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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年増加しています。M&Aを実施していく過程において、買収前に企業の保有する資産の減損処理を実施するケースがあります。今回は、減損処理および減損価格の概要、減損処理の対象となる資産、減損処理のプロセス、減損処理の主な影響について、詳しく説明します。
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~減損価格とは?~
減損価格とは、減損処理で会計処理をした際の金額を指す。減損処理とは、貸借対照表に計上している資産の価値が下落した場合に、帳簿価額に反映させる会計処理を指す。2024年現在の日本の会計基準では損益計算書上、減損損失として特別損失に区分計上されるものである。
目次
1. 減損価格とは?
減損処理とは、貸借対照表に計上している資産の価値が下落した場合に、帳簿価額に反映させる会計処理をいいます。そして、会計処理した際の金額を減損価格といい、現在の日本の会計基準では損益計算書上、減損損失として特別損失に区分計上されます。
2. 減損処理の対象となる資産
減損処理はすべての資産ではなく、固定資産に限られます。減損処理は、「固定資産の減損に関する会計基準」によって処理方法が定められています。ただし、他の会計基準に減損の規定がある場合は対象外となり、各会計基準に従って処理する必要があるので注意が必要です。
ここでは、減損処理の対象となる有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産と「固定資産の減損に関する会計基準」の例外について説明します。
2-1. 有形固定資産
有形固定資産とは、企業の事業活動のために長期に使用する資産をいいます。具体的には、土地、建物、機械装置などがあり、これらは貸借対照表上の資産の部に計上されます。
2-2. 無形固定資産
無形固定資産とは、有形資産と異なり具体的な形をもたない固定資産をいいます。のれんや、特許権、商標権などといった権利やソフトウェアなども含まれます。
2-3. 投資その他の資産
投資その他の資産とは、固定資産の一つで、有形固定資産や無形固定資産のいずれにも属さない資産をいいます。企業が長期に保有することを目的とした投資有価証券、関係会社株式、出資金、長期貸付金などがあります。
2-4. 「固定資産の減損に関する会計基準」の例外
固定資産であっても減損処理の対象とならない資産があります。減損処理の対象になるのは固定資産ですが、「金融資産に係る会計基準」における金融資産など、減損処理に関する会計基準とは別の会計基準に減損処理の定めがある資産については、減損会計基準の対象外となります。
3. 減損処理のプロセス
減損処理はM&Aにおいても重要な会計処理になります。減損処理のプロセスには高度な専門性が求められますが、あらかじめ減損処理の流れを把握しておくことで、M&Aに伴うリスクを認識した上で検討することができます。
以下に、減損処理のプロセスについて説明します。
日本の会計基準では、減損処理のプロセスは大きく分けて、①資産のグルーピング、②減損の兆候の把握、③減損損失の認識の判定、④減損損失の測定の4つから構成されています。
3-1. 資産のグルーピング
資産は別個独立して存在するわけですが、企業の事業活動との関係でいえば、その資産単独でキャッシュ・フローを創出しているわけではなく、それぞれの資産が一体となって機能し、製品やサービスといった付加価値を生み出しています。
そこで、キャッシュ・フローを創出する最小の単位まで資産を合理的な範囲でまとめて考える必要があり、これを資産のグルーピングといいます。このグルーピングされた資産グループ単位で減損が判定されることになります。
3-2. 減損の兆候の把握
資産グループ単位ごとに、減損の兆候があるかを把握します。減損の兆候とは、資産又は資産のグループに減損が生じている可能性を示す事象をいいます。減損の兆候としては以下のようなものがあります。
- 営業活動から生じる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスである場合
- 使用範囲又は方法について回収可能性が著しく低下させる変化がある場合
- 経営環境の著しい悪化がある場合
- 市場価格の著しい下落がある場合
3-3. 減損損失の認識の判定
減損損失の認識の判定とは、減損兆候のある資産と資産グループについて減損処理を実施するか否かを判断することをいいます。この判断は、対象となる資産の帳簿価格と割引前将来キャッシュ・フローの総額を比較して判断します。割引前将来キャッシュ・フローとは、資産又は資産グループが将来的に生み出すと予想されるキャッシュ・フローを時間的価値を考慮せずに合計したものをいいます。
3-4. 減損損失の測定
減損損失の測定とは、減損価格がいくらになるかを測定するプロセスをいいます。減損を実施する固定資産について、期待していた収益がどれくらい見込めないのかを測定することで減損損失を把握します。
具体的には、減損損失の対象となる資産グループについて、使用価値と正味売却価格の高い方まで帳簿価格を切り下げ、その切り下げた金額を減損損失として当期の特別損失に計上することになります。
使用価値とは、減損損失の対象となる資産グループを継続的に使用した場合と、使用後に生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいいます。
一方で、正味売却価格とは、減損損失の対象となる資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算出した額をいいます。
使用価値の算出には割引率の計算が必要など、これらの測定にあたっては専門性の高い知識が必要になってきます。
4. 減損処理の主な影響
減損処理することで主に財務諸表である貸借対照表や損益計算書などに影響が出ます。
まず、減損処理は固定資産の帳簿価格を切り下げることになるため、貸借対照表上における資産の部が減少することになります。また、固定資産の取得原価は、通常、一定期間にわたって減価償却費として費用計上することが求められています。しかし、減損処理することで当該固定資産の帳簿価額が減少するため、次年度以降の減価償却費の計上額が減少します。
M&Aにおいて減損処理後の財務諸表をもとに買収価格を検討していくことになります。
5. まとめ
今回は、減損処理および減損価格の概要、減損処理の対象となる資産、減損処理のプロセス、減損処理の主な影響について、説明しました。減損処理および減損価格はM&Aの実施過程においてとても重要になります。
経営者であれば、事前に減損処理の概念、処理プロセスおよび減損価格について理解し、M&Aを実施する際は、M&A、会計および税務の専門家に相談・依頼して進めることが望ましいです。