休眠会社を買い取るには? メリットや買い取る流れについても詳しく解説

更新日


休眠会社とは、過去に法人として事業をしていたものの、今は何らかの理由により一切の業務を行っていない会社のことです。事業を始める際には、新たに会社を設立するのではなく、休眠会社を買収したほうが良いケースがあります。
そこで本記事では、休眠会社の買い取りを検討しているオーナー経営者に対して、休眠会社を買い取るメリットや、買取の流れ、注意点などを紹介します。

このページのポイント

~休眠会社の買取とは?~

休眠会社の買収は、会社を設立する資金が節約できるだけでなく、許認可の引き継ぎや事業をすぐにスタートできるなど、メリットが大きい手法の一つだが、簿外債務や金融機関のブラックリストなどリスクやデメリットもあるため、買収にあたっては十分な調査と慎重な検討が必要である。

無料で相談する

1. 休眠会社の買取とは

会社法における休眠会社とは、当該法人の最後の登記から12年経過した株式会社のことを指します。
株式会社の役員には、最長で10年の任期があります。したがって、最長でも10年が経過したら一度退任し、新たに役員の変更登記を行わなければなりません。
ですが、12年が経過しても登記が行われていなければ休眠会社とみなされ、最終的には強制的に解散させられてしまいます。これを「みなし解散」といいます。
また、経営者の判断で税務署等に届出を提出することで、自主的に休眠状態とすることも可能です。一般的には休眠会社とは、これらの会社も含めて指すことが多いです。
休眠会社には、経営者が会社の売却を希望しているケースが少なくありません。売却すれば対価を得られますが、みなし解散となれば手元に何も残らないためです。
なお、合同会社や合資会社などの法人には、役員の任期が無いため、みなし解散の対象とはなりません。

2. 休眠会社を買取するメリット

会社を設立するのではなく、休眠会社の買収を選択するのは、法人の新規設立では得られないさまざまなメリットがあるからです。そのなかでも特に大きなメリットが以下の6つです。

  • 安く買収できる場合がある
  • 許認可を取得する必要が無い
  • 多額の資本金を必要としない
  • 設備や不動産などの資産を獲得できる
  • 事業をすぐにスタートできる
  • 長い社歴を獲得できる

それぞれ見ていきましょう。

2-1. 安く買収できる場合がある

休眠会社は、新たに法人を設立する際にかかる費用よりも、安い価格で買収できる傾向にあります。
これは、休眠会社の買収にある程度のリスクが伴うため、買収を希望する企業が少ないためです。
設立年数や許認可などの状況にもよりますが、おおよそ3〜50万円程度で取り引きされています

2-2. 許認可を取得する必要が無い

許認可を持っている休眠会社を買収した場合、その許認可をそのまま引き継ぐことができます。
許認可のなかには、建設業のように新規での取得が難しいものもあります。既に許認可を取得している休眠会社を買収すれば、取得にかかる手間を省くことが可能です。

2-3. 多額の資本金を必要としない

大手企業との契約では、資本金がある程度以上の金額でなければ取引口座を開設してもらえないことがあります。しかし、高額な資本金で会社を設立するためには、その資金を実際に調達しなければなりません。
ですが、例えば資本金1,000万円の休眠会社を買収できれば、1,000万円の企業を設立したのと同じことです。もちろん買収資金はわずかで済みます。

2-4. 設備や不動産などの資産を獲得できる

通常の不動産取引では出てこない好条件の不動産を、休眠会社が所有していることがあります。そうした場合、上述の相場(3〜50万円)で買収することはできないものの、それなりの金額を出せば、市場では手に入らない不動産が手に入ります。
手に入れた不動産は、そのまま活用しても、買収後に再度売却して売却益を得ても良いでしょう。また、不動産だけでなく、設備なども獲得できます。

2-5. 事業をすぐにスタートできる

会社を設立するためには、法務局で設立登記をしなければなりません。この手続きには、それなりの日数と費用が必要です。設立手続きを司法書士などの専門家に依頼すれば、報酬が別途必要となります。
一方、休眠会社は既に存在している会社なので、こうした手間や費用をかけず、事業をすぐにスタートできます。もちろん、役員の変更登記などは必要ですが、それは事業と並行して行えば良いだけです。

2-6. 長い社歴を獲得できる

会社の与信には、資本金の多さと社歴の長さが影響します。資本金については資金調達さえできればクリアできますが、社歴の長さはどうしようもありません。
ですが、社歴の長い休眠会社を買収すれば、こうした点もクリアできます
ただし、休眠期間が長すぎると事業の継続性を疑われる点は留意しておきましょう。また、休眠会社の社歴は前の経営者が築いたものであるため、周囲へ伝える際には誤解を招かないよう注意する必要があります。

3. 休眠会社買取の流れ

休眠会社の買収は、現時点で事業をしていないことや、従業員がいないことなどから、通常のM&Aによる買収とはいくつかの点が異なります。
休眠会社を買収する際の流れは、以下のとおりです。

  • 買収の目的と戦略について考える
  • マッチング
  • トップ面談と基本合意
  • デューデリジェンスを実施する
  • 条件の確認と契約の締結
  • クロージング
  • PMIの実施

それぞれ見ていきましょう。

3-1. 買収の目的と戦略について考える

はじめに、買収の目的と買収後の事業戦略について考えます。何の目的で休眠会社を買収するのかを明確にしたうえで、今後の戦略について考えましょう。休眠会社を買収する際の目的として考えられるのは、一般的に以下の4つです。

  • 事業をすぐにでも始めたい
  • 資本金や社歴のある企業を相場よりも安く買い取りたい
  • 許認可を獲得したい
  • 市場に出回らない不動産が欲しい

買収の目的がどれに該当するのかを考えたうえで、次のステップに進みましょう。

3-2. マッチング

買収の目的が決まったら、目的に合致する休眠会社を探しましょう。独力で探すのは現実的ではないため、M&A仲介会社やM&Aプラットフォームの活用がおすすめです。
M&A仲介会社とM&Aプラットフォームの違いは以下のとおりです。

特徴

M&A仲介会社

・M&Aの入り口から出口まですべてをサポートしてもらえる
・多種多様な売り手・買い手のリストを持っているため、多くの企業の中から目的に合ったものを選べる
・仲介会社によっては専門家も多数在籍しているため、あらゆるケースに対応してもらえる
・買収対象となる会社の規模によっては、それなりの報酬(買収金額の5%程度)を支払うことになる

M&Aプラットフォーム

・インターネット上のシステムを活用し、オンラインでマッチング相手を探す
・基本的には自力で探すことになるが、会社によってはサポートしてもらえる場合もある
・M&A仲介会社と比べると、扱う会社が比較的小規模である
・M&A仲介会社と比べると手数料は安く、提示価格に含まれている場合も多いが、その分だけサポートは薄い

3-3. トップ面談と基本合意

買収したい休眠会社が見つかったら、その休眠会社の経営者と、買収に向けたトップ面談を行います。
トップ面談は、一般的に買収対象となる候補企業を2〜3社に絞り込んだ段階で実施し、お互いの経営ビジョンや経営方針について意見交換を行います。
ただし、休眠会社の買収は通常のM&Aとは異なり、引き継ぐ事業もなければ従業員もいません。したがって、この工程にそれほどの時間は必要としません。
トップ面談をとおして1社に絞り込んだら、買収に向けた基本合意契約を締結します。

3-4. デューデリジェンスを実施する

休眠会社の買収は、メリットだけでなくさまざまなリスクがあります。これらを正しく検出し、買収すべきかどうかを最終的に判断するために行うのが、デューデリジェンスです。
デューデリジェンスは買い手がその費用を負担し、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に依頼して対象会社の買収監査を行います。
休眠会社には簿外債務がある可能性もあるため、事前にリスクをしっかりと洗い出しておきましょう
ただし、デューデリジェンスをどこまで厳格にやるのかは、企業の規模や状況によって変わります。したがって、M&Aの仲介会社のような専門家に相談し、自社に最適な規模を正確に把握したうえで行うのが良いでしょう。

関連記事
デューデリジェンス(Due Diligence)とは?~M&Aにおける意味や費用、種類を解説~

3-5. 条件の確認と契約の締結

デューデリジェンスで検出された買収リスクをもとに、条件のすり合わせを行います。リスクに応じて売買金額や条件などを調整し、お互いに納得したら、最終契約の締結です。
なお、この最終契約書には表明保証やクロージング条項などを織り込み、買収後に問題が生じても買い手が不利にならないようにしておきましょう。

3-6. クロージング

休眠会社の買収に向けた最終契約が締結されたら、いよいよクロージングです。クロージングでは、買収のスキームに応じて対価の支払いが行われます
例えば株式譲渡による買収の場合であれば、買い手が売り手に買収金額を支払い、売り手が株式を譲渡することで手続きが完了します。

関連記事
M&Aのクロージングとは?~クロージング日や条件の定め方を解説~

3-7. PMIの実施

PMIとはポスト・マージャー・インテグレーションの略で、経営統合のことです。買収した会社が事業をしていたり、従業員がいたりする場合は、統合手続きをしなければ、買収後の事業がスムーズに行えません。
休眠会社の買収では、こうしたPMIの対象となる業務は多くありません。しかし、許認可を生かした事業の立ち上げや不動産の管理などには準備が必要です。
したがって、休眠企業を買収した際のPMIでは、短期的に取り組むべきことと、長期的に取り組むべきことの切り分けが主になるでしょう。

関連記事
PMIとは?~企業統合における目的や効果をわかりやすく解説~

4. 休眠会社の買取相場は?

休眠会社は、資本金の金額も社歴の長さも不動産などの資産の有無も、それぞれ違います。そのため、一概に相場を述べることはできませんが、概ね10〜30万円程度、安ければ3万円程度で取引されているものもあります
有限会社(特例有限会社)であれば社歴がそれなりに長いものが多いため、おおよそ20〜50万円程度が相場となりますが、数万円から取引されることもあります。
なお、これらはあくまで相場であり、優良不動産を持っている休眠会社などは数千万円を越える金額で売買されることもあります。

5. 休眠会社を買取する際の注意点

休眠会社を買収する際の注意点として、以下の4点を紹介します。

  • 人材や取引先の確保はゼロからのスタートとなる
  • 簿外債務が見つかるリスクがある
  • 繰越欠損金による節税効果が得られない場合がある
  • 融資が受けられない場合がある

一つずつ見ていきましょう。

5-1. 人材や取引先の確保はゼロからのスタートとなる

通常のM&Aであれば、売り手企業の人材や既存の取引先との契約などを引き継ぐことができます。
しかし、休眠会社は事業活動を行っておらず、従業員も雇用していないため、ビジネスを立ち上げるための人材や取引先の確保は、ゼロからのスタートとなることが多いでしょう。

5-2. 簿外債務が見つかるリスクがある

休眠会社であっても、帳簿にはのっていない簿外債務がある可能性があります。こうした簿外債務の有無は、財務諸表や契約書などを調査しただけでは簡単に見つかりません。
また、金融機関のブラックリストに載ってしまっているケースもあります。
こうした不測の事態を防ぐためには、デューデリジェンスを十分に行うと共に、最終契約書の作成を注意深く行い、表明保証条項などを盛り込んで簿外債務の引き継ぎを防ぐようにしておきましょう。

5-3. 繰越欠損金による節税効果が得られない場合がある

繰越欠損金とは、法人税の課税所得と相殺して所得を少なくし、税金を安くできる効果のある、繰り越し可能な税務上の赤字のことです。休眠会社にこの繰越欠損金が残っていれば、その分だけ節税が望めます。ただし、繰越欠損金を利用するためには、休眠期間中も毎年申告書を提出していることが条件となります。
濫用して不当に税を少なくすることの無いように、休眠会社の繰越欠損金には厳密なルールが設けられています。例えば、以下のケースでは、繰越欠損金を使うことはできません。

  • 買収した後に新しく事業を始める場合
  • 50%を越える株主が変わった休眠会社で新規事業を行う場合

こうしたケース以外にも、繰越欠損金による節税が否認されるケースもあるため、節税を考える際には税理士などの専門家に相談しながら進めて行くのが良いでしょう。
また、休眠期間が長い場合には繰越欠損金が期限切れを起こしており、実質的に使用できないことも考えられます。

5-4. 融資が受けられない場合がある

休眠会社を買い取って新たにビジネスを始めるためには、金融機関などからの融資が必要な場合があります。しかし、休眠会社が金融機関のブラックリストに載っていた場合は、融資を受けることはできません
赤字・黒字に関わらず、返済の遅延や返済条件の変更などによりブラックリストに載る可能性もあるため、デューデリジェンスによる調査は必須です。
また、ブラックリストには載っていなくても、社歴が長ければ創業融資の条件から外れ、融資が受けられないケースも考えられます。さらに、融資を受ける際には2〜3期分の決算書類が必要ですが、休眠状態のため提出ができないこともあります。
このように、さまざまな事情により、休眠会社の買収後に融資による資金調達ができない場合があることを知っておかなければなりません。

6. まとめ

休眠会社の買収は、会社を設立する資金が節約できるだけでなく、許認可の引き継ぎや事業をすぐにスタートできるなど、メリットが大きい手法の一つです。
ただし、簿外債務や金融機関のブラックリストなど、休眠会社ならではのリスクやデメリットもあるため、経験豊富な専門家のサポートも受けながら、調査や検討は十分に重ねましょう。M&Aキャピタルパートナーズでは、休眠会社を買収する際のサポートも実施しています。


ご納得いただくまで費用はいただきません。
まずはお気軽にご相談ください。

監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長公認会計士梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部 部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

詳細プロフィールはこちら

M&A関連記事

M&Aへの疑問

M&Aへの疑問のイメージ

M&Aに関する疑問に市場統計や弊社実績情報から、分かりやすくお答えします。

業種別M&A動向

業種別M&A動向のイメージ

日本国内におけるM&Aの件数は近年増加傾向にあります。その背景には、企業を取り巻く環境の変化があります。

成約事例インタビュー
それぞれの選択

「様々な思いと葛藤の末に、最終的になぜM&Aを決断したのか?」
弊社でM&Aを実施し、事業の承継や発展を選択した経営者の方々のインタビューを、
「M&Aご成約事例インタビュー“それぞれの選択”」としてご紹介しております。

M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由

創業以来、報酬体系の算出に「株価レーマン方式」を採用しております。
また、譲渡企業・譲受企業のお客さまそれぞれから頂戴する報酬率(手数料率)は
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」となっております。