アセットパーチェスとは? 概要、メリットとデメリット、他のM&A手法との違いについて

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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年増加しています。M&Aを検討する過程において、M&Aの手法のひとつにアセットパーチェス(Asset Purchase)という言葉を耳にすることがあります。今回は、アセットパーチェスの概要、メリットとデメリット、アセットパーチェスに適したケース及び他のM&A手法との違いについて、詳しく説明します。

このページのポイント

~アセットパーチェスとは?~

被買収企業の商品、有形固定資産、ブランド、知的財産、従業員などを、個別に買い取ることをいい、日本語では「事業譲受」と呼ばれる。アセットパーチェスは、合併のように被買収会社の財産を全て引き継ぐというのではなく、引き継ぎたいものは引き継ぎ、引き継ぎたくない資産はリストから除外するという形式をとることで、簿外債務のリスクを避けたり、特定の事業だけを買い取ることができるが、個別に譲渡の手続きが必要となったり、許認可を再度申請し取得し直す必要があるなど、デメリット部分にも目を向ける必要がある。

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1. アセットパーチェスとは?

アセットパーチェスとは、被買収企業の商品、有形固定資産、ブランド、知的財産、従業員などを、個別に買い取ることをいい、日本語では「事業譲受」と呼ばれます。
アセットパーチェスは、合併のように被買収会社の財産を全て引き継ぐというのではなく、引き継ぎたいものは引き継ぎ、引き継ぎたくない資産はリストから除外するという形式をとります。

2. アセットパーチェスのメリットとデメリット

2-1. アセットパーチェスでM&Aを行うメリット

簿外債務のリスクを避けることができる

M&Aを行う際に簿外債務といわれる帳簿には反映されていない債務を引き継いでしまう可能性があります。例えば、未払いの残業代や、退職給付引当金の過年度からの計算ミスなどが該当します。
事業譲受では、必要な事業や設備などの資産を選び継承するため、こういったリスクを避けることが出来る点がメリットといえます。

特定の事業だけを買い取ることができる

買い手が欲しい範囲の事業であったり必要な人材のみを継承ができるため、買収する会社の事業とシナジーがある事業や人材、資産などを必要な部分のみを引き継ぐことができます。

節税することができる

アセットパーチェスでは、のれんといわれる企業が持つブランド力や技術力に対しての価値を指すものに相当する金額の償却や有形固定資産の減価償却を、税務上、損金として計上できるため、その分の節税が可能になります。

2-2. アセットパーチェスでM&Aを行うデメリット

それぞれ個別に譲渡の手続きが必要となる

アセットパーチェスの場合、それぞれ引き継ぐ従業員の雇用契約や賃貸借契約など、様々な契約を結び直す必要があります。そのため、関係各所への説明や承諾を得るのに時間や手間がかかります。これは従業員や資産、関係者が多ければ多いほどコストが必要となります。

許認可を取り直す必要がある

許認可については引き継ぐことができないため、再度申請して取得する必要があります。手続きや準備に不備があると許認可が下りない可能性があるため、事前の調査や準備が重要といえます。

取引先や従業員を引き継げない可能性がある

従業員や取引先などにアセットパーチェスの説明をしても同意が得られない場合、従業員の流出や取引先が減る可能性があります。そのため従業員の労働条件や給与など以前と条件が変わりすぎないように慎重に対応する必要があります。

3. アセットパーチェスに適したケース

次にアセットパーチェスに適したケースを以下にとおり、紹介します。

3-1. 必要な事業を安く手に入れられる可能性がある

アセットパーチェス実施前の会社では、採算が取れなかった事業でも譲り受けた会社とシナジーがあるような場合は、事業譲受を検討する価値があります。このような場合は、想定よりも安く譲渡してもらえる可能性があります。譲渡した側の会社も不採算の事業を手放し、採算のとれる事業に更に投資することにより経営を立て直せるため、双方に利益があるといえます。

3-2. 後継者不足を解決する方法になる

近年の日本では、後継者不足に頭を悩ませている会社が多いといわれています。優れたノウハウや技術を有しているのに後継者が見つからず、やむを得ずに廃業になってしまう会社は少なくありません。そのような問題の解決方法にアセットパーチェスもひとつの選択肢になります。

4. 他のM&A手法との違い

アセットパーチェス以外のM&A手法に株式譲渡、会社分割及び合併などがありますが、それらとの違いは以下のとおりです。

4-1. 株式譲渡との違い

主な違いは継承にかかる時間や手間です。アセットパーチェスの場合では、事業に関わる契約先それぞれから同意を得る必要があり、その関係者の数に比例して手続きの手間が増加します。

4-2. 会社分割との違い

会社分割では、事業の一部もしくは全部を分割して、新規に設立した会社へ継承を行う「新設分割」と、すでにある会社へ事業継承を行う「吸収分割」の2種類に分けることが出来ます。会社分割はどちらも包括的に継承することができ、契約なども引き継ぐことができますが、アセットパーチェスでは包括的に継承することができません。

4-3. 合併との違い

合併では、ひとつの会社が他の会社を吸収する「吸収合併」と新設した会社に権利義務のすべてを継承する「新設合併」の2種類があります。合併では、売手の法人格が消滅する点が一番大きな違いです。合併の場合は、売手側の従業員を引き継ぐことができるため、従業員の雇用を守る事が出来ます。

5. まとめ

今回はアセットパーチェスを詳しく説明しました。M&Aにおいても利用できるケースはありますが、アセットパーチェスを検討する際にはメリット、デメリット、他のM&A手法との違いをよく理解し、進める必要があります。経営者であれば、アセットパーチェスについて理解し、必要に応じてM&Aや法律及び税務の専門家に適宜相談することが望まれます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社コーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 コーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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