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日本の企業間におけるM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)の動きは、近年、増加しています。M&Aは企業の成長戦略の一環として行われる一方、敵対的な買収として進められる場合も存在します。企業が敵対的な買収から身を守るための数々の手段のひとつとして認識されているのが「ジューイッシュ・デンティスト(Jewish Dentist)」です。今回は、ジューイッシュ・デンティストの概要、ジューイッシュ・デンティストに近い考え方の買収防衛策について、詳しく説明します。
目次
1. ジューイッシュ・デンティストの概要
1-1. ジューイッシュ・デンティストとは?
ジューイッシュ・デンティストとは、敵対的買収を仕掛けてきた企業のネガティブな情報をメディアに流すことで社会的信用を低下させることを図り、買収意欲を低下させることを指します。
例えば、「XX社はコンプライアンス違反をしているブラック企業である」といった情報をメディアに流します。
ジューイッシュ・デンティストを直訳すると「ユダヤ人の歯科医」という意味です。ジューイッシュ・デンティストは、アメリカにおいて、アラブ資本の入った企業がユダヤ人系の歯科器具メーカーに仕掛けた敵対的買収への防衛策として使われた作戦が起源といわれています。当時アメリカの歯科医にはユダヤ人が多く、この買収には対象企業と歯科医から強い反発が起きました。そこで、買収企業のネガティブキャンペーンが行われました。買収企業は信用回復に大きな資金を投入したものの、買収資金の調達も難しくなり、株主も買収に応じなくなりました。結果的に、この歯科器具メーカーは買収防衛に成功したといわれています。
2. M&Aにおけるジューイッシュ・デンティスト
ジューイッシュ・デンティストを実施した結果、敵対的買収を仕掛けてきた企業の信用が失われると、以下のような理由から買収のハードルが高くなり、敵対的買収を仕掛けてきた企業の買収意欲を低下させることができると一般的に認識されています。
- 信用度の低下により資金調達の難易度が高くなる
- 信用回復に費用と時間がかかる
- 信用がないため、買収を持ちかけても既存株主に相手にしてもらえない
3. ジューイッシュ・デンティストに近い考え方の買収防衛策
ジューイッシュ・デンティストは、買収のハードルを高くすることで、買収意欲を下げさせるという方針の買収防衛策ですが、この考え方に近い買収防衛策は他にも存在します。ここで、主なものを以下に紹介します。
3-1. ゴールデンパラシュート(Golden parachute)
ゴールデンパラシュートとは、経営陣の退職金を高く設定することで、買収の意欲を低下させることを指します。敵対的買収が行われた後、被買収企業の経営陣は退職させられるのが一般的です。そのため、経営陣の退職金が高ければ買収後の費用が高額になり、買収へのハードルが高くなります。
3-2. クラウン・ジュエル(Crown Jewel)
クラウン・ジュエルとは、買収企業が取得したい資産・事業を売却することによって買収の意欲を下げることをいいます。多数の負債を引き受けることや、子会社の譲渡などによって、企業の魅力を下げる場合もあります。
経営陣の独断で行える対策ですが、企業の重要な資産を失うだけでなく、既存の株主にも大きな打撃を与えます。さらに、取締役が善管注意義務違反を問われる恐れもあります。そのため、なかなか実行に移されることはありません。
3-3. プットオプション
プットオプションとは、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で株式の買い取りを請求できる権利(売る権利)をいいます。
株主に買い取りの請求権を与えておくと、買収企業は株式の買い取りに多額の費用が必要になります。買収企業としてはこの展開を避けたいため、買収のハードルが高くなり、結果的に買収を防ぐ効果があります。
4. まとめ
ジューイッシュ・デンティストは、買収防御策のひとつとして位置づけられています。敵対的買収の阻止は企業の継続的な経営や文化を保つ上で重要な要素となる場合もありますが、その手段によって企業価値を自ら損なう行動は、長期的な視点での経営の健全性や株主の利益をどう捉えるかという観点からも慎重な判断が求められると考えられます。
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