マルチプル法とは? 企業価値評価の計算方法やメリット・デメリットを解説

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マルチプル法(類似上場企業比較法)は、企業価値評価に用いられる手法の一つです。M&Aにおいて、売り手企業が非上場企業である場合には、上場企業と異なり時価評価が困難です。そこで、類似する上場企業のデータから得られる指標をもとに、客観的な企業価値を算定し、M&Aにおける取引価格の決定に用います。本記事では、マルチプル法の概要や調べられる価値、企業価値を算定する際に採用される評価指標と計算方法、メリット・デメリットを解説します。

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1. マルチプル法とは?


マルチプル法とは、M&Aにおいて企業価値評価に用いられる手法の一つです。評価対象企業と類似する上場企業の株価などを参考に、売上や利益、純資産などの指標倍率(マルチプル)を乗じて、企業の相対的価値を算定します。

1-1. マルチプルの概要

そもそもマルチプルとは、企業価値、もしくは株式価値における売上や利益、純資産などの特定の指標に対する倍率を指す用語です
一般に、マルチプルは企業価値評価の場面において用いられる指標であり、マルチプル法とは、マルチプルを用いた企業価値の評価手法を意味します。

1-2. マルチプルなら非上場企業の価値も算定できる

通常、上場企業の時価総額は、「1株あたりの株式価値(株価)×発行済株式数」によって求めることが可能です。
また、企業価値は、時価総額と純有利子負債(借入や社債などの有利子負債から現預金などの現金同等物を差し引く)の和で求めることができるため、上場企業においては、直近のIR資料から貸借対照表に記載されている現預金や有利子負債を確認して、最新の企業価値を算定することができます。
しかし、非上場企業では、上場企業の株価のような客観的な価値の算定基準が存在しないため、この考え方では株式価値や企業価値を算定できません。
そこで、非上場企業ではマルチプル法を用いることで、株式価値や企業価値を算定することが可能となります。類似する上場企業の利益や売上、純資産などの経営指標をもとに導き出したマルチプル(倍率)を乗じることで、非上場企業であっても簡易的に株式価値や企業価値を導き出せるのです。

2. マルチプル法で調べられる価値

マルチプル法で調べられる、主な価値は次の2つです。

  • 企業価値
  • 株式価値

マルチプル法では、客観的な企業価値の評価が可能です。ただし、M&Aにおいては、さまざまな側面から企業価値評価をするのが妥当であり、DCF法や簿価純資産法、配当還元法など、複数の評価方法を使用することが肝要です

2-1. 企業価値を比較できる

マルチプル法で調べられる代表的な価値に、企業価値があります。マルチプル法では、企業価値を特定の指標から算出する倍率を用いるため、特定の指標に基づいた比較が可能です。
ただし、M&Aでは企業価値を正しく算定するために、多面的な評価が求められます。マルチプル法で算出された企業価値だけでなく、DCF法など複数の評価手法も併用して、企業価値を多面的に算定することが大切です。

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2-2. 株式価値を比較できる

マルチプル法では、株式価値の比較も可能です。企業比較において、発行済株式数が多い場合には、たとえ株価が低くても時価総額は大きく算出されるため、株価による比較は困難です。そこで、マルチプル法により株式価値を算定する際は、株式の時価総額を基準に算出した企業価値を特定の指標で割ることで、割高・割安かを比較します。
株式価値によって複数の企業価値を比較する場合には、市場による影響を軽減するために、特定の時点における時価総額を用いて指標を定め、企業における時価総額を導き出すのが一般的です。

3. マルチプル法の評価指標とそれぞれの計算方法

ここからは、マルチプル法で用いられる評価指標と、それぞれの計算方法を解説します。
なお、マルチプル法による企業価値の算定は、次の手順で進められます。

  1. 評価対象となる企業に類似する上場企業を複数選定する
  2. 選定した類似企業の企業価値におけるマルチプルを算出し、その中央値や平均値を算定する
  3. 評価対象企業における特定指標に対し、手順2で求めたマルチプルを乗じる
  4. 手順3により、評価対象企業の企業価値および株式価値を算定する

3-1. EBIT(利払前・税引前利益)

EBITとは、「Earnings Before Interest and Taxes」の略称であり、日本語では利払前・税引前の利益を意味します。
EBITにおいて利息とは、支払利息と受取利息を指し、支払利息から受取利息を差し引きます。EBITを算定する計算式は次のとおりです。
EBIT=税引前当期純利益+支払利息-受取利息
一般的に、起業から間もないスタートアップにおいては、借入による利息負担が大きい場合があるため、EBITを用いて評価することが多い傾向にあります。

3-2. EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)

EBITDAとは、「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略称であり、日本語では、利払前・税引前・減価償却前の利益を意味します。EBITDAは、非支出項目である減価償却費を加えて計算するため、キャッシュベースに近い本業のもうけを示す指標となります。EBITDAを算定する計算式は次のとおりです。
EBITDA=営業利益+減価償却費

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3-3. PER(株価収益率)

PERは、「Price Earnings Ratio」の略称であり、日本語では株価収益率を意味します。
PERは、業績を背景に株価の変動を判断し、企業の株価が純利益の何倍であるかを表す指標です。株式投資を行う際にPERを判断材料に用いると、株価に対する純利益の倍率がわかるため、現在の株価が割高か割安かを判断できます。PERは、次の計算式で求められます。
PER=時価総額÷当期純利益(もしくは株価÷1株あたりの純利益(EPS))
ただし、PERが何倍であれば割安・割高かは一概にはいえず、同業種・同規模など、ある程度目線を合わせて比較することが重要です。

3-4. PBR(株価純資産倍率)

PBRとは、「Price Book-value Ratio」の略称であり、日本語では株価純資産倍率を意味します。企業の純資産から株価の水準を判断する指標であり、PERと同様に、評価対象となる企業の株式価値を算定できるため、マルチプル法で使用されることの多い指標といえます。PBRを算定する計算式は次のとおりです。
PBR=時価総額÷純資産(もしくは株価÷1株あたりの純資産(BPS))
PBRの値が低いほど、株価が割安であると判断でき、値が高いほど割高であると判断することが可能ですが、PERと同様に目線を合わせて比較することが重要です。

4. マルチプル法のメリット

マルチプル法には、次の3つのメリットがあります。

  • 他の企業価値評価手法より算定が容易
  • 客観性を担保しやすい
  • 将来的な企業価値の算定ができる

4-1. 他の企業価値評価手法より算定が容易

マルチプル法のメリットは、DCF法をはじめとする他の企業価値評価手法よりも、比較的容易に企業価値を算定できる点です。
DCF法は、将来的なキャッシュフローを割引率を用いて現在価値に引き直し、企業価値を求める手法ですが、それには複雑な計算をしなければなりません。
マルチプル法では、評価対象企業と類似する上場企業を選定して、特定の指標から評価倍率(マルチプル)を割り出し、この評価倍率を対象企業の指標に乗じて企業価値を求める手法です。そのため、比較的シンプルな計算式で企業価値を求められます

4-2. 客観性を担保しやすい

マルチプル法は、DCF法などのインカムアプローチによる評価手法と比べて、客観性を担保しやすい点もメリットです。
マルチプル法では、評価対象企業と業界や会社規模などが類似した上場企業とを比較して、企業価値を評価する手法です。株式市場に上場している企業は不特定多数の取引参加者による価値評価を経ているため、市場環境を反映しやすく、相対比較による客観性に長けているといえます。

4-3. 将来的な企業価値の算定ができる

将来的な企業価値の算定が可能な点も、マルチプル法のメリットです。
マルチプル法で株式価値を算定する際は、複数の上場企業からマルチプルの中央値や平均値を用いますが、このときの株価には、短中期的な将来の成長期待(あるいは減退懸念)が織り込まれています。
結果として、マルチプル法によって算定される非上場企業の株式にも、株式市場の将来的な企業価値が間接的に反映されるため、評価対象企業の将来価値の予測にも、ある程度活用することが可能になります

5. マルチプル法のデメリット

マルチプル法のデメリットは、次の3点です。

  • 類似企業の選定が困難なケースがある
  • 株式相場の状況で評価結果が左右される
  • 算定する人間の裁量が大きい

5-1. 類似企業の選定が困難なケースがある

マルチプル法は、評価対象企業と類似する上場企業とを比較して企業価値を算定する手法ですが、類似企業の選定が困難なケースがある点に留意しなければなりません。
一般に、比較企業を選定する際は、業種・業態や規模など上場企業と類似する部分をできるだけ反映させるため、類似する上場企業がある程度存在する場合には、企業価値を算定することが可能です。ただし、マルチプル法の特性上、上場企業と類似していない、独自性の高い企業の企業価値の把握は難しい点がデメリットとなります。

5-2. 株式相場の状況で評価結果が左右される

マルチプル法の評価基準となる上場企業の株価は、株式相場の状況で変動するため、評価結果が左右されやすい点も注意が必要です。特に、日常取引において株価が大きく変動するようなボラティリティの高い銘柄を選定した場合、マルチプル法を用いて評価を実施すると、評価対象企業の評価額に影響してしまいます。評価対象企業の経済的実態を適切に反映できないケースもあるため、注意が必要です。

5-3. 算定する人間の裁量が大きい

マルチプル法では、算定する人間の裁量が大きくなる点もデメリットです。複数の類似企業や類似事例、株式価値を選定するタイミングに加え、過去の実績や業種の需要なども加味されます。
マルチプル法による企業価値評価の客観性は高いものである一方で、算定者によって結果の幅が出やすくなります。例えばM&Aの局面で、なるべく高く売却し手数料を取りたいがために、恣意的なデータの引用によって、相場よりも高めに評価額を算定する助言・仲介業者も少なくありません。
算定された金額が不当に高い場合、M&A実務においては買い手がつかないどころか、信用を損なうなどの重大な問題が生じます。M&A仲介業者を選ぶ際は、担当者の資質も含めて見極めることが重要です

6. まとめ

マルチプル法は、評価対象企業と類似する上場企業の株価などを参考にして、売上や利益、純資産など、特定の指標の倍率(マルチプル)を乗じて企業価値を求める手法です。
株式市場の評価を受けるため客観性が担保され、比較的容易な計算式によって企業価値を算定できる一方で、類似企業の選定が難しいケースや、算定者の裁量によって評価額が変動する点には注意が必要です。
M&Aにおける企業価値の評価など、M&Aに関するお悩みはM&Aの専門家へ相談する選択肢もあります。特に、企業価値評価については、慎重に仲介業者を見極めることが重要です。東証プライム上場の信頼と、豊富な実績を有するM&Aキャピタルパートナーズに、どうぞご相談ください。

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マルチプル法に関するよくある質問

ここからは、マルチプル法に関してお客様から多く寄せられる質問に回答します。
  • マルチプル法とDCF法の違いは何ですか?
  • マルチプル法は、株式市場における類似上場企業から企業価値を算定するので、マーケットアプローチに分類されます。一方、DCF法では、将来的なキャッシュフローを現在価値に引き直して企業価値を算定する手法であることから、インカムアプローチに分類されます。

  • マルチプル法の利用には何か制約がありますか?
  • マルチプル法の利用における制約には、評価指標や、評価対象となる上場企業の評価における数値の信頼性があります。特に、ボラティリティの高い銘柄を選定した場合は注意が必要です。また、類似企業の選定には限界がある点や、将来の経済状況を的確に予測できるわけではない点も制約となりえます。

  • マルチプルとバリュエーションの関係は?
  • マルチプルは、企業評価や株式評価を算定するバリュエーションの一手法である点で関係性を有します。マルチプル法では、売上や利益といった指標に、マルチプルを乗じることで企業価値を算定できます。バリュエーションとは、マルチプル法やDCF法を含む、企業価値算定の過程や手法を指します。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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