説記事&用語集)
M&A関連記事
M&A基礎
目的別M&A
- 事業承継とは
- 事業承継とM&Aの違い
- 事業承継M&A
- 「事業承継」と「事業継承」の違い
- 事業承継問題
- 後継者不足の実態
- 事業承継における課題
- 事業承継対策の必要性
- 事業承継を実施するタイミング
- 事業承継の流れ
- 事業承継計画
- 事業承継計画書の記載項目
- 事業承継のチェックリスト
- 事業承継における後継者選定
- 事業承継における後継者育成
- 親族内承継
- 親族外承継
- 従業員への事業承継
- 第三者承継
- 親族内承継と第三者承継の比較
- 後継者のいない会社を買う
- 事業承継の主要スキーム比較
- 持株会社を活用した事業承継
- 事業承継信託
- 事業承継ファンド
- 医療法人の事業承継
- 事業承継に向けた資金調達方法
- 事業承継補助金
- 事業承継で活用できる融資
- 事業承継における生命保険
- 事業承継税制
- 事業承継の税務対策
- 事業承継と資産移転
- 事業承継時の消費税の取扱い
- 承継時の債権・債務の取扱い
- 地位承継
- 包括承継
- 許認可の承継
- 株式相続
- 株式の贈与
- 自社株贈与
- 事業承継士
- 事業承継の専門家
- 事業承継コンサルティング
- 事業承継特別保証制度
- 事業承継に潜むリスクと対策
- 事業承継に伴う労務管理リスク
- 会社売却と事業承継の違い
M&Aスキーム
M&Aプロセス
企業価値評価
M&Aリスク
デューデリジェンス
M&Aファイナンス
M&A税務
M&A法務
用語・その他
- バスケット条項
- 当期純利益
- 資産除去債務
- XBRL
- 特別決議
- 譲渡承認取締役会
- 大量保有報告
- 適時開示
- 法務のポイント
- インサイダー取引
- チャイニーズ・ウォール
- 匿名組合
- キラー・ビー
- クラウン・ジュエル
- グリーン・メール
- ゴールデンパラシュート
- ジューイッシュ・デンティスト
- スタッガード・ボード
- スケールメリット
- ストラクチャー
- 利益相反
- 源泉徴収
- プロキシー・ファイト
- パールハーバー・ファイル
- Qレシオ
- MSCB
- IFRS
- 現物出資
- コントロールプレミアム
- ゴーイング・プライベート(Going Private)
- バックエンド・ピル
- パックマン・ディフェンス
- EV(事業価値)
- 売渡請求
- 株主価値
- レバレッジ効果
- 減損価格
- アーンアウト
- シャーク・リペラント
- スーイサイド・ピル
- ティン・パラシュート
- 低廉譲渡
- 監査法人
- 相対取引
- 範囲の経済
- アナジー効果
- 債券
- 純有利子負債(ネット デット)
- ホールディングス
- COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)
- ディスクロージャー
- 会社法
- ROA(総資産利益率)
- 国際租税条約
- 役員報酬
- SWOT分析
- アンゾフの成長マトリクス
- サクセッションプラン
- ドラッグアロング
- 累進課税
- 総合課税と分離課税の違い
- キャピタルゲイン
- インカムゲイン
- 資本と負債の区分
- 益金不算入
- タックスシールド
- 繰越欠損金
- スタンドアローン・イシュー
- ロックド・ボックス方式
- 特定承継
- プットオプション
- 埋没費用(サンクコスト)
M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由
創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。
-
明瞭かつ納得の手数料体系
創業以来変わらない着手金無料などの報酬体系で、お相手企業と基本合意に至るまで無料で支援致します。
- 関連ページ -
-
豊富なM&A成約実績
創業以来、国内No.1の調剤薬局業界のM&A成約実績の他、多種多様な業界・業種において多くの実績がございます。
- 関連ページ -
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。

